• 著者: S. Park, M.-H. Lee, M. Seong, S. T. Kim, J.-H. Kang, B. C. Cho, K. H. Lee, E. K. Cho, J.-M. Sun, S.-H. Lee, J. S. Ahn, K. Park, M.-J. Ahn
  • Corresponding author: M.-J. Ahn (Division of Hematology-Oncology, Samsung Medical Center, Sungkyunkwan University School of Medicine, Seoul, Korea)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-07-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32634610

背景

EGFR変異陽性非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) による全身治療の進歩により全生存期間 (OS) は30か月を超えていることが、Ramalingam et al. NEnglJMed 2020Soria et al. NEnglJMed 2018 らによって報告されている。しかし、EGFR-TKI治療中の患者の最大40%が、脳転移 (BM) または髄膜播種 (LM) といった中枢神経系 (CNS) 転移による病勢進行を呈することが報告されている。これらのCNS転移は患者の予後を著しく悪化させ、BM患者のOS中央値は約12か月、LM患者ではわずか3か月と極めて不良であると、Achrol et al. NatRevDisPrimers 2019 らが報告している。第一世代および第二世代のEGFR-TKIは、血液脳関門 (BBB) 透過性が低いため、CNS病変に対する効果が限定的であった。このBBBの低透過性が、CNSにおける薬物曝露不足による薬理学的耐性メカニズムの獲得に寄与していると考えられてきたと、Pardridge et al. JCerebBloodFlowMetab 2012 らが指摘している。

第三世代の不可逆的経口EGFR-TKIであるosimertinibは、EGFR感受性変異とT790M耐性変異の両方を強力かつ選択的に阻害する。前臨床研究では、osimertinibが他のTKIと比較して脳内により均一に分布し、高いBBB透過性を持つことが示唆されたと、Ballard et al. ClinCancerRes 2016 らが報告している。臨床試験においても、2つの第II相試験 (AURA extensionおよびAURA2) の統合解析では、EGFR T790M陽性の測定可能CNS病変に対するosimertinib 80 mgの有望な有効性が示され、CNS客観的奏効率 (ORR) は54%、病勢制御率 (DCR) は92%であったと、Goss et al. LancetOncol 2016 らが報告している。さらに、第III相AURA3試験では、先行EGFR-TKI治療後に進行したEGFR T790M陽性NSCLC患者において、osimertinibがCNS転移の有無にかかわらず無増悪生存期間 (PFS) を延長することが示されたと、Mok et al. NEnglJMed 2017 らが報告している。

しかし、osimertinib 80 mgではLM患者の脳脊髄液 (CSF) 濃度が不十分な場合があることが示唆されており、倍量である160 mgの投与がCNS効果をさらに改善する可能性が検討されていた。実際に、T790M状態を問わないLM患者を対象としたBLOOM試験では、osimertinib 160 mgが有望な結果 (ORR 62%、OS中央値11.0か月) を示している。しかし、EGFR T790M陽性かつ活動性BMまたはLMを有する患者におけるosimertinib 160 mgの有効性と安全性は、これまで十分に確立されていなかった。特に、先行T790M標的療法、例えばosimertinib 80 mgによる治療後に進行した患者に対する高用量osimertinibの有効性については、さらなる検討が必要なギャップが残されており、この点が未解明であった。本研究は、これらの未解明な点を明らかにし、EGFR T790M陽性NSCLC患者のCNS転移に対する最適な治療戦略を確立することを目的とした。

目的

本研究の目的は、EGFR T790M陽性の活動性脳転移 (BM) または髄膜播種 (LM) を有し、先行EGFR-TKI治療後に進行した非小細胞肺がん (NSCLC) 患者におけるosimertinib 160 mgの有効性と安全性を評価することである。具体的には、以下の3つの主要な疑問に答えることを目指した。

  1. EGFR T790M陽性で活動性CNS転移を有する患者において、osimertinib 160 mgが効果的かつ安全に管理できるか。
  2. BMのみの患者と、BMの有無にかかわらずLMを有する患者とで、臨床的有効性に違いがあるか。
  3. 先行EGFR T790M標的薬 (osimertinib 80 mgを含む) による治療歴があり、体外病変が安定している患者において、高用量osimertinibがCNS病変の管理に有効であるか。

BMコホートの主要評価項目は頭蓋内客観的奏効率 (ORR) であり、帰無仮説 (H0) を10%、対立仮説 (H1) を30%と設定した。LMコホートの主要評価項目は全生存期間 (OS) であり、H0を3か月、H1を5か月と設定した。これらの評価項目を通じて、osimertinib 160 mgがCNS転移患者の治療選択肢として確立されるためのエビデンスを構築することを意図した。

結果

患者背景: BMコホートおよびLMコホートそれぞれ40例の患者がosimertinib 160 mgの投与を受けた (Table 1)。両コホートともに女性が多数を占め (BM 70.0%、LM 60.0%)、ECOG PS 1の患者がBMで77.5%、LMで72.5%であった。全患者が腺癌と組織学的に確認された。先行TKI治療歴は、BMコホートで1剤が55.0%、2剤が37.5%であり、LMコホートでは1剤が52.2%、2剤が42.5%であった。先行T790M標的薬治療歴は、BMコホートで45.0% (n=18)、LMコホートで42.5% (n=17) の患者に認められた。特に、osimertinib 80 mgの先行治療歴はBMコホートで12.5% (n=5)、LMコホートで20.0% (n=8) の患者に存在した。CNSに対する先行治療歴は、BMコホートで45.0% (n=18)、LMコホートで62.5% (n=25) の患者に認められ、定位放射線治療 (SRS) または全脳照射 (WBRT) が含まれた。

BM群における頭蓋内奏効率と生存期間: BMコホートの主要評価項目である頭蓋内客観的奏効率 (ORR) は55.0% (n=22) であり、完全奏効 (CR) 10.0% (n=4)、部分奏効 (PR) 45.0% (n=18) であった。頭蓋内病勢コントロール率 (DCR) は77.5% (n=31) であった。体外ORRは30.0% (n=12) であった。PFSイベント (n=27) のうち、体外病変のみの進行が33.3% (n=9) を占めたのに対し、頭蓋内病変のみの進行はわずか3.7% (n=1) であった。これはosimertinib 160 mgが頭蓋内病変に対して優れた制御効果を示すことを示唆する。中央値PFSは7.6か月 (95% CI 5.0-16.6) であり、中央値OSは16.9か月 (95% CI 7.9-NR) であった (Figure 1A, 1B)。治療継続中の患者割合は、3か月時点で67.5%、6か月時点で60.0%、9か月時点で47.5%であった (Table 2)。

LM群における頭蓋内病勢コントロール率と生存期間: LMコホートの主要評価項目であるOS中央値は13.3か月 (95% CI 9.1-NR) であり、事前に設定されたH1の5.0か月を大幅に超過した。中央値PFSは8.0か月 (95% CI 7.2-NR) であった (Figure 1C, 1D)。頭蓋内DCRは92.5% (n=37) と極めて高く、CR 12.5% (n=5)、非CR/非PD 80.0% (n=32) であった。体外ORRは27.5% (n=11) であった。PFSイベントでは、体外病変のみの進行が37.0% (n=10) であったのに対し、頭蓋内病変のみの進行は18.5% (n=5) であった。従来のLM患者のOS中央値が約3か月であることを考慮すると、この結果は劇的な改善であり、osimertinib 160 mgのLMに対する高い有効性を示す重要な成果である。治療継続中の患者割合は、3か月時点で80.0%、6か月時点で67.5%、9か月時点で46.6%であった (Table 2)。

先行T790M標的薬治療歴によるサブグループ解析: 先行T790M標的薬治療歴のある患者 (BMコホートn=18、LMコホートn=17) における有効性が評価された (Table 3)。BMコホートでは、頭蓋内ORRは50.0% (n=9)、頭蓋内DCRは55.6% (n=10) であった。体外ORRは0%であった。LMコホートでは、頭蓋内DCRは88.2% (n=15) であった。体外ORRは11.8% (n=2) であった。 PFS中央値は、先行T790M標的薬治療歴のあるBMコホート患者で4.2か月 (95% CI 1.6-NR)、治療歴のない患者で10.0か月 (95% CI 7.2-NR) であり、ハザード比 (HR) は1.40 (95% CI 0.65-2.99, p=0.39) で統計的有意差はなかった (Figure 2A)。LMコホートでは、先行T790M標的薬治療歴のある患者で9.1か月 (95% CI 7.4-NR)、治療歴のない患者で7.8か月 (95% CI 5.5-NR) であり、HRは0.93 (95% CI 0.43-2.00, p=0.85) で統計的有意差はなかった (Figure 2B)。この結果は、先行osimertinib 80 mg治療後に進行した患者においても、高用量osimertinib 160 mgが有効である可能性を示唆する。特に、osimertinib 80 mg治療後にLMを発症した8例中6例で、osimertinib 160 mgにより病勢が制御された。

先行放射線療法 (RT) 歴によるサブグループ解析: BMコホートにおいて、先行RT歴のある患者のPFS中央値は13.8か月 (95% CI 7.3-NR) であり、RT歴のない患者の5.4か月 (95% CI 2.7-16.3) と比較して有意に長かった (HR 0.42, 95% CI 0.19-0.94, p=0.04) (Figure 2C)。これは、RTがBBB透過性を改善し、osimertinibの効果を増強する可能性を示唆する。LMコホートでは、RT歴の有無によるPFSの有意差は認められなかった (RT歴あり9.1か月 vs RT歴なし7.4か月, HR 0.80, 95% CI 0.37-1.72, p=0.56) (Figure 2D)。

安全性と忍容性: Osimertinib 160 mgの最も頻度の高い有害事象は、食欲不振 (BM 48%・LM 58%)、下痢 (BM 38%・LM 50%)、爪囲炎 (BM 20%・LM 38%) であった (Table 4)。ほとんどの有害事象はGrade 1または2であり、忍容性は良好であった。Grade 3以上の有害事象は低頻度であり、最も多かったのは体重減少 (BM 3%・LM 8%) であった。用量調整 (80 mgへの減量) が必要であったのはBMコホートの17.5% (7例) のみであった。治療中止に至ったのはBMコホートの2例のみであり、1例はGrade 3肺炎、もう1例はGrade 3心不全であったが、いずれも中止後に回復した。

考察/結論

本研究は、EGFR T790M陽性NSCLC患者において、先行EGFR-TKI治療後に脳転移 (BM) または髄膜播種 (LM) を発症した症例に対し、osimertinib 160 mgが有望な有効性と良好な忍容性を示すことを明らかにした。両コホートで事前に設定された主要評価項目が達成された。BMコホートの頭蓋内ORRは55.0%であり、H1の30.0%を上回った。LMコホートのOS中央値は13.3か月であり、H1の5.0か月を大幅に超過した。

先行研究との違い: LM患者におけるOS中央値13.3か月という結果は、従来の報告におけるLM患者のOS中央値が約3か月であったことと対照的であり、osimertinib 160 mgがLMに対して劇的な生存期間の延長をもたらす強力なエビデンスを提供する。これは、osimertinib 80 mgを評価したBLOOM試験のLM患者におけるOS中央値11.0か月と比較しても、より良好な結果であり、高用量osimertinibの優位性を示唆する。

新規性: 本研究で初めて、先行T790M標的薬 (特にosimertinib 80 mg) による治療後に進行した患者においても、osimertinib 160 mgが頭蓋内病変に対して有効であることが示された。BMコホートおよびLMコホートの両方で、先行T790M標的薬治療歴の有無にかかわらずPFSに統計的有意差がなかったことは、高用量によるCSF濃度増加が奏効した可能性を支持する新規の知見である。また、BMコホートにおいて先行放射線療法 (RT) 歴のある患者でPFSが有意に延長した (HR 0.42, 95% CI 0.19-0.94, p=0.04) ことは、RTがBBB透過性を改善し、osimertinibの効果を増強する機序を示唆しており、これはAURA3試験のサブ解析結果と一致する。

臨床応用: 本研究の結果は、EGFR T790M陽性NSCLC患者でCNS転移、特に予後不良なLMが発症した場合に、osimertinib 160 mgが有望な治療選択肢となりうることを臨床現場に示唆する。先行T790M標的薬治療歴のある患者、特にosimertinib 80 mg治療後にLMが進行した患者に対しても、高用量での再投与が検討しうる。また、BM患者におけるRTとosimertinibの併用効果は、CNS転移の治療戦略を最適化する上で重要な臨床的含意を持つ。

残された課題: 本研究にはいくつかの限界が存在する。単施設共同、オープンラベル、各コホート40例という比較的小規模な試験デザインであること。LMの放射線学的奏効評価が困難であり、ORRを主要評価項目とできなかった点。また、探索的解析でベースライン時にEGFR C797S変異を有する患者が4例存在したことが、結果に影響を与えた可能性も考慮する必要がある。今後の検討課題としては、osimertinib 80 mgとの前向き比較試験により、160 mgの優越性を最終的に確立することが挙げられる。また、LM患者における最適なCSF薬物濃度と臨床効果の関連性について、さらなる薬物動態学的研究が必要である。

方法

本研究は、第II相、前向き、多施設共同、オープンラベル、2コホート試験として実施された (NCT03257124)。韓国の5施設から、2017年5月16日から2019年1月4日までの期間に患者が登録された。データカットオフ日は2019年8月31日であった。

患者適格基準: EGFR活性化変異陽性NSCLC患者で、先行する第一世代または第二世代EGFR-TKI治療後にCNS病変の進行を認め、かつ腫瘍組織、血漿、または脳脊髄液 (CSF) のいずれかでEGFR T790M変異が確認された患者が対象とされた。

  • BMコホート (n=40): 磁気共鳴画像 (MRI) で測定可能な脳病変 (最長径10 mm以上) を有し、髄膜播種がない患者。
  • LMコホート (n=40): CSF細胞診または脳MRIで髄膜播種が確認された患者 (BMの合併は許容された)。 先行する第三世代EGFR-TKI (osimertinib 80 mgを含む) または他のEGFR T790M標的薬による治療歴がある患者は、体外病変が安定している場合にのみ適格とされた。

治療介入: 患者にはosimertinib 160 mgが1日1回経口投与された。1サイクルは28日間とし、病勢進行、許容できない有害事象の発生、同意撤回、または治験責任医師の判断による中止まで治療が継続された。有害事象に応じて80 mgへの減量が許容された。

評価項目と評価方法:

  • 主要評価項目:
    • BMコホート: 治験責任医師評価によるRECIST 1.1基準に基づく頭蓋内客観的奏効率 (ORR)。H0は10%、H1は30%と設定された。
    • LMコホート: 全生存期間 (OS)。H0は3か月、H1は5か月と設定された。
  • 副次評価項目:
    • 両コホート: 病勢制御率 (DCR)、CNS進行までの期間、無増悪生存期間 (PFS)、OS (BMコホート)、有害事象。
    • 測定可能CNS病変は最長径10 mm以上と定義され、LM病変は非標的病変 (NTL) とされた。NTLのみの患者の頭蓋内奏効は、CR (完全奏効)、NTLの完全消失、PD (病勢進行)、または非CR/非PDと記述された。
  • 探索的解析: 血漿およびCSF中のEGFR T790M変異の変動が評価された。
  • 画像評価: CTスキャンおよび脳MRIは、最初の12サイクルは2サイクルごと、その後は3サイクルごとに実施された。
  • 統計解析:
    • BMコホートのORR評価にはSimonの最適な2段階デザインが採用され、片側α=5%、検出力90%で40例の登録が計画された (10%の脱落率を考慮)。
    • LMコホートのOS評価には、H0下での指数分布を仮定し、片側α=5%、検出力90%で40例が必要とされた (1標本ログランク検定)。
    • PFSおよびOSの解析にはカプラン・マイヤー法が用いられ、ハザード比 (HR) はCox回帰モデルで推定された。サブグループ解析にはログランク検定が用いられた。多変量解析では、年齢、性別、ECOG PS、先行治療歴 (T790M標的薬を含む)、先行EGFR TKIの種類、放射線療法 (RT) 歴が因子として用いられた。