- 著者: Recondo G, Bahcall M, Spurr LF, Che J, Ricciuti B, Leonardi GC, Lo YC, Umeton R, Albayrak A, Gupta H, Paweletz CP, Jänne PA, Awad MM
- Corresponding author: Mark M. Awad (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-02-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 32034073
背景
METエクソン14スキッピング変異は非小細胞肺癌 (NSCLC) の約3〜4%に認められ、METシグナルの持続的活性化を引き起こす腫瘍ドライバーである。Awad et al. JClinOncol 2016が報告したように、METチロシンキナーゼ阻害剤 (MET-TKI) はこの変異陽性腫瘍に有効であるが、多くの患者は治療開始後6〜12ヶ月以内に獲得耐性を示す。EGFR変異NSCLCにおけるEGFR-TKI耐性 (T790M変異など) やALK融合NSCLCにおけるALK-TKI耐性の知見と対照的に、MET-TKI獲得耐性の分子機序は診断時の難しさ (METエクソン14変異の検出に液体生検が有用なことなど) もあり、十分に解析されていなかった。特に、Rotow et al. NatRevCancer 2017が指摘するように、耐性機序の全体像、on-targetおよびoff-target耐性の相対頻度、そしてこれらの耐性機序が逐次MET-TKI療法に与える影響については、依然として多くの点が未解明であり、この領域にはさらなる研究が不足している状況であった。
目的
METエクソン14変異NSCLC患者におけるMET-TKI (クリゾチニブ、カプマチニブ、グレサチニブなど) に対する獲得耐性の分子メカニズムを体系的に解析し、on-targetおよびoff-target耐性機序の頻度と種類を明らかにすること。さらに、これらの耐性機序が異なるタイプのMET-TKIへの逐次療法に与える影響を評価し、耐性克服のための治療戦略の可能性を探ることを目的とした。
結果
耐性機序の全体像: 20例中15例 (75%) で耐性機序を同定した (Figure 1)。On-target耐性が7例 (35%)、off-target耐性が9例 (45%) であり、5例 (25%) では不明であった。1例ではon-targetとoff-targetの両方の機序が同時に認められた。
On-target耐性機序とその分子特性: on-target耐性機序は7例 (35%) で認められ、METキナーゼドメイン二次変異が主要な機序であった。同定された変異部位はH1094Y (グレサチニブ耐性)、G1163R、L1195V/F (クリゾチニブ耐性)、D1228H/N (カプマチニブ耐性)、Y1230C/H (多剤耐性) など多様であった (Table 1, Figure 2A)。D1228とY1230はMETキナーゼのP-ループおよびactivation loopの主要なゲートキーパー部位に相当し、これらの変異は各TKIの結合を立体的に阻害する機構で耐性を付与していた。分子動力学シミュレーションでは、H1094Y変異がグレサチニブの結合親和性を2.7 kcal/mol減少させる一方で、サボリチニブの結合エネルギーを3.7 kcal/mol増加させることが示された。MET増幅 (変異METアレルの選択的増幅) も2例で認められた。症例7では、グレサチニブ耐性時にMETエクソン14変異アレルが17コピーに増幅し、その後のクリゾチニブ耐性時には47コピーに増加した (Figure 4B)。
Off-target耐性機序とその多様性: off-target耐性機序は9例 (45%) で確認され、バイパスシグナル経路の活性化が主要な機序であった (Figure 3)。KRAS変異 (G12C、G12Vなど) が最も多く (3例)、METのさらに下流でRASシグナルを活性化することでMET阻害をバイパスしていた。その他、EGFR増幅 (2例)、HER3増幅 (2例)、BRAF増幅 (1例) なども確認された。EGFRおよびHER3増幅はEGFR-MET経路のクロストークを介してMET阻害に対するバイパスシグナルを提供していた。例えば、症例6ではカプマチニブ耐性時にEGFRおよびHER3増幅が組織NGSで検出された。
逐次MET-TKI療法による耐性克服と臨床転帰: 6例で逐次MET-TKI (第1世代から第2世代、または異なる選択性を持つTKIへの切り替え) を施行した。うち2例 (33%) で奏効 (部分奏効, PR) が得られ、一定の有効性が示された。症例3では、クリゾチニブ耐性時にMET Y1230C変異が検出され、メレスチニブへの切り替えによりPRが得られた (Figure 4A)。症例7では、グレサチニブ耐性後のMET増幅に対しクリゾチニブへの切り替えで10ヶ月間のPRが認められた (Figure 4B)。一方、MET L1195V変異や複数のMET変異、あるいはKRAS変異などのoff-target耐性機序を持つ患者では、逐次MET-TKI療法は効果がなかった。第1世代MET-TKI治療後の無増悪生存期間 (PFS) 中央値は6.7ヶ月 (95% CI 4.7-29.4ヶ月) であり、on-target耐性群とoff-target耐性群の間でPFSに有意差は認められなかった (HR 0.99, 95% CI 0.35-2.82, p=0.9)。治療中止までの期間 (TTD) 中央値は8.3ヶ月 (95% CI 5.7-28.7ヶ月) であり、こちらもon-target群とoff-target群で有意差はなかった (HR 0.96, 95% CI 0.34-2.71, p=0.4)。
液体生検と組織生検の一致率: 11例のペアサンプルで液体生検と組織NGSの検出率を比較した。3例で一致した結果が得られたが、6例 (55%) で不一致が観察された。液体生検では複数のMETキナーゼドメイン変異が検出されたが、組織生検では単一の変異のみであったケースや、KRAS G60D変異が液体生検でのみ検出されたケースがあった。また、組織生検でMET増幅やEGFR増幅が検出されたが、液体生検では検出されなかったケースも3例あった。
考察/結論
本研究は、METエクソン14変異NSCLC患者におけるMET-TKI獲得耐性の最初の体系的な分子解析であり、耐性の75%でon-target (35%) またはoff-target (45%) の機序が同定できることを示した。この二分類は後続の治療戦略設計の基盤となる。
先行研究との違い: これまでのin vitro研究や小規模な報告とは異なり、本研究は実際の臨床患者コホートにおいて、MET-TKI耐性機序の多様性と頻度を包括的に明らかにした。特に、Drilon et al. NatMed 2020やLandi et al. ClinCancerRes 2019がMET-TKIの有効性を示したのに対し、本研究は耐性後の治療選択において分子バイオマーカーに基づくアプローチの重要性を初めて示した点で対照的である。
新規性: 本研究で初めて、METキナーゼドメイン変異 (D1228、Y1230など) が抗EGFR耐性のT790M類似の機序で耐性を付与することを示した。また、H1094Y変異がグレサチニブ耐性を付与する一方で、サボリチニブに対して感受性を示すという新規の知見は、異なる結合モードを持つTKIへの切り替え戦略の根拠を提供する。off-target耐性におけるKRAS変異やEGFR/HER3増幅の頻度と、それらがMET阻害をバイパスするメカニズムを詳細に解析した点も新規性が高い。
臨床応用: 本知見は、METエクソン14変異NSCLC患者のMET-TKI耐性克服に向けた個別化治療戦略の臨床応用に直結する。on-target耐性変異を持つ患者では、異なるタイプのMET-TKIへの逐次療法が有効である可能性が示唆された。例えば、Y1230C変異に対するメレスチニブへの切り替えや、MET増幅に対するクリゾチニブへの切り替えが奏効した症例は、耐性機序に基づいた治療選択の臨床的有用性を示す。一方、KRAS変異やEGFR/HER3増幅などのoff-target耐性に対しては、化学療法やEGFR+MET二重阻害などの併用アプローチが必要となる。液体生検によるリキッドバイオプシーが耐性機序の動的なモニタリングに有用であることも示唆され、臨床現場での迅速な治療変更に貢献しうる。
残された課題: 今後の検討課題として、MET-TKI耐性を標的とした次世代薬剤の臨床試験、適切な耐性モニタリング戦略 (ctDNAなど) の確立、ならびにoff-target耐性に対する最適な組み合わせ療法の確立が求められる。また、本研究のサンプルサイズは比較的小さく、より大規模なコホートでの検証が必要である。Jamal-Hanjani et al. NEnglJMed 2017が示したように、腫瘍のクローン進化の複雑性を考慮した長期的なモニタリング戦略の最適化も今後の課題である。
方法
本研究は後方視的コホート研究として実施された。ダナファーバーがん研究所でMET-TKI治療後に疾患進行を認めたMETエクソン14変異NSCLC患者20例を解析対象とした (DF/HCCプロトコル 02-180, 16-374 (NCT02920996), 14-147 (NCT022790049) に基づく承認)。耐性獲得時の試料として、液体生検 (血漿cfDNA) または腫瘍組織再生検を施行した。変異解析には次世代シーケンシング (NGS) パネル (DFCI OncoPanelなど) またはデジタルドロップレットPCR (ddPCR) を用いた。On-target耐性 (MET自体の変異・増幅) とoff-target耐性 (別経路の活性化) を分類した。逐次MET-TKI療法 (第1世代から第2世代への切り替えなど) の有効性を記述的に評価した。分子モデリングおよびin vitro実験により、特定のMET変異がTKI結合に与える影響を評価した。統計解析にはKaplan-Meier法を用いて無増悪生存期間 (PFS) を推定し、log-rank testで群間比較を行った。