• 著者: Glenwood Goss, Chih-Min Tsai, Frances A. Shepherd, et al.
  • Corresponding author: Glenwood Goss (Ottawa Hospital Cancer Centre, Ottawa, Canada)
  • 雑誌: Lancet Oncology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-10-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27751847

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者に対する第一世代および第二世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) は、初期治療において顕著な奏効を示すものの、ほとんどの患者で最終的に獲得耐性が発現し、病勢が進行する。この獲得耐性の主要なメカニズムとして、EGFR T790M変異が約50〜60%の症例で報告されている (Yu et al. ClinCancerRes 2013)。T790M変異は、EGFR TKIのATP結合ポケットにおける立体障害を引き起こし、薬剤結合親和性を低下させることで耐性を付与すると考えられている。このT790M変異の検出は、再生検や液体生検によって可能であり、治療選択肢の決定に重要な情報を提供する。

これまで、T790M変異陽性NSCLC患者に対する標準治療は確立されておらず、治療選択肢は限られていた。第一世代TKI治療後に進行した患者に対しては、プラチナ製剤を含む化学療法や、単剤化学療法、あるいは治験薬の投与が主な選択肢であったが、これらの治療法では奏効率が低く、無増悪生存期間 (PFS) も短いことが課題として残されていた (Soria et al. LancetOncol 2015, Miller et al. LancetOncol 2012)。特に、T790M変異を標的とする特異的な治療薬は未開発であり、このアンメットメディカルニーズを満たす治療法の開発が強く求められていた。既存の治療法では、T790M変異陽性患者に対する有効な治療選択肢が不足しており、新たな治療戦略の確立が喫緊の課題であった。

Osimertinib (AZD9291) は、第三世代の不可逆的EGFR TKIであり、活性化EGFR変異 (Del19、L858R) とT790M耐性変異の両方に対して高い選択的阻害活性を持つように設計されている。同時に、野生型EGFRに対する阻害活性は低く、これにより従来のEGFR TKIで問題となっていた皮膚毒性や下痢などの有害事象の軽減が期待された。Phase I/IIのAURA試験の拡張コホートにおいて、T790M変異陽性患者に対するosimertinib 80mg/日単独療法は、良好な客観的奏効率 (ORR) 61%を示し、忍容性も良好であることが示唆された (Janne et al. NEnglJMed 2015)。この有望な結果を受けて、AURA2試験は、より大規模かつ独立した患者コホートにおいて、osimertinibの有効性と安全性をさらに検証し、その臨床的有用性を確立することを目的として計画された。T790M変異陽性NSCLC患者に対する特異的な治療薬が不足している状況において、osimertinibの評価は喫緊の課題であった。本研究は、EGFR TKI前治療後のT790M陽性NSCLC患者におけるosimertinibの有効性と安全性をさらに明確にすることを目的とした。

目的

本研究の主要な目的は、EGFR TKIによる前治療後に病勢が進行した、中央判定でEGFR T790M変異陽性の進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者を対象に、osimertinib 80mg/日単独療法における客観的奏効率 (ORR) を、盲検下独立中央判定 (BICR) に基づき評価することである。

副次評価項目として、以下の項目を評価した。

  • 病勢コントロール率 (DCR)
  • 無増悪生存期間 (PFS)
  • 奏効持続期間 (DoR)
  • 全生存期間 (OS)
  • 安全性プロファイル
  • 患者報告アウトカム (QOL)
  • 薬物動態 (PK)

これらの評価を通じて、osimertinibがT790M変異陽性NSCLC患者に対する有効かつ安全な治療選択肢となり得るかを総合的に判断することを目指した。特に、この治療困難な患者集団において、従来の治療法と比較してosimertinibがどの程度の臨床的利益をもたらすかを明らかにすることも重要な目的であった。

結果

試験規模と患者背景: 2014年5月20日から9月12日までに472例がスクリーニングされ、210例がosimertinib治療を開始した (full analysis set)。盲検下独立中央判定 (BICR) によりベースラインで測定可能病変がない11例を除外した199例が、奏効評価可能集団 (evaluable for response analysis set) とされた (Figure 1)。患者のベースライン特性は、中央年齢64歳 (範囲35〜88歳)、女性69%、アジア人63%、白人34%、非喫煙者76%、ECOG PS 1が61%、腺癌95%、転移性94%であった (Table 1)。CNS転移は41% (87例) に認められ、内臓転移は80%であった。共存するEGFR変異としては、exon 19欠失が65%、L858Rが32%であった。前治療歴のあるEGFR TKIは、gefitinibが58%、erlotinibが57%、afatinibが18%であった (重複あり)。データカットオフ (2015年11月1日) 時点での追跡期間中央値は13.0ヶ月 (IQR 7.6〜14.2) であり、治療曝露期間中央値は12.9ヶ月 (IQR 7.3〜14.0) であった。データカットオフ時点で122例 (58%) が治療を継続中であった。

主要評価項目 (ORR): 奏効評価可能集団 (n=199) において、盲検下独立中央判定による客観的奏効率 (ORR) は70% (95% CI 64-77) であった (Table 2)。内訳は、完全奏効 (CR) が6例 (3%)、部分奏効 (PR) が134例 (67%) であった。全登録210例 (full analysis set) における担当医評価によるORRは73% (95% CI 66-79) であり、独立判定と一貫した結果を示した。疾患コントロール率 (DCR) は92% (95% CI 87-95) であり、安定病変 (SD) は42例 (21%) であった。奏効の89% (140例中124例) は最初の6週後スキャンで確認され、97%が12週までに確認された。サブグループ解析では、EGFR exon 19欠失を有する患者でORR 77% (99/129例) と、L858R変異を有する患者の59% (37/63例) よりも高い傾向が認められたが、統計学的に有意な差ではなかった。治療ライン (二次治療コホートで73% [46/63例]、三次治療以上コホートで69% [94/136例])、CNS転移の有無 (CNS転移あり69% vs なし71%)、人種 (アジア人72% vs 非アジア人68%) によらず、一貫して高いORRが示された (Figure 2)。

奏効持続期間 (DoR) と無増悪生存期間 (PFS): 奏効した140例中70例 (50%) がデータカットオフ時点で病勢進行または死亡していた。奏効持続期間 (DoR) 中央値は11.4ヶ月 (95% CI 9.0-not calculable) であった。6ヶ月時点での奏効継続率は76% (95% CI 67-82)、9ヶ月時点では59% (50-67)、12ヶ月時点では48% (39-57) であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は9.9ヶ月 (95% CI 8.5-12.3) であった (Figure 4)。PFSの6ヶ月率は71% (95% CI 64-77)、9ヶ月率は56% (49-63)、12ヶ月率は44% (37-51) であった。ほとんどの患者 (198例中186例、94%) で腫瘍縮小が認められ、標的病変の最大縮小率の平均は-52% (SD 33) であった (Figure 3)。PFS中央値は9.9ヶ月 (95% CI 8.5-12.3) であり、これは従来の治療法と比較して有意な改善を示している。例えば、アフタチニブまたはダコミチニブではPFS中央値が2-4ヶ月であったと報告されている。

全生存期間 (OS) (中間データ): データカットオフ時点で44例 (21%) が死亡しており、全生存期間 (OS) データは未成熟であった。追跡期間中央値は13.0ヶ月 (IQR 11.8-14.1) であった。1年OS率は81% (95% CI 75-86) と推定された。病勢進行後も116例が生存しており、そのうち77例 (66%) がosimertinib治療を中央値4.3ヶ月継続していた (post-progression treatment)。

患者報告アウトカム (QOL): EORTC QLQ-C30およびQLQ-LC13を用いてQOLが評価された。治療中の患者の少なくとも4分の3が、肺癌関連症状 (n=85) および機能ドメイン (n=90) において、54週時点でベースラインと比較して改善または安定を報告した。唯一、4分の1以上の患者が悪化を報告したドメインは下痢 (28%が悪化) であった。胸痛の改善率は91% (85例中77例) と最も高かった。

安全性 (有害事象): 全患者210例中207例 (99%) で少なくとも1つの有害事象 (AE) が報告された。治験責任医師により薬剤関連の可能性があると判断されたAEは179例 (85%) であった。Grade 3以上のAEは72例 (34%) に発生し、そのうち薬剤関連の可能性があるGrade 3以上のAEは26例 (12%) であった (Table 3)。最も頻度の高い全グレードの薬剤関連AEは、皮疹 (40%)、下痢 (33%)、乾燥肌 (30%)、爪囲炎 (26%)、瘙痒 (13%)、口内炎 (11%) であった。

Grade 3以上の全原因AEとしては、肺塞栓症が7例 (3%)、QTc延長が5例 (2%)、好中球数減少が4例 (2%)、貧血、呼吸困難、低ナトリウム血症、ALT上昇、血小板減少がそれぞれ3例 (1%) であった。間質性肺疾患 (ILD) 関連イベントは4例 (2%) に報告され、内訳はGrade 1が2例、Grade 3が1例、Grade 5 (致死性) が1例であった。QTcF延長は13例 (6%) に認められ、うちGrade 3が5例であった。用量減量は6例 (3%) で行われ、用量中断は44例 (21%) で行われた。有害事象による治療中止は11例 (5%) であった。薬剤関連の死亡は1例 (ILD) であった。重篤な有害事象 (SAE) は52例 (25%) に報告され、そのうち薬剤関連の可能性があるSAEは11例 (5%) であった。

考察/結論

AURA2試験は、EGFR T790M変異陽性でEGFR TKI前治療後に進行した進行NSCLC患者において、osimertinib 80mg/日単独療法が良好な臨床活性と管理可能な安全性プロファイルを示すことを確認した。盲検下独立中央判定による客観的奏効率 (ORR) 70% (95% CI 64-77) および疾患コントロール率 (DCR) 92%という結果は、先行研究であるAURA拡張コホート試験で報告されたORR 61%と一貫しており、osimertinibの有効性を裏付ける強力なエビデンスとなった。

先行研究との違い: 本研究は、T790M変異を特異的に標的とするEGFR TKIの第II相試験として、これまで報告された中で最も大規模なデータの一つである。従来の第一・第二世代EGFR TKIではT790M耐性変異を有する患者に対する有効性が限定的であったのに対し、osimertinibはT790M変異を克服する高い奏効を示した点で、既存の治療薬とは対照的な結果であった。例えば、シスプラチンとペメトレキセド併用化学療法のPFS中央値が5.4ヶ月であったのに対し、osimertinibのPFS中央値は9.9ヶ月 (95% CI 8.5-12.3) と大幅な改善を示している。また、脳転移を有する患者においてもORRが69%と良好であり、CNS転移に対する有効性も示唆された点は、これまでの治療法と異なり、重要な知見である。

新規性: 本研究で初めて、T790M変異陽性NSCLC患者におけるosimertinibの有効性が、独立した大規模コホートで確認された。特に、CNS転移を有する患者においてもORRが69%と良好であり、脳転移に対する有効性も示唆された点は新規の知見である。これは、osimertinibが血液脳関門を通過し、脳転移巣にも到達する能力を持つことと関連している可能性がある。また、QOL評価において、肺癌関連症状の改善が認められたことも、患者の生活の質向上に貢献する新規の側面である。

臨床応用: 本研究の結果は、EGFR T790M変異陽性NSCLC患者に対するosimertinibの承認に決定的な役割を果たした。AURAおよびAURA2試験のデータは、米国食品医薬品局 (FDA) および欧州医薬品庁 (EMA) への承認申請の主要な根拠となり、2015年から2016年にかけてosimertinibが承認された。これにより、EGFR TKI治療後に病勢進行した患者に対して、T790M変異の有無を検査し、陽性であればosimertinibを投与するという新たな臨床的意義が確立された。これは、分子標的治療の個別化医療への大きな一歩である。

残された課題: 本研究は単群の非盲検試験であるため、比較対照群がないというlimitationがある。そのため、サブグループ解析の結果は記述的なものであり、統計的な検出力は限定的である。今後の検討課題として、T790M変異の検出方法 (組織生検 vs 液体生検) の最適化、osimertinib治療後の新たな耐性メカニズムの解明、およびそれらを標的とする次世代治療法の開発が挙げられる。また、致死的な間質性肺疾患が1例報告されたことから、osimertinibを含む全てのEGFR TKIにおいて、ILDリスクの継続的なモニタリングと早期介入の重要性が強調される。本試験の成功を受けて、より大規模な第III相AURA3試験 (T790M陽性二次治療におけるosimertinib vs 白金製剤化学療法) が実施され、osimertinibの優越性が示された (HR 0.46, 95% CI 0.37-0.57, p<0.001)。さらに、FLAURA試験により、osimertinibはEGFR変異陽性NSCLCの一次治療の標準治療としての地位を確立している。

方法

本研究は、国際多施設共同、非盲検、単群の第II相臨床試験 (AURA2試験、ClinicalTrials.gov登録番号: NCT02094261) として実施された。2014年5月20日から2014年9月12日にかけて患者スクリーニングが行われ、2014年6月13日から2014年10月27日にかけて患者登録および治療開始が行われた。

患者適格基準:

  • 18歳以上の患者
  • 組織学的または細胞学的に確認された局所進行性または転移性 (ステージIIIB/IV) NSCLC
  • RECIST v1.1ガイドラインに基づく測定可能病変の存在
  • WHOパフォーマンスステータス0または1 (過去2週間で悪化なし)
  • 少なくとも12週間の予想生存期間
  • 承認されたEGFR TKIによる前治療後に放射線学的病勢進行が確認されていること
  • 必須生検検体による中央検査でEGFR T790M変異陽性が確認されていること (cobas EGFR Mutation Testを使用)
  • 無症候性で安定した脳転移患者は、ステロイド治療を4週間以上必要としない場合に限り登録可能

除外基準:

  • 最初のosimertinib投与から8日以内または半減期5回以内にEGFR TKI治療を受けている患者
  • 最初のosimertinib投与から14日以内に化学療法、治験薬、またはその他の抗癌剤治療を受けている患者
  • 過去にosimertinibまたは他のT790M標的EGFR TKIによる治療歴がある患者
  • 間質性肺疾患 (ILD) の既往歴、薬剤誘発性ILD、ステロイド治療を必要とする放射線肺炎、または臨床的に活動性のILDの証拠がある患者
  • 重度または制御不能な全身性疾患、活動性感染症 (B型肝炎、C型肝炎、HIVを含む)
  • QTc延長のリスクを高める因子または不整脈イベントのリスクがある患者

治療プロトコル: 全患者にosimertinib 80mgを1日1回経口投与した。治療は客観的病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。治験責任医師が臨床的利益を認めた場合、病勢進行後も治療継続が許可された。有害事象 (AE) はNCI CTCAE v4.0に基づき評価された。Grade 3以上の非疾患関連AEまたは許容できない毒性、間質性肺疾患 (ILD) 関連症状、QTcF (QT interval corrected for heart rate) 延長 (>500 msまたはベースラインから>60 ms増加) が発生した場合、用量中断または減量 (40mg) が行われた。

評価項目:

  • 主要評価項目: 盲検下独立中央判定 (BICR) による客観的奏効率 (ORR; RECIST v1.1に基づく完全奏効 [CR] + 部分奏効 [PR])。
  • 副次評価項目: DCR (CR+PR+6週間以上の安定病変 [SD])、PFS (初回投与日から病勢進行または死亡までの期間)、DoR (初回奏効確認日から病勢進行または死亡までの期間)、OS (初回投与日からあらゆる原因による死亡までの期間)、安全性、健康関連QOL (EORTC QLQ-C30およびQLQ-LC13を使用)、QTcF間隔の変化、薬物動態。

統計解析: ORRの95%信頼区間 (CI) は正確法 (Clopper-Pearson法) で算出された。PFSおよびDoRはカプラン・マイヤー法を用いて推定された。サブグループ解析はORRの事前定義されたサブグループに対して実施された。データカットオフは2015年11月1日であった。統計解析にはSAS version 9.2が使用された。薬物動態パラメータはPhoenix 64 WinNonlin Version 6.3を用いて標準的な非コンパートメント解析法により導出された。本研究は、約175例の患者を登録することで、客観的奏効率を±8%の95% CIで推定できるように計画された。