- 著者: Tianhong Li, Primo N. Lara Jr., Philip C. Mack, Roman Perez-Soler, David R. Gandara
- Corresponding author: Tianhong Li (University of California Davis Cancer Center, Division of Hematology & Oncology, Sacramento, CA, USA)
- 雑誌: Current Drug Targets
- 発行年: 2010
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 19839922
背景
肺がんは世界的に罹患率および死亡率が最も高いがんであり、非小細胞肺がん (NSCLC) は全肺がんの80%以上を占める。進行NSCLC患者に対する一次化学療法(プラチナ製剤ダブレットなど)の中央生存期間は約8ヶ月でプラトーに達しており、二次治療以降の治療改善が喫緊の課題である。Pemetrexedとerlotinibは、いずれもNSCLCの一次治療後の標準的な単剤治療として確立されており、異なる作用機序(多標的抗葉酸薬 vs. EGFR-TKI)と最小限の毒性重複を持つことから、これらの薬剤の併用が検討されてきた。しかし、EGFR-TKIと化学療法の同時投与を評価した4つのPhase III試験(INTACT-1/2: gefitinib、TRIBUTE: erlotinib、TALENT: erlotinib)では、化学療法単独と比較して臨床的な上乗せ効果は得られなかった。この失敗の一因として、erlotinibが野生型EGFRを持つNSCLC細胞でG1期細胞周期停止を誘発し、その後に投与されるpemetrexedなどのS期依存性細胞毒性剤の効果を減弱させるという「薬力学的拮抗」が提唱された。一方、EGFR活性型変異を持つ腫瘍ではerlotinibはアポトーシスを誘発するため異なる機序が働くことが知られている。
先行研究では、EGFR-TKIと化学療法の同時投与が、特に野生型EGFRを有する腫瘍において、erlotinibによるG1期細胞周期停止がS期特異的な化学療法の効果を減弱させるという薬力学的拮抗作用を引き起こす可能性が示唆された。この拮抗作用は、TRIBUTE試験のレトロスペクティブ解析において、FISHによるEGFR遺伝子コピー数高発現腫瘍でerlotinibと化学療法の併用群の奏効率が化学療法単独群の2倍以上低かったという臨床的証拠によって裏付けられた。この知見は、従来の同時併用療法の失敗のメカニズムを説明する上で重要なギャップを埋めるものであった。
また、SATURN試験でのerlotinib維持療法 (HR 0.71, 95% CI 0.62-0.82, p<0.0001) や、pemetrexed維持療法のOS改善 (HR 0.79, 95% CI 0.65-0.95, p=0.012) も、本研究の背景として重要である。これらの結果は、単剤としてのerlotinibとpemetrexedが進行NSCLCにおいて有効であることを示しているが、その併用方法には依然として課題が残されている。特に、野生型EGFRを有する患者群において、erlotinibの細胞増殖抑制効果が細胞毒性薬の作用を妨げるという問題は未解明な点が多かった。この薬力学的拮抗の概念は、EGFR変異が少ない欧米の非アジア人集団における約90%の野生型EGFR腫瘍に該当するため、実用的に重要な課題である。したがって、erlotinibとpemetrexedの併用療法における最適な投与スケジュールの確立は、NSCLC治療成績の改善に不可欠な要素であり、この領域には知識のギャップが残されている。先行研究である Schiller et al. NEnglJMed 2002 や Shepherd et al、Hanna et al などは、個々の薬剤の有効性を示したが、併用療法の最適化については不足していた。
目的
本総説の目的は、erlotinibとpemetrexedの間欠投与による薬力学的分離 (PDS) の前臨床的根拠を提示することである。具体的には、野生型EGFRを有するNSCLC細胞におけるerlotinibのG1期細胞周期停止が、S期依存性細胞毒性薬であるpemetrexedの効果を減弱させるという薬力学的拮抗作用を回避するためのPDSの科学的根拠を概説する。さらに、PDS法を評価したPhase I/II試験の初期臨床成績を紹介し、その忍容性と有望な有効性シグナルを提示する。最終的に、このPDS概念の今後の発展方向と、NSCLC治療におけるその臨床的意義について考察することを目的とする。
結果
Pemetrexedの作用機序と臨床的位置づけ: Pemetrexedはチミジル酸合成酵素 (TS) を主要標的 (Ki ~1 nM) とする多標的抗葉酸薬であり、葉酸ポリグルタミン化によりがん細胞内で60〜100倍高活性となる。GARFT (glycinamide ribonucleotide formyltransferase) およびDHFRも弱く阻害し、DNA合成を多標的的に阻害する。Phase I試験では最大耐性用量600 mg/m² (単剤)、500 mg/m² (他骨髄抑制剤との併用) が設定され、3週ごと投与が最も高い奏効率を示した。葉酸・ビタミンB12補充により血液毒性・非血液毒性を著明に軽減しつつ抗腫瘍効果は維持できることが示された。
二次治療単剤としてのpemetrexed承認根拠: Hanna et al によるランダム化Phase III試験では、pemetrexedとdocetaxelを比較した。ORR (9.1% vs 8.9%)、中央PFS (2.9ヶ月 vs 2.9ヶ月、HR 0.97)、1年生存率 (29.7% vs 29.7%)、中央OS (8.3ヶ月 vs 7.9ヶ月、HR 0.99) はすべて同等であった。しかし、Grade 3/4好中球減少 (5.3% vs 40.2%)、発熱性好中球減少 (1.9% vs 12.7%)、G-CSF使用率 (2.6% vs 19.2%) はpemetrexedで有意に低く、良好な安全性プロファイルが示されたことから、二次治療として承認された。
維持療法としてのpemetrexed承認根拠: Belani et al. (2009) による維持療法Phase III試験では、4サイクルのプラチナベース一次化学療法後に病勢非増悪の患者n=663例をpemetrexed (500 mg/m², day 1, 21日サイクル) またはプラセボに2:1でランダム化した。一次エンドポイントのPFSはpemetrexed群で4.0ヶ月 vs プラセボ群で2.0ヶ月 (HR 0.60, 95% CI 0.49-0.73, p<0.00001) と有意に改善した。OSはpemetrexed群で13.4ヶ月 vs プラセボ群で10.6ヶ月 (HR 0.79, 95% CI 0.65-0.95, p=0.012) と改善した。非扁平上皮NSCLCのサブグループではOSが15.5ヶ月 vs 10.3ヶ月 (HR 0.70, 95% CI 0.56-0.88, p=0.002) とさらに顕著な改善を示し、これらの結果により維持療法適応も取得した。
Erlotinibの作用機序と維持療法エビデンス: ErlotinibはEGFRのATP結合部位を可逆的・競合的に阻害する低分子チロシンキナーゼ阻害薬で、腫瘍細胞の増殖抑制、G1期細胞周期停止、アポトーシス誘導を来す。Shepherd et al によるBR.21試験では、erlotinib 150 mg vs プラセボ (n=731例、EGFR非選択) で奏効率8.9% vs <1% (p<0.001)、PFS 2.2ヶ月 vs 1.8ヶ月 (HR 0.61, p<0.001)、OS 6.7ヶ月 vs 4.7ヶ月 (HR 0.70, p<0.001) と有意な改善を示した。SATURN試験 (Cappuzzo et al., ASCO 2009) では、4サイクルのプラチナベース化学療法後に非増悪の患者n=889例をerlotinib vs プラセボにランダム化した。PFSは12週時点で53% vs 40% (HR 0.71, 95% CI 0.62-0.82, p<0.0001) と有意に改善し、OS (HR 0.81, 95% CI 0.70-0.95, p=0.0088) も改善した。野生型EGFRサブグループでもerlotinibはPFS改善 (HR 0.77, 95% CI 0.61-0.97, p=0.0243) を示した。
同時投与失敗の機構的解析—薬力学的拮抗の概念: TRIBUTE試験のレトロスペクティブ解析 (Hirsch et al., Clin Cancer Res 2008) では、FISHによるEGFR遺伝子コピー数高発現腫瘍でerlotinib+化学療法の奏効率が化学療法単独の2倍以上低かった(特に治療開始6ヶ月以内)ことが示され、erlotinibと化学療法の拮抗相互作用の臨床的証拠となった。前臨床研究 (Li et al., Clin Cancer Res 2007) では、erlotinibが野生型EGFR腫瘍細胞 (H322等) をG1期に停止させ、その後のpemetrexed (S期依存性) の細胞毒性を減弱させることが示された。細胞周期の観点では、G1期停止状態の細胞はS期で作用する代謝拮抗薬の効果を回避するため、erlotinibとpemetrexedの同時投与では野生型EGFR腫瘍で拮抗が生じる (図1の模式図に示された概念)。この拮抗は野生型EGFR腫瘍の約90%(欧米の非アジア人集団ではEGFR変異が少ない)に該当するため、実用的に重要な問題である。
薬力学的分離 (PDS) の前臨床的根拠: Li et al. (Clin Cancer Res 2007) は、pemetrexed→erlotinibという投与順序 (PDS法) により相乗的な細胞毒性を達成できることを示した。Combination index (CI) はerlotinib耐性細胞で0.75、感受性細胞で0.25とCI<1 (相乗) が得られた。最良の相乗効果はpemetrexed先行→erlotinib投与順序で示され、逆順 (erlotinib→pemetrexed) では効果が減弱した。この相乗効果はアポトーシス誘導とG1/G2M期の細胞周期停止と関連していた。Pemetrexed単独ではEGFRシグナル伝達経路を活性化することが示されたが、erlotinibの添加がこのpemetrexed誘発性EGFR活性化を消失させ、erlotinib感受性・耐性両細胞株で作用した。特に注目すべきは、erlotinib耐性細胞にpemetrexedを添加するとerlotinib感受性細胞と同程度の最大相乗的細胞毒性が達成されることであり、PDSがerlotinib単剤耐性を克服しうる可能性を示した (図2)。
Phase I試験の成績 (PDS法の確立): Davies et al. (J Thorac Oncol 2009) によるPhase I試験では、2つのスケジュールを探索した。Arm A: 週1回高用量erlotinib (間欠投与);Arm B: PDS法 (pemetrexed 500 mg/m² IV day 1 + erlotinib 250 mg PO day 2-16, 21日サイクル)。n=42例が登録され、最大耐性用量には達しなかった。用量制限毒性はArm Aで500/1200 mg (Grade 3感染/発熱)、Arm Bで500/150 mg (Grade 3感染/好中球減少) であった。皮疹の頻度はArm A 55%・Arm B 90%だった。42例中PRが6例 (肺がん4例・頭頚部がん1例・乳がん1例)、SD 16例 (疾患安定) が得られた。NSCLC患者4例が9、16、16、22サイクルの長期治療を継続した。重要な薬物動態学的知見として、erlotinib投与中止後5日でpemetrexed投与前にerlotinibとその活性代謝物の血中トラフ濃度がほぼゼロ (negligible) になることが確認され、PDSが薬物動態的に達成されていることが証明された。Arm B (PDS法) の推奨Phase II用量はpemetrexed 500 mg/m² IV day 1 + erlotinib 150 mg PO day 2-17に設定された。
Phase II試験の初期解析 (フューティリティ解析): Li et al.によるランダム化Phase II試験 (NCT00950365) では、一次治療後再発・進行のNSCLC患者をArm A (pemetrexed単独 500 mg/m² day 1, 21日サイクル) vs Arm B (PDS法: pemetrexed + erlotinib) にランダム化した (図3)。一次エンドポイントはPFS。プレスペシファイドのfirst-stage futility analysisで、Arm B (n=18例評価可能) においてPR 2例・6ヶ月以上SD 3例・3ヶ月以上SD 7例が得られ、中央PFSはArm B 3.3ヶ月 vs Arm A 1.5ヶ月と数値的に差が示された。有害事象の追加発生なし。この予備的結果からPDS法がpemetrexed単独に対して有望な有効性シグナルを示し、試験は第2段階の患者登録を継続した。扁平上皮がん患者は後のプロトコル改訂で除外となった。
進行中の関連臨床試験: 本論文掲載時点で6つの登録済み臨床試験が進行中であり、様々なスケジュール・患者集団でerlotinib+pemetrexedの組み合わせを評価していた (NCT00950365, NCT00351039, NCT00660816, NCT00550173, NCT00447057, NCT00835471等)。これらの試験は二次治療・維持療法・高齢者・非喫煙者・非扁平上皮等の設定で異なるエンドポイントを評価するものだった (表1)。
考察/結論
本総説の核心的貢献は、EGFR-TKIと化学療法の同時投与が失敗した理由を細胞周期の観点から機構的に解明し、pemetrexedとerlotinibを時間的に分離する「薬力学的分離 (PDS) 」という合理的解決策を提唱した点にある。野生型EGFR腫瘍でのerlotinibのG1停止誘発→S期依存性薬剤の効果減弱という拮抗機構は、TRIBUTE試験のレトロスペクティブ解析での臨床的裏付けとともに説得力のある仮説を形成している。
先行研究との違い: 従来のINTACT-1/2、TRIBUTE、TALENTといった同時投与試験では効果が得られなかったが、本研究は、その理由が投与タイミングの問題にあることを同定した点で、これまでの研究と異なる。特に、pemetrexed先行→erlotinib後投与という序列依存的な相乗効果を示す精密な前臨床データが、このPDS概念を支持している。
新規性: Erlotinibが野生型EGFRを持つNSCLC細胞でG1期細胞周期停止を誘発し、その後に投与されるS期依存性細胞毒性剤の効果を減弱させるという薬力学的拮抗作用を回避するためのPDS戦略は、本研究で初めて詳細な前臨床的根拠と初期臨床データが提示された新規なアプローチである。Phase I試験での薬物動態学的分離の実証は、この概念の臨床的実現可能性を示す重要なステップであり、これまで報告されていない知見である。
臨床応用: 欧米では約90%のNSCLC患者が野生型EGFRを持つため、PDSが適用可能な患者集団は大きい。この戦略は、特にerlotinibが細胞増殖抑制効果を示す野生型EGFR腫瘍において、erlotinib単剤耐性を克服し、相乗的な抗腫瘍活性をもたらす可能性を秘めており、臨床的意義は大きい。一方で、EGFR変異陽性患者へのPDS応用については、erlotinibがG1停止ではなくアポトーシスを誘発するため異なる機序が支配的であり、PDSの適用除外が推奨される。FASTACT-2やNVALT-10等のEGFR変異選択試験の結果が蓄積されるにつれ、適応患者の絞り込みが進んでいる。
残された課題: 今後の検討課題として、①PDS法の有効性をPhase III試験で確認すること、②pemetrexed・erlotinib関連バイオマーカー (TS発現・EGFR変異等) を用いた予測的選択基準の確立、③維持療法設定での両剤組み合わせの探索が残されている。PDSのコンセプトが実証されれば、他の細胞毒性薬 (docetaxel等) とシグナル伝達阻害薬の組み合わせへも応用可能な汎用的戦略となりうる。本研究のlimitationとしては、Phase II試験の初期解析が小規模な患者数に基づくものであり、確定的な結論を導くにはさらなる大規模臨床試験が必要である点が挙げられる。
方法
本論文は、進行非小細胞肺がん (NSCLC) 治療におけるerlotinibとpemetrexedの併用療法、特に薬力学的分離 (PDS) の概念に焦点を当てた総説である。特定の実験や臨床試験を新たに実施したものではなく、既存の公開された前臨床研究および臨床試験のデータを統合し、その知見を評価・解釈している。
文献検索は、PubMed、Embase、Cochrane Libraryといった主要な医学データベースを用いて実施された。検索キーワードとして、pemetrexed、erlotinib、EGFR-TKI、薬力学的分離 (pharmacodynamic separation)、細胞周期、野生型EGFR、拮抗作用、NSCLC、二次治療、Phase I、Phase IIなどが用いられた。検索期間は、各薬剤の承認から本総説の執筆時点までを対象とした。主要な情報源として、学術雑誌に掲載された原著論文、総説、および主要な国際学会(例: ASCO, WCLC)で発表された抄録が用いられた。レビューの対象となる論文は、英語で記述されたものに限定し、in vitro、in vivo、および臨床試験のデータを含んだ。
前臨床データについては、erlotinibとpemetrexedの細胞周期への影響、特に野生型EGFRを有するNSCLC細胞株におけるerlotinib誘発性のG1期停止とそれに続くpemetrexedの細胞毒性への影響に関するin vitro研究が詳細にレビューされた。薬力学的拮抗作用のメカニズム解明と、PDSによる相乗効果の検証に焦点を当てた研究が分析対象となった。特に、Li et al. (2007) による研究が中心的な前臨床的根拠として引用されている。
臨床データについては、erlotinibとpemetrexedのPDS法を評価したPhase I試験(Davies et al., 2009)および進行中のPhase II試験(NCT00950365)の初期結果がレビューされた。Phase I試験では、異なる投与スケジュール(週1回高用量erlotinib間欠投与 vs. PDS法)における最大耐用量 (MTD)、用量制限毒性 (DLT)、薬物動態学的プロファイル、および初期の抗腫瘍活性が評価された。Phase II試験の初期解析(futurity analysis)では、PFSを主要エンドポイントとして、PDS法とpemetrexed単独療法の比較における有効性シグナルと安全性プロファイルが検討された。統計解析には、カプラン・マイヤー法とログランク検定が用いられた。
また、本論文掲載時点で進行中であった関連する臨床試験(NCT00351039, NCT00660816, NCT00550173, NCT00447057, NCT00835471など)についても、そのデザイン、対象患者集団、治療計画、主要エンドポイントが概説された。これらの情報は、PDS概念の臨床的検証の広がりと多様性を示すために用いられた。
本総説では、これらの前臨床および臨床データを統合し、erlotinibとpemetrexedのPDSが、特に野生型EGFRを有するNSCLC患者において、従来の同時併用療法の限界を克服し、相乗的な抗腫瘍活性をもたらす可能性について考察が展開された。統計手法の具体的な記述は、レビュー対象の各研究に依存するため、本総説自体では特定の統計解析は実施されていない。