- 著者: Fengtao You, Licui Jiang, Bozhen Zhang, Qiang Lu, Qiao Zhou, Xiaoyang Liao, Hong Wu, Kaiqi Du, Youcai Zhu, Huimin Meng, Zhishu Gong, Yunhui Zong, Lei Huang, Man Lu, Jirong Tang, Yafen Li, Xiaochen Zhai, Xiangling Wang, Sisi Ye, Dan Chen, Lei Yuan, Lin Qi, Lin Yang
- Corresponding author: Lin Yang (Soochow University / Persongen Biomedicine, Suzhou, China)
- 雑誌: Science China Life Sciences
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-03-03
- Article種別: Original Article (Phase 1 clinical trial / first-in-human case report)
- PMID: 26961900
背景
キメラ抗原受容体T細胞 (CAR-T細胞) 療法は血液悪性腫瘍において革新的な成果を上げてきた。CD19標的CAR-T細胞は再発・難治性急性リンパ芽球性白血病 (ALL) において30名中90%超の完全奏効率を達成し (Maude et al. NEnglJMed 2014; Grupp et al. NEnglJMed 2013)、慢性リンパ性白血病でも持続的完全寛解が報告されている (Porter et al. NEnglJMed 2011)。これらの成功を背景に固形腫瘍への応用が期待されたが、3つの根本的障壁が存在することが明らかとなっていた。
第一に、off-tumor on-target毒性の問題がある。CAIX (carbonic anhydrase isoform 9) 標的CAR-T細胞では肝毒性が、ERBB2標的CAR-T細胞 (10¹⁰個の静脈内投与) では投与15分後の呼吸困難・多臓器不全による死亡例が報告されており (Morgan et al. MolTher 2010)、off-target毒性対策は固形腫瘍CAR-T療法の最重要課題であった。第二に、腫瘍の抗原発現heterogeneityにより、CAR-T細胞による選択圧で抗原陰性クローンが最終的に優勢となる抗原逃避問題がある。第三に、TME (tumor microenvironment) の免疫抑制性が高く、TGF-βやIL-10などの抑制性サイトカインとTreg (regulatory T cells)・TAM (tumor-associated macrophages) がCAR-T細胞のhoming能力と増殖を著しく制限することが知られていた。この課題に対しIL-12 (interleukin-12) を共発現するCAR-T細胞がTMEを再プログラムし効果を増強できる可能性が前臨床研究で示されていたが (Pegram et al. Blood 2012)、臨床的な検証は未実施であった。
Mucin 1 (MUC1) は上皮性腫瘍 (乳癌・卵巣癌・膵癌・肺癌・精嚢癌など) の約80%で過剰発現し、悪性形質転換時に糖鎖修飾が変化してTn・sialyl-Tn (STn)・Thomsen-Friedenreich (T) 抗原などの短鎖糖鎖が増加することで、正常MUC1とは異なる腫瘍特異的エピトープが露出する。このtumor-associated MUC1を選択的に認識するSM3 (anti-MUC1 monoclonal antibody) のscFv (single-chain variable fragment) をCAR構造に組み込む試みが行われていたが、SM3 scFvに基づくCAR-T細胞はMUC1発現腫瘍細胞への再標的化能が不十分であることが前臨床で示されており、特にMUC1-ST (sialyl-T) 糖鎖型への結合親和性が低いことが問題であった。精嚢癌は極めて稀な悪性腫瘍で標準治療が確立されておらず、転移例は化学療法抵抗性を示すことが多く予後が不良である。2016年の本試験実施時点でMUC1標的CAR-T細胞のヒト臨床試験は皆無であり、安全性・有効性・至適投与経路に関するデータが不足しており、多くの点が未解明であった。腫瘍内直接投与によりヒト固形腫瘍に壊死が誘導できるか、またscFv親和性改良とIL-12武装化のいずれが臨床有効性に決定的かという問いも未解決のまま残されており、これらの知識のギャップが本試験の出発点となった。特に不足していた臨床的根拠: (1) MUC1標的CAR-T細胞を固形腫瘍患者に投与したfirst-in-humanデータが世界的に皆無であり、安全性プロファイルが未解明であったこと、(2) scFv親和性工学とIL-12武装化という2つのアプローチのいずれが固形腫瘍CAR-T有効性に必須かを直接比較した臨床根拠が欠如していたこと、(3) 腫瘍内投与によって固形腫瘍に組織学的壊死を誘導できるかどうかが未検証であったことの3点が核心的ギャップとして残されており、本試験はこれらの未解決の問いに答えるために計画された。
目的
転移性MUC1陽性精嚢癌患者1名を対象に、(1) IL-12を自己分泌するSM3-CAR-T (SM3 scFv-based chimeric antigen receptor-transduced T cell co-expressing IL-12) と (2) SM3 scFvに6アミノ酸置換を施し腫瘍関連MUC1-ST (sialyl-T glycoform of MUC1) への親和性を改良したpSM3-CAR-T (affinity-matured pSM3 scFv-based chimeric antigen receptor-transduced T cell without IL-12) の2種類を2つの独立した転移巣に腫瘍内投与し、world-firstのMUC1標的CAR-T first-in-human試験として製造実現可能性・安全性・血清サイトカイン応答・腫瘍応答 (組織学的壊死) を評価する。また同一患者内での直接比較によりscFv親和性工学とIL-12武装化のそれぞれの臨床的有効性への寄与を明らかにする。
結果
体外細胞傷害性:pSM3-CAR-TはSM3-CAR-Tより高い腫瘍細胞傷害能を示した:MUC1高発現T47D細胞 (ATCC) に対してE:T=30:1でCAR-T細胞を24時間共培養した独立した実験 (n=3 replicates) の結果、非形質導入T細胞 (陰性対照) は15%の死細胞率、CD19-CAR-T細胞 (アイソタイプ対照) は21%にとどまった (Figure 3A、3B)。これに対しSM3-CAR-T細胞は44% (n=3)、pSM3-CAR-T細胞は51% (n=3) の殺傷率を示し (Figure 3C、3D)、MUC1標的CAR-T細胞がT47D細胞に対して選択的細胞傷害性を発揮することが確認された。pSM3-CAR-TはSM3-CAR-Tより約7ポイント高い殺傷率を示し、6アミノ酸置換によるscFv親和性改良の効果が体外でも認められた。SM3-CAR-T細胞をMUC1陽性T47D細胞と共培養した上清ではIL-12産生がELISAで確認され、MUC1抗原刺激依存的なIL-12産生が機能していることを示した (Figure 2C)。pSM3-CAR-TはIL-12を含まない設計であり、体外有効性の差はscFv親和性によって決定されることが示唆された。
臨床安全性と体温・全身反応:管理可能な有害事象プロファイルが確認された:SM3-CAR-TとpSM3-CAR-T各5×10⁵ cellsの腫瘍内投与後、患者は翌日から軽度の頭痛・筋肉痛・鼻閉・軽度腹部膨満感を訴えたが、呼吸・血圧・脈拍・酸素飽和度は正常範囲を維持した。体温はベースライン36.1°Cから投与3日目に38.2°Cへ上昇したが (Figure 4A)、6日目から12日目の間に正常化した。投与13日目から2日間、1日1-3回の泥状便が出現した。血液検査 (Table 1) では好酸球比率が投与前14.3% (正常0.4-0.8%) から持続上昇し、好酸球数は0.70 (正常上限0.52)×10⁹/Lと上昇していた。尿酸値は投与前133 µmol/Lから投与1日後には281 µmol/Lへ上昇し (正常範囲240-490 µmol/L)、投与5日・20日後も266 µmol/Lで高値が持続した。LDHは投与5日後に290 U/Lに達し (正常11-220 U/L)、その後正常化した。血糖は投与20日後に7.45 mmol/L、26日後に6.87 mmol/Lと正常上限 (5.9 mmol/L) を超えた。Grade 3/4の重篤有害事象・神経毒性・アナフィラキシーはいずれも認められなかった。
サイトカイン応答:IL-6の10-fold上昇を含む一過性サイトカイン放出症候群が観察された:腫瘍内投与後、血清IL-6はベースラインから約10-fold上昇し、TNF-αは約60%上昇した (Figure 4B)。CRP (C-reactive protein) は投与2-3日後に顕著な上昇を示し、その後21日間高値が持続した。これらの血清サイトカイン動態はCRS (cytokine release syndrome) として解釈されるが、Grade ≤2相当にとどまりトシリズマブなどの介入は不要であった。サイトカイン上昇がSM3-CAR-TとpSM3-CAR-Tのどちらに起因するかは本設計では判別できなかったが、少なくとも一方のCAR-T細胞が患者免疫応答を惹起した証拠となった。
超音波・組織学的評価:pSM3-CAR-Tのみが著明な腫瘍壊死を誘導した:投与21日後のグレースケール超音波検査で、pSM3-CAR-T注射部位に対応する上腹部の3.2 cm×2.0 cm腫瘍病変に新規の無エコー域 (anechoic area) が出現し腫瘍壊死を示唆した (Figure 5C)。投与前の同部位は境界明瞭な低輝度病変であり (Figure 5A)、無エコー化は新規壊死の出現を示す。SM3-CAR-T投与病変では超音波上の有意な変化は認められなかった。
外科的切除・生検標本の組織病理学的解析 (Table 2) では、pSM3-CAR-T処置腫瘍に著明な多発壊死巣 (significant multiple necrotic foci) が確認され (Figure 6A-B)、壊死巣はCAR-T細胞注射部位と空間的に一致した。対照的にSM3-CAR-T処置腫瘍では壊死はほとんど認められず (Table 2、Figure 6H-I)、IL-12共発現もSM3 scFvの低親和性を補えなかったことが示された。pSM3-CAR-T処置腫瘍では大多数の腫瘍細胞でMUC1発現が消失しアポトーシス性腫瘍細胞の増加と一致した (Figure 6B-C)。また免疫組織化学では両処置腫瘍ともCD3+/CD8+ T細胞・CD4+ T細胞・CD56+/Granzyme B+細胞の腫瘍内浸潤が認められ、凍結切片の抗Fc染色でCAR-T細胞の腫瘍内持続が直接確認された (Figure 6G、6N)。SM3-CAR-T処置腫瘍のみにTIA-1 (T-cell intracellular antigen-1) 陽性細胞が散在し (Table 2、Figure 6M)、pSM3-CAR-T処置腫瘍にはTIA-1陽性細胞がほとんど認められなかった (Figure 6F)。TIA-1は細胞傷害性CD8+ T細胞とNK細胞の細胞傷害性顆粒に局在する15-kDタンパクであり、SM3-CAR-TによるIL-12産生がNK細胞を腫瘍内に動員してTIA-1発現を誘導した可能性がある。一方でSM3-CAR-T処置腫瘍に壊死がほとんど認められなかったことは、IL-12武装化がscFvの機能不全を代替できないことを示している。
考察/結論
本研究は転移性MUC1陽性精嚢癌患者へのMUC1標的CAR-T細胞投与を世界で初めて実施したfirst-in-human試験であり、固形腫瘍CAR-T療法の可能性と限界を同時に実証した重要な概念実証 (proof-of-concept) である。最も重要な発見は、同一患者の2転移巣に対してIL-12共発現型SM3-CAR-TとscFv親和性改良型pSM3-CAR-Tを腫瘍内投与し直接比較した結果、組織学的腫瘍壊死を誘導したのはpSM3-CAR-Tのみであり、IL-12共発現はscFvの低親和性を補償できなかった点である。これは先行研究においてIL-12武装化CAR-T細胞が腫瘍微小環境を再プログラムし抗原陰性腫瘍細胞さえも排除できることが示された前臨床報告 (Pegram et al. Blood 2012) とは異なり、scFv-抗原間の親和性が全体的な治療機能の絶対的前提条件であることをヒトにおいて初めて示した。
臨床的意義として、腫瘍内投与 (intratumoral injection) という経路選択が全身毒性を管理可能レベルに抑えながら局所抗腫瘍活性を得る有効な戦略であることが示された。血清IL-6は10-fold上昇、TNF-αは60%上昇という活性なサイトカイン応答が得られたものの、Grade ≤2相当にとどまり神経毒性・アナフィラキシーは生じなかった。これはERBB2 CAR-T細胞10¹⁰個の静脈内投与後に呼吸困難・多臓器不全で死亡した事例 (Morgan et al. MolTher 2010) と対照的であり、腫瘍内投与が全身毒性を大幅に軽減できることを支持する。臨床現場において超音波ガイド下経皮穿刺という低侵襲技術と組み合わせた腫瘍内CAR-T送達は、手術不能の転移巣に対しても実施可能な局所介入戦略として臨床応用の可能性がある。
新規性として、SM3 scFvへの6アミノ酸置換 (pSM3 scFv) が腫瘍関連MUC1-ST糖鎖型への結合能を改善し、ヒト固形腫瘍においてin vivo腫瘍壊死を誘導することが初めて実証された点は、これまで報告されていない重要な前進である。pSM3-CAR-T処置腫瘍でのMUC1発現消失はアポトーシス性腫瘍細胞の増加と一致しており、抗原特異的な腫瘍細胞排除が生じたことを示す。またSM3-CAR-T処置腫瘍のTIA-1陽性・pSM3-CAR-T処置腫瘍のTIA-1陰性という観察は、IL-12共発現によるNK細胞動員が腫瘍壊死には至らないという新規な病態生理を示唆し、CAR-TとNK細胞活性化の関係性について問いを提起する。
残された課題として、本研究はn=1の単一症例報告であるためlimitationとして一般化可能性が著しく制限される。転移巣多発のためRECIST基準での客観的奏効評価が困難であった。腫瘍低酸素環境 (hypoxia) がCAR-T細胞生存・機能に与える影響の解析と血流正常化などの対策も今後の検討課題である。最適CAR-T用量 (5×10⁵ cells/doseは他試験と比較して低用量の可能性)、リンパ球枯渇前処置の要否、投与回数・間隔なども未解決である。MUC1発現heterogeneityへの対応・抗原逃避に対するbispecific CAR設計・乳癌・卵巣癌・膵癌など他のMUC1陽性上皮癌への外挿も将来研究として重要な方向性である。
方法
患者・試験デザイン:Phase 1臨床試験 (NCT02587689) を倫理委員会承認のもと実施した。対象患者 (Patient#2) は2006年に左精嚢癌と診断後、複数化学療法 (シスプラチン含む) に抵抗性となり広範囲転移を来した症例。直近のCT (2015年2月25日) で右上葉胸膜病変が2.1×1.2 cm²から3.4×1.8 cm²へ増大するなど進行が確認された。試験参加前に胸膜・腹腔内転移病変の生検でMUC1強陽性を免疫蛍光染色・フローサイトメトリー・ウエスタンブロットで確認した (Figure 1)。
CAR構築物の設計:SM3-CAR (anti-MUC1 SM3 scFv-based chimeric antigen receptor construct) はSP (signal peptide)-SM3 scFv-Fc-CD28 transmembrane domain-4-1BB-CD3ζ構造にIRES (internal ribosome entry site) 駆動のIL-12を組み込んだ。pSM3-CAR (affinity-matured pSM3 scFv-based chimeric antigen receptor without IL-12) はSM3 scFvに6アミノ酸置換を導入し (HMFG2抗体構造を参考にMUC1-ST結合能を改良) IgDヒンジ断片でフレキシビリティを付加したCD28-4-1BB-CD3ζ CARであり、IL-12は含まない (Figure 2A-B)。レンチウイルスベクター (pCDH-CMV-MCS-EF1-CopGFP backbone) を用いた。
T細胞製造と形質導入:患者末梢血から分離した末梢血単核球 (PBMC: peripheral blood mononuclear cells) 1×10⁶ cells/mLを培養し、293T細胞産生のCARレンチウイルス上清 (1×10⁸/mL力価) でMOI (multiplicity of infection) =30として形質導入した。γ線照射人工抗原提示細胞 (aAPC: artificial antigen presenting cells) を1:2 T細胞/aAPC比で刺激し、IL-2 100 IU/mL±IL-21 30 ng/mLを含む培地で12日間培養した。形質導入効率はFACSCalibur (BD) によるFc陽性細胞率で評価し、SM3-CAR-Tで21%、pSM3-CAR-Tで18%であった。
臨床投与プロトコル:2つの転移巣 (右上外側の38.1×23.7 mm病変と剣状突起下の33.6×22.8 mm病変) に対し、SM3-CAR-TとpSM3-CAR-Tをそれぞれ別の病変に超音波ガイド下・23G針で腫瘍内注射した (各5×10⁵ CAR-T cells/dose、同日実施)。投与後21日間、体温・バイタルサイン・血液検査・血清IL-6、TNF-α (tumor necrosis factor-alpha)、CRP (C-reactive protein) を経時モニタリングした (Table 1、Figure 4)。21日後にグレースケール超音波を施行後、腫瘍を外科的切除・生検してHE染色・免疫組織化学染色 (CD3、CD4、CD8、MUC1、TIA-1、Fc) による組織学的評価を実施した (Table 2、Figure 6)。n=1の症例報告のため定式的な統計解析は実施されなかった。
体外試験:MUC1高発現乳癌細胞株T47D (ATCC) をCFSE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) で標識し、各CAR-T細胞と7-AAD (7-aminoactinomycin D) アッセイでE:T (effector to target) =5:1および30:1にて24時間共培養し殺傷率を定量した。IL-12産生はT47D共培養上清のELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) で定量した。陰性対照としてCD19-CAR-T (CD19-targeted chimeric antigen receptor T cell) 細胞を使用した。群間の殺傷率差はStudentのunpaired t-test (対応なし t検定) で評価し、p<0.05を統計的有意水準とした。