• 著者: Bergethon K, Shaw AT, Ou SHI, Katayama R, Lovly CM, McDonald NT, Massion PP, Siwak-Tapp C, Gonzalez A, Fang R, Mark EJ, Batten JM, Chen H, Wilner KD, Kwak EL, Clark JW, Carbone DP, Ji H, Engelman JA, Mino-Kenudson M, Pao W, Iafrate AJ
  • Corresponding author: A. John Iafrate, MD, PhD (Department of Pathology, Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-01-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 22215748

背景

標的治療薬と分子診断の進歩は、非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療パラダイムを大きく変革した。特に、上皮成長因子受容体 (EGFR) 変異に対するgefitinibやerlotinib、そしてEML4-ALK融合遺伝子を標的とするcrizotinibの成功は、遺伝子変異の同定から臨床試験、そして薬剤承認に至るまでのプロセスが急速に進められる可能性を示した。例えば、ALK融合遺伝子は2007年に発見され、2008年にはスクリーニングが開始、2010年には第I相臨床試験の結果が公表され、2011年には米国食品医薬品局 (FDA) の承認を得るに至ったことは、このパラダイムシフトの典型例である (Kwak et al. NEnglJMed 2010Soda et al. Nature 2007Shaw et al. JClinOncol 2009)。しかし、大規模な遺伝子型解析の努力にもかかわらず、全NSCLCの約40%には依然としてドライバー変異が同定されておらず、新規ドライバー変異の探索が精力的に行われていた。この未解明な領域が、新たな治療標的発見の重要なギャップとして認識されていた。

ROS1は、インスリン受容体スーパーファミリーに属するオーファン受容体型チロシンキナーゼであり、染色体6q22に位置する。ROS1融合遺伝子は、元々1987年から1990年にかけてグリオブラストーマの研究でFIG-ROS1として同定された。その後、2007年にはRikova et al. Cell 2007によって、NSCLC、胆管癌、胃癌、卵巣癌における発癌ドライバーとしての役割が明らかにされた。NSCLCにおけるSLC34A2-ROS1(HCC78細胞株)とCD74-ROS1(1患者サンプル)が最初の2症例として報告された。前臨床的には、ALKとROS1のATP結合部位でのアミノ酸同一性は77%と高く、ALK阻害薬TAE684がHCC78細胞株(SLC34A2-ROS1陽性)の増殖を阻害する最も感受性の高い細胞株の一つであることが示されていた。しかし、crizotinibのROS1に対する感受性は正式には評価されておらず、その効果は不明であった。ROS1陽性NSCLCの頻度、臨床病理学的特徴、および融合パートナーは系統的に評価されておらず、この領域における知識が不足していた。

本研究は、NSCLCドライバー変異スクリーニングプログラムの拡大経験(EGFRに対して1,500例以上、ALKに対して1,500例以上のスクリーニングが実施されていた)を活かし、同様のアプローチでROS1をスクリーニングした。特に、若年非喫煙腺癌といった未同定ドライバーが存在する集団にROS1陽性が集積するという仮説のもと、マサチューセッツ総合病院 (MGH)、ヴァンダービルト大学、カリフォルニア大学アーバイン校、復旦大学の4施設から収集されたNSCLC組織アーカイブを用いた大規模後ろ向きスクリーニングが実施された。

目的

本研究の目的は以下の5点である。(1) NSCLC患者1,073例を蛍光in situハイブリダイゼーション (FISH) 法でスクリーニングし、ROS1再配列の頻度を確定すること。(2) ROS1陽性NSCLCの臨床病理学的特徴を詳細に記述し、ALK陽性NSCLCおよびROS1陰性NSCLCと比較すること。(3) 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR) によりROS1融合パートナーを同定すること。(4) HCC78細胞株およびCD74-ROS1トランスフェクションHEK 293細胞におけるcrizotinib感受性を前臨床的に評価すること。(5) PROFILE 1001試験の拡大Phase 1コホートに登録されたROS1陽性NSCLC患者1例におけるcrizotinibの臨床的奏効を初めて報告すること。これらの目的を達成することで、ROS1再配列がNSCLCの新たな分子サブタイプとして確立され、ROS1を標的とした治療戦略開発の基盤を築くことを目指した。

結果

ROS1再配列の頻度と分子相互排他性: 1,073例のNSCLC組織標本のスクリーニングの結果、ROS1 FISH陽性例は18例 (1.7%) に同定された。また、ALK FISH陽性例は31例 (2.9%) であった。ROS1陽性18例のうち、ALK FISH陽性を示した例は1例も認められず、ROS1再配列とALK再配列は完全に相互排他的であることが示された。同コホート内でのEGFR変異状態の詳細は一部症例のみ評価されたが、ROS1陽性例でのEGFR変異の同時陽性は認められなかった。全スクリーニング集団の22%が非喫煙者であったのに対し、ROS1陽性18例では14例 (78%) が非喫煙者であり (p<0.001)、喫煙歴とROS1陽性率の間に明確な逆相関が認められた。

ROS1陽性NSCLCの臨床病理学的特徴: ROS1陽性18例の臨床病理学的特徴を詳細に解析した (Table 1、Table 2)。ROS1陽性患者の年齢中央値は49.8歳 (範囲 32-79歳) であり、全コホートの年齢中央値62.0歳、ROS1陰性群の62.3歳と比較して有意に若年であった (p<0.001)。性別では女性が61% (11/18例)、男性が39% (7/18例) であったが、有意差は認められなかった (p=0.480)。喫煙歴については、非喫煙者が78% (14/18例) を占め、軽喫煙者が1例 (6%)、喫煙者が2例 (11%) であった (p<0.001)。民族別ではアジア人が28% (5/18例) と過剰に表現されており、全コホートの4%と比較して有意差が認められた (p<0.001)。病期別ではStage IVが61% (11/18例) を占め、進行期での診断が多い傾向が示された (p=0.010)。病理組織型は全例が腺癌 (18/18例、100%) であった (p=0.019)。組織亜型ではsolid高分化型が8/18例 (44%) で最も多く、その他acinar、papillary、mucinous BAC、混合型が認められた。ALK陽性NSCLCで特徴的に見られる印環細胞は、ROS1陽性例では一般的ではなかった。これらの特徴は、若年、非喫煙、腺癌というALK陽性NSCLCの臨床プロファイルと顕著に類似しており、両者が共通の発癌経路を有する可能性が示唆された。

OS解析: MGH内の転移性NSCLC患者におけるKaplan-Meier解析では、ROS1陽性群 (n=11) のOS中央値は663日であり、ROS1陰性群 (n=1,055) のOS中央値607日と比較して有意差は認められなかった (p=0.42)。ROS1陰性、ALK陰性、EGFR変異陰性集団のOS中央値は472日であり、ROS1陰性集団全体のOS中央値607日との差は、EGFR変異陽性例やALK陽性例が含まれることによるバイアスを反映していると考えられる。ROS1陽性患者の長期OS (663日) は、crizotinib使用前のデータとして、標準化学療法での同病期NSCLCのOS中央値 (約300-400日) と比較しても注目に値する。

融合パートナーの同定: RNA量が十分な14例のROS1 FISH陽性検体でRT-PCR解析を実施した (18例中4例は組織量不足のため解析不能)。その結果、CD74-ROS1融合遺伝子が5例 (36%、CD74 exon 6 - ROS1 exon 34融合) で、SLC34A2-ROS1融合遺伝子が1例 (7%、SLC34A2 exon 4 - ROS1 exon 32融合) で同定された (Fig 1C)。しかし、残りの8例では既知の2種類のプライマーセットでは融合パートナーを同定できなかった。これは、これらの症例において新規の融合パートナーまたは既知の融合パートナーの異なるブレークポイントが存在する可能性を示唆している。

前臨床crizotinib感受性試験: 細胞生存率試験では、SLC34A2-ROS1陽性細胞株であるHCC78がcrizotinibに対して中程度の感受性を示した (Fig 2A)。その用量-反応曲線は、ALK陽性細胞株 (H3122、MGH006、高感受性) と、ALK・ROS1陰性細胞株 (PC9、HCC827、crizotinib耐性H3122 CR、低感受性) の中間に位置した。Western blot解析では、HCC78細胞を300 nMのcrizotinibで処理すると、phospho-ROS1が約3倍減少した (Fig 2B)。しかし、同濃度でH3122 (ALK陽性) 細胞のphospho-ALKはほぼ完全に消失した。この差は、crizotinibのROS1に対するIC50がALKに対するIC50よりも高いことを示唆する。さらに、HEK 293細胞にCD74-ROS1をトランスフェクトした実験では、crizotinibがROS1リン酸化を用量依存的に阻害することが確認された (Fig 3)。この阻害は、EML4-ALKトランスフェクト細胞におけるALK阻害とほぼ同濃度で効果が認められ、crizotinibがROS1を実際の標的として阻害することが裏付けられた。

crizotinibへの劇的な臨床的奏効 (初報告): PROFILE 1001試験の拡大コホートに登録されたROS1陽性の進行NSCLC患者1例において、crizotinibによる劇的な臨床的奏効が観察された。この患者は31歳男性、非喫煙者で、2010年8月に多巣性細気管支肺胞上皮癌と診断された。EGFR変異およびALK再配列は陰性であった。一次治療としてerlotinibが投与されたが奏効せず、進行性の増悪と低酸素症のためMGHに紹介された。遺伝子検査でROS1陽性が確認され、PROFILE 1001試験に登録された。2011年4月20日にcrizotinib 250 mg 1日2回投与が開始された。投与開始から1週間以内に症状の著明な改善が認められ、2週間後には低酸素症が消失した。8週後の再評価CTでは多巣性肺腫瘍のほぼ完全な消失が認められ、これは12週後のCTでも確認された (Fig 4)。本報告時点 (投与開始6ヶ月時点) では、患者は再発の証拠なく治療を継続中であった。この症例は、ROS1陽性NSCLCに対するcrizotinibの臨床効果を示す最初の前向き症例報告の一つであり、in vitroでの活性が臨床的にも再現されることを実証した。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、1,073例という当時最大規模のNSCLC ROS1スクリーニングコホートを構築し、ROS1再配列の頻度が1.7%であることを確定した最初の系統的研究である。これは、これまでの散発的な報告とは異なり、ROS1再配列がNSCLCの明確な分子サブタイプとして存在することを示した。ROS1陽性NSCLCの臨床特性(若年、非喫煙、腺癌、アジア人過剰、ALKと相互排他的)はALK陽性NSCLCと類似するが、印環細胞の頻度がROS1陽性例では低いという組織学的相違点も明らかになった。これは、両者が異なる分子経路を経て類似の臨床表現型を形成する可能性を示唆しており、これまでのALK研究では十分に検討されていなかった点である。

新規性: 本研究で初めて、ROS1再配列がNSCLCの約2%に存在し、米国の年間推定新規患者数で約4,000例に相当するという疫学的データが確立された。この頻度はALK再配列の約半分であるが、標的治療開発を正当化するに足る規模である。また、crizotinibがROS1再配列を有する細胞株および患者において抗腫瘍活性を示すことを前臨床的および臨床的に初めて実証した。特に、crizotinibによるROS1陽性NSCLC患者の劇的な臨床的奏効は、ROS1がcrizotinibの真の標的であることを示唆する新規の知見である。

臨床応用: 本論文は、ROS1陽性NSCLCの検査の根拠を確立し、ROS1を通常の遺伝子検査パネルに含めるべきであるという推奨の端緒となった。特に、若年、非喫煙、腺癌という臨床プロファイルは、ROS1スクリーニング対象患者を選択するための重要な指針を提供する。本研究では、全非喫煙者の6%がROS1陽性であることが示されており、この集団におけるROS1検査の有用性が強調される。FISHが主要な診断法として確立されたが、RT-PCRで8/14例が既知の融合パートナーを同定できなかったことは、次世代シーケンシング (NGS) などの補完的診断ツールの必要性を示唆している。本論文の発表後、ROS1陽性NSCLCに対するcrizotinibの臨床試験が加速し、Shaw et al. (NEJM 2014) のPROFILE 1001 ROS1コホート (n=50) での客観的奏効率 (ORR) 72%、無増悪生存期間 (PFS) 19.2ヶ月という優れた結果につながり、2016年のFDA承認へと発展した。

残された課題: 本研究の限界として、18例というROS1陽性患者のサンプルサイズでは、融合パートナーの種類と予後や治療感受性の関係を詳細に検討するには不十分であった点が挙げられる。また、RT-PCRで8例が融合パートナー未同定であったことは、当時のスクリーニング技術の限界を示しており、より網羅的な融合遺伝子検出法の開発が今後の課題として残されていた。MGHコホートにおけるOS解析は後ろ向き研究であり、交絡因子が多く、ROS1再配列そのものの予後意義について決定的な結論を導くには至らなかった。ROS1陽性群のOS中央値は663日であり、ROS1陰性群のOS中央値607日と比較して有意差は認められなかった (p=0.42)。crizotinibの前臨床感受性データでHCC78細胞株がALK陽性株よりも低い感受性を示した点は、in vivoで高いORRを示すことと一見矛盾するが、これはKd測定(ROS1 0.4 nM vs ALK 4.4 nM)とIC50の差(in vitroでROS1>ALK)という異なる測定系の違いによる可能性がある。これらの限界はあるものの、本論文は分子標的治療における「バイオマーカー駆動型薬剤開発」パラダイムを肺癌領域でさらに発展させた先駆的研究として高く評価される。

方法

スクリーニング集団: 本研究は、マサチューセッツ総合病院 (MGH) Cancer Center (n=574)、Vanderbilt University Medical Center (n=443)、University of California Irvine Medical Center (n=52)、Fudan University Shanghai Cancer Center (n=4) の4施設から収集された合計1,073例のNSCLC組織標本 (ホルマリン固定パラフィン包埋; FFPE) を対象とした後ろ向き研究である。本研究は施設内倫理委員会 (IRB) の承認を得て実施された。患者の臨床データ (年齢、性別、病期、組織型、全生存期間 (OS)、喫煙歴) は診療録から収集された。OSは診断日から死亡日までと定義され、追跡不能例、NSCLC以外の原因による死亡例、および生存中の患者は打ち切りとされた。crizotinib臨床試験の患者については、RECIST v1.0 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors, version 1.0) に基づいて奏効が評価された。

ROS1 FISH検出法: ROS1遺伝子を挟む2つのBACクローン (5’側: RP11-835I21を緑、3’側: RP11-1036C2を赤) を用いて、新規にbreak-apart FISHプローブを設計した。FFPE標本は脱パラフィン処理後、プロテアーゼ処理を行い、Hybrite slide processor (Abbott Molecular, Chicago, IL) を用いてFISHプローブと共変性・ハイブリダイゼーションを行った。その後、洗浄、対比染色、カバーガラス封入を行い、Olympus BX61蛍光顕微鏡 (Olympus, Tokyo, Japan) およびCytovisionソフトウェア (Genetix, San Jose, CA) を用いて解析した。腫瘍細胞の15%超にsplit signalが認められる場合を陽性と定義した。スクリーニング開始前に、HCC78細胞株でFISH陽性を確認した。

RT-PCRと融合パートナー同定: RNA量が十分な18例中14例のFFPE組織からRNAを抽出した (Agencourt Formapure法)。抽出したRNAはSuperscript III cDNA合成キット (Invitrogen, Carlsbad, CA) を用いて逆転写された。当時既知のROS1融合遺伝子はSLC34A2-ROS1 (HCC78細胞株、SLC34A2 exon 4 - ROS1 exon 32融合) とCD74-ROS1 (1患者サンプル、CD74 exon 6 - ROS1 exon 34融合) の2種類のみであったため、SLC34A2 exon 4およびCD74 exon 6のフォワードプライマーと、ROS1 exon 32およびROS1 exon 34のリバースプライマーの4種類の組み合わせでPCRを実施した。PCR産物はSanger sequencingにより配列決定され、融合遺伝子の種類が同定された。

ALK FISH・EGFR変異・KRAS変異の並行解析: ALK再配列は、既報のbreak-apart FISH法を用いて確認された。ROS1とALKの相互排他性を検証するため、両遺伝子の再配列状態を比較した。一部の症例では、EGFR変異およびKRAS変異の状態も確認された。

前臨床crizotinib感受性評価:

  • 細胞生存率試験: NSCLC細胞株 (PC9、HCC827、MGH006、H3122、HCC78) を用いて、crizotinibによる72時間薬物処理後の細胞生存率をCellTiterGlo法 (Promega, Fitchburg, WI) で評価した。
  • Western blot: HCC78細胞を300 nMのcrizotinibで処理し、phospho-ROS1およびtotal ROS1の変化をWestern blotで評価した。比較のため、H3122 ALK陽性細胞におけるphospho-ALKの変化も同様に評価した。
  • HEK 293細胞トランスフェクション: CD74-ROS1またはEML4-ALK E13;A20のcDNA構築物をHEK 293細胞にトランスフェクトし、増量するcrizotinibによるROS1およびALKリン酸化阻害効果を確認した。

crizotinib臨床症例: PROFILE 1001試験 (ClinicalTrials.gov identifier: NCT00585195) の拡大コホートに登録されたROS1陽性 (FISH確認) の進行NSCLC患者1例について、前向きに経過を観察した。奏効評価はRECIST v1.0に基づいて行われた。

統計解析: 統計解析には、Fisher’s exact検定 (二値変数間の関連)、χ2検定、またはt検定 (平均値の比較) を使用した。OSの推定にはKaplan-Meier法を用い、遺伝子型間の差はlog-rank検定で比較した。データ解析はPrism 5.0b (GraphPad Software, San Diego, CA) を用いて実施され、P値が0.05未満を有意とした (両側検定)。