- 著者: H. Yoshida, Y. H. Kim, H. Ozasa, H. Nagai, Y. Sakamori, T. Tsuji, T. Nomizo, Y. Yasuda, T. Funazo, T. Hirai
- Corresponding author: Y. H. Kim (Department of Respiratory Medicine, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-11-17
- Article種別: Original Article
- PMID: 29161357
背景
進行非小細胞肺がん (NSCLC) の治療において、プログラム細胞死 1 (PD-1)/プログラム細胞死リガンド 1 (PD-L1) 軸阻害薬は新たな治療選択肢として登場した。特にニボルマブは、Checkmate 017試験およびCheckmate 057試験において、二次治療としての標準化学療法であるドセタキセルと比較して、それぞれ扁平上皮NSCLCおよび非扁平上皮NSCLCの両方で有意な生存利益を示した Borghaei et al. NEnglJMed 2015。しかし、Checkmate 057試験のサブグループ解析では、上皮成長因子受容体 (EGFR) 変異陽性患者においてこの生存優位性は観察されなかった。この知見は、PD-1/PD-L1阻害薬とドセタキセルを比較した3つのランダム化試験を含むメタ解析によっても確認されており Lee et al. JThoracOncol 2017、現在ではEGFR変異陽性NSCLC患者におけるPD-1/PD-L1阻害薬の有効性は限定的であると広く認識されている。
一方で、一部の症例報告では、EGFR変異陽性患者でもPD-1/PD-L1阻害薬により長期生存が得られることが示唆されており、その有効性を予測する患者特性の同定が臨床的に重要であると考えられていた。例えば、ニボルマブの第I相試験では、EGFR変異を有する患者2例が5年以上の生存を達成したことが報告されている。これらの矛盾する結果は、EGFR変異陽性NSCLC患者における免疫チェックポイント阻害薬の有効性を予測するバイオマーカーが未解明であることを示している。PD-L1発現は唯一の臨床的に利用可能な予測因子であるが、EGFR変異陽性NSCLCにおけるその意義は不明確であり、一部のEGFR変異陽性腫瘍がPD-L1を発現することが報告されている Azuma et al. AnnOncol 2014、Teng et al. CancerRes 2015。したがって、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるニボルマブの有効性を予測するための、PD-L1発現以外の新たなバイオマーカーの同定が不足しており、この知識のギャップを埋めることが喫緊の課題であった。
目的
本研究の目的は、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるニボルマブの有効性を後ろ向きに評価することである。さらに、ニボルマブ治療に対する奏効を予測する臨床的および病理学的因子を同定し、特にuncommon EGFR変異や喫煙歴などの患者特性がニボルマブの有効性に与える影響を明らかにすることを目的とした。これにより、EGFR変異陽性NSCLC患者における免疫チェックポイント阻害薬の個別化医療戦略の確立に貢献することを目指した。
結果
患者背景とニボルマブ治療の全体成績: 本研究の対象となったEGFR変異陽性NSCLC患者はn=24例であった。患者背景は以下の通りであった。男性は9例 (38%)、喫煙歴を有する患者は8例 (33%) であった。EGFR変異型については、common EGFR変異 (exon 19欠失またはL858R点変異) が21例、uncommon EGFR変異 (G719Xなど) が3例であった。ニボルマブ治療全体の奏効率 (ORR) は8% (24例中2例に部分奏効 (PR)) と低く、病勢コントロール率 (DCR) は25% (24例中4例に安定 (SD)) であった。PFS中央値は統計的に算出されなかったものの、3例の患者で1年以上のPFSが持続した。この低い奏効率は、Checkmate 057試験のサブグループ解析で示されたEGFR変異陽性NSCLC患者における免疫チェックポイント阻害薬の限定的な有効性と一致するものであった。
PFS予測因子の単変量解析: PFS延長または短縮に関わる因子を検討するため、単変量Cox比例ハザード回帰分析を実施した (Table 1)。その結果、以下の因子がPFSと有意な関連を示した。Brinkman index (BI) 600以上の患者はPFSが有意に短い傾向があり、ハザード比 (HR) は7.26 (95% CI 1.43-133, p=0.012) であった。これは、喫煙量が多い患者ほどニボルマブのPFSが短いことを示唆する。また、前治療としてのEGFR-TKI治療期間が6ヶ月未満の患者もPFS短縮因子として同定され、HRは0.23 (95% CI 0.051-0.69, p=0.007) であった。一方、uncommon EGFR変異を有する患者はPFS延長因子として有意であり、HRは0.24 (95% CI 0.038-0.88, p=0.028) であった。年齢、性別、ECOG PS、喫煙ステータスは単変量解析では有意な関連を示さなかった。
PFS予測因子の多変量解析 (独立予測因子の同定): 単変量解析で有意であった因子 (Brinkman index、EGFR-TKI治療期間、uncommon EGFR変異) を投入した多変量Cox比例ハザード回帰分析を実施した (Table 1)。その結果、uncommon EGFR変異のみがニボルマブの有効性に対する独立した良好予測因子として同定された。uncommon EGFR変異のHRは0.20 (95% CI 0.022-0.88, p=0.032) であり、common変異と比較してPFSが有意に延長することを示した。Brinkman indexおよびEGFR-TKI治療期間は、多変量解析では統計的有意性を失った。この結果は、uncommon EGFR変異の存在が、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるニボルマブ感受性に最も強く寄与する可能性を示唆している。
長期奏効例3例の詳細解析: PFSが1年以上持続した3例について詳細な解析を行った。これらの患者のうち2例は、Brinkman indexが1100と高い重喫煙者であり、かつEGFR-TKI治療期間が3ヶ月未満のショートレスポンダーであった。これらの患者はEGFR-TKIに対する耐性が早期に生じており、EGFR非依存性の腫瘍増殖経路が主体となっている可能性が考えられる。残りの1例は非喫煙者であり、EGFR-TKIに12ヶ月以上奏効したが、G719Xというuncommon EGFR変異を有していた。PD-L1発現レベルは、これら3例でそれぞれ1%未満、50%以上、不明であり、PD-L1発現状態がニボルマブの長期奏効に必須の条件ではないことが示唆された。3例に共通する特徴として、uncommon EGFR変異または重喫煙歴が挙げられ、これらが腫瘍変異量 (TMB) の増加を介して免疫チェックポイント阻害薬への感受性をもたらす可能性が示唆された。
考察/結論
本研究は、EGFR変異陽性NSCLC患者において、uncommon EGFR変異がニボルマブの独立した良好予測因子 (HR 0.20, 95% CI 0.022-0.88, p=0.032) であることを初めて報告した。これは、EGFR変異陽性NSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬の有効性が限定的であるというこれまでの認識 Lee et al. JThoracOncol 2017に対し、特定のサブグループでは有効性が期待できる可能性を示す新規の知見である。
先行研究との違い: 従来の研究では、EGFR変異陽性NSCLC患者全体でのPD-1/PD-L1阻害薬の有効性は低いと報告されてきたが、本研究はuncommon EGFR変異を有する患者群では異なる結果が得られる可能性を示した点で、これまでの報告と対照的である。特に、uncommon EGFR変異患者はcommon変異患者と比較して喫煙歴を有する割合が高い傾向があり、これが腫瘍変異量 (TMB) の増加を通じて免疫チェックポイント阻害薬感受性に寄与する可能性が考えられる。
新規性: 本研究で初めて、uncommon EGFR変異がEGFR変異陽性NSCLC患者におけるニボルマブの独立した良好な予測因子であることを多変量解析により同定した。これは、EGFR変異のサブタイプが免疫療法の効果に影響を与えるという、これまで報告されていない重要な知見である。また、PD-L1発現が必ずしもEGFR変異陽性患者での予測因子にならないことも重要な知見であり、TMBや他のバイオマーカーの評価が必要であることを示唆している。
臨床応用: 本知見は、EGFR変異陽性NSCLC患者の免疫療法における個別化医療の確立に貢献する臨床的意義を持つ。特に、EGFR-TKI耐性後の免疫療法戦略として、T790M変異の有無だけでなく、EGFR変異型 (common vs uncommon) の両者を考慮すべきバイオマーカーとして位置づけることができる。これにより、ニボルマブの恩恵を受けやすい患者を特定し、治療選択の最適化に繋がる可能性がある。
残された課題: 本研究の限界は、対象患者数が24例と小規模であること、単施設での後ろ向き研究であること、およびuncommon変異のサブグループ解析が十分でない点である。これらの限界により、結果の一般化には注意が必要である。今後の検討課題として、uncommon EGFR変異患者に特化した免疫チェックポイント阻害薬の有効性を検証する大規模な前向き臨床試験が必要である。また、腫瘍変異量 (TMB) や他の免疫関連バイオマーカーの評価を組み合わせることで、より詳細な予測因子の同定と検証が求められる。
方法
本研究は、京都大学病院における単施設後ろ向き観察研究として実施された。対象患者は、2015年12月から2016年12月の期間に、EGFR変異陽性NSCLCと診断され、ニボルマブの投与を受けた24例である。本研究は、特定のNCT番号は持たないが、後ろ向きコホート研究としてデザインされた。患者の臨床データは電子カルテから収集された。主要評価項目は、客観的奏効率 (ORR)、病勢コントロール率 (DCR)、および無増悪生存期間 (PFS) とした。奏効評価はRECIST ver. 1.1に基づき実施された。
一部の症例では、免疫組織化学 (IHC) 法により腫瘍組織におけるPD-L1発現が評価されたが、全例でのデータは得られていない。PFSの予測因子を同定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた単変量解析および多変量解析が実施された。解析に含められた変数には、年齢 (70歳未満 vs 70歳以上)、性別 (女性 vs 男性)、ECOG Performance Status (PS) (0-1 vs 2)、喫煙歴 (非喫煙 vs 現在/過去喫煙)、Brinkman index (BI) (600未満 vs 600以上)、前治療としてのEGFR-TKI治療期間 (6ヶ月未満 vs 6ヶ月以上)、およびEGFR変異型 (uncommon変異 vs common変異) が含まれた。統計解析にはRソフトウェアが使用され、p値が0.05未満を有意と判断した。