- 著者: Takeuchi K, Soda M, Togashi Y, Suzuki R, Sakata S, Hatano S, Asaka R, Hamanaka W, Ninomiya H, Uehara H, Choi YL, Satoh Y, Okumura S, Nakagawa K, Mano H, Ishikawa Y
- Corresponding author: Kengo Takeuchi (Cancer Institute, Japanese Foundation for Cancer Research, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-02-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 22327623
背景
NSCLC (non-small cell lung cancer: 非小細胞肺癌) において融合型チロシンキナーゼが治療標的として確立されたのは、EML4 (echinoderm microtubule-associated protein-like 4)-ALK融合遺伝子の同定に始まる (Soda et al. Nature 2007)。EML4-ALK融合は肺腺癌の約4〜6%に存在し、crizotinib (ALK/MET/ROS1阻害薬) が有効な治療対象として確立されていたが、著者らの先行研究でKIF5B-ALK融合も同定され、KIF5B遺伝子が複数のキナーゼパートナーと再配列する可能性が示唆されていた (Takeuchi et al. ClinCancerRes 2009)。ROS1については、ホスホプロテオミクス解析によってSLC34A2 (solute carrier family 34 member 2)-ROS1およびCD74 (cluster of differentiation 74)-ROS1融合がNSCLC細胞株1例・組織1例でそれぞれ報告されていたが (Rikova et al. Cell 2007)、これらROS1融合タンパクの発癌能と集団内頻度は不明のままであった。RET融合はこれまで甲状腺乳頭癌に特異的な変異として知られており、チェルノブイリ・原爆被爆者などの放射線関連甲状腺癌で高頻度に観察されていたが、肺癌での存在は一切報告されていなかった。EGFR変異・KRAS変異・ALK融合が相互に排他的であることから、他の未同定キナーゼ融合が肺癌の分子サブタイプとして潜在する可能性が仮説として存在したが、1,000例を超える大規模手術コホートでの体系的スクリーニングという gap in knowledge が存在しており、複数のキナーゼ融合を同時かつ網羅的に解析した研究はなかった。
目的
1,528例の外科切除肺癌において、組織病理学と分子解析を統合したスクリーニングシステムを用いてALK・ROS1・RETの融合遺伝子を系統的に同定し、各融合の頻度・融合パートナー・臨床病理学的特徴・発癌能を包括的に解析すること。特に新規融合遺伝子KIF5B-RETおよびCCDC6-RETの肺癌での存在を証明し、治療標的としての可能性をvandetanib (VEGFR-2/VEGFR-3/EGFR/RET阻害薬) およびcrizotinibを用いて検証すること。
結果
ALK融合陽性の系統的同定: IHC陽性45腫瘍のうち44腺癌でALK融合を確認した (1例の大細胞神経内分泌癌はFISH陰性、wild-type ALK発現)。ALK融合はNSCLCの3.0% (n=44/1,485例)・腺癌の3.9% (n=44/1,121例) に存在した (Fig 2d)。融合パートナーはEML4-ALK 41例 (E2;A20・E6;A20・E13;A20・E14;ins11del49A20・E14;del14A20・E20;A20・E13;ins69A20の7バリアント) および KIF5B-ALK 3例であり、うち1例は未報告の新規バリアントK17;A20であった。全ALK融合陽性腫瘍はEGFR・KRAS変異を持たず、TTF1 (thyroid transcription factor-1) 陽性の腺癌であった。ALK陽性例の30% (n=13/44例) はp63 (tumor protein p63, squamous cell carcinoma marker) 弱陽性であった。
ROS1融合陽性の同定と新規融合パートナー: ROS1 split FISH陽性13例でROS1融合を確認した。ROS1融合はNSCLCの0.9% (n=13/1,476例)・腺癌の1.2% (n=13/1,116例) に存在した (Fig 1)。5’ RACEによって6種の融合パートナーを同定し、そのうちTPM3 (tropomyosin 3)・SDC4 (syndecan-4)・EZR (ezrin)・LRIG3 (leucine-rich repeats and immunoglobulin-like domains 3) の4種は本研究で初めて同定された新規パートナーであった。既知のSLC34A2・CD74を含む全6種でROS1の切断点はexon 32・34・35のいずれかであり、全融合でキナーゼドメインが保持された。3T3形質転換アッセイでSDC4-ROS1の発癌能を確認し、ヌードマウスn=4/4例で皮下腫瘍が形成された (Fig 1d)。ALK・ROS1融合パートナーと異なり、コイルドコイルドメインを持つのはTPM3とEZRのみであり、ALK・RET融合でのコイルドコイルドメインによるホモダイマー化とは異なるメカニズムが示唆された。
RET融合の新規同定とvandetanib感受性: KIF5B split FISHで22腫瘍が陽性であり、multiplex RT-PCRでKIF5B-RET融合を12例に同定した (K15;R12が最多でn=8例、K16;R12・K22;R12・K23;R12・K24;R11が各1例)。さらに日常病理診断で粘液性篩状パターンを認識したことからCCDC6 (coiled-coil domain containing 6)-RET陽性の1例 (RET#14) を追加同定し、RT-PCRでもう1例 (RET#13) を確認した。計14例のRET融合陽性腫瘍が同定され (NSCLCの0.9%、n=13/1,482例; 腺癌の1.2%、n=13/1,119例)、KIF5B-RET融合はinv(10)(p11.22q11.2) によるKIF5B exon 15〜24とRET exon 11〜12の逆位融合であった (Fig 2a)。CCDC6-RETは甲状腺癌で最初に記述された融合であり、肺癌での同定は本研究が初となった。3T3アッセイでKIF5B-RET (K15;R12L・K15;R12S両アイソフォーム) の発癌能を確認し、ヌードマウスn=4/4例で皮下腫瘍を形成した (Fig 2e)。Ba/F3細胞ではK15;R12L発現細胞がIL-3非存在下で増殖しoncogene addictionが確認され、vandetanibがその増殖を抑制した一方、crizotinibでは抑制効果が得られなかった (Supplementary Fig 6-7)。EML4-ALK発現細胞ではvandetanibの抑制効果は認められなかった。
融合陽性腫瘍の組織病理学的特徴と相互排他性: 全71例の融合陽性腫瘍 (ALK n=44例・ROS1 n=13例・RET n=14例) は全例腺癌・TTF1陽性であり、EGFR・KRAS変異は全例陰性であった。ALK・ROS1・RET融合は相互に排他的であった。粘液性篩状パターン (mucinous cribriform pattern) は融合陽性腫瘍 (n=22/71例) に融合陰性腺癌 (n=7/77例) より有意に多く (p=0.00088)、EML4-ALK陽性腫瘍で特に高頻度 (70%、n=29/41例) であった。CD74-ROS1陽性3例全例にも同パターンが観察され、RET#14はこのパターンを日常診断で認識したことにより発見された。
多変量予後解析: 1,116例腺癌のCox多変量解析で、OS不良の独立した予後因子として年齢≥50歳・男性・高病期・キナーゼ融合陰性の4因子が同定された (Supplementary Table 3)。融合陽性群とEGFR変異群のOSには有意差がなかった (p=0.32)。若年層 (≤50歳) の腺癌107例中16% (n=17例) がいずれかのキナーゼ融合を有しており、EGFR変異の>40%と合算すると若年肺腺癌の>50%がキナーゼ阻害薬の治療対象となり得ると推計された。
考察/結論
本研究は、組織病理学と分子スクリーニングを統合した系統的手法により1,529例規模でALK・ROS1・RETの3種類のキナーゼ融合を網羅的に同定した最初の大規模研究であり、NSCLCにおける融合型ドライバー変異の全体像 (腺癌全体の約6%) を提示した。最も重要な発見は、これまでの研究では甲状腺乳頭癌に限定されていたRET融合が肺腺癌にも存在することを本研究で初めて証明したことであり、KIF5B-RETおよびCCDC6-RETという新規融合癌遺伝子が機能的な発癌能を持ち、vandetanibによってRET阻害が有効である一方crizotinibは無効であることを示した点に大きな意義がある。この薬理学的対比は、ALK阻害薬とRET阻害薬が構造的に異なる治療戦略を要することを示し、その後のselpercatinib・pralsetinibといったRET選択的阻害薬開発の直接的な端緒となった。
ROS1融合についても、既報のSLC34A2・CD74に加えTPM3・SDC4・EZR・LRIG3という4種の新規融合パートナーを新規に同定し、全てで発癌能を確認した。多様な融合パートナーにも関わらずROS1のキナーゼドメインが全融合で保持されており、ROS1阻害薬 (crizotinib・entrectinib・lorlatinib) の標的として一貫した構造的妥当性を持つことが示された点は、その後の臨床開発の生物学的根拠となった。
本知見の臨床的意義は多岐にわたる。全71例の融合陽性腫瘍が腺癌・TTF1陽性・EGFR/KRAS変異陰性という均一なプロファイルを示すことは、NSCLCの分子サブタイプ分類における相互排他性モデルを確立し、診断アルゴリズムの基盤を構築した。粘液性篩状パターンが融合陽性腫瘍に有意に多い (p=0.00088) という組織形態学的相関は、日常病理診断から分子標的治療適応患者を効率的に同定する臨床的有用性を持ち、実際にRET#14のCCDC6-RET発見に直接貢献した。さらにキナーゼ融合陰性が独立した予後不良因子であること (EGFR変異群と同等のOS) は、融合型ドライバー変異がoncogene addictionによる予後良好な分子サブタイプであることを示し、今後の臨床現場での積極的な分子診断の実施を支持する。
残された課題として、第一にROS1融合パートナーの種類が治療反応性・耐性パターン・予後に与える影響の解析が挙げられる。第二にRET融合と放射線被曝歴 (チェルノブイリ・原爆被爆者・福島事故関連者) との後方視的関連解析と前向きモニタリングが今後の検討に値する。第三にvandetanibは多標的阻害薬であり選択的RET阻害薬の臨床的有効性検証、および各ROS1・RET融合パートナーサブタイプでの腫瘍生物学的差異の解明が今後の研究課題である。
方法
1,528例の外科切除肺癌組織を用いた組織マイクロアレイ (TMA: tissue microarray) を作製し、以下の多段階スクリーニングを実施した。ALK融合の検出には intercalated antibody-enhanced polymer法による IHC (immunohistochemistry: 免疫組織化学) を一次スクリーニングとして用い、陽性例にmultiplex RT-PCRと FISH (fluorescence in situ hybridization: 蛍光in situハイブリダイゼーション) split assay・fusion assayを適用した。ROS1融合の検出には ROS1 split FISH を一次スクリーニングとして用い、陽性13例に対して5’ RACE (rapid amplification of cDNA ends: cDNA末端迅速増幅法) で融合パートナーを同定し、fusion-specific RT-PCRで確認した。RET融合の検出にはKIF5B split FISHを一次スクリーニングとして用い、陽性例に3’ RACE・multiplex RT-PCRを適用した。EML4-ALK・KIF5B-ALK・KIF5B-RET・CCDC6-RETを同時検出可能なrevised multiplex RT-PCRシステムも構築した。発癌能の検証にはNIH/3T3線維芽細胞を用いた形質転換フォーカスアッセイおよびBALB/c nu/nuヌードマウス皮下腫瘍形成試験を行った。薬剤感受性試験にはBa/F3細胞 (マウスプロB細胞株、IL-3 (interleukin-3: インターロイキン-3) 依存性増殖) にFlag標識EML4-ALK (E=EML4 exon・A=ALK exon; E13;A20) またはKIF5B-RET (K=KIF5B exon・R=RET exon; K15;R12L・K15;R12S) を導入し、IL-3非存在下でのvandetanibおよびcrizotinibの増殖抑制効果を評価した。予後解析は1,116例の腺癌を対象にCox比例ハザードモデルを用いた多変量解析を実施し、OS (overall survival: 全生存) の独立した予後因子を同定した。