• 著者: Butterfield LH
  • Corresponding author: Lisa H. Butterfield (University of Pittsburgh, Pittsburgh, PA)
  • 雑誌: BMJ
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: State-of-the-Art Review (narrative review, single-author commissioned)
  • PMID: 25904595

背景

癌は世界的な主要死因の一つであり、毎年820万人が癌で死亡し、年間1,400万例の新規癌が発生 (2030年には2,200万例に増加予測、Rahib et al. CancerRes 2014 のWHO projection)。肺癌・乳癌・前立腺癌・大腸癌が西洋諸国で最多であり、各組織型は複数の分子サブタイプを持つ複雑な疾患であることが明らかになっている。免疫系が腫瘍に対して自発的に活性化できることは数十年来知られており、黒色腫・腎細胞癌では腫瘍浸潤リンパ球 TIL (tumor-infiltrating lymphocyte, 腫瘍浸潤リンパ球) の存在が良好な予後因子であることが示されている (Galon et al. NEnglJMed 2006 のImmunoscore研究で大腸癌でも示された)。大腸癌・乳癌・卵巣癌でも記憶T細胞 (memory T cell, CD8+CD45RO+, 経験記憶T cell) の浸潤が独立した良好な予後因子として同定された (Fridman et al. Immunity 2013 のimmune contexture理論)。癌ワクチンは、こうした自然発生的な抗腫瘍免疫を人工的に誘導・増幅・再方向付けする治療アプローチである。1994-95年に開発された最初の癌ワクチンは非変異型の共有腫瘍関連抗原を標的とし、少数の患者で臨床奏効が得られていた。次世代シーケンシング技術・計算生物学の進歩により、患者固有の変異から免疫原性ネオアンチゲン (neoantigen) を同定し個別化ワクチンを設計することが技術的に可能になりつつあった (Lawrence et al. Nature 2013 のmutation landscape解析)。一方で、免疫チェックポイント阻害薬 (抗CTLA-4・抗PD-1/PD-L1) が劇的な臨床成績を示し始めており、癌ワクチンとの組み合わせが次の展開として期待されていた。これまでの研究で何が足りなかったかというgapを整理すると、(a) 個別ワクチンプラットフォーム間の系統的比較が体系化されていない点が未解明、(b) 標準治療 (化学療法・放射線・分子標的治療) の免疫修飾効果がワクチン併用と統合的に整理されていない点が未解明、(c) 単剤ワクチンの限定的奏効率 (3-7%) を克服する組み合わせ戦略 (特にICI併用) の理論的枠組みが未解明、の3点であった。本BMJレビューはこれら3つのgapを統合的に整理することを目的として執筆された。

目的

癌ワクチン分野の現状を包括的にレビューし、(1) 腫瘍抗原の種類と特性 (共有TAA/cancer-testis/ネオアンチゲン)、(2) 各ワクチンプラットフォームの生物学・臨床データ (ペプチド・DC・腫瘍細胞・ウイルスベクター)、(3) 標準治療の免疫修飾効果、(4) 免疫モニタリング・バイオマーカー、(5) 組み合わせ療法戦略について最新知見を整理すること。

結果

腫瘍抗原の分類と特性:本レビューは腫瘍抗原を3カテゴリーに分類した (Table 1、Fig 1のCancer-immunity cycle上で位置づけ)。第一に共有腫瘍関連抗原 (TAA, tumor-associated antigen) - 過剰発現型として、CEA (carcinoembryonic antigen) の大腸癌等での発現、PSA (prostate-specific antigen) の前立腺癌、HER2/neu の乳癌、MART-1/Melan-A (melanoma antigen recognized by T cells) ・チロシナーゼ ・gp100の黒色腫、MUC-1 (mucin-1) の複数癌種を例示した。多くの患者に適用可能だが、ドライバー変異ではないため最高親和性T細胞クローンは中枢性トレランスで除去される可能性が指摘された。第二にCancer-testis抗原 (MAGE-A/-B/-C、NY-ESO-1) として、生殖細胞 (免疫特権部位) と腫瘍組織に発現する抗原を提示。多くの腫瘍型で発現し臨床試験での奏効例がある。第三に変異型ネオアンチゲン (腫瘍固有抗原) として、患者固有の体細胞変異から生じる抗原を提示。TP53・RAS等の変異が早期から注目されたが、適切なMHC提示エピトープの同定が長年困難とされていた。次世代シーケンシングと計算予測アルゴリズムの向上により、高親和性かつ高い細胞傷害活性を持つT細胞を誘導できることが明らかになりつつあった (Tran et al. Science 2014)。NCI (National Cancer Institute) による腫瘍抗原優先順位付けプロジェクト (2009) では、WT-1 (Wilms tumor 1) ・MUC-1・CEA・HER2・p53・MART-1・NY-ESO-1等が上位n=75抗原中の上位にランクされた。

エピトープ・スプレッディング (Determinant spreading):一つの抗原に対するT細胞攻撃が腫瘍細胞を死滅させると、新たな腫瘍抗原が放出されて別の抗原特異的T細胞の活性化につながるin vivo現象。多くの臨床試験でワクチン接種抗原への免疫応答と臨床アウトカムが相関しないことの説明として重要であり、TAAワクチンの主要な役割は最終的に腫瘍固有変異抗原へのスプレッディングを促進することかもしれない (Butterfield et al., Clin Cancer Res 2003)。Spreading検出は患者n=20-30規模の研究で頻度約20-40%と報告された。

ワクチンプラットフォームの種類と特性:本レビューは4プラットフォームを系統的に比較した (Table 2)。ペプチドベースワクチンとしてMHC class I拘束ペプチド (8-11 amino acid) を各種アジュバントと投与する形式を提示、製造が安価 (約100-500 USD/dose) ・安定保存可能が利点、HLA拘束性 (特定HLA型患者のみに使用可能、典型的にはn=30-50%) ・CD4+T細胞ヘルプ不足が欠点。長鎖ペプチド (long peptide, 23-45 amino acid) はMHC class IとIIを同時提示でき優れたT細胞活性化を示す (Kenter et al., NEJM 2009、HPV16陽性外陰上皮内腫瘍n=20でlong peptide vaccinationでcomplete response n=9/20 / 45%が確認)。APCベースワクチン (樹状細胞: DC, dendritic cell) はex vivoで単球や前駆細胞からDCを分化・抗原パルスして投与する方式で、唯一FDA承認 (Sipuleucel-T、転移性去勢抵抗性前立腺癌でOS +4.1ヶ月改善、Kantoff et al. NEJM 2010、n=512、HR 0.78、95% CI 0.61-0.98、p=0.03) を取得。自己由来抗原提示細胞を用いることで腫瘍由来の免疫抑制因子の影響を回避する。腫瘍細胞ベースワクチン (G-Vax等) はGM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) をtransfectした腫瘍細胞で、腫瘍固有変異抗原を含む複合抗原が利点 (Dranoff 1993 PNASのmurine model起源)。同種・自家腫瘍細胞を利用し、Listeria monocytogenes (メソテリン発現・弱毒化) との組み合わせ (prime-boost strategy) でTLR (toll-like receptor) 活性化を追加 (膵癌での開発継続中)。ウイルスベクターワクチンとしてアデノウイルス・牛痘ウイルス・鶏痘ウイルス等のvectorにTAAをコードして投与。Heterologous prime-boost (vaccinia + fowl pox + PSA + 共刺激分子B7-1/ICAM-1/LFA-3) が前立腺癌で延命効果示唆。Oncolytic virus (T-VEC, talimogene laherparepvec; GM-CSFコードherpesvirus) がIII/IV期黒色腫でORR 26%・CR (complete response) 11% (OPTiM試験、Andtbacka et al. JCO 2015、最終的2015年FDA承認)。

標準治療の免疫修飾効果:本レビューは標準治療を4区分で整理 (Fig 2)。腫瘍アブレーション (RFA, radiofrequency ablation; cryoablation) では腫瘍細胞壊死による抗原放出・炎症誘導 → TAAに対する循環メモリーT細胞の再出現が確認され、MDSC (myeloid-derived suppressor cell) の減少と相関した再発予防効果が肝細胞癌でのRFA研究で示された。化学療法は「免疫原性細胞死 (immunogenic cell death, ICD)」 を誘導し、カルレティキュリン露出・ATP/HMGB1放出 → DC活性化を惹起する。Treg (regulatory T cell) ・MDSCを選択的に除去 (cyclophosphamide → Treg、gemcitabine → MDSC、5-FU → MDSC) し、免疫抑制環境を改善する。マウスモデルでは多抗原ペプチドワクチン + 化学療法の組み合わせが有効性示唆 (約2-3 fold tumor growth抑制)。放射線療法では照射部位以外の腫瘍縮小 (アブスコパル効果, abscopal effect) の免疫依存性が確認、T細胞受容体シグナルを介した腫瘍反応性T細胞活性化がマウスモデルで示されている (Demaria et al., 2004)。分子標的療法 (BRAF阻害薬) はBRAF阻害薬vemurafenib が黒色腫でのTAA発現増加・CD8+T細胞浸潤増加・免疫抑制マーカー低下をもたらし、腫瘍の「免疫認識可能性 (immune recognizability)」を高めることが示された (Frederick et al., Clin Cancer Res 2013、n=15 paired biopsies、約2-fold CD8 increase)。

免疫モニタリングとバイオマーカー:T細胞の有効性評価には (Table 3)、、MHC-tetramer (定量的) とIFNγ ELISPOT (機能的) の使用が推奨される。後者のみが臨床アウトカムと相関した (ECOG E1696試験、n=180、HR 0.65、95% CI 0.44-0.96、p<0.05)。「ポリファンクショナリティ (polyfunctionality)」 (複数サイトカイン・細胞傷害分子・ケモカインの同時分泌) が予後マーカーとして期待されている。Treg・MDSCのベースライン数が高い患者では奏効率が低く、これらの抑制細胞を標的とした前処置が有効性向上に寄与する可能性がある。腫瘍浸潤T細胞 (「brisk」なTIL) は黒色腫・大腸癌・乳癌・卵巣癌で独立した予後良好因子であり (Fridman et al. Immunity 2013 のmeta-analysis)、治療前生検でのTIL評価が奏効予測に有用である。Salgado 2015 (International TILs Working Group) ではbreast cancer TIL評価recommendationが標準化された。

Combination strategy: ICI併用とAdoptive cell therapy:本レビューは併用戦略として、ipilimumab (anti-CTLA-4, cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4) とgp100ペプチドワクチンの組み合わせがgp100単独より優れたOS (10.0ヶ月 vs 6.4ヶ月、Hodi et al. NEJM 2010 MDX010-20試験、HR 0.66、95% CI 0.51-0.87、p<0.003) を示したエビデンスを提示。Adoptive cell therapy (ACT) としてKalos et al. ScienceTranslMed 2011 のCAR-T (chimeric antigen receptor T cell) 細胞療法の起源研究を引用し、CD19 CAR-T cellのB cell悪性腫瘍でのcomplete remission rate 70-90%を提示した。

考察/結論

本BMJ Review (2015年4月オンライン公開) は癌ワクチン分野が共有TAA標的の「第一世代」から個別化ネオアンチゲンワクチン・免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせ「第三世代」へと移行する転換期に執筆された包括的総説である。これまでの研究と比較すると、Rosenberg et al. 2004 Nat Med (癌ワクチンメタ解析、ORR 3.8%) と異なり、本レビューは単剤ワクチンの限定的奏効率の理論的説明 (TME免疫抑制・チェックポイント発現) と次世代戦略 (ネオアンチゲン + ICI併用) を体系的に統合した点がnovelである。先行研究のChen & Mellman 2013 (cancer-immunity cycle) と相違する点として、本研究で初めて (a) 共有TAA vs cancer-testis vs ネオアンチゲンの治療標的としての序列化、(b) ペプチド/DC/腫瘍細胞/ウイルスベクター4プラットフォームの利点・欠点・コスト比較、(c) 標準治療の免疫修飾効果 (化学療法 ICD・放射線アブスコパル・分子標的TAA増加) の系統的整理、を1つの臨床指向総説に集約したnovelな貢献である。臨床応用および臨床的意義の観点では、単剤癌ワクチンの客観的奏効率はメタ解析で3.8% (DCベースで7.1%) に過ぎず (Rosenberg et al., Nat Med 2004)、臨床的有効性は限定的であった。この原因として、免疫原性は証明されても機能的なT細胞が腫瘍微小環境 (TME, tumor microenvironment) での免疫抑制 (Treg・MDSC・免疫チェックポイント) に打ち勝てないことが考えられる。ワクチン誘導T細胞はPD-1・CTLA-4等の発現によって機能的疲弊に陥る可能性があり、これらのチェックポイント阻害薬との組み合わせが相乗効果をもたらすと期待される。ipilimumab + gp100ペプチドワクチンの組み合わせがgp100単独より優れたOSを示したMDX010-20試験 (Hodi et al., NEJM 2010) は、この組み合わせアプローチの先駆的エビデンスである。本レビューはbench-to-bedside translationを支援する臨床医向け教育リソースとして機能した。残された課題と今後の展望 (limitation) として、(i) narrative reviewのためformal systematic methodologyではないbias可能性、(ii) 単一著者執筆による視点偏在の可能性、(iii) 2015年時点でmRNA technology platformへの言及不足 (BioNTech mRNA-4157時代を先取りできなかった)、(iv) CAR-T細胞療法の固形腫瘍展開のlimit認識不足、(v) その後のmRNA-4157 (neoantigen vaccine) + pembrolizumabのphase II試験 (KEYNOTE-942、2023年AACR報告、RFS HR 0.56) で本レビューで示された理論的枠組みが実証されたこと、(vi) Sipuleucel-T以外のFDA承認cancer vaccineがその後10年間で実現しなかった現状認識、が挙げられる。本レビューは現代の癌免疫療法の理論的基盤 (TMEの免疫状態評価・患者選択・組み合わせ戦略・免疫モニタリング) の多くを体系的に整理しており、その後のmRNA癌ワクチン・CAR-T細胞療法 (Brentjens et al. Blood 2011 のpioneering CAR-T cell trial) ・ネオアンチゲン個別化免疫療法の開発の知的背景を形成した重要な文書として位置付けられる。

方法

本論文はState-of-the-Art Reviewであり、一次研究ではない。文献検索戦略として、PubMedで「cancer vaccine」「immunotherapy and cancer」を検索キーワードとして使用 (検索期間: 2014年5-6月、過去5年間の文献を優先)、World Health Organization (WHO) ・American Cancer Society (ACS) のデータを参照した。SITC (Society for Immunotherapy of Cancer) 2013年会議・ASCO (American Society of Clinical Oncology) 2013・2014年会議の発表も含む。包含基準として免疫モニタリングと奏効バイオマーカーを報告した研究を優先した。Risk of bias評価やformal systematic review methodologyは適用しておらず、narrative reviewの構成で執筆された。Human tissue/clinical trial methodology paperであり、cell line・mouse strain・NCT番号は対象外。統計手法として個別研究で報告されているもの (Kaplan-Meier法・log-rank test・95% CI・hazard ratio) はそのまま引用、本レビュー独自のmeta-analyticsは実施していない。利益相反: NIH grant支援・University of Pittsburgh所属。