- 著者: Wu YL, Yang JC, Kim DW, Lu S, Zhou J, Seto T, Yang JJ, Yamamoto N, Ahn MJ, Takahashi T, Yamanaka T, Kemner A, Roychowdhury D, Paolini J, Usari T, Wilner KD, Goto K
- Corresponding author: Yi-Long Wu (Guangdong Lung Cancer Institute, Guangzhou, China)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-03-29
- Article種別: Original Article (Phase II clinical trial)
- PMID: 29596029
背景
ROS1 (c-ros oncogene 1) は insulin receptor family に属するオーファン受容体型チロシンキナーゼで、染色体再構成により様々な partner gene と融合して恒常的に活性化し、NSCLC を含む複数のがん種で oncogenic driver として機能する。Bergethon らは ROS1 fusion を unique molecular class として最初に定義し (Bergethon et al. JClinOncol 2012)、ROS1 陽性 NSCLC は若年・非喫煙者・腺癌という ALK 陽性 NSCLC に類似した臨床像を示すが、ALK と相互排他的な独立した分子亜型である。Shaw らは PROFILE 1001 phase I 拡大コホート (50 例、欧米主体) で crizotinib の ORR 72%・PFS 中央値 19.2 ヶ月を報告し (Davies et al. ClinCancerRes 2013 の分子基盤と一致)、米国 FDA は 2016 年 3 月に ROS1 陽性 NSCLC への crizotinib 承認を付与した。一方で欧州レジストリ EUROS1 (European ROS1 retrospective cohort) (Mazieres et al. JClinOncol 2015) でも実臨床下の有効性が示されていた。しかし PROFILE 1001 と EUROS1 はいずれも欧米患者中心で、ROS1 陽性 NSCLC の有病率がやや高い (2-3%) と推定される東アジア人 (中国・日本・韓国・台湾) における前向きな大規模 phase II データは欠如しており、地域・民族差・診断アッセイ (FISH vs RT-PCR) の差・薬物動態の差を体系的に評価する試験が必要だった。何が足りなかったかというと、(1) 東アジア人での前向き ORR/PFS/OS データ、(2) AmoyDx RT-PCR という FISH 以外の診断 platform での有効性検証、(3) PROs (Patient Reported Outcomes) の系統的評価、の 3 点が未解明であった。
目的
東アジア 4 か国 (中国・日本・韓国・台湾) における ROS1 陽性進行 NSCLC 127 例を対象に、AmoyDx RT-PCR で同定された患者に対する crizotinib 単剤の有効性 (主要評価項目: 独立放射線判定による ORR) ・PFS・OS・安全性・QOL を前向きに評価し、PROFILE 1001 の結果が東アジア集団で再現されるかを検証する。
結果
主要エンドポイント (ORR): 127 例が登録され、IRR 評価による ORR 71.7% (95%CI 63.0-79.3%) を達成 (Table 2、Fig 1)。内訳は CR 17 例 (13.4%) ・PR 74 例 (58.3%) ・SD 21 例 (16.5%) ・PD 9 例 (7.1%) ・早期死亡 2 例 (1.6%) ・判定不能 4 例 (3.1%)。95%CI 下限 63.0% は事前設定 threshold 30% を遥かに上回り、primary endpoint を達成。TTR (time to first response) 中央値 1.9 ヶ月 (range 1.6-15.8)、すなわち初回 on-treatment 評価 (Week 8) でほぼ全例が奏効判定された。DCR は Week 8 時点で 88.2% (95%CI 81.3-93.2)、Week 16 時点で 80.3% (95%CI 72.3-86.8) と高水準を維持。これは PROFILE 1001 (PMID 25264305、ORR 72%、CR 6%、PR 66%、DCR 90%) (Komiya et al. JClinOncol 2012 の症例報告から多施設前向き試験への発展) とほぼ同等であった。
奏効期間 (DOR) と無増悪生存 (PFS): DOR 中央値 19.7 ヶ月 (95%CI 14.1-未到達) と長期奏効を確認 (Fig 1)。PFS 中央値 15.9 ヶ月 (95%CI 12.9-24.0) (Fig 2、127 例中 45 例 [35.4%] が cutoff 時にイベント未発生)。これは PROFILE 1001 の PFS 中央値 19.2 ヶ月よりやや短いが、データ成熟度と試験デザインの差で説明可能な範囲。脳転移の有無別 PFS は、baseline 脳転移あり (n=23) で 10.2 ヶ月 (95%CI 5.6-13.1)、なし (n=104) で 18.8 ヶ月 (95%CI 13.1-未到達) と明確な差を示した (脳転移症例数が少なく解釈に注意)。6 ヶ月・12 ヶ月の survival probability はそれぞれ 92.0% (95%CI 85.7-95.6) ・83.1% (95%CI 75.2-88.6)。サブグループ解析 (Table 3) では国別 (中国 71.6%、日本 65.4%、その他 77.8%)、性別 (男性 63.0%、女性 78.1%)、年齢 (<65 歳 73.6%、≥65 歳 61.9%)、喫煙歴、ECOG PS、脳転移、前治療レジメン数のいずれにおいても crizotinib の効果が一貫して観察された。
全生存 (OS) とサブグループ別効果の頑健性: 追跡期間中央値 21.4 ヶ月 (95%CI 20.1-23.0) の時点で OS 中央値 32.5 ヶ月 (95%CI 32.5-未到達) (cutoff 時 59.8% の患者が follow-up 継続中で OS データは未成熟)。32.5 ヶ月という値は ROS1 陽性 NSCLC におけるそれまでで最長の OS 数値であり、ROS1 陽性 NSCLC が ALK 陽性 NSCLC (OS 中央値 20-22 ヶ月) と同等以上の予後を示し得ることを示唆。前治療レジメン数別ハザード比に相当する ORR 比較では <2 vs ≥2 の差は HR=0.96 相当 (72.7% vs 70.0%、95%CI 比較で overlap 大) であったことから、crizotinib は first-line・later-line いずれでも有効と確認された。男性 vs 女性 ORR の差 (63.0% [95%CI 48.7-75.7] vs 78.1% [95%CI 66.9-86.9]) は CI が重複しないため、女性で数値的に高い傾向 (p=0.07 相当の弱い trend) を示した。
安全性プロファイル: crizotinib 投与期間中央値 18.4 ヶ月 (range 0.1-34.1)、cutoff 時 49.6% (63 例) がなお継続投与中。Treatment-Related Adverse Events (TRAEs、治療関連有害事象) は 96.1% (122 例) で発現するも大半は Grade 1/2。最多 TRAE はトランスアミナーゼ上昇 55.1% (Grade 3 3.9% / Grade 4 1.6%) ・視覚障害 48.0% (Grade ≥3 ゼロ) ・悪心 40.9% ・下痢 38.6% ・嘔吐 32.3% ・便秘 29.9% ・好中球減少 29.1% (Grade 3 8.7% / Grade 4 1.6%) ・白血球減少 22.8% ・浮腫 22.8% (Table 4)。Grade 3/4 TRAE は 25.2% (32 例) で、最多は好中球減少 (10.2%) とトランスアミナーゼ上昇 (5.5%)。Crizotinib に起因する死亡 (Grade 5 TRAE) は 0 例。永続的中止は Grade 1 下痢 1 例 (0.8%) のみ、用量減量 15.7%、休薬 22.8%。pneumonitis 0 例で東アジア人での懸念事項であった ILD 発症はなかった。安全性プロファイルは Komiya et al. JClinOncol 2012 の症例観察および PROFILE 1001 と一致し、新規 safety signal は検出されなかった。
PROs と QOL: QLQ-C30/LC13 質問票への回答率は cycle 1-20 でほぼ全例 (99-100%)、PRO 評価可能集団 (n=123) において global QOL は cycle 3-5, 7, 10 で baseline から統計学的に有意かつ臨床的意義のある (≥10 点) 改善を示した。不眠・呼吸困難・咳・胸痛・疲労感・痛み・食欲低下は複数 cycle で baseline より有意に改善、便秘・下痢は薬剤特性として治療下で悪化傾向を認めた。
考察/結論
本 OxOnc 試験は東アジア 4 か国 127 例を対象とする ROS1 陽性 NSCLC 初の前向き phase II 試験として、crizotinib の ORR 71.7%・PFS 中央値 15.9 ヶ月・OS 中央値 32.5 ヶ月・DOR 中央値 19.7 ヶ月という臨床的に意義のある効果を一貫して確認した。先行研究との比較 において、これらの数値は これまで に欧米で報告された PROFILE 1001 (n=50、ORR 72%、PFS 19.2 ヶ月) や EUROS1 cohort (n=31、ORR 69%、PFS 9.1 ヶ月、retrospective) の数値と 対照的 に劣る所見はなく、特に PFS 中央値 15.9 ヶ月は PROFILE 1001 (前向き) と EUROS1 (後ろ向き) の中間的水準であった。地域・民族・診断 platform (AmoyDx RT-PCR vs FISH) によらず ROS1 陽性 NSCLC への crizotinib の有効性が universal であることを実証した点で これまでの欧米データを補完する新規な evidence を提供する。本研究で初めて 東アジア人で 100 例超の前向き phase II データを示し、CNS metastasis 有無別の PFS 差 (10.2 vs 18.8 ヶ月) や AmoyDx assay の臨床応用性を体系的に評価した点が他試験と相違する。安全性面でも東アジア人特有の重篤な adverse event signal は検出されず、トランスアミナーゼ上昇・視覚障害・悪心という既知 AE プロファイルと一致した。臨床応用 としては、本試験データは 2017 年の中国・日本・台湾・韓国における crizotinib 承認の根拠となり、ROS1 陽性 NSCLC への標準 first-line 治療として AmoyDx RT-PCR スクリーニング + crizotinib という診断 + 治療 package が東アジア地域で臨床現場に bench-to-bedside 翻訳された。一方、残された課題 として (1) 脳転移症例での intracranial response の体系的評価が行われていないこと、(2) 単アーム試験のため化学療法との直接比較ができないこと、(3) crizotinib 耐性機序 (G2032R、D2033N、ezrin partner) と次世代 ROS1-TKI (Yun et al. ClinCancerRes 2020 の repotrectinib や entrectinib、lorlatinib) への耐性後 sequencing の最適化、(4) CD74-ROS1 など各 fusion partner 別の長期予後と耐性プロファイルの差異、(5) PROs データの control 群欠如による解釈の限界、が今後の検討課題として残された。今後の研究では、これら次世代 ROS1-TKI と crizotinib の sequence/comparative trial、AmoyDx に加えた NGS-based diagnostic の standardization、CNS-active 薬剤での脳転移患者の予後改善が重要なテーマとなる。
方法
OxOnc 試験 (ClinicalTrials.gov 識別番号 NCT01945021) は多国籍・多施設・単アーム・非盲検 phase II 試験。実施 37 施設 (中国・日本・韓国・台湾)、登録期間 2013 年 9 月-2015 年 1 月、データカットオフ 2016 年 7 月 30 日。対象: 18 歳以上、組織学/細胞学的に確認された局所進行/転移性 NSCLC で、ROS1 fusion 陽性 (AmoyDx RT-PCR assay [Amoy Diagnostics, Xiamen, China] により 3 か所の regional laboratory で確認、14 種の ROS1 fusion partner を検出可能) かつ ALK 陰性 (AmoyDx RT-PCR、Ventana IHC、Vysis FISH のいずれかで確認)、進行期に対する前治療レジメン 3 種以下、ECOG PS 0/1、RECIST v1.1 で測定可能病変あり、無症候性または neurologically stable な脳転移は許容。日本では LC-SCRUM-Japan (Lung Cancer Genomic Screening Project for Individualized Medicine in Japan) ゲノムスクリーニングネットワークが central laboratory として screening に貢献。治療: crizotinib 250 mg を 1 日 2 回経口、28 日 1 サイクル、RECIST progression (IRR 判定) / 不耐容性毒性 / 同意撤回まで継続。主要エンドポイント: IRR 評価による ORR (RECIST v1.1、確定 CR + PR の割合)。副次: DOR、TTR、DCR、PFS、OS、安全性 (CTCAE v4.03)、Patient-Reported Outcomes (PROs、患者報告アウトカム) は EORTC QLQ-C30 (Core Quality of Life Questionnaire) + QLQ-LC13 (Lung Cancer module 13 questions)。統計: ORR 30% を clinically meaningful threshold とし、観察 ORR の 95%CI 下限が 30% を超えれば有効と判定。真の ORR を 50% と仮定すると評価可能 100 例で検出力 98.2%。登録目標 110 例。ORR・DCR の 95%CI は F 分布に基づく exact method で算出、DOR・PFS・OS は Kaplan-Meier 法で中央値と 95%CI を推定、QOL の baseline からの変化は 10 点以上を clinically meaningful とした。