• 著者: Lorenza Landi, Rita Chiari, Marcello Tiseo, Federica D’Incà, Claudio Dazzi, Antonio Chella, Angelo Delmonte, Laura Bonanno, Diana Giannarelli, Diego Luigi Cortinovis, Filippo de Marinis, Gloria Borra, Alessandro Morabito, Cesare Gridelli, Domenico Galetta, Fausto Barbieri, Francesco Grossi, Enrica Capelletto, Gabriele Minuti, Francesca Mazzoni, Claudio Verusio, Emilio Bria, Greta Alì, Rossella Bruno, Agnese Proietti, Gabriella Fontanini, Lucio Crinò, Federico Cappuzzo
  • Corresponding author: Federico Cappuzzo (AUSL Romagna, Dipartimento di Oncologia ed Ematologia, Ravenna, Italy)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-08-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31416808

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) の治療は、過去10年間で分子標的療法の発見により劇的に進歩した。特に、EGFR遺伝子変異やALK再構成を有するNSCLCでは、標的療法が疾患の自然史を大きく変え、患者の生存期間を大幅に延長している (Solomon et al. 2018; Peters et al. 2017)。これらの成功に続き、ROS1再構成やMET遺伝子異常(増幅またはエクソン14変異)など、新たな治療標的となる遺伝子異常が同定されてきた (Bergethon et al. 2012; Drilon et al. 2017)。Crizotinibは、当初MET阻害剤として開発されたが、その後ALKおよびROS1に対する高い特異性が示され、ALK陽性NSCLCの一次治療薬として世界中で承認された。ROS1陽性NSCLCにおけるcrizotinibの有効性は、PROFILE 1001試験 (Shaw et al. 2014) で客観的奏効率 (ORR) 72%、中央値無増悪生存期間 (PFS) 19ヶ月超という良好な結果が報告され、その役割が確立された。しかし、MET異常を有するNSCLC患者に対するcrizotinibの有効性は、前向き研究において明確に示されておらず、その臨床的意義は未解明な点が多かった。

MET増幅またはエクソン14変異を有するNSCLCは、有効な分子標的療法が不足しており、予後不良であることが大きな課題であった (Cappuzzo et al. 2009; Tong et al. 2016)。先行研究では、MET増幅を有する固形腫瘍に対するcrizotinibの有効性が示唆されたものの、NSCLCにおけるORRは約40%に留まり、特に中程度または高レベルのMET増幅を有する腫瘍でのみ活性が認められる傾向があった (Camidge et al. 2014)。また、METエクソン14変異を有するNSCLC患者において、crizotinibやcabozantinibなどの抗MET薬が腫瘍縮小を誘導することが報告されたが (Frampton et al. 2015)、PROFILE 1001試験におけるMETエクソン14変異患者のORRは44%であり、その有効性にはさらなる検証が必要であった (Drilon et al. 2016)。これらの背景から、MET異常を有するNSCLCに対する効果的な治療戦略が緊急に求められており、crizotinibの有効性を前向きに評価することが重要であると考えられた。

本研究は、前治療済みの進行NSCLC患者において、ROS1再構成またはMET増幅・エクソン14変異を有する2つのコホートに対し、crizotinibの有効性を前向きに検証することを目的とした。特に、MET異常を有するNSCLCに対する有効性データが不足しており、このギャップを埋めることが期待された。METROS (MET-Deregulated or ROS1-Rearranged Pretreated Non-Small Cell Lung Cancer) 試験は、この臨床的ニーズに応えるために設計された。

目的

本研究の主要目的は、前治療済みの進行非小細胞肺がん (NSCLC) 患者において、ROS1再構成を有するコホートAと、MET増幅またはMETエクソン14変異を有するコホートBのそれぞれに対するcrizotinibの客観的奏効率 (ORR) を評価することである。副次目的としては、両コホートにおける無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、安全性プロファイル、およびROS1 FISH陽性率やMET増幅レベルと奏効との相関を評価することであった。特に、MET異常を有するNSCLCに対するcrizotinibの有効性に関する前向きなデータが不足している現状において、その臨床的意義を明らかにすることが本試験の重要な目的である。

結果

患者背景と治療期間: 2014年12月から2017年3月にかけて、505例がスクリーニングされ、最終的に各コホート26例(計n=52)が登録された (Figure 1)。コホートA(ROS1陽性)は主に女性、非喫煙者で中央値年齢68歳であった一方、コホートB(MET異常)は主に男性、喫煙歴ありで中央値年齢56歳であった (Table 1)。両コホートとも、ほとんどの患者がECOG PS 0-1であり、2つ以上の転移部位を有し、crizotinibを二次治療として受けた。コホートAの治療期間中央値は15.2ヶ月 (95% CI 4.7-25.2) であったのに対し、コホートBでは4.0ヶ月 (95% CI 2.0-5.5) と有意に短かった。

コホートA(ROS1陽性)の主要有効性成績: ROS1陽性コホートA (n=26) において、主要エンドポイントであるORRは65% (95% CI 44-82) であり、CR 1例 (4%)、PR 16例 (61%) が含まれた。SDは6例 (23%) で、病勢制御率 (DCR) は85%であった。標的病変の縮小率中央値は-51.7% (IQR -77.5〜-42.7%) であった。奏効までの期間 (TTR) 中央値は7.9週 (IQR 7.4-10.3)、奏効持続期間 (DOR) 中央値は21.4ヶ月 (95% CI 12.7-30.1) であった。中央値追跡期間21ヶ月 (95% CI 19.0-24.5) における中央値PFSは22.8ヶ月 (95% CI 15.2-30.3) であり、6ヶ月PFS率は80.6%、12ヶ月PFS率は71.9%であった (Figure 2A)。中央値OSは未到達であり、6ヶ月OS率は96.2%、12ヶ月OS率は79.2%であった (Figure 2B)。ROS1 FISH陽性割合が高い患者ほど奏効率が有意に高く (奏効例50% vs 非奏効例22%、Mann-Whitney検定 p=0.005)、FISHシグナルパターンがcrizotinib感受性の予測因子となる可能性が示唆された。

コホートB(MET異常)の主要有効性成績: MET異常コホートB (n=26) において、ORRは27% (95% CI 11-47) であり、全例がPRであった (CRはなし)。SDは11例 (42%) で、DCRは69%であった。TTR中央値は7.4週 (IQR 6.4-9.3)、DOR中央値は3.7ヶ月 (95% CI 1.1-6.3) であった。中央値追跡期間21ヶ月 (95% CI 19.0-24.5) における中央値PFSは4.4ヶ月 (95% CI 3.0-5.8) であり、12ヶ月PFS率は20.6%であった (Figure 2A)。中央値OSは5.4ヶ月 (95% CI 4.2-6.5) であり、12ヶ月OS率は26.3%であった (Figure 2B)。奏効はMET増幅(中程度)5例、エクソン14変異1例、増幅と変異の共存1例に認められた。MET増幅群とエクソン14変異群の間でORR、PFS、OSに統計的有意差は認められなかった。

コンコミタントドライバー変異の影響: ベースライン時に収集された48検体中、7例 (14%) で第二のドライバー変異が検出された。これにはMET増幅とKRAS変異の共存2例、METエクソン14変異とKRAS変異の共存3例、ROS1再構成とKRAS変異の共存2例が含まれた。MET/KRASおよびROS1/KRASの共変異を有する評価可能4例中、PR 1例、SD 2例、PD 1例と奏効率は低く、コンコミタント変異がcrizotinib感受性を低下させる可能性が示唆された。特に、MET増幅とKRAS変異の共存例では、crizotinibの有効性が低下する傾向が報告されている (Bahcall et al. 2018; Suzawa et al. 2019)。

脳転移に対する有効性: ベースライン時に脳転移を有していた患者はコホートAに6例、コホートBに5例であった (Table 3)。コホートAではCR 2例、SD 4例と、脳転移に対しても有効性が認められた。一方、コホートBでは奏効は得られず (SD 3例、PD 2例)、脳転移に対するcrizotinibの有効性は限定的であった。

安全性プロファイル: 両コホートにおけるcrizotinibの安全性プロファイルは既報と一致しており、新たな安全性シグナルは報告されなかった (Supplementary Table S5)。治療関連有害事象 (TRAE) は、コホートAの全26例 (100%)、コホートBの21例 (81%) で発生し、そのほとんどがグレード1または2であった。両コホートで最も一般的なTRAE(任意のグレード)は、疲労(コホートA 58%、コホートB 31%)、末梢浮腫(コホートA 50%、コホートB 31%)、悪心(コホートA 46%、コホートB 31%)、視覚障害(コホートA 23%、コホートB 27%)、肝逸脱酵素上昇(両コホート27%)であった。グレード3/4のTRAEは両コホートで管理可能な頻度であり、末梢浮腫、好中球減少、悪心、疲労などが含まれた。TRAEによる用量減量、一時的または永続的な中止は、それぞれ8例 (15%)、13例 (25%)、3例 (6%) で報告された。

考察/結論

METROSトライアルは、ROS1陽性コホートにおいて主要エンドポイントを達成し、crizotinibがROS1陽性前治療NSCLCに対して高い有効性を示すことを前向き多施設共同試験で確認した。ORR 65% (95% CI 44-82)、中央値PFS 22.8ヶ月 (95% CI 15.2-30.3)、1年OS率79.2%という成績は、先行研究であるPROFILE 1001試験 (Shaw et al. 2014) のORR 72%、中央値PFS 19.2ヶ月や、EUROS1コホート研究 (Mazieres et al. 2015) と同等の良好な結果であり、ROS1陽性NSCLCにおけるcrizotinibの標準治療としての地位を支持する。

新規性: 本研究で初めて、ROS1 FISH陽性割合が高い患者ほどcrizotinibへの奏効率が有意に高いという新規な知見が得られた。これはALK陽性NSCLCで報告された現象 (Soria et al. 2018) と類似しており、今後の検討課題である。

一方、MET異常コホートでは、前治療済み集団としては注目すべきORR 27% (95% CI 11-47) が得られたものの、中央値PFS 4.4ヶ月 (95% CI 3.0-5.8)、中央値OS 5.4ヶ月 (95% CI 4.2-6.5) と生存期間が極めて短く、腫瘍進行から死亡まで約1ヶ月という疾患の侵攻性が示された。この結果は、MET異常NSCLCの予後が非常に不良であるというこれまでの報告 (Cappuzzo et al. 2009) と一致する。MET増幅とエクソン14変異の間でアウトカムに統計的差異はなく、MET異常を同質集団として扱った本研究の設計を追認する結果となった。

先行研究との違い: 高度MET増幅例 (MET/CEP7比 > 5) は本試験では1例のみであり、先行研究 (Camidge et al. 2018) で高増幅例でORR 40%と高い傾向が示されていることと異なり、十分な評価が困難であったことは残された課題である。コンコミタントドライバー変異 (KRAS等) の共存がcrizotinibへの感受性低下に関与する可能性が示唆されたことは、今後の治療戦略を検討する上で重要な臨床的意義を持つ。

残された課題: 本研究の限界として、前治療NSCLCを対象とした非比較試験であること、MET高増幅例が少なく層別解析が困難であったこと、統計的仮説がMET増幅のみを想定して設計され途中でエクソン14変異を追加したことが挙げられる。本試験と同様のデータは、フランスのAcSéトライアル (Moro-Sibilot et al. 2018) のMET FISH陽性コホートにおけるORR 32%、中央値PFS 3.4ヶ月とも整合する。これらの結果は、MET異常NSCLCに対するcrizotinibの有効性が限定的であることを示しており、より効果的な治療法の開発が緊急に必要であることを示唆している。

臨床応用: 今後の研究方向性として、capmatinib (GEOMETRY mono-1試験) やtepotinib (VISION試験) など、よりMET選択的な阻害剤が標準治療となりつつあり、これらの新規薬剤の臨床応用が期待される。

方法

METROS試験 (ClinicalTrials.gov: NCT02499614) は、フェーズII、前向き、多施設共同、2アーム非比較試験として実施された。対象患者は、組織学的に確認された局所進行または転移性NSCLC患者で、ECOGパフォーマンスステータス (PS) が2以下、かつ少なくとも1ラインの前化学療法を受けた者とした。ROS1再構成はFISH法により中央判定され、腫瘍細胞の15%以上にフュージョンパターンが認められる場合を陽性とした。MET増幅はFISH法により中央判定され、MET/CEP7比が2.2を超える場合を陽性とした。METエクソン14変異は、当初は局所施設での検査結果に基づいて組み入れられたが、研究終了後に全例でSangerシーケンス法による中央確認が行われた。既知のEGFRまたはKRAS変異陽性例、およびROS1またはMET阻害剤による前治療歴のある患者は除外された。また、症候性脳転移を有する患者も除外された。

治療はcrizotinib 250 mgを1日2回、28日サイクルで連続経口投与し、病勢進行、許容できない毒性、同意撤回、または死亡まで継続された。用量調整や中断は、グレード2以上の有害事象 (AE) の場合に考慮された。放射線学的評価はベースライン時およびその後8週間ごとにCTスキャンにより実施され、RECIST v1.1に基づいて評価された。奏効は、初回奏効から4〜8週間後の再評価で確認された。安全性評価は4週間ごとに行われ、有害事象はCTCAE v4.0に基づいて評価された。

主要エンドポイントは、RECIST v1.1に基づく治験責任医師評価による客観的奏効率 (ORR) とした。副次エンドポイントは、治験責任医師評価による無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、安全性、およびROS1 FISH陽性率の割合またはMET増幅レベル(中程度:MET/CEP7比 > 2.2〜< 5、高レベル:MET/CEP7比 > 5)と奏効との相関とした。

統計学的仮説として、各アームでORRが50%以上であるという仮説を、ORRが10%以下であるという帰無仮説に対して、片側有意水準5%、検出力98%で検証するように設計された。当初はMET増幅NSCLCのみを対象としていたが、2015年に発表された臨床データに基づき、METエクソン14変異を有する患者も組み入れるように試験計画が改訂された。患者および疾患特性は記述統計学的に解析され、離散変数は相対頻度(パーセンテージ)、連続変数は中央値と四分位範囲 (IQR) で示された。因子間の関連はカイ二乗検定、量的変数の分布差はMann-Whitney検定を用いて評価された。ORRの95%信頼区間 (CI) は正確法により算出された。PFSおよびOSは、治療開始日から病勢進行または死亡までの期間としてKaplan-Meier解析により推定され、中央値と95% CIで示された。曲線間の差はログランク検定を用いて評価された。