- 著者: Helena Linardou, Issa J. Dahabreh, Dimitra Kanaloupiti, Fotios Siannis, Dimitrios Bafaloukos, Paris Kosmidis, Christos A. Papadimitriou, Samuel Murray
- Corresponding author: Samuel Murray (Department of Molecular Biology and Genetics, Metropolitan Hospital, Athens, Greece)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2008
- Epub日: 2008-09-18
- Article種別: Systematic Review and Meta-Analysis
- PMID: 18804418
背景
EGFR (epidermal growth factor receptor; 上皮成長因子受容体) を標的とする抗腫瘍戦略は2000年代に急速に発展し、NSCLC (non-small-cell lung cancer; 非小細胞肺がん) と大腸がんを主な対象として臨床応用が進んだ。抗EGFR戦略は大きく2クラスに分類される。受容体細胞外ドメインに結合し二量体化を阻止するモノクローナル抗体 (cetuximab・panitumumab) と、細胞内チロシンキナーゼドメインのリン酸化を阻害する小分子TKI (tyrosine kinase inhibitor; チロシンキナーゼ阻害薬; gefitinib・erlotinib) である。両クラスはRAS/RAF/MAPK・PI3K/AKTといった下流シグナル経路を抑制することで抗腫瘍効果を発揮するとされる。
NSCLCでのEGFR-TKI単剤試験 (IDEAL 1・IDEAL 2 [Iressa Dose Evaluation in Advanced Lung Cancer]・TRIBUTE [Tarceva Responses In combination with paclitaxel and carboplatin]・INTACT [IRESSA NSCLC Trial Assessing Combination Treatment]等) では奏効率9〜18%と中等度に留まる一方、一部患者に著明かつ持続的な奏効が認められるという二極化した成績が示された。この現象を解明すべく感受性バイオマーカーの探索が加速した結果、2004年にLynchらおよびPaezらによりEGFR遺伝子体細胞変異 (exon 19欠失・L858R点変異等) がTKI感受性の主要決定因子として独立して報告された (Lynch et al. NEnglJMed 2004、Paez et al. Science 2004)。同時期にPaoら (2005) は、EGFR変異と相互排他的に出現するKRAS変異 (コドン12・13のGTP結合領域における点変異) がEGFR-TKIに対する一次耐性 (de-novo resistance) の機序として機能することをNSCLCで初めて報告し (Pao et al. PLoSMed 2005)、KRAS変異が奏効否定バイオマーカーとなりうる可能性を示した。
mCRC (metastatic colorectal cancer; 転移性大腸がん) でも同様の事情があった。cetuximabおよびpanitumumabの化学療法難治例における奏効率は単剤で10〜30%、化学療法併用で30%前後であり、KRAS変異が大腸がんの30〜50%に認められかつ予後不良因子であることから抗EGFR剤への無奏効と関連する候補として注目された。2008年時点でpanitumumabのKRAS野生型患者限定への規制改訂が進行中であったが、NSCLC・mCRC双方を横断して個別研究を統合した包括的・定量的なエビデンスは不足しており、KRAS変異の感度・特異度・尤度比を系統的に確立することが gap in knowledge として残されていた。
目的
NSCLCへのEGFR-TKI (gefitinib・erlotinib) およびmCRCへの抗EGFR剤 (cetuximab・panitumumab、±化学療法) に対するKRAS体細胞変異の予測的価値を、感度 (sensitivity)・特異度 (specificity) および尤度比 (likelihood ratio) を主要評価指標とする二変量ランダム効果モデルによるメタ解析で定量化し、KRAS変異が両癌腫における一次耐性の候補予測バイオマーカーとして確立されうるかを系統的に評価すること。
結果
文献検索と対象研究の概要: PubMed・Medline・コクランライブラリの体系的検索によりNSCLCで3,240件、mCRCで333件が一次抽出された。NSCLCは252件に絞り込み後、17研究が最終的にメタ解析に採用された (Figure 1、Table 1)。主要除外理由は「KRAS変異が1例も検出されなかった」5研究・「後続更新版に統合」2研究・「データ抽出不能」2研究・「EGFR変異陽性患者選択集団 (適格外)」1研究などであった。採用17研究・計n=1,008例のうちKRAS変異陽性は165例 (16.4%)。治療内訳:gefitinib (250〜500 mg/day) 13研究・erlotinib (150 mg/day) 2研究・両薬剤混合2研究。人種別:アジア人集団5研究・欧米白人集団12研究。すべての研究でKRAS変異解析は遡及的 (retrospective) に実施され、主にコドン12・13を対象とする双方向シーケンシング (bidirectional sequencing) または制限断片長多型法 (RFLP; restriction fragment length polymorphism) を用いた。mCRCは68件に絞り込み後、8研究が最終採用された (Figure 2、Table 2)。8研究・計n=817例のうちKRAS変異陽性は306例 (37.5%)。前治療歴はすべてイリノテカン・オキサリプラチン・フルオロピリミジンベース化学療法後の難治例であり、治療はcetuximab±化学療法またはpanitumumab±BSC (best supportive care) であった。
NSCLCにおける二変量メタ解析の主要結果: NSCLC 17研究のpooled解析では感度=0.21 (95% CI 0.16-0.28)、特異度=0.94 (95% CI 0.89-0.97) が得られた (Table 3)。陽性尤度比 +LR=3.52、陰性尤度比 -LR=0.84、predictive odds ratio (POR) =4.20。感度0.21は「KRAS変異陽性患者のうち21%がTKIに奏効しない真陽性」として同定されることを意味し、低感度は変異陽性患者を幅広くカバーしきれないことを示す。一方、特異度0.94は「KRAS変異陽性患者のうち94%がEGFR-TKIに対してCR+PRを示さない」という高い奏効否定能力を意味する。+LR=3.52は、KRAS変異陽性の場合に非奏効である事前オッズが変異陰性に比べて約3.5倍上昇することを示す。-LR=0.84は1.0に近く、KRAS変異陰性であってもTKI奏効の確率が大幅に高まるわけではないことを意味し、陰性的中率が限られることを示唆した。NSCLC採用17研究のKRAS変異陽性は計165例 (16.4%、total n=1,008) であり、変異検出法は双方向シーケンシングが主流 (13/17研究)、残り4研究はRFLP法を使用した。
ROC曲線平面 (Figure 3A) を見ると、採用17研究のほぼすべてが特異度=1.0またはその極近傍にクラスター化しており、研究間の異質性はほぼ特異度ではなく感度の差異に集中していた。感度の個別研究値は0.05〜0.42の範囲で分散し、研究ごとの患者特性・変異検出感度・前治療歴の違いがこの感度ばらつきに寄与していると考えられた。Forest plot (Figure 4A・4B) からも17研究すべてで特異度が一貫して高い一方、感度に大きな幅があることが視覚的に確認された。
mCRCにおける二変量メタ解析の主要結果: mCRC 8研究のpooled解析では感度=0.47 (95% CI 0.43-0.52)、特異度=0.93 (95% CI 0.83-0.97) が得られた (Table 4)。+LR=6.82、-LR=0.57、POR=12.01。NSCLCと対比すると、KRAS変異の+LRはmCRCで著しく高く (6.82 vs 3.52)、mCRCにおける奏効否定予測能の優位性が定量的に示された。感度もNSCLCの約2倍 (0.47 vs 0.21) であり、KRAS変異陽性mCRC患者の約半数が無奏効者として正確に同定された。特異度については両疾患間でほぼ同等 (0.93 vs 0.94) であり、KRAS変異存在下での奏効否定の確実性は両癌腫で共通することが示された。mCRC各研究の感度は0.40〜0.60の範囲に比較的均等に分布し (Figure 3B)、NSCLCに比べ研究間の感度ばらつきが少なく一貫性が高かった。-LR=0.57は野生型KRAS患者においても一定程度の奏効否定確率が残存することを示し、KRAS野生型であっても奏効を保証しないことを意味した。
cetuximabとpanitumumab間の予測能を比較すると、単剤あたりの+LRはcetuximab 2.94・panitumumab 2.95とほぼ同等であり (p=0.25・p=0.86)、抗体クラス間での差は認められなかった。Forest plot (Figure 4C・4D) はmCRC 8研究で特異度の均一性が特に顕著であることを示した。
NSCLCサブグループ解析:民族・薬剤・前治療別の頑健性: NSCLC 17研究について民族・薬剤・奏効評価基準・選択バイアス・化学療法歴の5軸でサブグループ解析を実施したが、いずれのサブグループ間にも統計的有意差は認められなかった。民族別では、アジア人集団 (n=5研究) で感度=0.14 (95% CI 0.08-0.24)・特異度=0.97 (0.90-0.99)、欧米白人集団 (n=12研究) で感度=0.24 (0.18-0.32)・特異度=0.93 (0.86-0.96) であった。感度の差 (p=0.06) は境界域であり、アジア人ではEGFR変異保有率が欧米白人の約2倍高くEGFR変異とKRAS変異が相互排他的であるためKRAS変異頻度が相対的に低くなり感度に影響している可能性が示唆されたが、統計的に確認されなかった。薬剤別 (erlotinib n=2 vs gefitinib n=13) では感度・特異度ともに有意差なし (p=0.87・p=0.78)。奏効評価基準別 (RECIST [Response Evaluation Criteria In Solid Tumors] n=14 vs WHO n=2)・選択バイアスの有無 (なし n=14 vs あり n=3)・化学療法歴 (ナイーブ n=3 vs 既治療 n=7) の比較でも統計的有意差は認められず、KRAS変異の奏効否定予測能がこれらの変数に依存しない頑健な特性であることが確認された (Table 3)。
mCRCサブグループ解析:変異検出法の影響と化学療法添加の意義: mCRC 8研究では、抗体種 (panitumumab vs cetuximab) および化学療法の併用有無によるサブグループ間に統計的有意差は認められなかった。しかし変異検出法 (直接シーケンシング vs allelic discrimination等の非シーケンシング法) の比較では特異度に統計的有意差が確認された (p=0.02)。非シーケンシング法 (n=3研究) での特異度=0.99 (95% CI 0.89-1.00) に対し、直接シーケンシング (n=4研究) では特異度=0.87 (0.62-0.96) と低く、DxSキット等のallelic discrimination法がより特異的な変異検出をもたらす可能性が示唆された。ただし非シーケンシンググループでは患者数が多く+LR=33.36という極端に高い値となっており、著者らはサンプルサイズが少ないため慎重な解釈が必要と注記している。
化学療法の添加効果については、KRAS変異陽性患者では抗EGFR抗体への化学療法追加も無効であることが一貫して示された。MoAb (monoclonal antibody) 単剤群での+LR=3.59に対し、MoAb+化学療法群での+LR=11.05であり、化学療法を加えることでKRAS変異陽性患者が奏効しないことの確信度がさらに高まる (化学療法の効果がKRAS変異による奏効否定を塗り替えないことの反証) ことが示唆された (Table 4)。
両癌腫横断エビデンスとKRAS変異の一次耐性機序としての普遍性: NSCLCとmCRCという2つの異なる固形腫瘍で、KRAS変異の特異度が0.93〜0.94とほぼ同等であるという知見は、RAS/MAPK経路の構成的活性化によるEGFR下流シグナルへの依存からの解放が抗EGFR薬耐性の普遍的な機序として機能することを強く示唆する。NSCLC・mCRCを合算すると計25研究・n=1,825例を対象とした最大規模のエビデンス体系となる。両疾患でKRAS変異を有する患者は全体の約20% (NSCLC) および37% (mCRC) を占め、特にmCRCにおいては患者3.7人に1人以上がKRAS変異陽性であり、その患者への抗EGFR抗体投与を回避することで大きな毒性・経済的負担を節減できることが本解析で定量的に示された。一方で低感度 (-LR=0.84 in NSCLC) は、KRAS変異陰性であっても奏効しない患者が多数存在することを示しており、MET増幅・BRAF変異・PTEN欠失等の追加的耐性機序の探索が必要不可欠であることも同時に提示された。
考察/結論
本系統的レビュー・メタ解析は、NSCLCへのEGFR-TKIおよびmCRCへの抗EGFR抗体療法に対してKRAS変異が高特異度 (0.93〜0.94) の一次耐性バイオマーカーであることを、複数の独立した研究を統合することで本研究で初めて包括的かつ定量的に確立したエビデンスである。特にmCRCでの+LR=6.82・POR=12.01という予測能は臨床的に強力な根拠を提供し、panitumumabのKRAS野生型限定承認 (2008年) の科学的裏付けとなった。
既報の個別研究と異なり、本解析は二変量ランダム効果モデルという方法論的に厳密な枠組みで感度・特異度の相関を同時推定しており、単純poolingでは見えなかった研究間の異質性構造 (感度に集中・特異度は均一) を可視化した。NSCLC・mCRCという2癌腫でほぼ同一の特異度が独立して確認されたことは、KRAS変異による一次耐性が腫瘍種を超えた新規の普遍的機序として理解されるべき知見であり、これまで腫瘍種ごとに個別解析が行われてきた既往アプローチとは相違する横断的視点を提供した。
臨床的意義 (clinical relevance) として、mCRCのKRAS変異陽性率が35〜40%に上ることを考慮すれば、本解析の知見はKRAS変異検査による患者選択が治療無効患者を事前除外し、毒性回避と医療経済的効率化に直結することを強力に支持する。臨床現場においてEGFR標的薬処方前のKRAS変異スクリーニングを標準化する流れを加速させた本解析は、NSCLCにおいても同様の観点からKRAS変異陽性患者へのTKI処方回避の根拠を定量的に提供した。抗EGFR療法のbenefitをKRAS野生型患者に濃縮するという患者選択原理の確立は、精密医療 (precision medicine) の実践として以後の標準化に貢献した。
残された課題 (limitation) として以下が挙げられる。(1) 個別患者データ (IPD; individual patient data) が利用できないため、交絡因子の調整や全生存への影響の定量化が困難であり、奏効と生存の相関が不完全であるという limitation が残存する。奏効を代理指標として用いた本解析の結論は前向き無作為化試験での検証を必要とする。(2) KRAS変異の感度が低い (NSCLC 0.21) ことは、KRAS変異陰性患者でもEGFR-TKIに奏効しない患者が多数存在することを意味し、MET増幅・BRAF変異・PTEN欠失・EMT (epithelial-mesenchymal transition) 等の追加耐性機序の存在を示唆する。これらの機序のさらなる解明が今後の研究課題として重要である。(3) 研究間の患者選択基準・変異検出法 (直接シーケンシングvs allelic discrimination)・奏効評価基準の異質性が推定値の精度に影響しており、特に変異検出法による特異度差 (p=0.02) は検出感度の標準化が必要であることを示す。(4) 膵がんでのerlotinib適応においてKRAS変異の予測価値が異なる可能性 (PA.3 [NCIC CTG erlotinib膵癌phase III試験] の予備的データ) が示唆されており、今後の検討が求められる。本解析で確立されたKRAS変異の高特異度・低感度という性能プロファイルを基盤として、将来的には複合的バイオマーカーパネル (KRAS+EGFR変異+MET増幅等) による精密な患者選択が期待される。
方法
文献検索と選択基準: PubMed・Medline (〜2008年6月5日)・コクランライブラリ (Issue 2, 2008) を体系的に検索。NSCLCにはMurrayら既報の検索式を用い、mCRCには「erlotinib」「gefitinib」「cetuximab」「panitumumab」「colorectal cancer」「EGFR」「mutation」等のキーワード組み合わせを使用。適格条件:KRAS変異状態別に奏効 (CR; complete response + PR; partial response) を層別報告した試験。ケースレポート (n≤5) は除外。重複集団は最新・最大の報告のみを採用。NSCLC検索はJan 2004以降に限定、mCRCは期間制限なし。手検索・引用リスト追跡・専門家へのコンタクトも実施したが追加データは得られなかった。データ抽出は2名の研究者 (Dahabreh・Murray) が独立して行い、不一致はLinardouを含めたコンセンサスで解決。
データ合成: 診断精度メタ解析として感度・特異度の対を主要評価項目に設定。Reitsmaら (2005) の二変量ランダム効果モデルによる bivariable meta-analysis (二変量法) を採用し、研究間の感度・特異度相関を考慮しながら研究間異質性を制御した。ほぼ全試験で特異度が1.0またはその近傍であったため (false-negative rate=0)、0.5の数値補正を加えた。特異度のバリエーションが極めて低かったことから特異度はランダム効果ではなく固定効果でモデルに組み込んだ。陽性尤度比 (+LR; positive likelihood ratio) =感度/(1-特異度)、陰性尤度比 (-LR; negative likelihood ratio) =(1-感度)/特異度として算出した。各研究をROC (receiver operating characteristic; 受信者動作特性) 曲線平面上にプロットし感度・特異度の分布を視覚化。サブグループ解析 (NSCLC: 民族・薬剤種・奏効評価基準・選択バイアス・前治療歴; mCRC: 抗体種・化学療法併用・変異検出法) を実施。統計解析はSAS version 9.1で実施し、p値はすべて両側検定でp<0.05を有意とした。研究間異質性はCochran’s Q統計 (chi-square検定基準) とI²統計量で定量化した。観察研究のメタ解析として MOOSE (Meta-analysis Of Observational Studies in Epidemiology) ガイドラインに準拠。最終採用:NSCLC 17研究 (n=1,008)、mCRC 8研究 (n=817)。