- 著者: Imane Chaib, Niki Karachaliou, Sara Pilotto, et al.
- Corresponding author: Rafael Rosell (Institut Català d’Oncologia, Hospital Germans Trias i Pujol, Spain); Trever Bivona (UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer Center, San Francisco, CA)
- 雑誌: Journal of the National Cancer Institute
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-03-31
- Article種別: Original Article
- PMID: 28376152
背景
EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) に対するEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (EGFR-TKI) 治療は、高い初期奏効率を示すものの、その効果は細胞生存シグナルの適応的活性化によって制限されることが知られている。EGFR-TKI治療を受けた患者の約5%のみが90%以上の腫瘍縮小を達成し、ほとんど全ての患者が治療中に再発し、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は1年未満であると報告されている Rosell et al. LancetOncol 2012。細胞培養モデルにおいても、EGFR阻害後1週間で約5%の細胞が薬剤耐性残存病変として生存し、これが獲得耐性による腫瘍再発の起源となることが示されている。
EGFR変異は、PI3K/AKT、JAK2/STAT3経路を活性化するが、Ras/MAPK経路への影響は小さいとされている Sordella et al. Science 2004。EGFR阻害は、EGFRシグナル伝達の不均衡を引き起こし、一部のシグナル経路を促進し、他の経路を阻害する。特に、STAT3 (signal transducer and activator of transcription 3) はエルロチニブやゲフィチニブ治療後ほぼ直ちにチロシンリン酸化によって活性化され、その一部はインターロイキン-6 (IL-6) の下流で起こることが報告されている。先行研究では、EGFR阻害がEGFR-TRAF2 (TNF receptor-associated factor 2)-RIP1 (receptor interacting protein 1)-IKK (inhibitor of nuclear factor kappa-B kinase) 複合体を誘導し、IL-6-STAT3シグナル伝達の上方制御を含むNFκBを介した転写プログラムを刺激することが示されている。また、NFκB阻害剤IκBの発現増加が、エルロチニブ治療を受けたEGFR変異NSCLC患者の良好な転帰と関連することも報告されている。
IL-6はSTAT3だけでなく、Srcファミリーキナーゼ (SFK) を介してYES-associated protein 1 (YAP1) も活性化することが知られている。BRAF/RAS変異がんにおいてYAP1がRAF/MEK阻害剤耐性を制限することが示されていたが、EGFR-TKI応答制限におけるYAP1の役割は未解明であった。IL-6活性化とSTAT3およびSrc-YAP1を含む複数の下流生存経路との関連性から、EGFR-TKI治療後の適応耐性においてSTAT3とSrc-YAP1が協調的に活性化する可能性が示唆されていた。しかし、EGFR-TKI治療に対するYAP1の役割、特にSTAT3のような他の主要な生存因子との協調的な役割はこれまで確立されていなかった。この領域には知識のギャップが残されており、EGFR-TKI治療効果を制限するメカニズムの包括的な理解が不足していた。
目的
本研究は、EGFR変異NSCLC細胞においてEGFR-TKI治療がSTAT3およびSrc-YAP1シグナル経路の適応的活性化を誘導し、これが治療効果を制限するという仮説を検証することを目的とした。具体的には、in vitroおよびin vivoモデルを用いて、EGFR、STAT3、およびSrcの三重標的阻害がEGFR単独阻害と比較してEGFR変異NSCLCモデルにおける治療応答を改善できるかを評価した。さらに、2つの独立したEGFR変異NSCLC患者コホートにおいて、STAT3およびYAP1 mRNA発現がEGFR-TKI治療後のPFSの予測因子となるかを探索した。これらの目的を通じて、EGFR-TKI治療への適応耐性メカニズムを解明し、残存病変を最小限に抑え、臨床転帰を改善するための新規かつ合理的な初期多剤併用療法戦略の根拠を確立することを目指した。
結果
EGFR-TKI治療後のSTAT3およびSrc-YAP1シグナル経路の適応的活性化: EGFR変異を有するPC-9細胞 (エクソン19欠失) および11-18細胞 (L858R変異) にゲフィチニブを処理すると、EGFR、ERK1/2、AKTのリン酸化は抑制されたが、STAT3のチロシン705リン酸化 (pSTAT3-Tyr705) は時間および用量依存的に増加した (Figure 1A)。ゲフィチニブとSTAT3阻害剤TPCA-1の併用はpSTAT3-Tyr705リン酸化を完全に抑制した (Figure 1B)。PC-9細胞ではゲフィチニブ処理後にSTAT3およびRantes mRNAレベルが増加したが、TPCA-1との併用ではこの効果は観察されなかった (Figure 1C)。第三世代EGFR-TKIであるAZD9291もH1975細胞 (L858R+T790M変異) においてSTAT3活性化を抑制せず、AZD9291とTPCA-1の併用によってpSTAT3-Tyr705が抑制された (Figure 1E)。
EGFR-TKI治療はYAP1の標的遺伝子であるCTGFの発現増加を誘導したが、STAT3阻害剤TPCA-1との併用ではこのCTGF発現の増加は抑制されなかった (Figure 2)。この結果は、YAP1がEGFRまたはSTAT3シグナルとは異なるメカニズムで活性化される可能性を示唆した。SFK阻害剤AZD0530を用いた実験では、ゲフィチニブ単独ではSTAT3、パキシリン、YAP1のリン酸化を抑制できなかった (Figure 3A)。ゲフィチニブとAZD0530の併用はパキシリンおよびYAP1のチロシン118および357リン酸化を阻害したが、pSTAT3-Tyr705には影響しなかった。ゲフィチニブとTPCA-1の併用はSTAT3を阻害したが、パキシリンおよびYAP1のリン酸化には影響しなかった。ゲフィチニブ、TPCA-1、AZD0530の三重併用は、STAT3、パキシリン、YAP1のリン酸化を完全に阻害した。これらの結果は、SrcがYAP1の上流で作用し、EGFR-TKI治療に対する初期の生化学的適応においてこれまで認識されていなかった役割を果たすことを示唆した。
in vitroにおける三重ターゲット組み合わせの相乗効果: EGFR変異NSCLC細胞株におけるEGFR、STAT3、Srcの三重ターゲット阻害の成長抑制効果を評価した。PC-9細胞において、ゲフィチニブとTPCA-1の72時間併用は相乗効果を示し、平均CI値は0.82 (95% CI 0.80-0.84) であった。ゲフィチニブとAZD0530の併用も相乗効果を示し、平均CI値は0.80 (95% CI 0.78-0.82) であった (Figure 3C)。ゲフィチニブ、TPCA-1、AZD0530の三重併用は高い相乗効果を示し、平均CI値は0.59 (95% CI 0.54-0.63) であった (Figure 3C)。H1975細胞においても、AZD9291、TPCA-1、AZD0530の三重併用で同様の相乗効果が確認された (Figure 3D)。コロニー形成アッセイの結果もMTTデータと一致し、三重併用が単剤または二剤併用よりも有意に少ないコロニー形成を示した (Figure 3E)。
in vivoにおける腫瘍増殖抑制効果: PC-9細胞異種移植モデルマウス (n=4匹/群) において、ゲフィチニブ、TPCA-1、AZD0530の単剤、二剤、および三重併用療法の効果を評価した。ゲフィチニブ単独と比較して、ゲフィチニブとTPCA-1の併用 (p < 0.001) またはゲフィチニブとAZD0530の併用 (p < 0.001) は、より強力な腫瘍退縮を示した。ゲフィチニブ、TPCA-1、AZD0530の三重併用は、ゲフィチニブとTPCA-1の併用 (p = 0.01) またはゲフィチニブとAZD0530の併用 (p < 0.001) よりもさらに大きな効果を示した (Figure 4A)。三重併用療法による有意な体重減少は観察されず、忍容性の高い毒性プロファイルが示唆された。これらのin vivo結果は、EGFR、STAT3、Src阻害の相乗効果がEGFR変異NSCLC細胞において一貫して認められることを裏付けた。
STAT3およびYAP1発現とEGFR-TKI治療後のPFSとの関連 (初期コホート): EGFR変異陽性NSCLC患者64例の初期コホートにおいて、ベースラインのSTAT3およびYAP1 mRNA発現レベルとPFSとの関連を評価した。中央値で層別化された高STAT3 mRNA発現群 (n=32) のPFS中央値は9.6ヶ月 (95% CI 5.9-14.1ヶ月) であったのに対し、低STAT3 mRNA発現群 (n=32) では18.4ヶ月 (95% CI 8.8-30.2ヶ月) であった (HR 3.02, 95% CI 1.54-5.93, p = 0.001) (Figure 5A)。同様に、高YAP1 mRNA発現群のPFS中央値は9.6ヶ月 (95% CI 7.7-15.2ヶ月) であったのに対し、低YAP1 mRNA発現群では23.4ヶ月 (95% CI 13.0-28.1ヶ月) であった (HR 2.57, 95% CI 1.30-5.09, p = 0.007) (Figure 5B)。多変量解析では、STAT3 mRNAレベルがPFSの統計的に有意な予測因子として残った (HR 2.99, 95% CI 1.38-6.48, p = 0.005)。STAT3とYAP1の両方の発現が高い患者群は、最もPFSが不良であった (Figure 5C)。
STAT3およびYAP1発現とEGFR-TKI治療後のPFSとの関連 (検証コホート): 上海肺病院の独立した検証コホート55例においても、同様の結果が再現された。高STAT3 mRNA発現群のPFS中央値は6.1ヶ月 (95% CI 4.0-9.8ヶ月) であったのに対し、低STAT3 mRNA発現群では13.2ヶ月 (95% CI 8.7-17.4ヶ月) であった (HR 3.06, 95% CI 1.66-5.64, p < 0.001) (Figure 5D)。高YAP1 mRNA発現群のPFS中央値は6.1ヶ月 (95% CI 5.1-8.2ヶ月) であったのに対し、低YAP1 mRNA発現群では12.6ヶ月 (95% CI 10.0-17.4ヶ月) であった (HR 2.53, 95% CI 1.37-4.66, p = 0.003) (Figure 5E)。このコホートでも、STAT3 mRNAレベルとEGFR変異タイプがPFSの統計的に有意な予測因子として維持された。これらのデータは、STAT3およびYAP1レベルが、単独または組み合わせて、肺がん患者における初期EGFR-TKI応答の新規予測バイオマーカーであることを示している。
考察/結論
本研究は、EGFR変異NSCLCにおけるEGFR-TKI治療効果を制限する新規の協調的シグナルネットワークとして、STAT3とSrc-YAP1の二重活性化を明らかにした。EGFR阻害がSTAT3だけでなくSrc-YAP1シグナル伝達の適応的活性化を誘導し、これが細胞生存を促進し、EGFR-TKI治療に対する初期応答を制限する可能性を示した (Figure 6)。これまで、YAP1がBRAF/RAS変異腫瘍におけるRAFおよびMEK阻害剤耐性を引き起こし、それらの治療に対する不良な臨床応答を予測することが示されていたが、EGFR変異NSCLCにおけるEGFR-TKI応答調節におけるYAP1の役割は検討されていなかった。本研究は、Src-YAP1シグナル伝達がSTAT3と協調して、肺がんにおけるEGFR-TKI応答を制限するという、これまで報告されていない役割を初めて示した。
先行研究との違い: ゲフィチニブと同様に、FDA承認の第三世代EGFR-TKIであるAZD9291 (オシメルチニブ) もEGFR変異細胞におけるSTAT3活性化を抑制できなかった。これは、EGFR-TKI単独ではSTAT3活性化を完全に制御できないことを示唆しており、従来のEGFRシグナル伝達のみに焦点を当てた理解とは対照的である。本研究は、STAT3活性化がEGFR-TKI応答を制限する文脈に新たな光を当て、Src-YAP1シグナル伝達を含む他の経路とのこれまで認識されていなかった相互作用を明らかにし、これらの経路がEGFR-TKI治療効果を相補的に緩衝していることを示した。
新規性: 本研究で初めて、EGFR、STAT3、およびSrcの三重ターゲット阻害がin vitroおよびin vivoモデルにおいて相乗的な抗腫瘍活性を示し、EGFR-TKI単剤療法の限界を克服する「upfront polytherapy」戦略の根拠を提供した。特に、PC-9細胞において三重併用はCI 0.59 (95% CI 0.54-0.63) という高い相乗効果を示し、in vivoでも腫瘍のほぼ完全な抑制が観察された。これは、残存病変を最小限に抑え、臨床転帰を改善するための新規な治療戦略の可能性を示唆する。
臨床応用: 臨床的には、高STAT3および高YAP1 mRNA発現が、独立したPFS不良予測因子として初期コホート (HR 3.02, 95% CI 1.54-5.93, p=0.001) および検証コホート (HR 3.06, 95% CI 1.66-5.64, p<0.001) で再現された。これらの分子マーカーは、患者層別化やコンビネーション戦略の開発に有用である可能性を示しており、臨床的意義は大きい。STAT3-YAP1複合スコアもPFSの強力な予測因子であり、将来的な前向き臨床検証が期待される。これらのバイオマーカーは、EGFR-TKI治療の初期効果を改善し、残存病変を最小限に抑え、耐性出現を予防することで患者の生存を向上させるための、バイオマーカー駆動型臨床試験の必要性を裏付けるものである。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationがある。in vitroおよびin vivoモデルのパネルが比較的小規模であったこと、またEGFR、STAT3、Src-YAP1の共ターゲットの有効性を実証するために使用されたモデルの数が限られていたことが挙げられる。しかし、これらの前臨床的知見はEGFR変異NSCLCを正確にモデル化しており、EGFR-TKI治療に対する代償的応答としてのSTAT3およびSrc-YAP1シグナル伝達の協調的活性化という、これまで認識されていなかった役割を明らかにした。EGFR変異NSCLC患者におけるSTAT3およびYAP mRNAの評価はレトロスペクティブなものであったが、その予測的役割は独立した患者コホートで検証された。これらの知見に基づき、現在、EGFR、STAT3、Src-YAP1の共ターゲットを確立するための第I相臨床試験を検討中である。今後の研究では、これらの併用療法の最適な投与量、安全性プロファイル、および長期的な有効性をさらに評価する必要がある。
方法
細胞株および薬剤: EGFRエクソン19欠失を有するPC-9細胞、EGFRエクソン21 L858R変異を有する11-18細胞、およびL858RとT790M変異を有するH1975細胞を用いた。薬剤として、第一世代EGFR-TKIであるゲフィチニブ、STAT3阻害剤TPCA-1 (2-[(aminocarbonyl)amino]-5-(4-fluorophenyl)-3-thiophenecarboxamide)、SFK阻害剤AZD0530 (サラカチニブ)、および第三世代EGFR-TKIであるAZD9291を使用した。
細胞生存率アッセイおよびコロニー形成アッセイ: 細胞を96ウェルプレートに播種し、各薬剤のIC50値の1/8から2倍までの連続希釈液で処理した。細胞生存率はMTTアッセイで評価した。薬物相互作用の定量的決定にはChou-Talalay法を用い、CI値が1未満を相乗効果、1を相加効果、1より大きいものを拮抗効果とした。コロニー形成アッセイでは、6ウェルプレートに1000細胞/ウェルで播種し、薬剤処理後、クリスタルバイオレットで染色し、分光光度計で吸光度を測定した。
免疫ブロット解析: 全細胞ライセートを調製し、適切な一次抗体を用いてタンパク質の発現およびリン酸化状態を検出した。
動物実験: 4〜5週齢の雌ヌードマウスをPC-9細胞の異種移植モデルに用いた (n=4〜5匹/群)。マウスは江蘇省中医薬科学院の動物実験委員会によって承認されたプロトコルに従って飼育・管理された。腫瘍体積は定期的に測定され、治療効果が評価された。
リアルタイムPCR解析: 患者の術前腫瘍組織検体および細胞株からRNAを抽出し、TaqManベースの定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (qRT-PCR) によってSTAT3およびYAP1 mRNA発現レベルを測定した。遺伝子発現はβ-アクチンで正規化した。
患者コホート: 初期コホートとして、スペイン、フランス、イタリア、コロンビアの8施設から収集されたEGFR変異陽性NSCLC患者64例の術前腫瘍検体を用いた。検証コホートとして、上海肺病院から収集されたEGFR変異陽性NSCLC患者55例の術前腫瘍検体を用いた。両コホートの患者は一次治療としてEGFR-TKIを投与されており、本研究はレトロスペクティブコホート研究として実施された。
統計解析: 無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) はKaplan-Meier法を用いて推定し、ノンパラメトリックログランク検定で比較した。遺伝子発現レベルは中央値に基づいて高発現群と低発現群に分類した。ハザード比 (HR) とその95%信頼区間 (CI) はCox比例ハザード回帰モデルを適用して算出した。統計解析はSASバージョン9.3を用いて実施し、全ての統計的検定は両側検定であり、p値が0.05未満を有意とした。