- 著者: Yoshihisa Kobayashi, Koichi Azuma, Hiroki Nagai, Young Hak Kim, Yosuke Togashi, Yuichi Sesumi, Masato Chiba, Masaki Shimoji, Katsuaki Sato, Kenji Tomizawa, Toshiki Takemoto, Kazuto Nishio, Tetsuya Mitsudomi
- Corresponding author: Tetsuya Mitsudomi (Department of Thoracic Surgery, Kindai University Faculty of Medicine, Osaka-Sayama, Japan)
- 雑誌: Molecular Cancer Therapeutics
- 発行年: 2017 (Epub: 2016-12-02)
- Epub日: 2016-12-02
- Article種別: Original Article (Basic science)
- PMID: 27913578
背景
EGFR変異陽性NSCLCに対する第一世代 (1G) TKIであるgefitinibやerlotinibは、Del19 (exon 19 deletion) およびL858Rを有する患者でプラチナ製剤併用化学療法と比較してPFS優位性を示したが (WJTOG3405・IPASS [Iressa Pan-Asia Study]・OPTIMAL [optimal erlotinib randomized phase 3 trial]・EURTAC [European erlotinib versus chemotherapy randomized trial]各試験、1G-TKI後の中央値PFS約9-11か月)、最終的に獲得耐性が不可避であった。1G-TKI後の獲得耐性機序としてはT790M二次変異が約50-60%を占めることが確立されており (Kobayashi et al. NEnglJMed 2005)、残る40-50%はMET増幅やEMT (epithelial-mesenchymal transition) など多様な機序が関与する (Yu et al. ClinCancerRes 2013)。
Afatinibは不可逆的ErbBファミリー阻害薬 (2G-TKI) として開発され、Del19陽性例でのOS改善 (Yang et al. LancetOncol 2015) およびLUX-Lung (a series of afatinib randomized trials) 7試験でのgefitinib比PFS優位性 (HR 0.73、95% CI 0.57-0.95) が示されていた (Park et al. LancetOncol 2016)。また著者らは既報でEGFRエクソン18変異 (G719X・Del18 [exon 18 deletion]等、全EGFR変異の3.7%) がafatinibに対して1G/3G-TKIより顕著に高感受性であることを示していた。しかしafatinib自体の獲得耐性機序に関するデータは極めて限られており、Del18変異型やG719A変異型からのafatinib耐性における変異スペクトル、ならびにC797S (当時は3G-TKI osimertinibの獲得耐性として知られる) やL792Fがafatinib耐性に関与するかどうかというgap in knowledgeが存在した。特にafatinibはEGFRのCys797と共有結合を形成するため、Cys797をコードするC797Sがafatinib耐性変異として生じうるという仮説は理論的に提唱されていたものの、実験的証明が不足していた。
目的
Ba/F3細胞発現系 (EGFR Del19・L858R・G719A・Del18の4種) を用いたafatinib慢性暴露とN-ethyl-N-nitrosourea (ENU) 変異誘発スクリーニングにより、afatinib獲得耐性の二次EGFR変異スペクトルを網羅的に同定する。また各変異の薬剤感受性プロファイルを1G/2G/3G-TKI横断的に評価し、afatinib後の変異特異的後続治療戦略を提示することを目的とした。
結果
慢性暴露実験:原発変異型別の耐性変異パターン
Ba/F3慢性暴露実験では、Del19・L858R・G719A発現細胞のafatinib耐性株が全例でT790M変異を獲得した (Fig. 1A)。一方、Del18発現細胞の耐性株ではT790Mが出現せず、L792F変異 (エクソン20コドン792、Leu→Phe置換) が新規獲得された (Fig. 1B)。L792Fはafatinib耐性における新規二次変異として初めて同定された。耐性株のIC50は親株比 >50-fold増加し (n=3の独立実験)、臨床的トラフ濃度69 nmol/Lを大幅に上回る値を示した。ヒトNSCLC細胞株 (HCC4006・PC9・11_18) の耐性株ではいずれも検出可能な二次EGFR変異は認められなかった。
ENU変異誘発:84クローンの変異スペクトルと頻度
ENU変異誘発スクリーニング74クローン (10または100 nmol/L afatinib条件) の解析では、T790Mが全変異の86% (64/74クローン) を占めた (Fig. 2)。Del19由来クローンはほぼ全例T790Mを獲得したのに対し、L858R由来 (2/20)・G719A由来 (1/17)・Del18由来 (4/20) クローンでC797Sが出現した。さらにDel18由来クローンの3例でL792Fが出現した。全体84クローン中88% (74/84) がT790Mを獲得した。
注目すべき点として、C797SおよびL792Fは低用量10 nmol/L afatinib条件下で8クローンに出現したのに対し、高用量100 nmol/Lではより感受性の低いDel18変異型のみがC797Sを獲得した。さらに低用量 (0.1または1 nmol/L) では最感受性のDel19変異型でもL792F/C797Sは誘導されず (n=5、0/5)、1 nmol/Lでの二次変異は全例T790M (10/10) であった。これらの結果は、臨床的投与量減量による低濃度暴露がT790M以外の多様な耐性変異選択を促進しうることを示唆している。
L792Fの薬剤感受性プロファイル:2G-TKI選択的感受性
Del18+T790M・Del18+L792F・Del18+C797S各細胞のIC50を1G/2G/3G-TKI横断的に測定した (Fig. 3A)。L792F細胞は1G-TKI (erlotinib) および3G-TKI (osimertinib) への中程度の耐性を示したが、2G-TKI、特にdacomitinibへの感受性が最も高く (IC50が親株Del18比4-10倍増にとどまり、T790MやC797S変異より有意に低値)、臨床的dacomitinibトラフ濃度166 nmol/Lの範囲内に収まる可能性が示された。L858R+L792F・Del19+L792F細胞でも同様に親株比4-10倍のIC50増加を確認 (各条件n=3)、L792Fの耐性機序としての役割が確立された。
T790M・C797S・T790M+C797Sを導入したL858R発現細胞での評価では、2G-TKIへの耐性度はC797S<T790M<T790M+C797Sの順に増大した (Fig. 3B)。L858R+C797S細胞はafatinibへの中程度感受性も示した。
C797Sの薬剤感受性プロファイルと後続治療:
C797S変異細胞は2G-TKI (afatinib) および3G-TKI (osimertinib) に高度耐性を示した一方、1G-TKI erlotinibには著明な感受性を維持していた。これはC797S細胞がT790Mを持たないため、1G-TKIが有効であることによる。L858R+C797S細胞をafatinib 100 nmol/Lに慢性暴露した後続実験ではT790Mが追加獲得され (L858R+C797S+T790M)、治療選択による三次耐性出現が実証された。
Dacomitinib後耐性とT790M三次獲得:
Del18+L792F細胞をdacomitinibに慢性暴露し200 nmol/L耐性を確立すると、T790Mが追加獲得された (Del18+L792F+T790M)。この三重変異細胞は単剤TKI全てに耐性を示し、2G+3G-TKI併用 (dacomitinib 200 nmol/L+osimertinib) でもosimertinib IC50が217 nmol/L (dacomitinib存在下) および410 nmol/L (afatinib存在下) と臨床的到達可能濃度を大幅に超え、有効な治療選択肢が失われることが示された。
臨床再生検5例の二次変異解析:
afatinib獲得耐性を呈した肺腺癌5例の再生検標本を解析し、4例で十分な癌細胞量を確保できた (Table 1)。T790Mは1/4例 (25%) で検出された (Case 1:L858R→T790M、治療期間9か月、2ライン目afatinib後PR)。残る3例ではT790Mを含む二次EGFR変異は検出されず、原発変異は維持されていた。MET遺伝子コピー数は評価可能3例 (T790M例を除く) で1.8・2.3・1.8コピーと正常範囲内であり、MET増幅は否定された。
考察/結論
本研究は、afatinib獲得耐性としてT790M以外に新規L792F変異とC797S変異が生じうることを前臨床系で初めて系統的に実証した点において、これまでの研究と異なる重要な寄与をなしている。既報ではafatinib後耐性におけるT790M以外の変異スペクトルが不明であり、今回Del18変異型という特定の原発変異背景でL792Fが選択的に出現することが判明したのは新規の知見である。
L792FはATP結合ポケットのゲートキーパーT790近傍に位置し (Fig. 4A)、afatinibとEGFRの結合を立体的に妨害する機序が推定される。ALKキナーゼとのホモロジー解析から、EGFR L792はALK L1198に相同であり (Fig. 4B)、ALK L1198F変異がlorlatinib耐性後にcrizotinib再感受性をもたらすという既報の機序的類似性が示唆された。本研究の臨床的意義として、L792Fに対してはdacomitinibが最適候補、C797Sに対してはerlotinibが有効であるという変異特異的な後続治療戦略が提示された点が重要であり、臨床応用として再生検による耐性変異同定と変異型対応の治療逐次選択 (treatment sequencing) の実践を支持する。
また、低用量afatinib暴露がC797SやL792Fの選択を促進するという知見は、臨床でのafatinib投与量減量 (LUX-Lung 3試験では約50%の患者に必要) が多様な耐性変異プロファイルを生み出す可能性を示唆し、用量最適化の重要性を浮き彫りにした。
残された課題として、本研究はBa/F3細胞という人工的な単一変異発現系での評価であり、実際のNSCLC腫瘍微小環境や腫瘍内不均一性を再現できないlimitationがある。臨床検体でL792FやC797Sが検出されなかった点については、afatinib後の再生検症例数が4例と少なく、より大規模な再生検コホートでの確認が必要である。今後の検討として、L792Fに対するdacomitinib治療の臨床有効性の検証、およびC797S+T790M両変異を持つ腫瘍に対する合理的な組み合わせ戦略の開発が求められる。ENU変異誘発スクリーニングで同定された変異が臨床で検出されるという実績 (C797SはNEnglJMed-2015-Janne-AZD9291でのosimertinib耐性として確認) は、本手法の予測的価値を裏付けるものである。
方法
細胞株と薬剤: Ba/F3マウス前駆B細胞株にEGFR Del19 (del E746_A750)・L858R・G719A・Del18 (delE709_T710insD) をレトロウイルスベクターで導入した4種の発現細胞株を構築。EGFR変異型NSCLCヒト細胞株HCC4006 (Del19)・PC9 (Del19)・11_18 (L858R) も使用。各細胞株は2015年8月にshort tandem repeat法で認証済み。薬剤はerlotinib (1G)・afatinib・dacomitinib・neratinib (2G)・osimertinib (3G) をSelleck Chemicalsより購入しDMSOに溶解。
慢性暴露による耐性株樹立: 各Ba/F3発現細胞を漸増濃度のafatinibに慢性暴露し、臨床的トラフ濃度69 nmol/L (phase I試験データ) を参考に最終目標100 nmol/L afatinib存在下で増殖する耐性株を樹立。HCC4006・PC9・11_18細胞も同様に100 nmol/Lまで順次暴露。
ENU変異誘発スクリーニング: Ba/F3 Del19・L858R・G719A・Del18細胞をENU 100 μg/mLに24時間暴露後、1×10^4〜1×10^5個を96ウェルプレートに播種しafatinib 10または100 nmol/L存在下でコロニー形成を観察。10 nmol/Lは臨床的低用量を模倣 (副作用による投与量減量が約50%の患者で必要とされたLUX-Lung 3データに基づく)。増殖クローンを回収し二次EGFR変異を解析、合計84クローンを樹立。
EGFR変異解析: 総RNAをmirVana miRNA Isolation Kit (Qiagen) で抽出しReverTra Aceで逆転写後、エクソン18-21のプライマーでPCR増幅・Sanger sequencing (Genetic Analyzer 3130/3500XL、Applied Biosystems) を実施。RNA取得不能例はDNeasy Blood & Tissue Kit (Qiagen) でDNAを抽出し各エクソンを別々にシークエンス。
感受性評価: 2×10^3細胞を96ウェルプレートに播種し24時間培養後、各TKIで72時間処理。Cell Counting Kit-8 (Dojindo) による比色アッセイでIC50を算出 (DMSO対照比の増殖率として表現)。各薬剤の臨床的トラフ濃度と比較評価。
統計解析: IC50値は3回の独立実験 (n=3) から算出した平均値を用い、群間比較にはStudent’s t-test (両側) を適用した (有意水準p<0.05)。
臨床検体: 久留米大学病院・京都大学病院でafatinib獲得耐性と定義 (部分奏効または持続的安定病態≥6か月後の増悪、Jackman基準) した肺腺癌患者5例の再生検標本を収集。奏効評価にはRECIST version 1.1を適用。MET遺伝子コピー数はLINE1比リアルタイムPCR (Power SYBR Green、Applied Biosystems、StepOnePlus) で算出。