- 著者: Tony S. Mok, S.L. Geater, N. Iannotti, S. Thongprasert, et al.
- Corresponding author: Tony S. Mok (Department of Clinical Oncology, The Chinese University of Hong Kong, Hong Kong, China)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 24827127
背景
肺がんは世界的に癌関連死の主要な原因であり、多くの患者が進行期で診断され、5年生存率は低い。非小細胞肺癌 (NSCLC) の標準的な一次治療は、既知のドライバー遺伝子変異がない患者に対してはプラチナ製剤併用化学療法である。二次治療の選択肢はドセタキセルまたはペメトレキセド単剤療法に限られており、これらの治療法による全生存期間 (OS) の改善は限定的であると報告されている Schiller et al. NEnglJMed 2002、Hanna et al、Shepherd et al. JClinOncol 2000、Shepherd et al. NEnglJMed 2005、Kim et al。異なる作用機序を持つ抗癌剤の併用は、有効性を高めつつ忍容性を維持する可能性を秘めている。しかし、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬 (EGFR-TKI) と細胞傷害性薬剤の同時投与を検討した初期の第III相試験 (INTACT-1 (Gefitinib in combination with gemcitabine and cisplatin), TRIBUTE (Erlotinib combined with carboplatin and paclitaxel), TALENT) では、一貫して相乗効果は示されなかった Giaccone et al. JClinOncol 2004、Herbst et al。
近年、「薬力学的分離 (pharmacodynamic separation; PDS)」という概念が提唱され、化学療法サイクル間に間欠的にEGFR-TKIを投与することで、細胞周期依存性の拮抗作用を回避し、治療成績を改善する可能性が示唆されている Li et al. CurrDrugTargets 2010。このPDSアプローチは、前臨床モデルで有望な結果を示し、一部の臨床試験でも有効性が報告されている。例えば、ゲムシタビン/プラチナ化学療法に続いて14日間のエルロチニブまたはプラセボを投与する第II相ランダム化比較試験では、無増悪生存期間 (PFS) の有意な延長が認められた Mok et al。
エリブリンメシル酸塩は、非タキサン系の微小管ダイナミクス阻害薬であり、進行乳癌の治療薬として承認されている。NSCLCの二次治療におけるエリブリン単剤療法の第II相試験では、客観的奏効率 (ORR) が10%と報告されていた。エルロチニブ (EGFR-TKI) とエリブリン (微小管阻害薬) は、異なる作用機序を持ち、毒性の重複が最小限であるため、PDS法による併用が有望であると考えられた。本試験の設計時点では、EGFR変異状態にかかわらず併用療法のベネフィットが期待されていたが、その後の研究 (例: FASTACT-2 (Intercalated combination of chemotherapy and erlotinib for patients with advanced stage non-small-cell lung cancer) 試験) により、EGFR変異陽性患者に限定される可能性が示唆されるようになった。既治療進行NSCLC患者に対する有効で忍容性の高い治療選択肢が依然として不足しており、特にEGFR変異陰性患者における治療成績の改善は重要な課題として残されている。
目的
本第II相ランダム化比較試験の目的は、プラチナ製剤による化学療法歴のある進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者(EGFR変異状態不問)を対象として、エリブリンとエルロチニブの2種類の間欠投与レジメン(21日レジメンと28日レジメン)の有効性、安全性、および薬物動態 (PK) を評価することである。主要評価項目は客観的奏効率 (ORR) と設定された。副次評価項目として、無増悪生存期間 (PFS)、奏効期間 (DOR)、病勢コントロール率 (DCR)、全生存期間 (OS) を評価する。また、探索的評価項目として、臨床的有用性率 (CBR) の評価、薬物動態解析、およびEGFR変異、EGFR FISH、EGFR蛋白発現、KRAS変異などのバイオマーカーと治療効果との関連性解析を実施する。本研究は、薬力学的分離 (PDS) の概念に基づいた併用療法の臨床的実現可能性と、その有効性および忍容性を検証することを目的とした。
結果
患者背景と治療曝露: 2010年2月22日から2010年12月14日の間に、計123名の適格患者が無作為化された(21日レジメン群 n=63、28日レジメン群 n=60)。患者のベースライン特性は両群間で類似しており、中央値年齢は62.0歳 (範囲 35-87歳) および63.5歳 (範囲 39-87歳) であった。男性患者の割合はそれぞれ52%および55%であった。人種の内訳は白人56-58%、アジア系38%であった。組織型は非扁平上皮癌が73-76%を占め、ECOG PS 0-1の患者が89-92%であった (Table 1)。前治療ラインは1ラインが57-59%、2ラインが18-33%であった。全患者が少なくとも1サイクル以上の治療を受け、中央値サイクル数は21日レジメンで3サイクル (範囲 1-44)、28日レジメンで4サイクル (範囲 1-33) であった。用量遅延は両群で約32-33%の患者に発生し、用量減量は21日レジメンで32%、28日レジメンで27%の患者に実施された。
有効性評価 (ORR, DCR, 生存期間): 客観的奏効率 (ORR) は、21日レジメンで13% (95% CI 6-24%)、28日レジメンで17% (95% CI 8-29%) であった。28日レジメンのみが、事前に設定された「ORRの下限90% CIが9%を超える」というポジティブ基準を満たした (片側p=0.041)。病勢コントロール率 (DCR; 7週間以上の安定病変を含む) は、21日レジメンで48% (95% CI 35-61%)、28日レジメンで63% (95% CI 50-75%) と、28日レジメンでより高率であった。奏効持続期間 (DOR) 中央値は、21日レジメンで9.4ヶ月 (95% CI 2.7-censored)、28日レジメンで9.7ヶ月 (95% CI 5.6-censored) であり、奏効が比較的長期にわたって維持される傾向が示された。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は、21日レジメンで3.5ヶ月 (95% CI 1.9-4.7ヶ月)、28日レジメンで3.8ヶ月 (95% CI 3.3-5.5ヶ月) であった (Figure 2A)。全生存期間 (OS) 中央値は、21日レジメンで7.6ヶ月 (95% CI 6.3-11.0ヶ月)、28日レジメンで8.5ヶ月 (95% CI 6.2-13.1ヶ月) であった (Figure 2B)。両レジメン間での統計的な比較は、試験設計上実施されなかった。
バイオマーカー解析とEGFR変異の重要性: バイオマーカー評価が可能な60例 (21日レジメン34例、28日レジメン26例) のうち、EGFR変異陽性患者は8例 (13%) であった。このEGFR変異陽性集団では、ORRが50% (4/8例) と顕著に高く (p=0.018)、腫瘍縮小率中央値も-36% (95% CI -56%から-17%) であった。これはEGFR野生型患者の腫瘍縮小率中央値-10% (95% CI -21%から1%) と比較して有意な差であった (p=0.016)。一方、EGFR野生型患者35例のORRは6% (2/35例) と低く、これはエルロチニブ単剤療法の既報ORR (INTEREST試験で8% Kim et al. Lancet 2008、BR.21試験で8.9% Shepherd et al. NEnglJMed 2005) と同程度の水準であった。EGFR FISH陽性 (36%)、EGFR蛋白発現 (77%)、KRAS変異 (25%) と有効性との間に有意な相関は認められなかった。これらの結果は、エリブリンとエルロチニブの間欠併用療法の臨床的ベネフィットがEGFR変異陽性患者に集中し、EGFR変異陰性患者 (大多数を占める) ではエルロチニブの上乗せ効果がほとんどないことを強く示唆している (Table 2)。
安全性プロファイル: 両レジメンにおいて、全患者で有害事象 (AE) が報告された。グレード3以上のAEの発生率は、21日レジメンで84%、28日レジメンで80%であった。治療関連死は計5例報告された(21日レジメンで発熱性好中球減少症1例、急性呼吸不全1例、肺炎1例;28日レジメンで発熱性好中球減少症1例、肺炎1例)。最も頻繁に認められたグレード3以上のAEは、好中球減少症 (21日レジメン56% vs 28日レジメン48%)、無力症/倦怠感 (両群で13% vs 12%)、呼吸困難 (両群で10%) であった。発熱性好中球減少症の発生率は、21日レジメンで17%に対し、28日レジメンで5%と、21日レジメンで顕著に高かった。重篤な有害事象 (SAE) の発生率 (60% vs 45%) およびAEによる治療中止率 (24% vs 10%) も21日レジメンで高く、28日レジメンがより良好な安全性プロファイルを示した。
薬物動態 (PK) 解析: エリブリンのPKパラメータは既報のデータと類似しており、21日レジメンと28日レジメン間で同等であった。サイクル1における平均消失半減期は27~32時間であった。エリブリンの曝露量 (AUC) は用量依存的に増加し、1.4 mg/m²投与後で851.5 ng・h/mL、2.0 mg/m²投与後で1276.5 ng・h/mLであった。用量補正後の曝露量は、両レジメンのサイクル1とサイクル2のDay 1で類似しており、エリブリンの蓄積がないことを示唆した。エルロチニブはCYP3A4を誘導するが、エリブリンのクリアランスに対するCYP3A4代謝の寄与は小さいことが示されており、本研究でもエルロチニブの間欠投与がエリブリンのAUCに実質的な影響を与えないことが確認された (エリブリンAUC変化 <10%)。エルロチニブ150 mgの定常状態AUCは単剤試験と同等であり、エリブリンとの薬物動態学的相互作用は認められなかった。このPKデータは、間欠投与による「薬力学的分離 (PDS)」概念の実行可能性を支持するものであった。
考察/結論
本第II相ランダム化比較試験は、エリブリンとエルロチニブの間欠併用療法が忍容可能であることを確認し、特に28日レジメンが事前に設定されたポジティブ基準(ORRの下限90% CIが9%超)を満たすことを示した。しかし、全体としてのORR (13%および17%) は、エルロチニブ単剤療法と比較して大幅な上乗せ効果を示すものではなかった。
先行研究との違い: 本研究の最も重要な知見は、バイオマーカー解析から得られたものであり、ORRおよび腫瘍縮小率においてEGFR変異陽性例 (ORR 50%) とEGFR野生型例 (ORR 6%) の間に顕著な差が示された点である。この結果は、化学療法とEGFR-TKIの間欠併用療法のベネフィットがEGFR変異陽性患者に限定されるという、Wu et al のFASTACT-2試験やNVALT-10試験の結果と一致しており、これまでのEGFR変異状態を考慮しない併用療法の有効性に関する知見とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、エリブリンとエルロチニブという異なる作用機序を持つ薬剤を薬力学的分離 (PDS) の概念に基づいて間欠的に併用する新規レジメンの実現可能性と忍容性を臨床的に評価した。また、この併用療法におけるEGFR変異状態の予測的バイオマーカーとしての重要性を明確に示した点も新規性である。
臨床応用: 本知見は、既治療進行NSCLC患者に対する治療戦略において、EGFR変異状態のスクリーニングが極めて重要であることを示唆する。特に、EGFR変異陰性患者(本研究の大多数を占める)に対しては、エルロチニブの追加が有効性改善をもたらさないため、将来の臨床試験ではEGFR変異陽性患者への限定が重要であるという臨床的含意がある。これにより、患者選択の最適化と不必要な治療の回避に貢献し、臨床現場での個別化医療の推進に繋がる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、EGFR変異陽性患者におけるエリブリンとエルロチニブの間欠併用療法が、EGFR-TKI単剤療法と比較して優位性を持つかを検証する大規模な第III相試験が必要である。また、本試験はバイオマーカーによる患者選択を行わない設計であったため、EGFR変異陰性患者におけるエルロチニブの上乗せ効果の欠如を明確に示したが、これは同時に、バイオマーカーに基づかない試験設計のlimitationも示している。さらに、21日レジメンで発熱性好中球減少症やSAEの発生率がやや高かったことから、28日レジメンがより良好な安全性プロファイルを持つことが示唆されており、今後の研究では28日レジメンが優先されるべきである。
方法
試験デザイン: 本研究は、多施設共同、オープンラベル、無作為化第II相試験 (NCT01104155) として実施された。合計123名の患者が、38施設(米国23施設、アジア15施設)で登録された。患者は1:1の比率で、21日レジメン群 (n=63) または28日レジメン群 (n=60) に無作為に割り付けられた。プロトコール修正により、EGFR変異検出に必要なアジア人患者の割合 (≥30%) を確保するため、非アジア人患者の登録を一時停止し、アジア人患者の追加登録が行われた。試験は、Good Clinical Practice、ヘルシンキ宣言 (2008年版)、および国際調和会議 (ICH) ガイドラインに準拠して実施され、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを取得した。
治療レジメン:
- 21日レジメン: エリブリンメシル酸塩 2.0 mg/m² (遊離塩基として1.75 mg/m²) をDay 1に静脈内投与し、エルロチニブ 150 mgをDay 2からDay 16まで経口投与する21日サイクル。
- 28日レジメン: エリブリンメシル酸塩 1.4 mg/m² (遊離塩基として1.23 mg/m²) をDay 1とDay 8に静脈内投与し、エルロチニブ 150 mgをDay 15からDay 28まで経口投与する28日サイクル。 治療は病勢進行、許容できない毒性、死亡、または臨床的に適切と判断されるまで継続された。グレード3または4の毒性に対しては、用量減量または休薬により管理された。
患者選択基準: 18歳以上、組織学的に確認された測定可能病変を有する進行NSCLC、少なくとも1レジメン以上のプラチナ製剤併用化学療法歴、最終抗癌治療中または治療後の病勢進行、ECOGパフォーマンスステータス (PS) ≤2、十分な骨髄、肝臓、腎臓機能を有する患者を対象とした。除外基準には、エリブリンまたはEGFR-TKIの事前使用歴、治療済みで安定している場合を除く既知の脳転移、グレード2を超える既存の末梢神経障害が含まれた。
評価項目: 主要評価項目はORRであった。副次評価項目はPFS、DOR、DCR、およびOSであった。探索的評価項目としてCBR、安全性、薬物動態 (PK) 解析、および探索的バイオマーカー解析が実施された。腫瘍反応は、担当医により8週間ごと、または病勢進行が疑われる場合はそれより早く、RECIST version 1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づいて評価された。完全奏効 (CR) および部分奏効 (PR) は、4週間以上経過後のスキャンで確認が必要とされた。
統計解析: 主要解析はIntent-to-treat (ITT) 集団に基づいて実施された。安全性評価は、治験薬を少なくとも1回投与され、ベースライン後の安全性評価が少なくとも1回行われた全ての無作為化患者を対象とした。PK解析は、治験薬を少なくとも1回投与され、評価可能なPKデータが得られた全ての患者を対象とした。バイオマーカー解析は、評価可能なバイオマーカーサンプルを有する患者に対して実施された。各治療アームにおいて、90%片側信頼区間 (CI) 法が用いられ、サンプルサイズ50例、ORR 20%の場合に、エルロチニブ単剤の歴史的ORR 9%を除外する80%の検出力を持つように設計された。ORRが20%以上であれば、2剤間の相乗効果の可能性が90%の信頼度で示唆されると判断された。ORRはClopper-Pearson法 Clopper et al を用いて90%片側および95%両側CIで算出された。PFS、DOR、OSの中央値は、カプラン・マイヤー法を用いて95%両側CIで算出された。DCRおよびCBRについては、対応する正確なClopper-Pearson 95%両側CIが算出された。安全性データは記述統計を用いて要約された。探索的解析では、バイオマーカーと最良ORR (Fisher’s exact test)、PFS (カプラン・マイヤー曲線、ログランク検定)、および腫瘍体積の縮小率 (Wilcoxon test) との相関が評価された。本試験はClinicalTrials.govにNCT01104155として登録されている。