- 著者: Pei-Chih Lee, Yueh-Fu Fang, Hirohito Yamaguchi, Jennifer L. Hsu, Mien-Chie Hung, et al.
- Corresponding author: Mien-Chie Hung (The University of Texas MD Anderson Cancer Center)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 30537515
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) 治療に対して初期には良好な奏効を示すものの、治療開始から約10〜13ヶ月でほぼ全例が獲得耐性を生じる。このTKI耐性機序は極めて不均一であり、EGFR T790M変異、HER2/Axl/MET増幅、AKT/ERK活性化、NFκB活性化など多様な経路が関与する。さらに、単一患者内でも複数の耐性機序が同時に存在することが報告されており、この不均一性が臨床的に繰り返す耐性発現 (recurrent disease) を引き起こし、個別の耐性機序を順番に標的化する従来のアプローチの限界を露呈している。例えば、第三世代TKIであるオシメルチニブはT790M変異による耐性を克服するが、治療後約10ヶ月で新たな耐性機序(EGFR C797S変異、HER2/MET増幅など)が出現し、その不均一性は依然として課題であるとJanne et al. NEnglJMed 2015やRotow et al. NatRevCancer 2017が報告している。また、HSP90 (heat shock protein 90) 阻害剤とエルロチニブの併用療法も試みられたが、効果は限定的であったとJohnson et al. JClinOncol 2015が示している。このような背景から、TKI耐性を引き起こす多様な機序に共通する「中枢的メディエーター」を同定し、それを標的とすることが複数の耐性機序を同時に克服する合理的戦略となりうるという仮説が提唱されたが、その実体は未解明なままであった。
目的
EGFR変異NSCLCのTKI耐性において、多様な耐性機序を介した細胞生存維持に共通するメディエーターを同定する。さらに、同定されたメディエーターを標的とする新規阻害薬とTKIの併用療法の有効性を前臨床モデルおよび臨床病理学的に検証することを目的とした。
結果
TKI非感受性EGFRの役割とEDR細胞の同定: H1650細胞では、TKI (ゲフィチニブ、エルロチニブ) は細胞増殖を阻害しないにもかかわらず、EGFR shRNAノックダウンにより増殖がほぼ完全に抑制された (Figure 1A)。EGFR kinase-dead変異体の再発現でも細胞死が救済されたことから、耐性細胞はEGFRキナーゼ活性非依存的なEGFR機能 (TKI非感受性役割) に依存することが示された (Figure 1C)。EGFRを枯渇させた状態で生存したEDR細胞をPhospho-Explorer Antibody Microarrayで解析し、共通メディエーターの同定を行った。
PKCδの収束的メディエーターとしての同定: EDR細胞のPhospho-Explorer解析から27の候補メディエーターが同定され、PKCδが32の関連シグナル経路のうち22経路 (>68%) に関与する最有力候補として浮上した (Table S1, S2)。合成致死スクリーニングでは、ソトラスタウリン (臨床試験中のPKC阻害薬) とゲフィチニブの組み合わせが強い相乗効果 (CI≤0.3) を示した (Table S3)。HCC827由来の15種のGRクローンは、HER2増幅、Axl増幅、MET増幅、ERK活性化、Akt活性化、NFκB活性化など互いに異なる耐性機序を保有しているにもかかわらず、全例で核内PKCδ (nPKCδ) が増加していた (Figure 4A, B)。
核内PKCδ (nPKCδ) が多様な耐性機序の必須収束点: HCC827由来の15種のGRクローンすべてで、PKCδの核内局在 (nPKCδ) が増加していた (Figure 4A, B)。PKCδのNLS変異体 (NLSm1、NLSm3) を用いた実験で、核移行能の喪失により耐性誘導能が完全に消失し (p<0.01)、nPKCδが耐性に必須であることが証明された (Figure 4E)。これはTKI耐性の「表現型多様性」の背後に単一の収束シグナル (nPKCδ) が存在することを初めて示した重要な発見である。
in vitro・in vivo・PDXモデルでの強力な有効性: GR6腫瘍異種移植モデルにおいて、ゲフィチニブとソトラスタウリンの組み合わせは1週間で88.5%の腫瘍退縮、4週間で98.3%の退縮を達成した (Figure 3C)。単剤ではいずれも効果は限定的であった。PDXモデル (TC386、del19、nPKCδ陽性) でもゲフィチニブとソトラスタウリンの併用が顕著な腫瘍退縮を達成し、単剤コントロール群が70日以内に全例死亡したのに対し、併用群は全例120日超生存した (p<0.001) (Figure 2H)。3種のPDXモデルでの一貫した有効性は、前臨床的根拠の強固さを裏付けた。
PKCδ核内移行の分子機序: PKCδのキナーゼドメインのY64リン酸化がEGFR-TKI治療に応答して増加し、これがnPKCδ形成の引き金となることが示された。核内PKCδはDNA損傷応答 (γH2AX、RAD51等) を活性化し、腫瘍細胞のアポトーシス回避能力を強化することが示唆された。TKIにより不活性化されたEGFRが、AxlやHER2などの他の膜受容体とヘテロ二量体を形成し、PKCδの核内移行を促進することが示された (Figure 5A)。このヘテロ二量体化はEGFR Y1173のリン酸化を持続させ、PLCγ2を活性化し、最終的にnPKCδを増加させる経路が同定された (Figure 5C, D)。
患者腫瘍での臨床病理学的検証: TKI耐性NSCLC患者腫瘍の41.5% (n=41) でnPKCδ陽性が確認され、nPKCδ陽性はTKI奏効不良 (低ORR、短いPFS) と有意に相関した (p<0.05) (Table 1, Figure 6A)。この高い陽性率 (41.5%) は、臨床的に有意な患者集団に対してPKCδ標的治療が適用可能であることを示し、前臨床で同定した耐性機序の臨床的妥当性を直接的に裏付けた。さらに、EGFR変異患者のTKI治療前生検との比較で、TKI耐性後の腫瘍でnPKCδが有意に増加していたことは、PKCδ核内移行がTKI治療そのものにより誘導されることを示唆し、耐性発現の動的マーカーとしての意義も持つ。TKI未治療のEGFR変異NSCLC患者166例のコホートでは、11.4% (n=19) でnPKCδ高発現が認められ、これらの患者ではTKI治療後の無増悪生存期間 (PFS) が有意に短かった (中央値 4.0ヶ月 vs 8.3ヶ月、p=0.002) (Figure 6B, C)。高nPKCδ群のPFS中央値は4.0ヶ月 (95% CI 1.288-6.702) であり、低nPKCδ群の8.3ヶ月 (95% CI 7.231-9.369) と比較して有意に短縮していた。
第三世代TKI耐性腫瘍におけるnPKCδの役割: T790M変異陽性H1975細胞およびT790M陽性PDXモデル (TM0204) において、第三世代TKIであるAZD9291とソトラスタウリンの併用が、単剤と比較して顕著な腫瘍退縮を誘導した (Figure 6D, E)。AZD9291単剤では部分的な腫瘍増殖遅延に留まったが、併用により強い相乗効果 (CI < 0.3) が認められた (Figure S6E)。これは、nPKCδがT790M変異による第三世代TKI耐性にも関与し、その阻害が有効な治療戦略となる可能性を示唆する。
考察/結論
本研究は、多様なEGFR TKI耐性機序に共通する「収束点」としての核内PKCδ (nPKCδ) を初めて同定し、これを標的とするゲフィチニブとソトラスタウリンの組み合わせが、不均一な耐性を持つ腫瘍に対しても有効であることを前臨床で示した。
先行研究との違い: これまでの研究では、TKI耐性機序としてT790M変異、HER2/Axl/MET増幅、AKT/ERK活性化、NFκB活性化などが個別に報告され、それぞれの耐性機序を標的とするアプローチが主流であった。しかし、本研究は、これらの多様な耐性機序が最終的にnPKCδの活性化という共通の経路に収束することを示した点で、これまでのアプローチと異なり、不均一な耐性を一元的に克服できる可能性を提示した。
新規性: 本研究で初めて、TKIにより不活性化されたEGFRがAxlやHER2などの他の膜受容体とヘテロ二量体を形成し、EGFR Y1173のリン酸化を持続させることでPLCγ2を介してPKCδの核内移行を促進するという新規の分子機序を解明した。また、nPKCδがTKI耐性NSCLC患者の腫瘍の41.5%で陽性であること、およびnPKCδ高発現がTKI治療後の短いPFSと有意に相関することを初めて報告した。
臨床応用: ソトラスタウリンはすでに第I/II相臨床試験中であり、臨床的translationへの障壁が低い。本研究の知見は、nPKCδ陽性患者を対象としたTKIとPKCδ阻害剤の併用療法が、TKI耐性NSCLCに対する新たな治療戦略として臨床応用される可能性を示唆する。特に、T790M変異陽性患者における第三世代TKI耐性に対してもnPKCδ阻害が有効である可能性が示されたことは、臨床現場における治療選択肢を広げる上で重要な臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、nPKCδ陽性患者を対象とした前向き臨床試験での安全性と有効性の検証、最適なPKCδ阻害薬の選択、およびnPKCδを治療選択バイオマーカーとして確立することが残されている。また、EGFR Y1173リン酸化がどのようにPKCδ活性化を媒介するかの詳細なメカニズムについては、さらなる研究が必要である。Limitationとして、本研究の臨床検体解析はレトロスペクティブなものであり、バイアスを完全に排除できない点が挙げられる。
方法
本研究は、in vitro実験、in vivo異種移植モデル、患者由来異種移植 (PDX) モデル、およびヒト臨床検体を用いたレトロスペクティブコホート研究として実施された。主要評価項目は、TKI耐性メカニズムにおける共通メディエーターの同定と、その阻害によるTKI耐性腫瘍の退縮効果であった。
H1650細胞 (EGFR変異TKI耐性細胞) を用い、EGFR siRNAノックダウンとTKI処理の比較実験を実施した。EGFR枯渇後に生存した細胞クローン (EDR: EGFR-Depleted Resistant) をPhospho-Explorer Antibody Microarrayで解析し、共通メディエーターとしてPKCδを同定した。その後、商業的に利用可能な阻害薬パネルを用いた合成致死スクリーニングにより、ゲフィチニブとソトラスタウリン (PKC阻害薬) の相乗効果を確認した。HCC827細胞からゲフィチニブ耐性 (GR: gefitinib-resistant) クローン15種を作製し、各クローンがHER2増幅、Axl増幅、MET増幅、ERK活性化、Akt活性化、NFκB活性化など、互いに異なる耐性機序を有することを確認した。in vivoでの有効性は、H1650およびGR6 (gefitinib-resistant clone 6) 細胞のオルソトープ異種移植モデル、ならびに患者由来異種移植 (PDX) モデル (TC386、TM0204) で評価した。PKCδの核内局在 (nPKCδ) の耐性への関与を検証するため、PKCδの核局在配列 (NLS: nuclear localization sequence) 変異体 (NLSm1、NLSm3) を作製し、その効果を評価した。さらに、TKI耐性NSCLC患者の腫瘍組織 (n=41) およびTKI未治療のEGFR変異NSCLC患者腫瘍 (n=166) におけるnPKCδの発現を免疫組織化学染色 (IHC) で評価し、TKI奏効との相関を解析した。統計解析には、Kaplan-Meier法による生存曲線、log-rank test、Fisher exact test、およびStudent’s t testを用いた。