• 著者: Scott Gettinger, Matthew D. Hellmann, Laura Q. M. Chow, et al.
  • Corresponding author: Scott Gettinger (Yale Cancer Center, New Haven, Connecticut)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-05-23
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29802888

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)に対するEGFR-TKI(エルロチニブ、ゲフィチニブ、アファチニブ)は、客観的奏効率(ORR)56〜83%、無増悪生存期間(PFS)中央値9.5〜13.6ヶ月と高い有効性を示すが、ほぼ全ての患者で獲得耐性が生じる。耐性機序として、約半数の患者でEGFR exon 20 T790M変異が認められ、この場合は第三世代TKIであるオシメルチニブが有効である。しかし、T790M変異以外の耐性機序も存在し、その後の治療選択肢は限られている。PD-1軸阻害薬は進行NSCLCにおいて広く承認されているが、EGFR変異陽性NSCLC患者におけるPD-1軸阻害薬単独の有効性は、EGFR野生型患者と比較して低い可能性がメタアナリシスで示唆されている Lee et al. J Thorac Oncol 2017。

一方、前臨床研究では、変異EGFRシグナル伝達が腫瘍PD-L1発現を誘導し、抗PD-1抗体による腫瘍増殖抑制効果が示されている Akbay et al. CancerDiscov 2013Chen et al. JThoracOncol 2015。このことから、EGFR-TKIとPD-1軸阻害薬の併用により、EGFR阻害によるPD-L1誘導増加と腫瘍免疫活性化を同時に利用できる可能性が考えられる。しかし、EGFR変異NSCLCにおけるEGFR-TKIとPD-1軸阻害薬の併用療法の安全性と有効性に関するデータは不足しており、特にTKI耐性後の患者やTKI未治療の特定の変異プロファイルを持つ患者における臨床的意義は未解明であった。

CheckMate 012は、ニボルマブと様々な薬剤の組み合わせを評価する多アーム第I相試験であり、本報告ではその中のEGFR変異NSCLCコホート(ニボルマブ+エルロチニブ併用)の結果を提示する。本研究は、TKI耐性後のEGFR変異NSCLC患者におけるPD-1軸阻害薬の役割をさらに明確にするための重要なギャップを埋めることを目的としている。

目的

CheckMate 012試験のニボルマブ+エルロチニブ併用コホートにおいて、EGFR変異進行NSCLC患者における安全性(主要評価項目)および忍容性を評価する。副次評価項目として、客観的奏効率(ORR)と24週時点の無増悪生存率(PFS率)を評価し、探索的評価項目としてPFS中央値および全生存期間(OS)を評価する。

結果

患者背景と治療詳細: 本コホートには合計21例のEGFR変異進行NSCLC患者が登録された。中央年齢は63歳(範囲41〜80歳)、女性が13例(62%)、白人が14例(67%)、アジア人が4例(19%)であった(Table 1)。全例がStage IV(95%)またはStage IIIB(5%)の腺癌であった。EGFR変異タイプはexon 19欠失が12例(57%)、L858Rが9例(43%)であった。21例中20例(95%)がEGFR-TKI前治療歴を有し、TKI未治療の患者は1例のみであった。TKI前治療群の患者は、中央値2ライン(範囲1〜4ライン)の全身治療歴があり、前治療としてのエルロチニブ投与期間中央値は16.6ヶ月(範囲0.5〜44.2ヶ月)であった。TKI未治療の1例は、L858RおよびS768Iの複合EGFR変異を有していた。ニボルマブの治療期間中央値は5.1ヶ月(範囲0.5〜49.7ヶ月)、エルロチニブの治療期間中央値は5.7ヶ月(範囲0.9〜50.1ヶ月)であった。ニボルマブの相対用量強度は全患者(n=21)で70%以上であった。

安全性プロファイル: 全患者(n=21)で少なくとも1つの治療関連有害事象(trAE)が報告された(Table 2)。ほとんどのtrAEはGrade 1または2であり、Grade 4または5のtrAEは認められなかった。最も一般的なtrAEは発疹(n=10, 48%)、疲労(n=6, 29%)、爪囲炎(n=6, 29%)であった。Grade 3のtrAEは5例(24%)に発生し、内訳はAST増加(n=1, 5%)、ALTおよびAST増加(n=1, 5%)、下痢(n=2, 10%)、体重減少(n=1, 5%)であった。治療中止に至ったtrAEは2例(10%)であり、1例はGrade 3の下痢、もう1例はGrade 3のAST増加とGrade 2のALT増加によるものであった。これらのGrade 3 trAEは全て回復した。免疫関連有害事象(irAE)として肝毒性が懸念されたが、ステロイド投与により管理可能であった。全体的な安全性プロファイルは、ニボルマブ単独療法およびエルロチニブ単独療法の既知のプロファイルの範囲内であり、両薬剤の併用による重篤な毒性の顕著な増加は観察されなかった。

TKI前治療患者における有効性(n=20): TKI前治療歴のある患者20例における客観的奏効率(ORR)は15%(3/20、95% CI 3-38)であり、内訳は完全奏効(CR)1例、部分奏効(PR)2例であった(Table 3)。これらの奏効は全て治療開始後4ヶ月以内に認められた。奏効期間(DOR)は、治験責任医師の記録によると13.8ヶ月、17.6ヶ月、38.2ヶ月と持続性を示した(Table 4)。特に、最長の奏効期間を示した患者は38.2ヶ月のCRを達成した。さらに、1例では非標的病変の初期進行後に標的病変が最大61%縮小する非定型的な免疫関連奏効が観察され、12.5ヶ月間持続した。24週時点のPFS率は48%(95% CI 26-67)であった。Kaplan-Meier法によるPFS中央値は5.1ヶ月(95% CI 2.3-12.1)であり、1年PFS率は30%(95% CI 11-51)、2年PFS率は12%(95% CI 2-32)であった(Figure 2A)。OS中央値は18.7ヶ月(95% CI 7.3-NA)であり、1年OS率は70%(95% CI 45-85)、2年OS率は40%(95% CI 19-60)、3年OS率は35%(95% CI 16-55)であった(Figure 2B)。奏効例の喫煙歴は多様であり、PD-L1発現との明確な相関は少数例のため示されなかった。喫煙歴のある患者(n=7)のPFS中央値は11.7ヶ月であったのに対し、非喫煙者(n=13)では2.8ヶ月であった。OS中央値は喫煙歴のある患者では未到達、非喫煙者では16.5ヶ月であった。

PD-L1発現と有効性: PD-L1発現が評価可能であった患者15例中、5例(33%)がPD-L1発現1%以上であった。PD-L1発現1%以上の患者におけるORRは20%(1/5)であったが、PD-L1発現1%未満の患者では0%(0/10)であった。PD-L1発現不明の患者5例ではORR 40%(2/5)であった。これらの結果は、PD-L1発現と奏効の間に明確な関連性がある可能性を示唆するが、サンプルサイズが小さいため統計的な有意差は認められなかった(Supplementary Table 3)。

TKI未治療の複合EGFR変異患者における注目すべき成績: TKI未治療の1例(67歳女性、L858RおよびS768I複合EGFR変異、PD-L1発現65%)において、ニボルマブ+エルロチニブ併用療法により完全奏効(CR)が達成された。このCRは、データカットオフ(2017年12月)時点で5年以上にわたり継続していた(Figure 1A, Table 4)。この患者は、EGFR-TKIに対する感受性が非典型的であるとされる複合変異を有しており、ニボルマブの免疫効果が有効に作用したexceptional responderとして注目された。

考察/結論

本第I相試験は、ニボルマブとエルロチニブの併用療法がEGFR変異進行NSCLC患者において、おおむね忍容可能であることを示した。Grade 3の治療関連有害事象は5例(24%)に発生したが、Grade 4以上の事象は認められず、安全性プロファイルは管理可能であった。

先行研究との違い: EGFR-TKI前治療後のEGFR変異NSCLC患者におけるニボルマブ単独療法の奏効率は低いことが報告されているが、本研究のTKI前治療群におけるORR 15%および24週PFS率48%は、ニボルマブ単独療法と比較して一定の臨床的意義を持つ可能性がある。特に、TKI未治療の複合EGFR変異患者で5年以上にわたる持続的な完全奏効が観察された点は、これまでのEGFR-TKI単独療法では稀な結果であり、本併用療法の潜在的なベネフィットを示唆する。これは、PD-1軸阻害薬単独ではEGFR変異NSCLC患者においてOS改善が認められなかったというメタアナリシス結果 Lee et al. J Thorac Oncol 2017 と対照的な結果である。

新規性: 本研究で初めて、EGFR変異進行NSCLC患者におけるニボルマブとエルロチニブの併用療法の安全性と予備的有効性が評価された。特に、TKI未治療のL858R/S768I複合変異患者における長期CRは、特定のEGFR変異プロファイルを持つ患者において、EGFR-TKIとPD-1阻害薬の併用が相乗効果をもたらす可能性を新規に示した。この長期奏効は、EGFR-TKI単独では通常期待されないものであり、免疫チェックポイント阻害薬の寄与が強く示唆される。

臨床応用: 本研究の結果は、EGFR変異NSCLC患者に対する免疫チェックポイント阻害薬とEGFR-TKIの併用療法の臨床応用可能性を探る上で重要な初期データを提供する。特に、TKI耐性後の患者や特定のEGFR複合変異を持つ患者において、この併用療法が新たな治療選択肢となる可能性があり、臨床現場でのさらなる検討が期待される。この併用療法は、TKI耐性後の限られた治療選択肢に対する新たなアプローチとなる可能性がある。

残された課題: 本研究は単アームの第I相試験であり、サンプルサイズが小さいことがlimitationである。特に、TKI未治療の複合変異患者における長期CRは単一例であり、一般化には限界がある。また、EGFR-TKIとPD-1軸阻害薬の併用における間質性肺疾患(ILD)のリスク(例: オシメルチニブとデュルバルマブ併用試験CAURAL(NCT02454933)でのILD発生率38%)は本試験では顕著ではなかったが、異なる世代のTKIとの組み合わせや大規模試験での安全性プロファイルのさらなる評価が今後の検討課題である。CheckMate 722(NCT02864251)のような大規模な後続試験での評価が必要である。

方法

本研究は、多施設共同第I相試験であるCheckMate 012(NCT01454102)のEGFR変異NSCLCコホートとして実施された。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたStage IIIB/IVの非扁平上皮NSCLCで、EGFR変異を有し、測定可能病変を持つ患者であった。化学療法歴のない患者が対象とされたが、EGFR-TKI前治療歴は許容された。ECOGパフォーマンスステータス0または1、十分な臓器機能、および3ヶ月以上の余命が適格基準とされた。無症候性で制御された脳転移患者も、放射線治療完了後2週間以上経過していれば組み入れ可能であった。

患者には、ニボルマブ3 mg/kgを2週間ごとに60分かけて静脈内投与し、エルロチニブ150 mg/日を連日経口投与した。治療は疾患進行、許容できない毒性、または同意撤回まで継続された。安全性はNCI CTCAE v4.0基準で評価され、治療関連有害事象(trAE)の頻度と重症度が記録された。腫瘍応答は、RECIST v1.1基準 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づき、治験責任医師によって評価された。ORRは完全奏効(CR)または部分奏効(PR)の割合として定義され、95%信頼区間(CI)はClopper-Pearson法を用いて算出された。PFSおよびOSはKaplan-Meier法を用いて推定された。PD-L1発現は、前治療時の腫瘍組織サンプルを用いて免疫組織化学染色(Dako 28-8 pharmDxアッセイ)により評価された。最終データカットオフは2016年9月であったが、一部の患者については2017年12月まで追加データが収集された。統計解析には記述統計が用いられ、イベントまでの期間はKaplan-Meier法で推定された。