• 著者: Kouya Shiraishi, Takashi Okada, et al.
  • Corresponding author: Kouya Shiraishi; Fumie Kohno (Division of Genome Biology, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (GWAS / Basic science / Translational)
  • PMID: 27501781

背景

肺腺癌 (LADC) は世界的に最も一般的な肺癌であり、特に東アジア人ではEGFR変異陽性サブタイプが30-50%と高頻度で認められるのに対し、欧米人では10-20%に留まる。このEGFR変異陽性LADCは非喫煙者や女性に多く発症し、その発症には喫煙以外の遺伝的素因や免疫応答、ホルモンなどの要因が関与すると考えられていた (Sun et al. 2007)。これまで、ゲノムワイド関連解析 (GWAS) により、肺癌全体(EGFR変異非特異的)の感受性遺伝子座として、TERT (5p15.33)、BTNL2 (6p21.3)、TP63 (3q28)、BPTF (17q24.3) などが同定されてきた Cancer et al. Nature 2014Kohno et al. NatMed 2012、(Miki et al. 2010)。しかし、EGFR変異陽性LADCに特異的な遺伝的感受性因子については包括的な解析が不足しており、その発症メカニズムは未解明であった。特に、EGFR変異陽性LADCが非喫煙者に多いことから、HLA class IIを介した免疫応答や特定の転写因子がEGFR変異腫瘍の発症や免疫監視に関与する可能性が示唆されていたが、直接的なGWASによる証拠は確立されていなかった。

目的

本研究では、日本人集団を対象とした大規模なゲノムワイド関連解析 (GWAS) および2つの独立した検証コホート研究を実施し、EGFR変異陽性肺腺癌に特異的な新規感受性遺伝子座を同定することを目的とした。さらに、同定された候補遺伝子の機能的意義を解析し、EGFR変異陽性肺腺癌の発症リスクにおける遺伝的要因の役割を明らかにすることを目指した。

結果

GWASの設計と既知感受性遺伝子座の再確認: 本研究では、日本人EGFR変異陽性LADC患者663例と対照4,367例のGWASを実施し、その後2つの独立した検証コホート (第1コホート: 1,275例のEGFR変異陽性LADCと6,817例の対照; 第2コホート: 1,235例のEGFR変異陽性LADCと3,974例の対照) で有望SNPを検証した。最終的に合計3,173例のEGFR変異陽性LADC患者と15,158例の対照が解析対象となった。主成分分析により集団層別化がないことを確認後、ロジスティック回帰分析 (性別、年齢、喫煙状況で補正) を用いて解析を行った。先行研究で報告された肺癌感受性遺伝子座であるTERT (5p15.33)、BTNL2 (butyrophilin-like 2) (6p21.3)、TP63 (tumor protein p63) (3q28)、BPTF (bromodomain PHD finger transcription factor) (17q24.3) の4つの遺伝子座が、EGFR変異陽性LADCにおいても有意な関連を示し、再確認された (例: TERTのrs2736100; OR 1.42, 95% CI 1.34-1.50, p=1.87×10⁻³¹)。case-case解析 (EGFR変異陽性LADC vs EGFR変異陰性LADC、n=3,694) では、rs2736100 (TERT)、rs3817963 (BTNL2)、rs2179920 (HLA-DPB1)、rs2495239 (FOXP4) の4つのSNPが、EGFR変異陽性LADCに対してより強く選択的に関連することを示した (Bonferroni補正後p < 7.1 × 10⁻³)。TERTおよびBTNL2はEGFR変異陰性LADCにも関連するが、EGFR変異陽性LADCでの関連がより強いことが示された。

新規感受性遺伝子座①:HLA-DPB1 (6p21.32): rs2179920 (6p21.32; HLA-DPB1領域) は、GWASとバリデーション研究を合わせた統合解析で、OR 1.36 (95% CI 1.27-1.47, p=5.05×10⁻¹⁷) と強力な関連を示した (Table 1)。各コホート間でのORの異質性は認められなかった (p-heterogeneity=0.46)。HLAインピュテーション解析 (日本人HLAリファレンスパネルを使用) の結果、rs2179920は同一領域のrs3817963 (BTNL2) とは独立した関連ピークを形成し (conditioning後も有意)、6p21領域に2つの独立した感受性遺伝子座が存在することを示した (Figure 1)。rs2179920のリスクアレル (A) は、HLA-DPB1タンパクの57位アミノ酸のAsp (Glu57Asp SNP) と高い連鎖不平衡 (LD) を示し (r²=0.98)、HLA-DPB1のGlu57Asp変異体が抗原ペプチド提示能に影響することで、EGFR変異腫瘍抗原に対する免疫応答を変化させ、EGFR変異LADCの発症リスクに影響する可能性が示唆された。

新規感受性遺伝子座②:FOXP4 (6p21.1) とeQTL解析: rs2495239 (6p21.1; FOXP4遺伝子上流約25kb) は、GWASとバリデーション研究を合わせた統合解析で、OR 1.19 (95% CI 1.12-1.26, p=3.92×10⁻⁹) と有意な関連を示した (Table 1)。各コホート間でのORの方向は一致しており、異質性は認められなかった (p-heterogeneity=0.069)。インピュテーション解析 (1000 Genomes EASパネルを使用) により、FOXP4領域の24個のSNPが有意な関連 (p < 10⁻⁴) を示し、rs7741164が最も強い関連SNPとして同定された (Figure 2)。403例の非癌肺組織を用いたeQTL解析では、FOXP4 mRNA発現量がrs2495239のリスクアレル (A) の数と有意に相関し (線形回帰p=0.023)、リスクアレルがFOXP4の高発現と関連することが示された。この結果は、FOXP4高発現がEGFR変異陽性LADCの発症を促進する転写制御機序として機能する可能性を示唆する。

EGFR変異陽性LADC感受性の民族差と性・喫煙中立性: 同定された7つのSNPは、性別や喫煙状態 (喫煙者 vs 非喫煙者) によって有意な関連の差を示さなかった (Supplementary Table 5)。このことは、EGFR変異LADCへの遺伝的感受性が、性別や喫煙ステータスに依存しない共通の経路 (免疫応答や転写制御) に起因する可能性を示唆する。また、rs2495239のリスクアレル頻度はアジア人集団で0.38と、ヨーロッパ人集団の0.08と比較して高頻度であった (Supplementary Table 16)。この民族差は、EGFR変異肺腺癌のアジア人における高罹患率 (30-50% vs 欧米10-20%) を部分的に説明しうる遺伝的因子として示唆された。

考察/結論

本研究は、日本人集団における大規模GWASおよび2つの検証研究を通じて、EGFR変異陽性肺腺癌に特異的な新規感受性遺伝子座として、HLA class II領域のHLA-DPB1 (rs2179920; OR 1.36, 95% CI 1.27-1.47, p=5.1×10⁻¹⁷) とFOXP4 (rs2495239; OR 1.19, 95% CI 1.12-1.26, p=3.9×10⁻⁹) を同定した。

新規性: 本研究で初めて、HLA-DPB1およびFOXP4がEGFR変異陽性LADCの感受性に関連することを新規に同定した。特にHLA-DPB1のリスクバリアントは、HLA class II分子によるEGFR変異腫瘍抗原に対する免疫応答の変化を介して発癌リスクを修飾するという機序を示唆しており、免疫応答と腫瘍発症の新たな関連性を提起した。FOXP4のリスクアレルと発現上昇の関連は、FOXP4が肺腺癌 (特にEGFR変異型) の発生を促進する転写制御因子として機能する可能性を示した。

先行研究との違い: これまでの肺癌GWASでは、EGFR変異非特異的な感受性遺伝子座が報告されてきたが、本研究はEGFR変異陽性LADCに特化した解析を行うことで、既知の遺伝子座 (TERT, BTNL2, TP63, BPTF) がEGFR変異陽性LADCに対してより強く関連すること、および新規の特異的遺伝子座が存在することを明らかにした点で、これまでの研究と異なる。特に、EGFR変異陽性LADCの感受性が性別や喫煙ステータスに依存しない共通の経路に起因するという知見は、喫煙と独立した固有の遺伝的リスク因子を持つ非喫煙者肺腺癌の発症機序の解明に貢献する。

臨床応用: 本研究で同定された遺伝子座は、EGFR変異陽性LADCの遺伝的リスク評価に利用できる可能性がある。特に、アジア人集団で高頻度に見られるEGFR変異陽性LADCの民族差を部分的に説明しうる遺伝的因子として、これらのSNPが将来的にリスクスクリーニングや個別化医療の基盤となる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、これらの感受性遺伝子座がEGFR-TKIや免疫療法の奏効予測因子として活用できるかどうかの検証が必要である。また、HLA-DPB1のGlu57Asp変異がEGFR変異腫瘍細胞に対する免疫応答に具体的にどのように影響するのか、FOXP4の高発現がEGFR変異LADCの発症を促進する分子メカニズムの詳細を解明するためのさらなる機能研究が残されている。他のアジア人集団や非アジア人集団におけるこれらの遺伝子座の関連を検証することも今後の研究方向性である。

方法

本研究は3段階のGWAS設計を採用した。この研究は、National Cancer Center Hospital (NCCH) を中心とした多施設共同研究であり、BioBank JapanプロジェクトおよびJapan PGx Data Science Consortium (JPDSC) からの検体も利用したレトロスペクティブコホート研究として実施された。発見コホート (GWAS) では、EGFR変異陽性LADC患者663例と健常対照4,367例 (全て日本人) を対象とした。Illumina HumanOmni1-QuadおよびOmniExpressチップを用いて約250万SNPをタイピングした。品質管理 (低コールレート、ハーディー・ワインバーグ平衡からの逸脱、性別不一致、近親者などを除外) および主成分分析 (PCA) による集団層別化の補正後、ロジスティック回帰分析 (年齢、性別、喫煙状況、主成分を共変量として調整) を用いてSNPと疾患リスクとの関連を評価した。

バリデーション研究では、GWASで有望な関連を示したSNP (p < 1 × 10⁻⁴) を、2つの独立した日本人コホートで検証した。第1検証コホートはEGFR変異陽性LADC患者1,275例と対照6,817例、第2検証コホートはEGFR変異陽性LADC患者1,235例と対照3,974例で構成された。合計でEGFR変異陽性LADC患者3,173例と対照15,158例が解析対象となった。SNPジェノタイピングには、マルチプレックスPCRベースのInvaderアッセイ、TaqMan法、またはHumanOmni2.5 BeadChipキットを用いた。両検証コホートの結果は固定効果モデルを用いて統合された。

機能解析として、新規同定された遺伝子座について詳細な解析を実施した。HLA class II領域の新規遺伝子座については、日本人特異的HLAインピュテーションリファレンスパネルを用いてHLAアレルおよびアミノ酸多型のインピュテーション解析を行った。FOXP4 (forkhead box P4) 領域の新規遺伝子座については、1000 Genomes Projectの東アジア人 (EAS) パネルを用いてインピュテーション解析を行った。さらに、403例の非癌肺組織におけるFOXP4 mRNA発現量をリアルタイムPCRで測定し、リスクアレルとの関連を線形回帰分析 (年齢、性別、喫煙状況で調整) で評価した。また、EGFR変異陽性LADCとEGFR変異陰性LADC間の差次的関連を評価するため、3,694例のEGFR変異陰性LADC患者と対照15,158例を用いたcase-case解析を実施した。統計解析にはR統計環境、JMP、またはPLINK1.06を用いた。Bonferroni補正が多重比較の補正に用いられた。