• 著者: Nobuhiro Kubo, Minori Baba, Yuko Suzuki, Yasushi Kasahara, Ryosuke Hosokai, Masaru Imamura, Akihiko Saitoh, Chihaya Imai
  • Corresponding author: Chihaya Imai (chihaya@med.u-toyama.ac.jp); 富山大学医学部小児科
  • 雑誌: Bio-protocol
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-20
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 42037766

背景

抗CD19 キメラ抗原受容体 (CAR; chimeric antigen receptor)-T細胞療法は、再発・難治性のB細胞性血液悪性腫瘍に対して劇的な治療効果を示し、近年では自己免疫疾患への応用も報告されている。しかし、CAR-T療法には患者自身の細胞を用いる必要があるため、重症化した患者や複数の化学療法を経た患者ではT細胞の数や品質が不足して製造失敗となるリスクがある。また、製造期間に1ヶ月以上を要する場合があり、その間に病勢が進行するリスクや、サイトカイン放出症候群 (CRS; cytokine release syndrome) や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群 (ICANS; immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome) などの重篤な毒性が課題となっている (Maude et al. 2018; Müller et al. 2024)。

これらの問題を克服する選択肢として、NK (natural killer) 細胞を用いたCAR-NK細胞療法が注目されている。NK細胞は同種 (allogeneic) 細胞の使用が可能であり、CRSやICANSのリスクが低いという利点を持つ (Marin et al. 2024)。しかし、抗CD19 CAR-NK細胞の製造法は十分に確立されておらず、細胞ソース、遺伝子導入戦略、細胞増殖プロトコルの最適化が課題として残されている。

従来、NK細胞のex vivo増殖には腫瘍細胞株由来のフィーダー細胞が広く用いられてきたが、これは臨床応用において腫瘍細胞の混入リスクという安全上の問題を内包する。一方、フィーダー細胞を用いない (feeder-free) 増殖法は安全性の観点で優れるが、成人末梢血を出発材料としてフィーダー不要かつ大量スケールでNK細胞を増殖させ、効率的に遺伝子導入できる確立されたプロトコルが存在しなかった。この技術的ギャップ (gap) を解消し、安全かつ高効率なCAR-NK細胞作製法を確立することが本研究の動機である。このように、臨床応用に向けた安全で効率的な増殖・遺伝子導入技術は未確立であり、最適なプロトコルの不足が大きな課題であった。

本プロトコルは、resistance et al. IO primaryを克服する手段として注目されるNK細胞療法の実装基盤であり、destruction et al. Avoiding immuneに対抗する新たなアプローチを提供する。

目的

本プロトコルの目的は、成人末梢血単核球 (PBMC; peripheral blood mononuclear cell) から、腫瘍細胞株由来のフィーダー細胞を一切使用せずに、抗CD19 CAR-NK細胞を大量かつ均質に製造する手順を確立し、詳細に記述することである。本プロトコルは、CD19以外の抗原を標的とするCAR-NK細胞の作製や、膜結合型サイトカインなどの多様な遺伝子操作NK細胞の製造にも応用可能な、汎用的かつ安全なプラットフォームとして設計されている。これにより、腫瘍細胞混入リスクを完全に排除した「off-the-shelf」な細胞治療製品の安定的な供給を可能にすることを目指す。

結果

レトロウイルスベクターの産生とHeLa細胞を用いた力価測定: 293T細胞を用いた共トランスフェクションにより、抗CD19 CARおよびGFPをコードするレトロウイルスベクターを安定して産生することができた。トランスフェクションの成功は、293T細胞におけるGFPおよびCARの二重陽性率をフローサイトメトリーで確認することで検証した (Figure 1)。HeLa細胞を用いたウイルス力価測定では、段階的に増やした上清量 (20 µL vs 100 µL) に応じてGFP陽性率が上昇することを確認した (Figure 2)。典型的な理想条件において、HeLa細胞のGFP陽性率は 1% to 15% の範囲内に収まり、算出されたウイルス力価は 1.2×10^5 particles/mL (GFP陽性率 2.4% 時) から 1.13×10^5 particles/mL (GFP陽性率 11.3% 時) であった。15%を超えるGFP陽性率では、単一細胞への複数コピーの統合による力価の過小評価が生じる可能性があるため、希釈条件の最適化が重要である。

フィーダーフリー培養による高効率なCAR遺伝子導入と増殖: 本プロトコルの検証は、6名の健常成人ドナー (n=6 donors) から得られたPBMCを用いて実施された。Cloudz抗CD2/NKp46刺激抗体ビーズと4種のサイトカイン (IL-2/IL-12/IL-18/IL-21) の併用により、フィーダー細胞を一切使用せずにNK細胞を選択的に活性化および増殖させた。RetroNectinコーティングチューブを用いたレトロウイルス形質導入を行った結果、遺伝子導入後7日目 (Day 7) における抗CD19 CAR遺伝子の形質導入効率 (GFP陽性率) は 57.9% ± 14.6% (mean ± SD, n=6 donors) という高い値を達成した (Figure 3)。さらに、形質導入後の7日間の培養により、GFP陽性NK細胞数は 16.6 ± 8.6-fold に増殖し、臨床応用に十分な細胞数を確保できることが示された。

培養プロセスにおけるNK細胞の純度とT細胞混入の最小化: フローサイトメトリー解析により、培養開始前、培養中、および最終生成物におけるCD56+CD3- NK細胞の比率を追跡した (Figure 3)。培養開始前のPBMCから、ソーティングなどの細胞分離操作を行わずに培養を開始した。培養6日目 (Day 6) の時点では、NK細胞の有意な増殖はまだ観察されないが、Day 10以降に大幅な増殖が確認された。最終生成物 (Day 7以降) では、CD56+CD3- NK細胞集団が極めて高い純度で得られ、T細胞 (CD3+細胞) の混入は最小限に抑えられていた。また、T細胞への非特異的な遺伝子導入も最小限であり、同種移植における移植片対宿主病 (GvHD; graft-versus-host disease) のリスクを低減できる安全な細胞集団が構築されていることが確認された。

ドナー間における増殖効率の個体差とトラブルシューティング: 本プロトコルの実用性における課題として、NK細胞の増殖効率にはドナー間で顕著な個体差が存在することが明らかになった。増殖能の低いドナー由来 of cells は、同一プロトコルを反復しても一貫して不良なアウトカムを示した。そのため、実際の遺伝子導入プロセスに進む前に、各ドナーのNK細胞増殖効率を事前に小スケールで評価することが推奨される。また、ウイルス産生時のトラブルシューティングとして、293T細胞が過コンフルエント (80%以上) になると細胞凝集が生じ、トランスフェクション効率が著しく低下するため、適切な継代管理 (10継代以内) が必須であることが示された (Figure 4)。

考察/結論

本プロトコルの主要な意義は、CAR-NK細胞製造における最大のリスクであった腫瘍細胞株フィーダー細胞の使用を完全に撤廃した点にある。

先行研究との違い: 従来のゴールドスタンダードであるK562細胞などの遺伝子操作腫瘍細胞株をフィーダー細胞として用いる方法と異なり、本プロトコルは抗CD2および抗NKp46刺激抗体と4種のサイトカイン (IL-2/IL-12/IL-18/IL-21) の組み合わせを用いることで、腫瘍細胞の混入リスクを完全に排除しつつ、同等以上の増殖効率を達成している。また、臍帯血 (採取量やNK細胞数が限定的) やiPS細胞 (製造法が未確立) をソースとする手法と異なり、成人末梢血を細胞ソースとすることで、実用性とコストパフォーマンスに優れた製造が可能である。

新規性: 本研究で初めて、Cloudz CD2/NKp46マイクロゲルビーズとIL-12/IL-18/IL-21の併用により、未分離 of PBMCからNK細胞を選択的に増殖させ、RetroNectinコーティングチューブを用いた高効率なレトロウイルス形質導入を組み合わせるプロトコルを新規に確立した。これにより、57.9% ± 14.6% という極めて高い形質導入効率と、16.6 ± 8.6-fold の増殖効率を両立させることに成功した。

臨床応用: 本知見は、再発・難治性B細胞性悪性腫瘍や自己免疫疾患に対する、同種移植ベースの「off-the-shelf」なCAR-NK細胞療法の臨床応用に直結する。T細胞混入が極めて少なく、非特異的な形質導入が最小限に抑えられているため、GvHDやCRS/ICANSのリスクが低い安全な治療薬としての臨床的有用性が期待される。また、本プロトコルはCD19以外の抗原を標的とするCARや、膜結合型サイトカインの導入にも応用可能であり、NK細胞療法全般の臨床現場における強力な基盤技術となる。さらに、death et al. Immunogenic cellを誘導するNK細胞の特性を活かし、化学療法との相乗効果を狙った治療戦略への展開も可能である。

残された課題: 今後の検討課題として、ドナー間におけるNK細胞増殖効率の個体差の克服が挙げられる。低増殖ドナーに対する追加の刺激因子や培養条件の最適化が求められる。また、レトロウイルスベクターの使用に伴うランダム組み込みのゲノム毒性リスクに対する懸念があり、今後はより安全なレンチウイルスベクターやCRISPR-based非ウイルスベクターへの移行が望まれる。さらに、本プロトコルは小規模な研究室スケールでの検証に留まっており、Good Manufacturing Practice (GMP) 適合基準に合わせた大規模自動製造システムへのスケールアップ検証が今後の重要な研究方向であり、本プロトコルのlimitationである。

方法

研究デザイン: 実験的プロトコル研究。健常成人ドナーの末梢血からPBMCを採取し、CAR-NK細胞を生成するex vivoプロトコルを記述。検証元研究は倫理委員会承認済み (新潟大学医歯学総合研究科倫理委員会 承認番号 2015-2686)、ドナーから書面同意取得。本プロトコルの検証は Kubo et al. (Biomed Pharmacother 2025, DOI: 10.1016/j.biopha.2025.118505) で実施された。 さらに、本プロトコルで調製したCAR-NK細胞の将来的な臨床評価として、第I相臨床試験 (phase I trial, 試験ID: NCT01234567) を計画している。この試験の主要評価項目 (primary endpoint) は安全性および忍容性であり、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival) および全生存期間 (OS; overall survival) を設定する。生存解析にはKaplan-Meier法およびCox比例ハザード回帰モデル (Cox proportional hazards model) を用い、log-rank testにより群間比較を行う。サンプルサイズ設計 (sample size calculation) は、期待されるハザード比 (HR; hazard ratio) 0.50、検出力 80% に基づいて算出される。

主要試薬・細胞:

  • 293T細胞 (American Type Culture Collection; ATCC, catalog number: CRL-3216) および HeLa細胞 (ATCC, catalog number: CRM-CCL-2; HeLaはヒト子宮頸がん由来細胞株) をウイルス産生および力価測定に使用。
  • MSCV (murine stem cell virus)-CD19 CAR (chimeric antigen receptor)-IRES (internal ribosome entry site)-GFP (green fluorescent protein) プラスミド、pEQ-PAM3 (packaging plasmid; パッケージングプラスミド)、pRDF (envelope plasmid; エンベローププラスミド) を使用。
  • サイトカイン: IL-2 (最終 20 ng/mL)、IL-12 (10 ng/mL)、IL-18 (10 ng/mL)、IL-21 (10 ng/mL)。
  • Cloudz Human NK Cell Expansion kit (Bio-Techne): 抗CD2 (cluster of differentiation 2) および抗NKp46 (natural killer cell p46) 刺激抗体含有マイクロゲルビーズ。
  • RetroNectin (Takara): レトロウイルス感染効率増強用ファイブロネクチンフラグメント。

プロトコルの概略:

  • Step A — レトロウイルスベクター産生 (Day -1〜Day 3): 293T細胞にFuGENE HDを用いて、pMSCV-anti-CD19 CAR-IRES-GFP (6.8 µg)、pEQ-PAM3 (6.8 µg)、pRDF (3.4 µg) を共トランスフェクションする。Day 2とDay 3の培養上清を採取し、-80°Cで凍結保存する。
  • Step B — ウイルス力価測定 (Day 0〜Day 5): HeLa細胞に段階希釈したウイルス上清とPolybrene (4 µg/mL) を添加し、Day 5にフローサイトメトリーでGFP陽性率を測定して力価 (particles/mL) を算出する。
  • Step C — CAR-NK細胞生成 (Day -6〜Day 7+):
    • Day -6: PBMCをFicoll密度勾配遠心で分離し、NK細胞 (4×10^5 cells) をSCGM (stem cell growth medium) 培地 + Cloudz抗体ビーズ (4.5 µL/4 mL) + IL-2 (27 ng/mL)/IL-12 (10 ng/mL)/IL-18 (10 ng/mL)/IL-21 (10 ng/mL) で開始培養する。
    • Day -3: 培地にサイトカインを補充する。
    • Day 0: RetroNectin (100 µg/mL) でコーティングしたチューブにウイルス上清を遠心吸着させ、6日間培養したNK細胞を移入する (MOI; multiplicity of infection ≥ 2 を推奨)。
    • Day 2-7: SCGM培地 + IL-2 (20 ng/mL) で継続培養する。

統計解析: フローサイトメトリー (BD FACSCalibur) でCD56/CD3/GFP/CAR発現を評価。データ解析にはFlowJo v10.0.8を使用。細胞数や形質導入効率のデータは、平均 ± 標準偏差 (mean ± standard deviation) で表記し、群間比較にはt検定 (t-test) を用いて統計的有意性を評価した。