• 著者: Neel DS, Allegakoen DV, Chatterjee N, Olivas V, Blakely CM, Rotow JK, Le A, Karachaliou N, Rosell R, Doebele RC, Mayekar MK, McCoach CE, Hemmati G, Riess JW, Nichols R, Bivona TG
  • Corresponding author: Trever G. Bivona (UCSF, San Francisco, CA, USA)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2018-10-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30538120

背景

受容体型チロシンキナーゼ (RTK) の染色体転座・融合は肺癌をはじめとする多くの癌の重要な発がん機序である。ROS1 融合遺伝子は肺腺癌の 1-2 % に認められ、CD74、SDC4、SLC34A2、EZR、TPM3、LRIG3 (Leucine-rich repeat and immunoglobulin-like domain-containing protein 3) など計 10 種のパートナー遺伝子との融合が同定されている。最も頻度の高いパートナーは CD74 (全 ROS1 融合の約 50 %) であり、次いで SDC4、SLC34A2 が多い。これらの融合タンパクはいずれもパートナー遺伝子の N 末端配列に ROS1 の C 末端キナーゼドメインが結合した構造を持つ。

クリゾチニブを代表とする ROS1 阻害薬は ROS1 融合 NSCLC 患者に著効し、Shaw et al. NEnglJMed 2015 では median PFS 19 ヶ月が報告されているが、ほぼ全例が最終的に耐性を獲得する。RTK 融合タンパクにおける N 末端パートナーの機能的役割、特に融合タンパクの細胞内局在 (subcellular localization) が下流シグナル伝達に与える影響は十分に解明されていなかった。EML4-ALK 融合タンパクでは、EML4 パートナーが細胞質構造物への局在を規定し、それが RAS/MAPK 経路の活性化に不可欠であることが先行研究で示されており、ROS1 でも類似の機序が働く可能性が示唆された。

RAS/MAPK シグナリングはエンドソームを含む脂質膜コンパートメントから発信されることが確立されており、エンドソームへの局在が MAPK 経路活性化の必要条件となる可能性がある。一方、小胞体 (ER) に局在する RTK 融合タンパクでは MAPK 経路へのカップリングが損なわれると予想された。しかし、異なる ROS1 融合パートナーが細胞内局在に与える影響や、それが MAPK 経路活性化の程度にどのように影響するかについては、詳細なメカニズムが未解明であった。特に、CD74-ROS1、SDC4-ROS1、SLC34A2-ROS1といった主要な融合パートナー間での細胞内局在とシグナル伝達の差異、およびその腫瘍増殖能への影響については、体系的な比較研究が不足していた。Bergethon et al. JClinOncol 2012Takeuchi et al. NatMed 2012 が ROS1 融合の臨床的意義を確立した一方で、融合パートナーによる機能的差異の解明は十分に進んでいなかった。本研究は、これらのギャップを埋めることを目的とする。

目的

異なるパートナー遺伝子を持つ ROS1 融合タンパク (CD74-ROS1、SDC4-ROS1、SLC34A2-ROS1) の細胞内局在を同定し、それが MAPK 経路を含む下流シグナル伝達の質および in vivo 腫瘍増殖能に与える影響を解明すること。さらに、エンドソーム局在と MAPK 活性化の因果関係を強制局在変換実験 (FYVE ドメイン融合) によって直接検証し、SHP2 を介したシグナル伝達機序および治療応答との連関を明らかにすること。本研究は、ROS1 融合タンパクの N 末端パートナーが細胞内局在を規定し、その結果として異なる発がん性シグナル伝達と腫瘍増殖能を示すという仮説を検証することを目的とした。

結果

ROS1 融合タンパクによる MAPK 経路の異なる活性化能: Isogenic 293T 細胞システムにおいて、SDC4-ROS1 および SLC34A2-ROS1 の発現では pERK および pMEK の明確な上昇が認められたのに対し、CD74-ROS1 ではこれらの MAPK 経路マーカーの活性化は顕著に限定的であった (Figure 1C)。一方、JAK/STAT 経路 (pSTAT3) および IRS1 のリン酸化はすべての ROS1 融合タンパクで同程度に活性化されており、経路依存性の差は MAPK に特異的であった。各融合タンパクの発現量に有意差はなく、ROS1 キナーゼドメイン配列は全群で同一であることから、MAPK 活性化の差はキナーゼ活性の差ではなく N 末端パートナーに由来することが示された。患者由来 NSCLC 細胞株での siRNA ノックダウン実験でも同結果が再現された (Figure 1D-G)。SDC4-ROS1 (CUTO-2) および SLC34A2-ROS1 (HCC78) の siRNA ノックダウンは MAPK 経路を抑制したが、CD74-ROS1 (CUTO-23、CUTO-33) のノックダウンでは MAPK 変化は認められなかった。

MAPK 経路活性化の必要十分性と crizotinib 感受性: 構成的活性型 MEK (MEK-DD) の強制発現は、SDC4-ROS1 陽性の CUTO-2 および SLC34A2-ROS1 陽性の HCC78 において crizotinib 感受性を部分的に救済したが、CD74-ROS1 陽性の CUTO-23 では救済効果を示さなかった (Figure 2A-C)。これは MAPK 経路がエンドソーム局在型 ROS1 融合タンパク発現細胞の生存に必要かつ十分であることを示す。一方、CA-STAT3 (構成的活性型 STAT3) の発現は全ての ROS1 融合タンパク陽性細胞株において crizotinib 感受性を救済できず、JAK/STAT 経路は細胞生存維持における主要ドライバーではないことが示された。これらの結果は、MAPK経路の活性化が特定のROS1融合タンパクによる細胞生存に不可欠であることを強調している。

SHP2 阻害薬 RMC-4550 の融合タンパク種別感受性: アロステリック SHP2 阻害薬 RMC-4550 は、SDC4-ROS1 (CUTO-2) および SLC34A2-ROS1 (HCC78) 陽性の患者由来 NSCLC 細胞株において高い増殖抑制効果を示した (Figure 2D-E)。IC50 値は HCC78 で 50 nM、CUTO-2 で 100 nM であった。一方、CD74-ROS1 陽性の CUTO-23 および CUTO-33 では感受性が相対的に低く、IC50 値はそれぞれ 500 nM および 1000 nM と有意な差が認められた。SDC4-ROS1 の主要なチロシンリン酸化部位 (Y591 および Y651) の変異体では SHP2 との直接結合が消失したことから、SDC4-ROS1 が SHP2 を直接リクルートして MAPK 経路を活性化するシグナル経路の存在が示唆された (Figure S6)。これは、SHP2がSDC4-ROS1およびSLC34A2-ROS1によるMAPK経路活性化の重要なメディエーターであることを示唆する。

ROS1 融合タンパクの細胞内局在の相違: 免疫蛍光染色・共焦点顕微鏡解析により、ROS1 融合タンパクの細胞内局在が融合パートナーによって明確に規定されることが示された (Figure 3)。SDC4-ROS1 および SLC34A2-ROS1 は初期エンドソームマーカー EEA-1 (early endosome antigen 1) 陽性の点状構造体に共局在し、エンドソーム局在型であることが確認された。これは MAPK シグナリングがエンドソームを含む内膜コンパートメントから発信されるという既知の原則と整合する。一方、CD74-ROS1 は核周辺に集積し、ER マーカーである calnexin および PTP1B と共局在した。この ER 局在は CD74 に内在する 15 アミノ酸の N 末端細胞質伸長領域 (ER アンカーモチーフ) に由来することが文献的に裏付けられた。患者由来 NSCLC 細胞株においても同様の局在パターンが再現され、isogenic システムの結果を支持した (Figure S8)。

FYVE-CD74-ROS1 による強制局在変換と MAPK 活性化の回復: CD74-ROS1 に FYVE ジンクフィンガードメインを付加した FYVE-CD74-ROS1 を発現させると、免疫蛍光染色で局在が ER からエンドソームへと変化し、EEA-1 陽性の点状構造体への共局在が確認された (Figure 4A)。この強制局在変換は MAPK 経路 (pERK、pMEK) の明確な活性化をもたらしたのに対し、pSTAT3 の変化は認められなかった (Figure 4B)。このことはエンドソーム局在が MAPK 特異的なシグナル発信に必要かつ十分な条件であることを直接証明し、局在とシグナリングの因果関係を確立した。この実験は、細胞内局在がROS1融合タンパクのシグナル伝達特性を決定する上で極めて重要であることを明確に示した。

In vivo 腫瘍形成能の差:エンドソーム局在型の優位性: NIH-3T3 細胞を用いた皮下腫瘍形成試験において、SDC4-ROS1 および SLC34A2-ROS1 を発現させた細胞は腫瘍を形成し、かつその増殖速度は CD74-ROS1 発現細胞由来の腫瘍より有意に速かった (Figure 5B)。例えば、実験開始から 20 日後の腫瘍体積は SDC4-ROS1 群で約 800 mm³、SLC34A2-ROS1 群で約 700 mm³ であったのに対し、CD74-ROS1 群では約 200 mm³ であった (p<0.001)。空ベクター発現 NIH-3T3 細胞では腫瘍は形成されず、EGFR L858R 発現細胞では腫瘍形成が認められた (陽性対照)。腫瘍組織からの explant 解析では SDC4-ROS1 および SLC34A2-ROS1 腫瘍で高レベルの MAPK 活性化が確認された (Figure S10)。さらに、FYVE-CD74-ROS1 発現 NIH-3T3 細胞の腫瘍はWild-type CD74-ROS1 発現細胞の腫瘍よりも有意に速い速度で増殖し (Figure 5D)、エンドソーム局在の誘導が腫瘍増殖能の亢進を直接もたらすことが実証された。これらの結果は、MAPK経路を活性化するROS1融合タンパクがより攻撃的な腫瘍を形成することを示している。

考察/結論

本研究は、RTK 融合タンパクにおける N 末端パートナーが細胞内局在を規定し、その局在が下流シグナル伝達の質 (特に MAPK 経路活性化の有無) と腫瘍の侵攻性を決定するという新規メカニズムを、複数の独立した実験系で実証した。ROS1 融合タンパク間で MAPK 経路活性化の程度が明確に異なること、それがエンドソーム局在 (SDC4-ROS1、SLC34A2-ROS1) か ER 局在 (CD74-ROS1) かに対応すること、そして FYVE 強制局在変換実験がその因果関係を直接証明したことは、本研究の最大の強みである。

先行研究との違い: これまでの研究では、RTK融合タンパクのN末端パートナーの機能的役割、特に細胞内局在が下流シグナル伝達に与える影響は十分に解明されていなかった。本研究は、異なるROS1融合タンパクが異なる細胞内局在を示し、それがMAPK経路活性化の程度と腫瘍増殖能に直接影響を与えることを、SDC4-ROS1、SLC34A2-ROS1、CD74-ROS1という主要な融合パートナー間で比較し、その因果関係を強制局在変換実験によって明確に示した点で、先行研究と異なる。

新規性: 本研究で初めて、ROS1融合タンパクのN末端パートナーが細胞内局在を規定し、エンドソーム局在がMAPK経路の強力な活性化と高い腫瘍増殖能に結びつくという新規メカニズムを同定した。また、SHP2がSDC4-ROS1からMAPK経路への橋渡し分子として機能する可能性も示唆された。なぜエンドソームでは MAPK が活性化され ER では活性化されないかの精確なメカニズム (例: コンパートメント特異的な RAS GEF/GAP や MEK/ERK ホスファターゼへのアクセシビリティの差、あるいは KSR や SHP2 との会合効率の差) は今後の検討課題である。

臨床応用: 現在の臨床診療では ROS1 融合の検出は主に break-apart FISH アッセイで行われ、N 末端パートナーの同定は一般に行われていない。本研究の結果は、融合パートナーの同定が腫瘍の侵攻性 (MAPK 依存性の有無) の予測や適切な治療戦略の選択に重要である可能性を示す。特に、CD74 の短鎖アイソフォーム (N 末端 ER アンカーモチーフを欠く) が存在する場合には CD74-ROS1 であってもエンドソーム局在を取り、MAPK が活性化される可能性があり、診断の際のアイソフォーム識別の重要性も示唆された。SDC4-ROS1 および SLC34A2-ROS1 融合 NSCLC では、ROS1 阻害薬と MAPK 経路阻害薬 (SHP2 阻害薬、MEK 阻害薬、ERK 阻害薬) の upfront 併用療法が耐性出現を遅延・防止する合理的な戦略となりうる。SHP2 阻害薬 RMC-4550 が MAPK 依存性 ROS1 融合陽性細胞株で高感受性を示した知見は、この戦略を支持するものである。

残された課題: 本研究は基礎研究であり、患者由来 PDX モデルや臨床データとの対応は未解明の部分が残る。ROS1 融合陽性患者由来細胞株の数が限られており、in vivo 実験も NIH-3T3 という上皮細胞由来ではないモデルを用いている。CD74-ROS1 が MAPK を活性化しないことが腫瘍増殖能の低下と関連するにもかかわらず、CD74 は最頻の ROS1 融合パートナーであることとの臨床的矛盾を解消するためには、JAK/STAT や IRS1 などの代替経路が腫瘍形成に十分であるかどうかの検証が必要である。さらに、パートナー遺伝子の種類による crizotinib の臨床的有効性や PFS の差を臨床コホートで確認する後ろ向き・前向き研究が今後の課題として残されている。

方法

以下の実験系を組み合わせて検証した。

① Isogenic 細胞システムの構築:レンチウイルスまたはレトロウイルスを用いて、HEK-293T 細胞および正常気管支上皮 BEAS-2B (Bronchial Epithelial Cells) 細胞に SDC4-ROS1、SLC34A2-ROS1、CD74-ROS1 の各融合タンパクを安定発現させた。患者由来 ROS1 陽性 NSCLC 細胞株として HCC78 (SLC34A2-ROS1)、CUTO-2 (SDC4-ROS1)、CUTO-23 および CUTO-33 (いずれも CD74-ROS1) を使用した。細胞株は全てマイコプラズマ検査を3ヶ月ごとに実施し、20継代未満の細胞を使用した。HCC78細胞はSTR検査により認証された。

② シグナル伝達の比較解析:免疫ブロット法により、pROS1 (Y2274)、pERK (Y202/204)、pMEK1/2 (Ser217/221)、pSTAT3 (Y705)、pAKT (S473) のリン酸化レベルを定量した。siRNA を用いた ROS1 ノックダウン (終濃度 25 nM、55 時間後にライセート採取) により、各患者由来細胞株での融合タンパク依存的な MAPK 活性化を検証した。Crystal violet アッセイは n = 3 の独立した実験で実施し、470 nM の吸光度を測定した。

③ 免疫蛍光染色・共焦点顕微鏡解析:固定後の細胞に対し、EEA-1 (early endosome antigen 1、初期エンドソームマーカー)、calnexin (ER マーカー)、PTP1B (ER マーカー) との共局在を Nikon Ti 倒立顕微鏡 (CSU-W1 スピニングディスク共焦点、100× 対物) で解析した。画像はMicroManagerソフトウェアで取得し、Schindelin et al. NatMethods 2012を用いて解析した。

④ FYVE ドメイン融合による強制局在変換:CD74-ROS1 に FYVE ジンクフィンガードメイン (エンドソームターゲティングドメイン) を N 末端側に付加した FYVE-CD74-ROS1 コンストラクトを作製した。免疫蛍光染色で局在変化を確認後、MAPK シグナル変化を免疫ブロット法で評価した。

⑤ MEK-DD および CA-STAT3 強制発現による経路依存性の検証:構成的活性型 MEK (MEK-DD) または構成的活性型 STAT3 (CA-STAT3) の発現が crizotinib 感受性を救済できるか否かを、Crystal violet アッセイ (6-8 日間培養) で定量化した。

⑥ SHP2 阻害実験:アロステリック SHP2 阻害薬 RMC-4550 を用いて、各患者由来細胞株での増殖抑制効果 (IC50) を Crystal violet アッセイで評価した。SDC4-ROS1の主要なチロシンリン酸化部位 (Y591およびY651) の変異体を作製し、SHP2との結合を評価した。

⑦ In vivo 腫瘍形成試験:NIH-3T3 細胞に各融合タンパクを発現させ、8 週齢 NOD/SCID マウスの側腹部に 1 × 10⁶ cells (3 種の ROS1 融合タンパク比較群) または 5 × 10⁵ cells (FYVE-CD74-ROS1 vs WT-CD74-ROS1 比較群) を皮下移植 (matrigel 使用)。各群 n = 6 マウスで腫瘍体積の経時変化を測定し、平均値 ± s.e.m. として比較した (UCSF IACUC AN107889 承認)。統計解析には Prism 6 (Graphpad Software) を用いた多重 t 検定を実施した。