• 著者: Yun MR, Kim DH, Kim SY et al.
  • Corresponding author: Byoung Chul Cho, Hye Ryun Kim, Mi Ran Yun (Yonsei University College of Medicine, Seoul, Korea)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-01-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32269053

背景

ROS1融合遺伝子を有する非小細胞肺癌 (ROS1陽性NSCLC) は全肺癌の1〜2%を占め、crizotinibがFDA承認の標準一次治療として確立されている。しかし、crizotinib治療を受けた患者は不可避的に薬剤耐性を獲得し、その50〜60%がROS1キナーゼドメインの二次変異に起因することが報告されている Gainor et al. JCOPrecisOncol 2017。中でも、最も頻度が高く、既存のROS1-TKI (crizotinib, ceritinib, entrectinib, lorlatinib) いずれに対しても著明な活性低下を示す克服困難な耐性変異がG2032R (溶媒フロント変異; solvent-front mutation, SFM) であり、当時有効な治療戦略が確立されていなかったことが大きな課題であった。このSFMは、TKI結合ポケットの溶媒に面する残基に生じる変異であり、既存のTKIでは立体的な障害により結合親和性が著しく低下することが知られている。

ROS1陽性NSCLC患者において、中枢神経系 (CNS) 転移は臨床的に重大な課題である。ROS1-TKI治療後に約50%の患者がCNS進行を呈することが知られており Patil et al. J Thorac Oncol 2018、crizotinibは血液脳関門 (BBB) 通過性が低いため、CNS転移の制御が不十分であると指摘されてきた。Lorlatinibはある程度のBBB通過性を示すものの、G2032R変異に対する活性が弱いことがZou et al. ProcNatlAcadSciUSA 2015により先行研究で示されている。これらの未解決課題、すなわちG2032R耐性の克服とCNS進行の抑制を同時に達成できる次世代ROS1阻害薬の開発が喫緊の課題であり、既存の治療法ではこれらのニーズが十分に満たされていないという知識のギャップが存在した。

Repotrectinib (TPX-0005) は、TP Therapeutics社が設計したコンパクト型の次世代ROS1/TRK/ALK-TKIである。その占有空間が小さい分子構造により、溶媒フロント変異残基との立体的衝突を回避し、また高い脂溶性によりBBB通過性が期待されていた。Yoda et al. CancerDiscov 2018ではBa/F3細胞を用いた初期の前臨床データが報告されていたが、患者由来モデルを用いた系統的な検証は不足しており、実際の腫瘍生物学を反映したモデルでの詳細な評価が求められていた。本研究は、これらのギャップを埋めることを目指したものであり、特にG2032R変異に対する効果とCNS活性に焦点を当てた。

目的

本研究の目的は、患者由来細胞株 (PDC) および患者由来異種移植モデル (PDX) を用いて、次世代ROS1-TKIであるrepotrectinibの抗腫瘍活性を多角的に評価することである。具体的には、(1) TKI未治療ROS1陽性モデルにおけるrepotrectinibの活性と既存TKIとの比較、(2) crizotinib耐性G2032R溶媒フロント変異モデルに対するrepotrectinibの活性、(3) 脳内播種マウスモデルにおけるrepotrectinibのCNS活性およびBBB通過性、そして (4) 進行中のTRIDENT-1第I/II相試験におけるrepotrectinibの早期臨床成績を評価し、その臨床的意義を検証することを目指した。これらの評価を通じて、repotrectinibがROS1陽性NSCLCの新たな治療選択肢となり得るかを明らかにすることを目的とした。特に、既存のROS1-TKIでは克服が困難であったG2032R変異とCNS転移に対するrepotrectinibの有効性を検証し、臨床的有用性を示すことを主要な目的とした。

結果

TKI未治療ROS1に対するin vitro活性と既存TKIとの比較: YU1078 (CD74-ROS1 WT) 細胞に対する各薬剤のIC50値を評価した。repotrectinibは0.021 μmol/L (21 nM) であり、lorlatinib 0.009 μmol/L (9 nM)、entrectinib 0.052 μmol/L (52 nM)、crizotinib 0.156 μmol/L (156 nM)、ceritinib 0.412 μmol/L (412 nM) と比較して、crizotinibの約7.4倍、ceritinibの約20倍の強力な増殖抑制活性を示した (Figure 1A)。コロニー形成アッセイでは、lorlatinibとrepotrectinibが他のTKIと比較して有意に強力なコロニー抑制効果を示し (ANOVA Tukey検定、p<0.05 vs crizotinib)、ウェスタンブロット解析でもp-ROS1およびp-ERKの強力な抑制が確認された (Figure 1B, C)。

TKI未治療モデルでのin vivo活性と薬剤中止後の持続効果: YU1078皮下異種移植モデルにおいて、repotrectinibとlorlatinibは同等の腫瘍退縮効果を示し、TGIはともに189.2%であった。crizotinibは150.7%、entrectinibは124.9%、ceritinibは64.7%のTGIを示した (Figure 1D)。特に注目すべきは、21日目で薬剤投与を中止した後の腫瘍再増殖動態である。repotrectinib群ではn=4匹中3匹のマウスで薬剤中止後80日以上にわたり腫瘍が抑制されたままであり、1匹のみが60日後にゆっくりと再増殖した。対照的に、lorlatinib群ではn=4匹中2匹のマウスが薬剤中止後10日以内に急激な再増殖を示した (Figure 1E)。この顕著な差異は、repotrectinibが解離が遅い強固な結合 (slow-off rate) を持つことと一致する。また、ceritinib耐性進行後の腫瘍に対しrepotrectinibを投与したところ、腫瘍増殖が著明に抑制され、先行repotrectinib群ではさらに強力な完全退縮が観察された (Figure 1F)。

G2032R変異ROS1に対するin vitro活性: YU1079 (CD74-ROS1 G2032R) 細胞に対するIC50値を評価した。repotrectinibは0.097 μmol/L (97 nM) であり、cabozantinib 0.111 μmol/L (111 nM) とほぼ同等の強力な活性を示した。一方、lorlatinibのIC50は1.509 μmol/L (1509 nM) とrepotrectinibの約16倍も高く、著明な活性低下が認められた。ウェスタンブロット解析では、G2032R変異細胞においてlorlatinib投与後もp-AKTのリン酸化が持続していることが確認された (Figure 4A-C)。crizotinib、ceritinib、entrectinibはさらに活性低下が著しかった。

G2032R変異ROS1に対するin vivo活性: YU1079 PDXモデルにおいて、cabozantinibは102.1%、repotrectinibは90.9%のTGIを示し、lorlatinibの22.7%と比較して有意に強力な抗腫瘍効果を示した (Figure 4D)。また、entrectinib耐性PDX YHIM1047 (G2032R) モデルでは、entrectinibが腫瘍増殖を抑制できない (TGI 0%) のに対し、repotrectinibは142.8%のTGIを達成した。免疫組織化学染色により、repotrectinib治療群ではp-STAT3およびKi67陽性細胞の著明な低下が確認された (Figure 4E, F)。

脳内播種モデルでの優れたCNS活性: YU1078-luc細胞を用いた脳内播種モデルにおいて、repotrectinib群は脳内腫瘍量を著明に低下させ、投与27日時点でvehicle群 (p<0.001) およびentrectinib群 (p<0.01) と比較して有意な差が認められた (Mann-Whitney検定) (Figure 2A, B)。Lorlatinibもrepotrectinibと同等の腫瘍量低下を示した。生存期間解析では、repotrectinib群の全n=10匹のマウスが110日以上生存し、観察期間中も生存を維持した。これに対し、vehicle群の中央生存期間は49日、entrectinib群は57日であり、repotrectinib群は有意な生存延長を示した (log-rank検定、p<0.01) (Figure 2C)。体重減少は認められなかった。IHCでは、repotrectinib治療後の脳切片においてKi67陽性細胞とTUNEL陽性細胞が著明に減少し、生存腫瘍細胞の消失が組織学的に確認された (Figure 2D)。

TRIDENT-1第I相試験の早期臨床成績: TRIDENT-1試験の早期データでは、TKI未治療ROS1陽性NSCLC患者n=11例において、confirmed ORR 91%が報告された。TKI前治療歴のあるNSCLC患者n=18例ではORR 39%であった。特に、G2032R変異保有例 (n=7) におけるORR 43% (3/7例) は、前臨床での高活性と整合する初の臨床的proof-of-conceptデータである。個別症例として、(1) TKI未治療の69歳女性 (CD74-ROS1、肝・多発脳転移) は、repotrectinib 40 mg QDで確認PR (-80%) を達成し、20ヶ月以上継続中である。脳転移病変も2ヶ月後に消失し、15ヶ月維持された。(2) ceritinib耐性後の女性 (CD74-ROS1 WT、多発無症候性脳転移) は、repotrectinib 40〜240 mg QDで確認PR (-40%) を達成し、16ヶ月継続中であり、脳転移も消失・維持された。(3) crizotinib耐性44ヶ月後にG2032R変異を獲得した49歳女性は、repotrectinib 160 mg BIDで確認PR (-80%) を達成し、6ヶ月継続中である (Figure 3A, B, G)。これらの臨床データは、repotrectinibがTKI未治療およびG2032R変異を有する患者において、優れた全身および中枢神経系における抗腫瘍活性を示すことを明確に裏付けている。

Repotrectinib耐性機序の初期探索: repotrectinib治療により10ヶ月後に耐性進行したn=2例の患者のターゲットシーケンシングでは、ROS1キナーゼドメイン変異は検出されなかった。Patient A (CD74-ROS1 WT) では、post-repotrectinib生検でCCND3 (Cyclin D3) (E253Q, VAF 7%)、TP53 (H178Q&H179Y, VAF 53%)、SMAD4 (E538*, VAF 47%) の変異が同定されたが、ベースライン生検には存在しなかった。Patient B (SLC34A2-ROS1) では、post-repotrectinib生検でCEBPA (CCAAT/enhancer-binding protein alpha) (196_197insHP, VAF 41%)、RB1 (H555R, VAF 45%)、ERBB2 (R143Q, VAF 51%)、TP53 (E171G, VAF 9%) の変異が同定された。これらの結果は、ROS1非依存的なバイパス経路や非依存的耐性機序の存在を示唆している。

考察/結論

本研究は、repotrectinibが患者由来の実臨床的前臨床モデル (PDC・PDX) において、TKI未治療ROS1陽性NSCLCおよびcrizotinib耐性G2032R変異の両方に対し、強力な抗腫瘍活性を示すことを初めて包括的に実証した。さらに、脳内播種モデルでの110日超の生存延長と、TRIDENT-1第I/II相試験における早期臨床成績での高い客観的奏効率 (ORR) によって、前臨床データの臨床への外挿性を確認した先駆的な研究である。

先行研究との違い: Yoda et al. CancerDiscov 2018がBa/F3細胞での初期データを報告していたが、患者由来モデルとの差は大きく、本研究が患者の実際の腫瘍生物学を反映したPDC/PDXでrepotrectinibの優位性を確認した点に独自性がある。特に重要な知見は、lorlatinibとの活性比較である。in vitroおよびin vivoで同等の腫瘍退縮を示しながらも、薬剤中止後に腫瘍を80日超にわたって抑制し続けるrepotrectinibの「残留効果」は、repotrectinibの結合動態 (slow-off rate) が薬剤消失後も長期間の標的占有を維持することを示唆しており、臨床における奏効持続期間の長さと関連する可能性がある点で、これまでのTKIとは対照的である。G2032R変異に対する活性では、lorlatinibのIC50が1,509 nMであるのに対し、repotrectinibは97 nMと約16倍の差があり、コンパクトな分子設計の優位性が顕著であった。Cabozantinibも同等の活性を示したが、臨床での毒性プロファイルを考慮するとrepotrectinibが優位であると考えられる。

新規性: 本研究で初めて、患者由来のPDCおよびPDXモデルを用いて、repotrectinibがTKI未治療およびG2032R変異を有するROS1陽性NSCLCに対して強力な抗腫瘍活性と優れたCNS浸透性を示すことを包括的に実証した。特に、薬剤中止後の腫瘍再増殖を著しく遅延させるrepotrectinibの持続効果は、これまでのROS1-TKIでは報告されていない新規の所見である。また、G2032R変異に対するin vivoでの強力な活性と、TRIDENT-1試験におけるG2032R変異患者での臨床的奏効は、この変異を克服する治療戦略としてrepotrectinibが有望であることを初めて臨床的に裏付けた。

臨床応用: ROS1陽性NSCLC患者では、36%がベースラインで脳転移を有し、crizotinib治療後には約50%にCNS転移が出現することがPatil et al. J Thorac Oncol 2018により報告されている。脳 sanctuary効果によるCNS逃避は生命予後を制限する重大な課題であり、CNS活性およびBBB通過性に優れた薬剤の開発は臨床現場において不可欠である。本研究の脳内播種モデルでの全例110日超生存という結果と、2例の臨床症例での脳転移消失および15ヶ月以上の維持は、repotrectinibが真の意味でのCNS活性を有することを示しており、臨床的意義は極めて大きい。これにより、repotrectinibはTKI未治療のROS1陽性NSCLC患者、特に脳転移を有する患者やそのリスクが高い患者にとって、有望な一次治療選択肢となる可能性が示唆される。

残された課題: repotrectinib耐性後のROS1非依存的な耐性機序として、CCND3、TP53、SMAD4、RB1、ERBB2変異が示唆されたが、症例数が2例のみであり、これらの変異の機能的検証は行われていないことがlimitationである。今後の検討課題として、より大規模な患者コホートでの耐性機序の解析と、同定された非ROS1依存的変異の機能的役割の解明が必要である。また、first-lineでのrepotrectinib使用によりG2032R変異の出現が予防される可能性が期待されるが、本研究では症例数が少なく、統計的な評価はできなかった。複合ROS1変異 (G2032Rと他の変異の併存) への活性についても、今後の研究で評価すべき課題である。

方法

患者由来モデルの樹立: 延世大学セブランス病院でROS1陽性NSCLC患者の胸水からPDCを樹立した。本研究では、TKI未治療の35歳女性患者由来のYU1078 (CD74-ROS1、野生型) と、crizotinib耐性後に同一患者から樹立されたYU1079 (CD74-ROS1 G2032R変異) を使用した。さらに、entrectinib耐性を示した患者由来のPDXモデルYHIM1047 (CD74-ROS1 G2032R変異) も並行して評価に用いた。PDCの樹立は、患者胸水サンプルを500gで10分間遠心分離し、Ficoll-Paque PLUS (Ficoll-Paque PLUS solution) 溶液で細胞を分離後、コラーゲンIVコートプレートに播種して培養する方法で行われた。PDCの癌純度はEpCAMのFACS染色により99%以上であることが確認された。

in vitro評価: 細胞増殖抑制活性は、96ウェルプレートに播種した2,500〜3,000個の細胞に対し、様々な濃度のTKIを72時間作用させた後のCellTiter-Gloアッセイにより評価した。IC50値はGraphPad Prismを用いて用量反応曲線から算出した。また、14日間のコロニー形成アッセイと、ウェスタンブロット法によるROS1および下流シグナル分子 (p-ROS1 T2274, p-ERK T202/Y204, p-AKT S473, p-STAT3 T705) のリン酸化レベルの評価により、repotrectinibの活性を検証した。統計解析にはANOVAとTukey post hoc検定を用いた。

in vivo評価 (皮下異種移植モデル): 6週齢の雌BALB/c nu/nuマウスに、YU1078またはYU1079細胞5×10^6個を皮下移植した。腫瘍体積が150〜200 mm^3に達した時点で、マウスを各群n=5匹にランダムに分け、以下の薬剤を投与した: repotrectinib 15 mg/kg BID、crizotinib 50 mg/kg QD、ceritinib 25 mg/kg QD、entrectinib 30 mg/kg QD、lorlatinib 30 mg/kg QD、cabozantinib 30 mg/kg QD。腫瘍体積は電子キャリパーで測定し、腫瘍増殖抑制率 (TGI) を算出した。薬剤中止後の腫瘍再増殖動態も評価した。動物実験プロトコルは延世大学医学部IACUC (Institutional Animal Care and Use Committee) の承認を得ている。統計解析にはKruskal-Wallis検定とDunn post hoc検定を用いた。

脳内播種モデル: YU1078-luc (luciferase-transduced YU1078 cells) 細胞5×10^5個をBALB/c nu/nuマウスの右前頭葉に定位脳手術で移植し、脳内播種モデルを構築した。移植13日後、光子量が1×10^6 photons/秒に達した時点で経口投与を開始した。repotrectinib (15 mg/kg BID)、entrectinib (30 mg/kg QD)、lorlatinib (30 mg/kg QD)、およびvehicleを比較した。腫瘍量はIVISイメージングシステムで週1回モニタリングし、生存期間を主要エンドポイントとした。脳組織の免疫組織化学 (IHC) 染色により、Ki67陽性細胞とTUNEL陽性細胞の減少を評価した。統計解析にはMann-Whitney検定とlog-rank検定を用いた。

臨床試験データ: 進行中のTRIDENT-1 (NCT03093116) 第I/II相試験のデータカット時点における早期臨床成績を、ASCO 2019およびESMO 2019で発表されたデータに基づいて報告した。

耐性機序の探索: repotrectinib治療後に進行した2例の患者から得られた生検組織に対し、171個の癌関連遺伝子を対象としたターゲットシーケンシングを実施し、遺伝子変異プロファイルを解析した。体細胞変異はMuTect2を用いてコールされ、Oncotatorでアノテーションされた。