- 著者: Roy S Herbst, Mary W Redman, Edward S Kim, Thomas J Semrad, Lyudmila Bazhenova, Gregory Masters, Kurt Oettel, Perry Guaglianone, Christopher Reynolds, Anand Karnad, Susanne M Arnold, Marileila Varella-Garcia, James Moon, Philip C Mack, Charles D Blanke, Fred R Hirsch, Kelly K, David R Gandara
- Corresponding author: Roy S Herbst (Yale Cancer Center, Yale School of Medicine, New Haven, CT, USA)
- 雑誌: The Lancet Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-11-20
- Article種別: Original Article
- PMID: 29169877
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の一次治療において、白金ダブレット化学療法(±ベバシズマブ)は標準的な治療選択肢であったが、その治療成績は限定的であり、新たな治療戦略の確立が切望されてきた。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) は、EGFR遺伝子変異陽性例において劇的な効果を示すが、変異陰性例に対する化学療法への併用効果は極めて限定的であることが Herbst et al. JClinOncol 2005 などの先行研究で報告されていた。これに対し、抗EGFRモノクローナル抗体であるcetuximabは、受容体の内在化や抗体依存性細胞傷害 (ADCC) 活性といったTKIとは異なる作用機序を有するため、EGFR変異の有無に関わらず有効性を示す可能性が示唆されていた。
実際に、シスプラチン+ビノレルビンにcetuximabを上乗せしたFLEX試験では、全体集団での生存ベネフィットが示されていたが、その予測バイオマーカーの確立には至っていなかった。また、別の第III相試験であるBMS-099試験では主要評価項目が未達成に終わるなど、化学療法へのcetuximab上乗せ効果については議論が分かれており、一貫した見解は得られていなかった。過去の第II相試験であるSWOG S0342試験およびS0536試験の付随解析においては、蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法で評価したEGFR遺伝子コピー数高値(EGFR FISH陽性)が、cetuximab併用化学療法の良好な治療効果と相関することが示唆されていた。しかし、これらの知見はあくまで後方視的な解析に基づくものであり、前向きにEGFR FISH陽性集団における有効性を検証した大規模な第III相臨床試験は存在しなかった。
このように、進行NSCLC一次治療における抗EGFR抗体の最適な選択バイオマーカーは未確立であり、検証データが圧倒的に不足しているという課題が存在した。さらに、化学療法にベバシズマブを併用する標準治療 Sandler et al. NEnglJMed 2006 が普及する中で、抗EGFR抗体をどのように組み合わせるべきかという治療開発上の大きなナレッジギャップも残されていた。本研究は、これらの重要な課題を解消し、EGFR FISHがcetuximabの有効性を予測する真のバイオマーカーとして機能するかを前向きに実証するために計画された。
目的
未治療のstage IV非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、標準的なカルボプラチン+パクリタキセル(±ベバシズマブ)化学療法にcetuximabを上乗せすることの臨床的有用性を検証する。主要共同評価項目として、前向きに規定されたEGFR FISH陽性サブグループにおける無増悪生存期間 (PFS)、および全ランダム化患者集団における全生存期間 (OS) を設定し、cetuximab併用による生存ベネフィットを評価する。さらに、副次評価項目として、客観的奏効率 (ORR)、安全性プロファイル、ベバシズマブ併用の有無による影響、および組織型(扁平上皮癌 vs 非扁平上皮癌)別の治療効果を詳細に解析し、EGFR FISHが個別化医療における予測バイオマーカーとして機能するかを明らかにすることを目的とする。
結果
患者背景とバイオマーカー解析: 2009年8月13日から2014年5月30日までに、計1313例の患者がランダムに割り付けられた(cetuximab群 n=656、対照群 n=657)。患者背景は両群間で高度にバランスが取れていた (Table 1)。ベバシズマブ併用治療を受けた患者は560例 (43%) であった。腫瘍組織のEGFR FISH解析は976例で評価可能であり、そのうち400例 (41%) がEGFR FISH陽性と判定された。生存例における追跡期間中央値は35.2ヶ月 (IQR 22.9-39.9) であった。
主要エンドポイントの解析結果: EGFR FISH陽性サブグループ(cetuximab群 n=199、対照群 n=201)において、PFSイベントはcetuximab群で194件、対照群で198件発生した。PFS中央値は 5.4 vs 4.8 months であり、両群間に有意な差は認められなかった(HR 0.92, 95% CI 0.75-1.12, p=0.40)(Figure 2A, Figure 3A)。また、全体集団におけるOS解析では、死亡イベントがcetuximab群で570件、対照群で593件発生した。OS中央値は 10.9 vs 9.2 months であり、統計学的有意差には達しなかった(HR 0.93, 95% CI 0.83-1.04, p=0.22)(Figure 2B, Figure 3B)。
EGFR FISH陽性扁平上皮癌におけるOS延長: 事前に規定されたサブグループ解析において、EGFR FISH陽性の扁平上皮癌患者(n=111、cetuximab群 n=55、対照群 n=56)では、cetuximab群が対照群と比較してOSが有意に延長した。OS中央値は 11.8 vs 6.1 months であり、死亡リスクが42%減少した(HR 0.58, 95% CI 0.39-0.86, p=0.0071)(Figure 3B)。同サブグループにおけるPFS中央値は 4.5 vs 2.8 months であり、改善傾向を示した(HR 0.68, 95% CI 0.46-1.01, p=0.055)(Figure 3A)。
EGFR FISH非陽性および非扁平上皮癌における治療効果: 一方、EGFR FISH非陽性の扁平上皮癌患者(n=210)においては、OS中央値が 8.5 vs 8.4 months であり、両群間で差は認められなかった(HR 1.04, 95% CI 0.78-1.40, p=0.77)(Figure 3B)。また、非扁平上皮癌患者においては、EGFR FISH陽性(OS HR 0.88, 95% CI 0.68-1.14, p=0.34)およびEGFR FISH非陽性(OS HR 1.00, 95% CI 0.85-1.17, p=0.97)のいずれの集団においても、cetuximab追加によるOSの改善効果は認められなかった (Figure 3B)。
客観的奏効率 (ORR) の解析: 全体集団におけるORRは、cetuximab群で42% (95% CI 38-46)、対照群で36% (95% CI 33-40) であった (p=0.060) (Table 2)。EGFR FISH陽性扁平上皮癌サブグループにおけるORRは、cetuximab群で46% (95% CI 32-60) vs 対照群で39% (95% CI 26-52) であった (p=0.46) (Table 2)。ベバシズマブの有無によるORRへの有意な影響は確認されなかった。
安全性および毒性プロファイル: 治療関連有害事象の解析対象となった1259例において、最も頻度の高いGrade 3-4の有害事象は、好中球減少(cetuximab群 37% vs 対照群 25%)、白血球減少(cetuximab群 16% vs 対照群 20%)、疲労(cetuximab群 13% vs 対照群 20%)であった (Table 3)。また、cetuximab群では特徴的な毒性として、ざ瘡/皮疹が8%(対照群 <1%)に認められた。重篤な有害事象はcetuximab群で59例 (9%)、対照群で31例 (5%) に認められ、治療関連死亡はcetuximab群で32例 (6%)、対照群で13例 (2%) であった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の結果は、全体集団において化学療法へのcetuximab上乗せが生存ベネフィットを示さなかった点で、シスプラチン+ビノレルビン併用で有意なOS延長を示したFLEX試験の結果と対照的である。しかし、EGFR変異陰性NSCLCに対する一次治療として、化学療法単独の限界を克服するために抗EGFR抗体を併用するアプローチ自体は、Paz-Ares et al. AnnOncol 2016 によるSQUIRE試験(ネシツムマブ併用)の成果と部分的に整合している。特に、扁平上皮癌において抗EGFR抗体が治療感受性を示すという生物学的特性は、これまでの知見を強く支持するものである。
新規性: 本研究は、EGFR FISH陽性を前向き層別化因子として用いて抗EGFR抗体の有効性を検証した、これまで報告されていない最大規模のバイオマーカー検証第III相試験である。全体集団での主要評価項目は未達成であったものの、事前に規定されたサブグループ解析において、EGFR FISH陽性かつ扁平上皮癌という特定の集団において、cetuximabの追加がOSを著明に延長することを本研究で初めて大規模臨床試験において実証した。これは、遺伝子変異陰性NSCLCにおける新たな個別化治療の可能性を提示するものである。
臨床応用: 本知見の臨床的有用性として、EGFR FISH陽性の進行扁平上皮癌患者に対するcetuximab併用化学療法が、極めて予後不良な同集団における強力な治療選択肢となり得ることが示された。特に、扁平上皮癌はEGFR過剰発現の頻度が高く、FISHによる遺伝子コピー数評価が、抗EGFR抗体療法の恩恵を最も受ける患者を絞り込むための実用的なスクリーニングツールとして臨床現場に応用できる可能性を示している。
残された課題: 今後の検討課題として、本試験で認められたEGFR FISH陽性扁平上皮癌におけるcetuximabの生存ベネフィットが、免疫チェックポイント阻害薬が標準治療となった現代の治療開発パイプラインにおいてどのように位置づけられるかという点が挙げられる。また、cetuximab群で認められた治療関連死の増加(6% vs 2%)や皮膚毒性といった安全性プロファイルの管理、およびより簡便かつ標準化されたEGFR FISH検査法の普及が今後の課題として残されている。
方法
試験デザインと対象患者: 本試験は、米国およびメキシコの277施設で実施されたオープンラベル、ランダム化第III相試験である (SWOG S0819、ClinicalTrials.gov登録番号: NCT00946712)。主な選択基準は、組織学的または細胞学的に確認された未治療のstage IV NSCLC、Zubrodパフォーマンスステータス0-1、および十分な臓器機能(絶対好中球数 1500 cells/µL以上、血小板数 100,000 platelets/µL以上、血清クレアチニンが施設基準値上限以下かつクレアチニンクリアランス 50 mL/min以上など)である。EGFRまたはVEGF経路を標的とする薬剤の治療歴、あるいは以前の化学療法歴がある患者は除外された。扁平上皮癌成分が50%以上の患者、喀血歴のある患者、または抗凝固療法を受けている患者はベバシズマブの投与対象外とされた。
ランダム化と治療プロトコル: 患者は、動的バランスアルゴリズムを用いて、ベバシズマブ治療の有無、喫煙歴(現在/元喫煙者 vs 非喫煙者)、およびMサブステージ(M1a vs M1b)で層別化され、cetuximab群または対照群に1:1の割合でランダムに割り付けられた。
- 対照群: パクリタキセル (200 mg/m²、3時間静脈内投与、21日ごと) とカルボプラチン (AUC 6、30分静脈内投与、21日ごと) を最大6サイクル投与した。医師の判断により、ベバシズマブ (15 mg/kg、21日ごと) が併用された。
- Cetuximab群: 対照群の化学療法(±ベバシズマブ)に加えて、cetuximabを初回400 mg/m²(ローディングドーズ、2時間静脈内投与)、その後は毎週 250 mg/m²(1時間静脈内投与)で病勢進行または許容できない毒性発現まで継続投与した。
バイオマーカー評価: 治療開始前に採取された腫瘍組織を用いてEGFR FISH解析を実施した。Colorado EGFR Scoring Systemに基づき、細胞の40%以上でEGFR遺伝子コピー数が4以上、またはEGFR遺伝子増幅(遺伝子/染色体比 2以上、遺伝子クラスターの存在、または細胞の10%以上で遺伝子コピー数 15以上)を認める場合をEGFR FISH陽性と定義した。
統計解析: 主要共同評価項目は、EGFR FISH陽性集団におけるPFS、および全体集団におけるOSである。生存期間の比較には層別ログランク (log-rank) 検定を用い、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は層別コックス比例ハザードモデル (Cox regression) を用いて算出した。生存曲線はカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法により推定した。有意水準は、EGFR FISH陽性集団のPFSに対して片側2%(両側4%)、全体集団のOSに対して片側1.5%(両側3%)に設定された。解析はintention-to-treat原則に基づいて実施された。