• 著者: Bruce E. Johnson, David Jackman, Pasi A. Jänne, et al.
  • Corresponding author: Melissa L. Johnson, MD, Robert H. Lurie Comprehensive Cancer Center, Northwestern University, Chicago, IL
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-04-13
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25870087

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) による治療で劇的な初期奏効を示すことが多いが、ほとんどの患者は治療開始から中央値9〜14ヶ月以内に獲得耐性を発現し、病勢進行に至る。この獲得耐性の主要な機序としては、EGFR T790M二次変異が約60%の患者で認められ、その他にMET増幅、HER2増幅、PIK3CA変異、BRAF変異、組織学的変化 (小細胞癌化や上皮間葉転換) などが報告されている Pao et al. PLoSMed 2005Engelman et al. Science 2007Sequist et al. SciTranslMed 2011。しかし、第三世代EGFR-TKIであるosimertinibなどが開発途上にあった2013〜2014年当時、これらの耐性機序を標的とする承認された治療法は存在せず、臨床的ニーズは非常に高かった。この領域には有効な治療選択肢が不足しており、新たな治療戦略の確立が喫緊の課題であった。

HSP90は、EGFR、HER2、MET、AKTなどの多くのオンコプロテインをクライアントタンパク質とする分子シャペロンであり、これらのタンパク質の安定性や機能に不可欠な役割を果たす。HSP90阻害薬は、これらのクライアントタンパク質の分解を誘導することで、がん細胞の増殖を抑制する作用が期待されていた。AUY922 (luminespib) は、イソキサゾリルレゾルシノール系の次世代HSP90阻害薬であり、前臨床研究では、EGFR-TKI感受性およびTKI耐性EGFR変異細胞株の両方においてアポトーシスを誘導し、EGFR T790M変異を有する異種移植片の増殖を抑制することが示されていた。特に、AUY922とerlotinibの併用療法は、T790M変異を含む耐性細胞株に対して相乗的な抗腫瘍活性を示すことが報告されており、HSP90阻害がEGFR変異タンパク質 (T790Mを含む) の分解を促進することで、EGFR-TKI獲得耐性を克服できる可能性が示唆されていた。

単剤AUY922の第I相臨床試験では、推奨される第II相用量が70 mg/m²と設定されており、再発肺がん患者を対象とした第II相試験では、EGFR変異陽性でEGFR-TKI治療歴のある患者コホートにおいて18% (12/66例) の部分奏効が報告されていた。EGFR-TKI耐性発現後も、腫瘍内にはerlotinib感受性を保持するサブクローンが存在する可能性があり、erlotinibの継続投与が疾患の急激な進行 (disease flare) を防ぐ上で重要であると考えられていた。このため、erlotinibとAUY922の併用療法は、EGFR-TKI獲得耐性患者に対する新たな治療戦略として期待され、その安全性と有効性を評価する臨床試験の実施が喫緊の課題であった。本研究は、この併用療法の最大耐用量 (MTD)、安全性、および抗腫瘍活性を評価することを目的として計画された。EGFR-TKI獲得耐性に対する治療法は依然として未解明な点が多かった。

目的

本第I/II相試験の目的は、EGFR-TKI治療後に獲得耐性を発現したEGFR変異陽性NSCLC患者を対象として、HSP90阻害薬AUY922とEGFR-TKIであるerlotinibの併用療法の最大耐用量 (MTD) および推奨第II相用量を決定することであった。さらに、この併用療法の安全性プロファイルと、主要評価項目である客観的奏効割合 (ORR) を含む抗腫瘍活性を評価することも目的とされた。特に、EGFR T790M変異の有無にかかわらず奏効が認められるか、および治療継続期間や無増悪生存期間 (PFS) を評価することも副次的な目的であった。本試験は、前臨床データで示されたAUY922とerlotinibの相乗効果が臨床においても再現されるか検証することを目指した。本試験では、MTDで治療された25例において、ORRが20%以上であれば、本併用療法がさらなる検討に値すると判断される設計であった。

結果

MTDおよび推奨用量 (Phase I用量漸増): 第I相部分 (n=18) では、5つの用量コホートで3+3デザインによる用量漸増が実施された。コホート1〜4ではDLTは認められなかった。最高用量レベルであるコホート5 (AUY922 70 mg/m²/週 + erlotinib 150 mg/日) において、1例にGrade 3のjunctional rhythm (QTc延長に続発) がDLTとして発生した。このため、追加の3例がコホート5に登録され、MTDはAUY922 70 mg/m²/週 + erlotinib 150 mg/日と確定された。このMTDで治療された患者 (第I相のMTDコホート6例と第II相拡大コホート19例の計25例) が、主要評価項目である第II相ORRの評価対象集団となった。

薬物動態 (PK) プロファイル: 第I相患者18例から採取されたサンプルを用いたPK解析の結果、AUY922およびその代謝物BJP762の曝露量 (AUCおよびCmax) は、AUY922およびerlotinibの用量増加に伴い増加した (Table 3)。erlotinibとの併用投与時におけるAUY922およびBJP762の総曝露量は、AUY922単剤投与時と比較して同程度であった。これは、erlotinibがAUY922のPKに大きな影響を与えないことを示唆している。

抗腫瘍活性 (Phase II 主要エンドポイント): MTDで治療された評価可能患者25例における主要評価項目であるORRは16% (4/25例; 95% CI 5%〜36%) であった。内訳は、部分奏効 (PR) が4例 (16%)、安定 (SD) が10例 (40%)、進行 (PD) が5例 (20%)、評価不能 (NE) が3例 (12%) であった。疾患制御割合 (DCR; CR+PR+SD) は68% (17/25例) であり、過半数の患者で疾患の安定が認められた (Figure 1)。奏効持続期間の中央値は14週 (範囲8〜77週) であった。本試験の主要エンドポイント達成基準は、25例中5例以上のPR/CR (ORR ≥ 20%) であったため、今回の結果 (4例、16%) はこの基準を満たさなかった。しかし、SDと評価された患者の中には、4例で6ヶ月以上の病勢安定が認められており、一定の疾患制御活性は示された。

T790M変異状態別の奏効: 評価可能25例のうち、T790M変異陽性患者は11例 (44%) であった。T790M陽性例におけるORRは18% (2/11例) であり、T790M陰性例におけるORRは14% (2/14例) であった。T790M変異の有無による奏効割合に統計学的な有意差は認められなかった (Figure 1)。この結果は、HSP90阻害薬AUY922がT790M変異EGFRタンパク質をHSP90クライアントとして分解促進し、T790Mによる耐性を部分的に克服できるという前臨床仮説と概ね一致するものであった。奏効した4例のうち3例はEGFR exon 19欠失とT790M変異を有していた。しかし、最長18ヶ月間治療を継続した1例は、EGFR L858R変異を有し、T790M耐性変異は認められなかった。

治療継続期間とPFS: MTDで治療された25例の治療サイクル中央値は、第I相患者で2サイクル (範囲1〜11サイクル)、第II相患者で1サイクル (範囲1〜18サイクル) と比較的短期間であった。これは、主に病勢進行または毒性による治療中止が早期に発生したことを反映している。PRを達成した4例では、最長17サイクル (約4ヶ月) の投与が可能であったが、非奏効例の多くは1〜4サイクルで進行または毒性による中止に至った。無増悪生存期間 (PFS) の中央値は詳細に報告されていないが、治療期間の短さから、PFSも限定的であったと推察される。

安全性プロファイル: 全患者37例が安全性評価対象となり、全患者で少なくとも1つの有害事象が認められた (Table 4)。MTDで治療された25例におけるGrade 3〜4の治療関連有害事象は84% (21/25例) と高頻度であった。主なGrade 3〜4の有害事象は、下痢28% (7/25例)、皮疹20% (5/25例)、悪心16% (4/25例)、AUY922に特有の夜盲症/視覚障害16% (4/25例) であった。 視覚障害 (夜盲症: nyctalopia) はAUY922クラスのHSP90阻害薬に特有の用量制限毒性であり、Grade 1〜2の軽度視覚症状 (夜間視力低下、光視症、かすみ目など) は、第II相患者の72%に報告され、ほぼ全患者 (>80%) で発生した。一部の患者 (16%) ではGrade 3以上 (日常生活への支障) に達し、3例が眼科的毒性により治療を中止した。これらの視覚症状はAUY922の中止により可逆的であったが、一部では不可逆的な変化の可能性も示唆された。 肝酵素上昇 (AST/ALT異常) は、併用療法において65%の患者で認められ、単剤AUY922試験では報告されていなかった毒性であった。Grade 3のAST/ALT異常により2例が治療を中止した。その他の頻度の高い有害事象として、高血糖 (92%)、低アルブミン血症 (84%)、低ナトリウム血症 (68%) などが認められた。Grade 3のリンパ球減少症が5例で発生した。 毒性管理のための投与変更は過半数の患者で必要であり、投与中断率は32% (8/25例)、減量率は52% (13/25例) であった。QTc延長はGrade 2が2例 (8%) で認められたが、Grade 3以上の致死的心毒性 (Torsades de pointesなど) は発生しなかった。全体として、毒性プロファイルはAUY922単剤療法よりも増強されており、特に視覚障害と肝酵素上昇が治療継続を制限する主要な要因となった。

考察/結論

本第I/II相試験は、EGFR-TKI獲得耐性EGFR変異陽性NSCLC患者に対するHSP90阻害薬AUY922とerlotinibの併用療法が、限定的な抗腫瘍活性と高い毒性負担を伴うことを示した。主要評価項目であるORRは16% (4/25例; 95% CI 5%〜36%) であり、事前に設定された達成基準 (ORR ≥ 20%) を満たさなかった。この奏効割合は、単剤AUY922の先行研究で報告されたORR 18% (12/66例) と同程度であり、erlotinibの追加による上乗せ効果は認められなかった。

先行研究との違い: 本研究の結果は、AUY922とerlotinibの併用が前臨床で示された相乗効果を臨床で再現できなかった点で、これまでの期待とは対照的であった。他のHSP90阻害薬 (retaspimycinやganetespib) の単剤療法では、EGFR変異陽性NSCLC患者における奏効割合はさらに低く (retaspimycinで4%、ganetespibで0%)、本併用療法が単剤HSP90阻害薬より優れているとは言えない結果であった。また、AUY922単剤療法では報告されていなかった肝酵素上昇が、本併用療法では65%の患者で認められ、毒性が増強されることが示された点で、先行研究と異なる毒性プロファイルが観察された。

新規性: 本研究は、AUY922とerlotinibの併用療法におけるMTD、安全性、および抗腫瘍活性を初めて包括的に評価した臨床試験である。特に、AUY922クラスのHSP90阻害薬に特有の視覚障害 (夜盲症) が、AUY922単剤療法で報告された用量よりも低い用量で発現し、治療継続を制限する主要な要因となったことを初めて報告した。T790M変異陽性例でも18% (2/11例) の奏効が認められたことは、HSP90阻害がT790M変異EGFRタンパク質を分解促進するという作用機序の妥当性を部分的に支持するものであり、この点も新規性がある。

臨床応用: 本試験の知見は、EGFR-TKI獲得耐性NSCLCに対するHSP90阻害薬とEGFR-TKIの併用療法の臨床応用には、毒性管理が極めて重要であることを示唆する。特に、夜盲症や肝酵素上昇といった毒性が治療期間を制限し、患者のQOLに大きな影響を与えることが明らかになった。本研究の実施当時、EGFR-TKI獲得耐性に対する有効な治療選択肢が不足していたが、現在ではT790M変異を標的とする第三世代EGFR-TKIであるosimertinibが確立されており、HSP90阻害薬の単独または併用戦略の臨床的意義は大幅に低下している。本研究は、HSP90阻害が概念的にはEGFR耐性克服の有力な戦略であったものの、毒性/有効性バランスの面でosimertinibに置き換えられた歴史的経緯を示す重要な試験として位置づけられる。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。まず、登録患者の獲得耐性発現後の治療歴が多様であり、試験直前にerlotinib単剤治療を受けていた患者は22例中11例のみであった。これにより、併用療法の効果が過去の治療の影響を受けている可能性が残されている。また、病勢進行が試験登録直前に発生した患者 (8例) の方が、より早期の病勢進行段階で治療を受けたためか、奏効割合が高かった可能性も示唆される。これは、AUY922がEGFRシグナル依存性が高い早期の耐性患者に対してより有効である可能性を示唆しており、今後の検討課題である。さらに、EGFR exon 19欠失変異を有する患者がわずかに過剰に表現されており (68% vs 既報の50%)、この変異がL858R変異と比較して良好な予後と関連する可能性が報告されているため、本研究の奏効割合がわずかに過大評価されている可能性も否定できない。今後の研究では、HSP90阻害薬の網膜毒性を回避するための新たな薬剤設計や、より効果的な併用戦略の探索が必要となる。

方法

本試験は、多施設共同の非盲検第I/II相用量漸増および拡大コホート試験として実施された (NCT01259089)。対象患者は、進行期 (ステージIV) の肺腺癌で、EGFR TKI感受性変異 (exon 19欠失、L858R、L861Qなど) を有し、erlotinib治療後に獲得耐性を発現した患者であった。獲得耐性の定義はJackman et al. (2010) の基準に従い、erlotinibを少なくとも6ヶ月間投与後に病勢進行が認められた患者が対象とされた。ECOGパフォーマンスステータスは0〜2とされた。ベースラインでGrade 1以上の下痢またはQTc延長が450ミリ秒以上の患者は除外された。全患者は、試験登録前に病勢進行部位の腫瘍生検を再度実施し、EGFR T790Mなどの耐性機序の評価が行われた。

試験デザインと治療計画: 第I相部分は標準的な3+3用量漸増デザインを採用し、AUY922の週1回静脈内投与とerlotinibの1日1回経口投与を28日サイクルで実施した。用量漸増コホートは以下の通りであった (Table 1):

  • コホート1: AUY922 25 mg/m² + erlotinib 75 mg (n=3)
  • コホート2: AUY922 25 mg/m² + erlotinib 150 mg (n=3)
  • コホート3: AUY922 37.5 mg/m² + erlotinib 150 mg (n=3)
  • コホート4: AUY922 55 mg/m² + erlotinib 150 mg (n=3)
  • コホート5: AUY922 70 mg/m² + erlotinib 150 mg (n=6)

用量制限毒性 (DLT) は、Grade 4の下痢 (または72時間以上持続する止痢薬抵抗性のGrade 3下痢)、Grade 3のQTc延長、その他のGrade 3〜4の非血液毒性、Grade 4の血液毒性、または治療関連死と定義された。MTDは、6例中1例以下でDLTが発現する最高用量とされた。第II相部分では、MTDで追加の患者が治療された。

患者背景: 全37例が登録され、第I相に18例、第II相に19例が参加した。MTDで治療された25例が主要評価項目評価対象となった。患者の臨床的特徴はTable 2に示されており、女性が73% (27/37)、中央年齢は59歳 (範囲30〜76歳) であった。EGFR変異の内訳は、exon 19欠失が68% (25/37)、L858Rが30% (11/37)、L861Qが3% (1/37) であった。EGFR-TKI治療期間の中央値は12ヶ月 (範囲2〜42ヶ月) であった。試験登録時の腫瘍生検でEGFR T790M変異が認められた患者は43% (16/37) であった。

評価項目: 主要評価項目は、第II相における完全奏効 (CR) + 部分奏効 (PR) の割合 (ORR) であった。副次評価項目には、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、奏効持続期間 (DoR)、および安全性プロファイルの評価が含まれた。奏効評価はRECIST (version 1.1) に基づき、4週、8週、その後8週ごとに実施された。

毒性評価: 治療関連有害事象は、NCI-CTCAE (version 4.0) に基づき評価された。心電図 (ECG) は、AUY922投与前、投与中、および投与後に複数回実施され、QTc延長がモニタリングされた。眼科的検査 (視力、眼圧、細隙灯検査、眼底検査、色覚検査、必要に応じて網膜電図) は、治療前、サイクル1後、サイクル3後に実施された。

薬物動態 (PK) 解析: 第I相患者からAUY922およびその代謝物BJP762の血漿中濃度を評価するための血液サンプルが採取された。PKパラメータは非コンパートメント解析により算出され、AUY922単剤投与時のデータと比較された。

統計解析: 記述統計は頻度、割合、平均値、中央値、範囲で報告された。奏効割合は正確二項分布と信頼区間を用いて算出された。Simonのミニマックスデザインが用いられ、奏効割合10%対30%を検定するために、タイプIおよびIIエラー率10%でサンプルサイズが決定された。25例の評価可能患者において5例以上の奏効 (ORR 20%以上) が認められた場合、本併用療法はさらなる検討に値すると判断された。PFSおよびOSの解析にはKaplan-Meier法が用いられた。サブグループ間の生存曲線比較にはログランク検定が用いられた。