• 著者: Roy S. Herbst, Diane Prager, Richard Hermann, Lee Fehrenbacher, Barry E. Johnson, Daniel Sandler, Harry M. Kris, et al.
  • Corresponding author: Vincent A. Miller (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2005
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 16043829

背景

肺がんは世界的に癌死亡の主要な原因であり、より効果的な治療法の開発が喫緊の課題である。特に非小細胞肺癌(NSCLC)は、進行期においては予後不良であり、新たな治療戦略が求められていた。近年、上皮成長因子受容体(EGFR)シグナル伝達経路を標的とする薬剤の開発が進み、新たな治療薬のクラスとして注目を集めている。Erlotinib (Tarceva; Genentech Inc, San Francisco, CA) は、強力かつ可逆的なHER1/EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)であり、NSCLC患者において単剤での活性が示されていた。例えば、化学療法既治療の進行NSCLC患者を対象とした第II相試験では、erlotinib単剤で12.3% (95% CI 5.1-23.7%) の客観的奏効率と8.5ヶ月の中央生存期間が報告されており、これはドセタキセルやペメトレキセド、ゲフィチニブといった既存薬の成績に匹敵するものであった (Perez-Soler et al)。

同時期に実施されたゲフィチニブと化学療法の併用療法を評価するINTACT-1/2試験では、未治療進行NSCLC患者においてゲフィチニブの化学療法への上乗せ効果は認められず、主要評価項目である全生存期間(OS)の改善は示されなかった (Herbst et al)。しかし、erlotinibはゲフィチニブと比較して、より低濃度で完全なEGFR阻害を達成するという薬理学的特性を有しており、化学療法との相乗効果が期待される可能性が示唆されていた。前臨床試験においても、erlotinibとパクリタキセルおよびシスプラチンを含む細胞傷害性薬剤との併用で相加効果が観察され、拮抗作用は検出されなかった (Higgins et al. Anticancer Drugs 2004)。これらの背景から、未選択のNSCLC集団に対する一次治療として、erlotinibと化学療法(カルボプラチンおよびパクリタキセル)の併用療法の有用性を、化学療法単独と比較する第III相試験であるTRIBUTE試験が計画された。

本試験の設計時点(2001年7月〜2002年8月)では、EGFR遺伝子変異がEGFR-TKIの効果予測因子として確立されていなかったため、EGFR変異スクリーニングは実施されず、変異状態によるサブグループ解析は探索的にのみ実施された。このため、未選択のNSCLC患者集団におけるerlotinibと化学療法の併用効果を評価することが主要な目的であった。しかし、その後の研究により、EGFR遺伝子変異がEGFR-TKIに対する感受性と強く関連することが明らかとなり、特に非喫煙者や腺癌患者に高頻度で認められることが報告された (Lynch et al, Paez et al, Pao et al)。これらの知見は、TRIBUTE試験の解析において、特定の患者サブグループにおけるerlotinibの効果を再評価する上で重要な示唆を与えた。未選択集団におけるEGFR-TKIと化学療法の併用効果は依然として未解明な部分が多く、特に特定の患者層における恩恵の有無を明確にすることは、今後の治療戦略を確立する上で重要な課題として残されていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本TRIBUTE試験(NCT00006322)の主要な目的は、未治療の進行期(Stage IIIB/IV)NSCLC患者を対象に、標準的なカルボプラチンおよびパクリタキセル化学療法にerlotinib 150 mg/日を上乗せした場合の全生存期間(OS)の改善を、プラセボを併用した化学療法単独と比較し、その優位性を検証することであった。副次評価項目として、無増悪生存期間(PFS)、客観的奏効率(ORR)、奏効期間、および安全性プロファイルが設定された。また、特定の患者サブグループ(年齢、性別、喫煙歴、組織型など)におけるerlotinibの治療効果の差異を探索的に評価することも目的とされた。本研究は、erlotinibと化学療法の併用が未選択のNSCLC患者集団において、化学療法単独と比較してOSを25%改善すること(ハザード比0.80)を検出する統計的検出力を持つように設計された。

結果

主要評価項目(全生存期間:OS): ITT集団におけるOS中央値は、erlotinib群で10.6ヶ月(95% CI 9.6-12.0)、プラセボ群で10.5ヶ月(95% CI 9.5-11.7)であり、ハザード比(HR)は0.99(95% CI 0.86-1.16, p=0.95)であった。両群間でOSに統計学的に有意な差は認められず、主要評価項目は達成されなかった。この結果は、ゲフィチニブと化学療法を併用したINTACT-1/2試験のネガティブな結果と一致しており、erlotinibの薬理学的優位性(低濃度での完全EGFR阻害)に基づく「erlotinibはゲフィチニブよりも化学療法との相乗効果が高い」という仮説が、未選択集団においては否定された形となった。1年生存率もerlotinib群で46%、プラセボ群で44%(p=0.56)と差はなかった。OSのKaplan-Meier曲線は治療開始後の早期から完全に重なり、両群間に臨床的に意味のある差は認められなかった (図2A)。

副次評価項目(無増悪生存期間:PFSおよび奏効率:ORR): PFS中央値は、erlotinib群で5.1ヶ月(95% CI 4.5-5.7)、プラセボ群で4.9ヶ月(95% CI 4.5-5.6)であり、HRは0.97(95% CI 0.84-1.12, p=0.36)と有意差は認められなかった (図2B)。客観的奏効率(完全奏効および部分奏効)も、erlotinib群で21.5%(115/534)、プラセボ群で19.3%(103/533)と類似しており(p=0.36)、両群間で差はなかった。疾患コントロール率(CR+PR+SD)もerlotinib群で65%、プラセボ群で63%とほぼ同等であった。奏効持続期間中央値はerlotinib群で5.0ヶ月、プラセボ群で4.4ヶ月と差はなかった。これらの結果は、erlotinibの追加が化学療法の有効性を増強しないことを一貫して示唆している。

非喫煙者サブグループ解析における顕著な生存改善: 事前に計画された探索的サブグループ解析において、非喫煙者(n=204、全体の19%)におけるOSに顕著な差異が観察された。erlotinib群の非喫煙者におけるOS中央値は22.5ヶ月(n=72)であったのに対し、プラセボ群の非喫煙者では10.1ヶ月(n=44)であり、HRは0.49(95% CI 0.28-0.85, p<0.05)と、erlotinib群でOSが2倍以上に延長した (図3A)。この劇的な差異は、当時のEGFR変異との関連が確立されていなかったにもかかわらず、その後の研究(Lynch et al, Paez et al)により、非喫煙者の肺腺癌患者にはEGFR変異陽性患者が高率に含まれること(50〜70%)が判明し、erlotinibの非喫煙者への上乗せ効果はEGFR変異陽性患者への特異的効果であったと解釈された。非喫煙者におけるPFS中央値も、erlotinib群で6.0ヶ月(95% CI 0.31-0.80)、プラセボ群で4.3ヶ月であり、HRは0.50であった。非喫煙者における奏効率も、erlotinib群で30%(21/69, 95% CI 20-43%)、プラセボ群で11%(5/44, 95% CI 4-25%)と有意に高かった(p=0.02)。一方、喫煙者(n=855)ではOSのHRは1.05(95% CI 0.90-1.22, p=0.56)であり、erlotinibの上乗せ効果は認められなかった。この非喫煙者と喫煙者の間の劇的な効果差は、「希釈効果」の存在を実証する最初の大規模データの一つとなった。

その他のサブグループ解析: 女性患者(n=440)におけるOSは、erlotinib群で14.5ヶ月、プラセボ群で10.8ヶ月と、数値的に改善傾向が認められた(HR 0.80, 95% CI 0.64-1.01)。腺癌患者(n=466)におけるORRも、erlotinib群で26%、プラセボ群で21%と数値上高い傾向が示された。これらの女性および腺癌患者におけるerlotinibの有効傾向は、後のEGFR変異高頻度集団(女性腺癌は変異陽性率約40〜50%)との対応として解釈されたが、いずれも統計的有意差には至らなかった。EGFRタンパク質発現(IHC法)による解析では、EGFR陽性患者(erlotinib群n=93、プラセボ群n=74)のHRは1.00(95% CI 0.69-1.45)、EGFR陰性患者(erlotinib群n=87、プラセボ群n=90)のHRは1.02(95% CI 0.71-1.46)であり、EGFR発現レベルと臨床転帰の間に相関は認められなかった。

安全性プロファイル: erlotinib群とプラセボ群で、有害事象の発生率および重症度は類似していたが、EGFRチロシンキナーゼ阻害に特徴的な皮疹および下痢の発生率が増加した (表3)。皮疹はerlotinib群で40%(Grade 3: 7%)、プラセボ群で10%(Grade 3: 1%)に認められた。下痢はerlotinib群で22%(Grade 3: 3%)、プラセボ群で13%(Grade 3: 1%)に認められた。化学療法関連毒性(Grade 3〜4好中球減少:erlotinib群46% vs プラセボ群44%、Grade 3〜4血小板減少:両群とも20〜22%)は両群で同等であり、erlotinibの追加による化学療法毒性の増悪は認められなかった。Grade 3〜4の有害事象全体もほぼ類似していた(erlotinib群70% vs プラセボ群67%)。間質性肺疾患(ILD)様のイベントはerlotinib群で5例(1.0%)、プラセボ群で1例(0.2%)報告され、これらすべてのILD様イベントは致死的であった。erlotinib群では、治験薬関連の重篤な有害事象の発生率がプラセボ群と比較して高かった(8.6% vs 2.4%)。死亡に至った有害事象は、erlotinib群で33例(10.2%)、プラセボ群で15例(4.4%)であり、主な原因は感染症(erlotinib群7例 vs プラセボ群1例)および消化器系イベント(erlotinib群4例 vs プラセボ群1例)であった。早期死亡(化学療法と治験薬の併用期間中)はerlotinib群で多く(120日時点でerlotinib群105例 vs プラセボ群70例)、その大半は基礎疾患である肺癌の進行によるものとされた(erlotinib群78% vs プラセボ群87%)。

考察/結論

先行研究との違い: TRIBUTE試験は、未治療進行NSCLC患者において、erlotinibとカルボプラチン/パクリタキセル併用療法が、化学療法単独と比較して全生存期間の優位性を示さなかったことを明らかにした。全体OSのHRは0.99(95% CI 0.86-1.16, p=0.95)と両群間で差は認められず、erlotinibの化学療法への相乗効果は未選択集団では存在しないことが確認された。この結果は、先行研究であるINTACT-1/2試験(ゲフィチニブと化学療法)のネガティブな結果と一致しており、EGFR-TKIと化学療法の併用療法が未選択NSCLC患者の一次治療として有効ではないことを再確認するものであった。

新規性: 本研究の最も重要な新規性は、非喫煙者サブグループにおけるerlotinibの顕著な効果である。非喫煙者におけるOS中央値は、erlotinib群で22.5ヶ月、プラセボ群で10.1ヶ月と、erlotinib群で2倍以上の延長が観察された(HR 0.49, 95% CI 0.28-0.85, p<0.05)。この劇的な差異は、当時のEGFR変異解析が限定的であったにもかかわらず、後の研究(Lynch et al, Paez et al, Pao et al)によって、非喫煙者の肺腺癌患者にEGFR変異陽性患者が高率に含まれることが判明したことで、EGFR変異陽性サブグループへのerlotinibの著明な恩恵が、多数の変異陰性患者への無効(あるいは毒性)によって全体解析で希釈されているという「希釈バイアス」の明確な例示として歴史的価値を持つ。この知見は、EGFR-TKIの治療効果が特定の分子学的特徴を持つ患者集団に限定されることを示唆し、精密医療の必要性を強く裏付けるものであった。

臨床応用: 本研究の臨床的意義は極めて大きい。TRIBUTE試験およびINTACT-1/2試験の一連のネガティブな結果から導出された教訓——「EGFR変異陽性患者に絞った試験設計が必要」——が、その後のNEJ002、WJTOG3405、OPTIMAL、EURTACなどのEGFR変異陽性一次治療を対象とした第III相試験の成功に直結した。これらの試験は、EGFR変異陽性NSCLC患者においてEGFR-TKIが化学療法を凌駕する効果を示すことを明確に示し、治療パラダイムを大きく変革した。したがって、TRIBUTE試験は、精密医療の概念を歴史的に証明した先駆的試験として学術的意義が高い。

残された課題: 残された課題として、非喫煙者サブグループにおけるerlotinibの有効性が確認されたものの、この結果は探索的解析であり、前向きな検証試験によって確認される必要がある。また、erlotinibと化学療法の併用が全体集団で効果を示さなかった原因として、EGFR-TKIとカルボプラチン/パクリタキセルレジメンとの間に未解明な負の相互作用が存在する可能性も示唆された。特に、早期死亡の増加がerlotinib群で観察されたことは、この可能性を裏付けるものであり、今後の研究で詳細なメカニズム解明が求められる。さらに、EGFR変異の有無による患者選択の重要性が明らかになった一方で、EGFR発現レベル(IHC)が治療効果の予測因子とならなかったことは、EGFR-TKIの適切な患者選択には遺伝子変異解析が不可欠であることを示唆している。今後の研究では、EGFR変異以外のバイオマーカーの探索や、異なる化学療法レジメンとの併用、あるいは維持療法としてのerlotinibの役割について、さらなる検討が必要である。

方法

本研究は、2001年7月18日から2002年8月19日にかけて実施された、米国多施設共同の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(NCT00006322)である。合計1,079人の患者が無作為に割り付けられ、erlotinib群に539人、プラセボ群に540人が登録された。最終的に評価可能であった患者は1,059人(erlotinib群n=526、プラセボ群n=533)であった。

適格基準: 組織学的に確認されたStage IIIBまたはIVのNSCLC患者、年齢18歳以上、ECOGパフォーマンスステータス0または1が対象とされた。以前にNSCLCに対する全身化学療法を受けた患者、症候性または未治療の脳転移を有する患者、HER経路を標的とする薬剤の投与歴がある患者、および不十分な血液学的、腎機能、または肝機能を有する患者は除外された。EGFRタンパク質発現の事前スクリーニングは必須ではなかった。

試験デザイン: 患者は、erlotinib 150 mg/日またはプラセボを、最大6サイクルのカルボプラチン(AUC=6 mg/mL/min)およびパクリタキセル(200 mg/m²)と併用して投与された。化学療法は3週間ごとに実施され、疾患進行がない限り、その後はerlotinibまたはプラセボの単剤維持療法が継続された。無作為化は、病期(IIIB;IV)、過去6ヶ月間の体重減少(≤5%;>5%)、測定可能病変の有無、および治療施設によって層別化された。

用量設定と安全性モニタリング: erlotinibとカルボプラチン/パクリタクセル併用療法の安全性を評価し、開始用量を確立するため、最初の50人の患者は、併用化学療法の最初のサイクル前および期間中にerlotinib 100 mg/日で治療を開始し、忍容性があれば15日目に150 mg/日に増量された。許容可能な安全性プロファイルに基づき、独立した用量選択委員会により150 mgが開始用量として決定され、残りの約1,000人の患者はこの用量で登録された。重度または耐え難い皮疹や下痢の管理に関する推奨事項(用量減量または中断のガイドラインを含む)が提供された。最初の400人の患者は、化学療法とerlotinibの潜在的な相互作用をさらに評価するため、安全性について集中的にモニタリングされた。残りの650人の患者については、重篤な有害事象、および治験薬または化学療法の用量中断、減量、中止につながるすべての有害事象に限定して安全情報が収集された。有害事象はMedDRAバージョン6.0でコーディングされ、NCI-CTCバージョン2.0を用いて重症度が判定された。

薬物動態解析: M.D.アンダーソンがんセンターで登録された24人の患者(各治療群n=12)において、erlotinib、パクリタキセル、カルボプラチンの薬物動態(PK)サンプリングが実施された。

統計解析: 主要評価項目は、intention-to-treat(ITT)集団におけるOSであった。生存期間は、統計解析時点での最終接触日で打ち切られた。副次評価項目には、PFSおよび奏効率が含まれた。本研究は、カルボプラチン/パクリタキセル単独と比較して、erlotinib併用によりOS中央値が25%改善すること(ハザード比0.80)を検出するために、80%の検出力を持つように設計された。この仮定に基づき、1,050人の患者登録に対応する642件のイベントが必要とされた。このサンプルサイズは、1年生存率の33%改善を同様の統計的検出力で検出するのに十分であった。Cox比例ハザードモデルがOSおよびPFSに対するリスク因子の影響を推定し、治療効果の修飾を評価するために使用された。客観的奏効率に対するベースライン特性の影響を評価し、治療効果の修飾を評価するために、ロジスティック回帰モデルが適用された。独立データモニタリング委員会(DMC)は、四半期ごとに安全性をレビューし、有効性および安全性の中間解析(321件の死亡)を実施し、安全性上の懸念がある場合、または強力な有効性が示された場合に試験を中止する可能性を検討した。

評価: 腫瘍反応はRECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)基準に従って評価された (Therasse et al)。腫瘍評価は化学療法サイクル2、4、6の21日目、および化学療法完了後8週間ごとに実施された。症状悪化までの期間は、これらの間隔で肺癌症状スケールを用いて評価された。EGFR発現は、利用可能な未染色スライドを用いて免疫組織化学(IHC)染色解析により後方視的に決定された。EGFR陽性発現は、10%以上の腫瘍細胞における弱から強の膜染色によって示された。安全性は、有害事象および臨床検査値の解析によって評価された。