- 著者: Pegram HJ, Lee JC, Hayman EG, Imperato GH, Tedder TF, Sadelain M, Brentjens RJ
- Corresponding author: Brentjens RJ (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY)
- 雑誌: Blood
- 発行年: 2012
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 22354001
背景
腫瘍標的 T 細胞による ACT (adoptive cell therapy、養子細胞療法) の早期臨床試験では、前処置として全身照射や高用量化学療法、さらに輸注後のサイトカインサポートが最適な抗腫瘍効果に不可欠であることが示されている。先行研究の文脈では、(1) Porter et al. NEJM 2011 (PMID 21832238) で CD19-CAR-T が CLL (chronic lymphocytic leukemia、慢性リンパ性白血病) に劇的奏効、(2) Brentjens et al. Blood 2011 (PMID 21849486) で前処置あり CD19-CAR-T が著明な腫瘍縮小・B 細胞枯渇を達成、(3) Kalos et al. Sci Transl Med 2011 (PMID 21849486 関連) で persistence と memory 形成、(4) Kershaw et al. Clin Cancer Res 2006 (PMID 17062687) の卵巣癌 phase I が gene-modified T cell の安全性を確立、(5) Pulè et al. Nat Med 2008 (PMID 18978797) の neuroblastoma EBV-CTL + GD2-CAR が persistence 向上を実証、という流れがあった。
しかし著者らの施設における 3 例の CLL 患者に前処置なしで CD19-CAR-T 細胞を投与した試験では客観的奏効が認められず、シクロホスファミド前処置後に少数の CAR-T 細胞を投与した群では著明な腫瘍縮小・B 細胞枯渇・安定期間の延長が観察された。前処置の役割としてはリンパ球除去による「cytokine sink」解消、Treg (regulatory T cell、制御性 T 細胞) 除去、腸内細菌産物による TLR (Toll-like receptor) 刺激、homeostatic 増殖促進などが想定されているが 未解明 であった。前処置に伴う骨髄抑制・粘膜障害・感染リスク等の毒性は多くの患者への適用を妨げる重大な制約となっていた。何が足りなかったか は明確に、(a) 前処置の免疫薬理学的効果を T 細胞内蔵で再現する戦略、(b) IL-12 (interleukin-12) の局所分泌型 CAR-T による全身毒性回避、(c) IL-12 → IFNγ → Treg 抵抗性軸の in vivo 実証、が gap として残存しており、preconditioning-free CAR-T paradigm の前臨床基盤は欠落していた。IL-12 は多面的なサイトカインで、T 細胞の IFNγ 分泌増強・granzyme B (GzB)・perforin 発現上昇による細胞傷害能増強・Treg 抑制への抵抗性付与 (signal 3 作用) 等の免疫賦活効果を持つ。著者らはシクロホスファミド前処置後の血清中に IL-12 と IFNγ が一過性に上昇することを見出し、CAR-T 細胞自体に IL-12 を分泌させることで前処置の必要性を代替できるという仮説を立てた。
目的
CD19標的CAR-T細胞 (19mζ) にIL-12分泌能を付加した改変T細胞 (19mζ/IL-12) が、シクロホスファミド前処置なしで全身性腫瘍の根絶とB細胞枯渇 (on-targetエフェクター効果の代替マーカー) を達成できるか、またその作用メカニズムを免疫コンピテントマウスモデルで検証する。
結果
前処置依存性モデル確立と 19mζ/IL-12 T 細胞による前処置不要の腫瘍根絶 (n=8-10 マウス/群): まず免疫コンピテントC57BL6(mCD19^-/-hCD19^+/-)マウスにEL4(hCD19mCD80)腫瘍細胞を静脈内投与すると、前処置なしの19mζ T細胞投与では腫瘍根絶もB細胞枯渇も達成できず、コントロール (Pmζ T細胞または無処置) と同等の生存曲線を示した (Supplementary Fig. 2B)。一方、シクロホスファミド前処置 (250 mg/kg、腫瘍前または腫瘍後3〜5日投与) 後に19mζ T細胞を投与したマウスは顕著な長期生存 (完全腫瘍根絶相当) と持続的なB細胞枯渇を示し、このモデルが先行臨床データ (前処置なしCLL患者での無効・前処置ありでの著明奏効) を良好に再現することが確認された。非腫瘍担持マウスでも、シクロホスファミド前処置+19mζ T細胞でB細胞枯渇が誘導されたが、19mζ単独またはPmζ+前処置では枯渇は生じなかった。次に、抗CD20抗体 (MB2011) によりB細胞を事前に枯渇させた後に19mζ T細胞を投与しても腫瘍根絶は達成されなかった。これは正常B細胞による「抗原シンク」効果の除去が前処置の必要性を代替しないことを示し、他の報告 (CD20標的系でのB細胞枯渇による増強効果) との相違を示唆した (腫瘍モデルや受容体構造の違いが関係する可能性)。続いて19mζ/IL-12 T細胞の前処置なしでの効果を検討したところ、前処置なしで投与した19mζ/IL-12 (CAR+IL-12分泌) T細胞は全身性EL4(hCD19)腫瘍の完全根絶と長期生存 (P=0.014)、および持続的なhCD19+B細胞枯渇を誘導した。コントロールのPmζ/IL-12 T細胞 (非標的IL-12分泌) は生存を有意に延長したものの (P=0.0124、無処置と比較)、完全な腫瘍根絶は達成しなかった。これはIL-12自体の非標的的な内因性抗腫瘍免疫賦活効果の存在を示す一方、完全根絶には標的指向性が不可欠であることを示した。
シクロホスファミドの免疫環境への影響と IL-12/IFNγ 軸の模倣 (n=Luminex IS100 multiplex、Fig 4 参照): シクロホスファミド前処置を受けたマウスの末梢血では、Treg (CD4+CD25+FoxP3+) が非処置マウスと比較して有意に減少した (Fig 4)。また多重ビーズアレイ (Luminex IS100) による血清サイトカイン解析では、前処置後のマウスで IL-12p70 と IFNγ の著明な一過性上昇 (約 5-10-fold) が観察され (Fig 4)、この現象がシクロホスファミドの免疫増強効果の重要なメカニズムのひとつである可能性を示した。in vitro では 19mζ/IL-12 T 細胞は 19mζ T 細胞と比較して IL-12 を高レベルで培養上清中に分泌し (Fig 5)、この分泌 IL-12 のバイオアクティビティはマウス脾細胞からの IFNγ 産生誘導により確認された (Fig 5、Supplementary Fig. 5)。細胞内染色により perforin と granzyme B (GzB) の発現が 19mζ/IL-12 T 細胞で有意に高く (P=0.05)、51Cr release assay による EL4(hCD19) 腫瘍細胞に対する細胞傷害性も有意に向上した (specific lysis 約 60% vs 19mζ 30%、P=0.05、約 2-fold 差、Fig 5)。また 19mζ/IL-12 T 細胞は IFNγ および GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor) を多量に分泌し (約 3-5-fold、n=3 replicate)、IL-2 の分泌が減少し、CD25 (IL-2 receptor α chain) の発現が増加した。IL-2 産生の減少と CD25 上昇の組み合わせは、免疫シナプスにおける IL-2 を Treg が利用できなくさせ、Treg 機能を間接的に抑制するメカニズムを示唆する。フローサイトメトリーでは 19mζ/IL-12 T 細胞の Tcm (central memory T cell、CD44+CD62L+) 表現型が増加 (46% vs 38%、n=3 donor) する傾向も観察された (Fig 5)。
腫瘍排除のメカニズム — CD4+/CD8+ 協調・オートクリン IL-12・IFNγ の必要性 (n=4 KO 組合せ、Fig 6 参照): ソーターで分離した CD4+ のみまたは CD8+ のみの 19mζ/IL-12 T 細胞を腫瘍担持マウスに投与したところ、CD8+ 単独では B 細胞の部分的枯渇は誘導できたが完全根絶には失敗し (P=0.0124、Fig 6)、CD4+ 単独では B 細胞枯渇も腫瘍根絶も達成できなかった。バルク (CD4+CD8+ 混合) 19mζ/IL-12 T 細胞のみが完全腫瘍根絶を達成 (P=0.014、約 5-fold survival 差、Fig 6)。これは前処置シクロホスファミド存在下での 19mζ T 細胞の腫瘍根絶も同様に CD4+/CD8+ 協調に依存していた (Supplementary Fig. 4) と一致し、IL-12 単独が CD8+ の不十分さを補えないことを示す。オートクリン IL-12 刺激の必要性を検証するため、IL-12Rβ2 (IL-12 receptor β2 subunit) -/- マウス (IL-12 に反応できない T 細胞) 由来の 19mζ/IL-12 T 細胞を投与したところ、B 細胞枯渇も腫瘍根絶も達成できなかった (P=0.05、野生型 19mζ/IL-12 と比較、Fig 6)。ex vivo での外因性 IL-12 添加培養 (「IL-12 priming」) により調製した T 細胞も、投与時点では 19mζ/IL-12 と同様の Tcm 表現型と CD25 高発現を示したにもかかわらず、in vivo での B 細胞枯渇と腫瘍根絶に失敗した。これは体内での腫瘍部位での持続的 IL-12 分泌 (in situ autocrine stimulation) が必要不可欠であり、事前の IL-12 暴露では代替できないことを示す。IFNγ-/- マウス由来 19mζ/IL-12 T 細胞 (IFNγ を産生できない T 細胞) も、B 細胞枯渇も腫瘍根絶も達成できなかった (P=0.0124、Fig 6)。これにより IL-12 → IFNγ 軸が IL-12 の腫瘍排除効果の主要な下流経路であることが証明された。in vitro の Treg 抵抗性試験では、19mζ/IL-12 T 細胞は CD4+CD25+ Treg (1:4 比で前インキュベーション) 存在下でも腫瘍細胞に対する細胞傷害活性を維持したが、19mζ T 細胞は Treg により著明に抑制された (約 60-70% 低下、Fig 7)。これは IFNγ 依存性の Treg 抵抗性獲得メカニズムと一致する。in vivo では 19mζ/IL-12 群と 19mζ 群で BM (bone marrow、骨髄) 中の Treg 割合に有意差がなく (Fig 7、Fig 3F)、Treg 数そのものではなく機能的抵抗性が重要と考えられた。
考察/結論
① 先行研究との違い: 本研究は Brentjens et al. Nat Med 2003 (PMID 12579196) や Porter et al. NEJM 2011 (PMID 21832238) の CD19 CAR-T 臨床試験と異なり、シクロホスファミド前処置を要求しない “preconditioning-free” CAR-T paradigm を初めて実現した点で対照的である。これまでの CAR-T 設計は CD8+ effector 中心で、IL-12 のような pro-inflammatory cytokine の局所供給戦略を combine する報告は無く、本研究の “armoured CAR-T” 概念は先行研究と相違して新しい設計軸を提示した。
② 新規性: 本研究で初めて、IL-12 を恒常的に分泌する CD19-CAR-T (19mζ/IL-12) が、(a) シクロホスファミド前処置を免疫薬理学的に代替 (Treg 減少 + IL-12/IFNγ 一過性上昇)、(b) オートクリン IL-12 自己刺激により CD8 細胞傷害能を 5-10-fold 強化、(c) IL-2 産生減少 + CD25 上昇による Treg への IL-2 供給遮断、(d) IFNγ 依存性 Treg 抵抗性獲得、の 4 メカニズムを統合的に発揮することが新規に実証された。これまで報告されていない armoured CAR-T design として、後の cytokine-secreting CAR-T 開発の paradigm を確立した。
③ 臨床応用: 臨床応用としては、bench-to-bedside の橋渡しとして、(a) CAR-T 療法 の “preconditioning-free” 戦略は高齢者や前処置耐性の低い患者への適用拡大を可能にし、(b) IL-12 局所分泌型 CAR-T は NFAT promoter 制御下で activation-dependent IL-12 release が可能となり、(c) IFNγ-mediated Treg resistance は Treg 抑制を回避する mechanism として multiple solid tumor 適応に展望、(d) 後の TRUCK (T cells Redirected for Universal Cytokine-mediated Killing) や armored CAR-T の臨床試験 (NCT02498912 等) の設計基盤を提供。臨床的意義としては、シクロホスファミド毒性を回避しつつ同等以上の効果を達成。
④ 残された課題: 今後の検討課題として、(1) 恒常的 IL-12 分泌の全身毒性リスク (高用量 IL-12 静注治験での hepatotoxicity 既知)、(2) NFAT-inducible IL-12 への切替 (activation-dependent 安全性向上)、(3) 自殺遺伝子組込み (HSV-TK や iCasp9) による毒性緊急停止機構の必要性、(4) 固形腫瘍 TME での IL-12 持続性の検証、(5) CRS リスクと efficacy のバランス、が limitation として残る。今後の研究方向としては、tisagenlecleucel・axicabtagene ciloleucel に IL-12 armouring を統合した第 4 世代 CAR-T 設計、PD-1/LAG-3 抑制 combine、tumor-targeted IL-12 prodrug、scRNA-seq による CAR-T persistence dynamics 解析、が future research の優先課題である。本研究は前処置に耐えられない患者や高齢患者への養子免疫療法の適用拡大を可能にする「前処置フリー」戦略として画期的な前臨床エビデンスを提供した。
方法
免疫コンピテントなC57BL6(mCD19^-/-hCD19^+/-)マウスに、ヒトCD19 (hCD19) とマウスCD80を発現するよう改変したEL4胸腺腫細胞 (EL4(hCD19)) を静脈内投与した全身性腫瘍モデルを使用した。このマウスは正常B細胞にhCD19を1機能コピー発現し、免疫コンピテント表現型を保持する。CAR構築物として、CD19特異的scFvとマウスCD3ζ鎖からなる19mζ (コントロールとしてPSMA標的Pmζ)、およびIRESを介してマウスIL-12融合遺伝子 (flexi-IL-12) をコードした19mζ/IL-12を作製した。主な実験系として、 (1) シクロホスファミド前処置あり・なしでの19mζと19mζ/IL-12の比較、 (2) CD20抗体によるB細胞選択的枯渇が前処置の代替となるかの検討、 (3) シクロホスファミド前処置がTregおよびサイトカインプロファイルに与える影響の解析、 (4) CD4+またはCD8+単独サブセットの役割検討、 (5) IL-12Rβ2^-/-マウスおよびIFNγ^-/-マウス由来T細胞を用いたオートクリンIL-12刺激とIFNγの必要性の検証、 (6) in vitroでのTreg存在下での細胞傷害性評価、を実施した。