• 著者: Eric Tran, Simon Turcotte, Alena Gros, Paul F. Robbins, Yong-Chen Lu, Mark E. Dudley, John R. Wunderlich, Robert P. Somerville, Katherine Hogan, Christian S. Hinrichs, Maria R. Parkhurst, James C. Yang, Steven A. Rosenberg
  • Corresponding author: Steven A. Rosenberg (sar@nih.gov) (Surgery Branch, National Cancer Institute, National Institutes of Health, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2014
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24812403

背景

全悪性腫瘍の80%以上を占める上皮がんでは、メラノーマとは異なり変異特異的T細胞応答が存在するかどうか、またその応答を治療に利用できるかどうかについての証拠が極めて乏しかった。メラノーマに対する養子細胞療法 (ACT) は臨床的成功を収めてきたが、その効果は主にCD8+細胞傷害性T細胞によるものと考えられてきた。しかし、CD4+ Tヘルパー細胞も抗腫瘍免疫応答において重要な役割を果たすことが示唆されており、特にTh1細胞はサイトカイン産生を介して腫瘍退縮を媒介する可能性が指摘されていた。先行するメラノーマのACT研究ではCD4+ T細胞の関与が示唆されてきたが、上皮がんにおけるCD4+ T細胞の変異特異的反応が自然発生するかどうか、そしてそれを臨床利用できるかは不明なままであった。

上皮がんはメラノーマと比較して体細胞変異数が少ない傾向にあるため、変異ネオ抗原に対する免疫応答が起きにくい可能性も示唆されていた。例えば、Vogelstein et al. Science 2013の報告によれば、大腸がんでは1がんあたり約70個の変異が認められるのに対し、メラノーマでは数百から数千の変異が存在する。このような変異数の違いが、上皮がんにおけるネオ抗原特異的T細胞応答の同定を困難にしていた。

また、がん免疫療法の多くはCD8+細胞傷害性T細胞を標的にしており、CD4+ TH1細胞が腫瘍退縮を単独で媒介できるかどうかを直接示したヒト臨床データは存在しなかった。マウスモデルを用いた前臨床研究では、IFNγやTNFなどのサイトカイン産生を介してCD4+ TH1細胞が腫瘍細胞の老化を誘導したり、腫瘍血管新生を阻害したりすることで抗腫瘍効果を発揮することが示されていたが、ヒトの上皮がんにおける直接的な証拠は不足していた。

本研究以前には、全エクソームシーケンスを用いたアプローチにより、メラノーマ患者において変異特異的T細胞応答が同定され、ACTの標的となりうることがRobbins et al. NatMed 2013vanRooij et al. JClinOncol 2013によって報告されていた。しかし、これらの知見は主にメラノーマに限定されており、上皮がんにおける同様の治療戦略の可能性は未解明であった。特に、上皮がん患者において、変異特異的なCD4+ T細胞応答が自然発生し、それが臨床的効果をもたらすことが可能であるかという重要なギャップが残されていた。

目的

本研究の目的は、転移性胆管がん患者から、全エクソームシーケンスに基づくアプローチを用いて変異特異的腫瘍浸潤CD4+ T細胞を同定することである。さらに、これらの変異反応性TH1細胞を養子移入することが、転移性上皮がんの腫瘍退縮を媒介できるかを検証し、その治療的潜在力を評価することを目的とした。

具体的には、多剤化学療法後に進行した転移性胆管がん患者の腫瘍組織から得られた腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) を用いて、以下の点を明らかにすることを目指した。第一に、全エクソームシーケンスにより同定された患者特異的な非同義変異の中から、TILが認識するネオ抗原を特定する。第二に、特定されたネオ抗原に対するT細胞応答の特性、特にCD4+ T細胞の関与と機能的表現型を詳細に解析する。第三に、これらの変異特異的CD4+ TH1細胞を含むTILを患者に養子移入し、その臨床効果、特に腫瘍退縮と疾患安定化の有無を評価する。最後に、疾患進行後に高純度の変異特異的TH1細胞を再投与することで、CD4+ TH1細胞が単独で抗腫瘍効果を発揮しうるかを直接的に検証する。本研究は、上皮がんにおける変異特異的CD4+ T細胞応答の治療的応用可能性を示す概念実証を目指した。

結果

ERBB2IP E805G変異特異的CD4+ TH1細胞の同定と特性解析: 全エクソーム解析により同定された26個の非同義変異の中から、3つのタンデムミニ遺伝子 (TMG) 構築体を用いたスクリーニングを実施した。患者3737の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) は、TMG-1の変異を提示した自己抗原提示細胞 (APC) に対して、OX40および4-1BBの活性化マーカーを特異的に上方制御した (Figure 1A, B)。この反応は主にCD4+ T細胞集団に集中しており、CD8+ T細胞集団では反応が認められなかった。TMG-1内に含まれる9つの変異を個別に野生型配列に戻すスクリーニングの結果、ERBB2IP E805G変異がTILの反応に必須であることが同定された (Figure 1C)。このERBB2IP E805G変異の認識はHLA-DQB1*0601によって制限されており、最小エピトープは13アミノ酸配列 (NSKEETGHLENGN) であることが特定された (Figure S2)。クローニングされた変異特異的CD4+ T細胞のうち、10/11 clones (91%) がVβ22+であり、6/6 Vβ22+ clonesで同一のTCRβ V-D-J配列が確認された (Table S4)。これらのVβ22+クローンは、変異ERBB2IPペプチド刺激時にIFNγ、TNF、IL-2を同時に産生する多機能性TH1細胞の表現型を示し、IL-4やIL-17の産生は無刺激対照と比較して2-fold未満に留まった (Figure 1D, Figure 3A)。さらに、Vβ22陰性かつERBB2IP特異的なCD4+ T細胞クローンも少数存在し、その中でVβ5.2+クローンが最優位であった (Figure S6)。自己末梢血単核球 (PBMC) へのTCR-Vβ22遺伝子導入によっても変異特異的反応性が確認され (Figure 1E)、このTCRがERBB2IP E805G変異を特異的に認識することが示された。ACT-1投与前の3737-TIL全体において、Vβ22+クローンがCD4+ T細胞の約25%を占めることがフローサイトメトリーにより確認された (Figure 2A, B)。

ACT-1:42.4 billion TIL投与 (約25%変異特異的TH1含む) の臨床効果: 患者3737に対し、42.4 billion cellsのTILが養子移入された。このTIL製品には、約25%のERBB2IP変異反応性Vβ22+ TH1 cellsが含まれており、これは10 billion cells以上の変異特異的CD4+ T細胞に相当する。細胞輸注後5日間、患者血清中のIFNγレベルが上昇した (Figure 2C)。ACT前には疾患進行の明確な証拠があったにもかかわらず、2か月後のCT評価で標的病変 (肺・肝) の縮小が認められ、7か月後には最大30%の縮小 (RECIST sum of maximum diameters) を達成した (Figure 2D)。患者はその後約13か月間、疾患安定化を経験した。しかし、その後肝臓ではなく肺のみに病勢進行が確認された。ACT後約1.5年後に切除された3つの肺転移巣をTCR-Vβディープシーケンスで解析したところ、変異特異的T細胞の腫瘍内持続が確認された (Figure 3B)。特に、腫瘍結節-3 (Tu-3-Post) ではVβ22+クローンが全T細胞の約8%を占める最頻クローンであり、腫瘍結節-1および-2でもそれぞれ2番目および12番目に頻度の高いクローンとして高度に濃縮されていた。Vβ5.2+クローンも、末梢血中と比較して全ての転移巣で濃縮されていた。ACT前には末梢血中で希少または検出不能であったERBB2IP変異特異的クローンは、ACT後10日目には末梢血T細胞の2%以上に達したが、34日目には0.3%未満に低下した (Figure 3B)。これらの結果は、養子移入された変異特異的TH1細胞が腫瘍病変に浸潤し、長期間持続することで疾患安定化に寄与したことを示唆している。

ACT-2:95%以上純粋な変異反応性TH1細胞の再投与で腫瘍退縮を再現: 疾患進行後、患者は再治療を受けた。この際、Vβ22+ERBB2IP変異反応性TH1 cellsを95%以上の純度で選別・拡大した126 billion cellsが投与された (Figure 4A, B)。この細胞製品は、120 billion cells以上の変異特異的TH1細胞を含んでいた。ACT-1とは異なり、再治療では最初の1か月後から腫瘍縮小が認められ、最終フォローアップ時点である6か月後も腫瘍退縮が継続していた (Figure 4C)。この結果は、CD8+ T細胞を含まない高純度のCD4+ TH1細胞集団のみで腫瘍退縮が誘導されうることを直接的に実証するものであり、CD4+ TH1細胞が腫瘍退縮のエフェクターとして独立して機能できることを示す初のヒト上皮がん症例である。

ERBB2IP変異の発現持続と腫瘍クローナル性の確認: 定量RT-PCRにより、元の腫瘍組織と再燃した肺転移巣の両方でERBB2IP mRNAが高レベルで発現していることが確認された (Figure S7A)。Sangerシーケンスにより、原発巣および全ての転移巣においてERBB2IP E805G変異の存在が確認され (Figure S7B)、この変異が腫瘍全体にわたるクローナルな変異であることが示された。腫瘍内にT細胞浸潤および主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) の発現が確認されているにもかかわらず腫瘍が進行した事実は、腫瘍微小環境 (TME) 内に免疫抑制機構が存在する可能性を示唆している (Table S7, S8)。

考察/結論

本研究は、転移性胆管がん患者において、全エクソームシーケンスを用いたアプローチにより変異特異的CD4+ TH1細胞応答が自然発生することを初めて実証し、さらにその細胞を養子移入することで腫瘍退縮が得られることを示した画期的な概念実証である。

新規性: 本研究で初めて、上皮がんにおいても、メラノーマと比較して変異数が少ないにもかかわらず、変異特異的免疫応答が自然発生しうることが示された。また、CD8+ T細胞を含まない95%以上純粋なCD4+ TH1細胞集団のみで腫瘍退縮が示された点は、CD4+ TH1細胞が腫瘍退縮を独立して媒介できることを直接実証した最初のヒト症例であり、これまで報告されていない重要な知見である。先行するマウス研究ではIFNγやTNF産生を介した腫瘍老化誘導や血管新生阻害が示唆されていたが、ヒト上皮がんでの直接的な実証は本研究が初めてである。

先行研究との違い: これまでの多くのがん免疫療法研究がCD8+ T細胞に焦点を当ててきたのと異なり、本研究はCD4+ TH1細胞の治療的潜在力を明確な臨床的証拠として提示した点で、がん免疫療法のパラダイムに新たな視点をもたらした。また、再投与でも腫瘍退縮が得られたことは、ERBB2IP E805G変異が全腫瘍病変に一様に存在し、変異特異的免疫ターゲットとして機能し続けたことを示唆しており、クローナルなドライバー変異に近いネオ抗原が理想的なACT標的であることを示した点で、これまでのネオ抗原同定の方向性にも影響を与える。

臨床応用: 全エクソーム解析とミニ遺伝子スクリーニングを組み合わせたワークフローは、その後の個別化ネオ抗原免疫療法の標準的なパイプラインとなっており、本論文が記述した手法 (TMGを用いたOX40/4-1BB活性化マーカーによるスクリーニング) は多くの後継研究で採用されている。OX40や4-1BBといった活性化マーカーを用いた抗原特異的T細胞のスクリーニング手法は、希少な抗原特異的T細胞の同定を可能にした方法論的革新であり、個別化ネオ抗原免疫療法の開発に大きく貢献する臨床的有用性を持つ。本症例の成功は、個別化ネオ抗原免疫療法における変異特異的CD4+ T細胞の治療的役割を初めて臨床的に確立したランドマーク研究として、後続のTIL療法、mRNA個別化ワクチン、TCR-T療法の概念設計に広く引用されている。

残された課題: 今後の検討課題として、腫瘍微小環境内の免疫抑制機構への対応が挙げられる。本症例では、転移巣が持続するにもかかわらずT細胞が浸潤・持続していた事実があり、これは腫瘍部位での免疫抑制が存在することを示唆している。この免疫抑制を克服するため、抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせによるさらなる効果増強が期待される。また、本研究は単一患者の症例報告であるため、より大規模な臨床試験を通じて、変異特異的CD4+ T細胞療法の有効性と安全性を検証する必要がある。さらに、上皮がんにおけるネオ抗原の同定効率や、様々な癌種におけるCD4+ T細胞応答の普遍性についても、今後の研究で明らかにする必要がある。

方法

患者と腫瘍組織の採取: 43歳女性の転移性胆管がん患者 (患者3737) を対象とした。患者は多剤化学療法後に広範な転移性疾患が進行しており、NCT01174121に登録されたTILベースのACTプロトコルに参加した。肺転移巣を切除し、TILの生成および全エクソーム解析に供した。

全エクソーム解析と変異同定: 腫瘍組織と正常組織のペアを用いて全エクソームシーケンスを実施し、非同義体細胞変異を同定した。合計26個の非同義変異が特定された。

ミニ遺伝子スクリーニングによるネオ抗原の同定: 同定された各変異について、変異アミノ酸を中央に置き、その両側にそれぞれ12アミノ酸を配置したミニ遺伝子を設計した。複数のミニ遺伝子をタンデムに連結し、タンデムミニ遺伝子 (TMG) 構築体を作製した (Figure S1)。これらのTMG構築体は、in vitro転写 (IVT) RNAのテンプレートとして使用された。IVT TMG RNAは自己抗原提示細胞 (APC) に個別にトランスフェクションされ、その後TILと共培養された。T細胞の活性化は、フローサイトメトリーにより活性化マーカーであるOX40および4-1BBの発現を評価することで確認された。反応性が認められたTMG-1内の9つの変異について、それぞれを野生型配列に戻したTMG-1構築体を作製し、個別にスクリーニングすることで、反応性を示す特定の変異を同定した。この結果、ERBB2IP (ErbB2 interacting protein) E805G変異が同定された。

MHC制限と最小エピトープの特定: 同定された変異に対するT細胞応答のMHC制限を評価するため、HLAクラスIおよびクラスII分子のブロッキング抗体を用いた実験を実施した。HLA-DQB1*0601が制限分子であることが判明した。さらに、様々な長さの合成ペプチドを用いて、最小エピトープ配列 (13アミノ酸、NSKEETGHLENGN) を特定した。

変異特異的T細胞のクローン化と特性解析: 抗原特異的活性化後にOX40陽性CD4+ T細胞をソーティングし、バルク拡大後、限界希釈法によりクローン化した。T細胞受容体 (TCR)-Vβレパトワ解析により、優勢なクローンを特定した。Vβ22+クローンが優勢であることが判明し、6/6のVβ22+クローンで同一のTCRβ V-D-J配列が確認された (Table S4)。これらのクローンは、変異ERBB2IPペプチド刺激時にIFNγ、TNF、IL-2を同時に産生する多機能性Th1細胞であることが確認された。IL-4やIL-17の産生は低レベルであった。また、Vβ22陰性のERBB2IP変異反応性CD4+ T細胞クローンも同定され、その中でVβ5.2+クローンが優勢であった。

養子細胞療法 (ACT) の実施:

  • ACT-1: 42.4 billion cellsのTILが患者に養子移入された。このTIL製品は、フローサイトメトリー解析により約25%のERBB2IP変異反応性Vβ22+ TH1細胞を含んでいた。細胞輸注後、T細胞の増殖と機能を促進するため、インターロイキン-2 (IL-2) が4回投与された。
  • ACT-2: 疾患進行後、Vβ22+ERBB2IP変異反応性TH1細胞を95%以上の純度で選別・拡大し、126 billion cellsが再投与された。この製品は、95%以上が変異特異的TH1細胞であった。

臨床効果評価とT細胞のin vivo追跡: 腫瘍の反応は、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) ガイドラインに基づき、CTスキャンによる標的病変の最大径の合計の変化として評価された。TCR-Vβディープシーケンスを用いて、ACT前後の末梢血および切除された転移巣における変異特異的T細胞クローンのin vivoでの持続性と浸潤を追跡した。

ERBB2IP変異の発現確認: 定量RT-PCRにより、元の腫瘍および再燃肺転移巣におけるERBB2IP mRNAの発現レベルを評価した。Sangerシーケンスにより、全腫瘍病変におけるERBB2IP E805G変異の存在を確認した。統計解析には、Student’s t-testおよびANOVAが用いられた。