- 著者: Adam J. Schoenfeld, Sylvia M. Lee, Bernard Doger de Spéville, Scott N. Gettinger, Simon Häfliger, Ammar Sukari, Sophie Papa, Juan F. Rodríguez-Moreno, Friedrich Graf Finckenstein, Rana Fiaz, Melissa Catlett, Guang Chen, Rongsu Qi, Emma L. Masteller, Viktoria Gontcharova, Kai He
- Corresponding author: Kai He (Pelotonia Institute for Immuno-Oncology, James Thoracic Oncology Center and Cell Therapy Program, The Ohio State University Comprehensive Cancer Center)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-04-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 38563600
背景
養子細胞療法の一つである腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 療法は、自家T細胞を用いて多様な腫瘍特異的抗原を認識・標的とする治療法である。転移性メラノーマにおいて広範に研究され、30%を超える客観的奏効率 (ORR) と長期にわたる奏効持続性を示すことが報告されてきた (Rosenberg et al. N Engl J Med 1988; Rosenberg et al. Clin Cancer Res 2011; Sarnaik et al. J Clin Oncol 2021)。特に、Iovance Biotherapeutics社が開発したlifileucelは、転移性メラノーマに対する治療薬として米国食品医薬品局 (FDA) の承認を取得し、その臨床的有用性が確立されている (AMTAGVI prescribing information 2024)。この成功は、TIL療法を他の固形癌、特に非小細胞肺癌 (NSCLC) へ応用する可能性を示唆するものであった。
進行非小細胞肺癌 (NSCLC) の治療は、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) と化学療法の併用療法により大きく進展した。しかし、PD-L1陰性腫瘍や、ICIに対して原発性または後天性の抵抗性を示す患者群においては、依然として満たされない医療ニーズが大きく残されている。これらの患者群では、標準治療の選択肢が限られており、新たな治療戦略の開発が喫緊の課題である。
NSCLCにおけるTIL療法の可能性については、前臨床研究において、NSCLCの原発性病変からTILを分離・増幅し、in vitroおよびin vivoで抗腫瘍活性を示すことが報告されていた (Ben-Avi et al. Cancer Immunol Immunother 2018)。また、Creelan et al. NatMed 2021による第I相試験では、転移性NSCLC患者に対するTIL療法と抗PD-1抗体薬ニボルマブの併用療法において、予備的な抗腫瘍活性が確認された。しかし、これらの研究は小規模なものであり、中央集中製造されたTIL製剤であるlifileucel単剤療法の有効性、安全性、および多施設共同試験における実現可能性については、これまで十分に検証されていなかった点が課題として残されていた。特に、転移性病変からのTIL製造の信頼性や、ICI治療後の進行NSCLC患者がTIL療法レジメンを許容できるかについては、未解明な部分が多かった。本治療法の多施設共同試験における実現可能性と、ICI抵抗性患者における有効性に関する知識ギャップが残されていた。
本研究は、ICI治療後に増悪した進行NSCLC患者におけるlifileucel単剤療法の多施設共同第II相試験の結果を報告するものであり、この治療法がメラノーマ以外の癌種、特に肺癌において有効かつ安全に適用可能であるかという知識ギャップを埋めることを目的としている。これまでの研究では、TIL療法の製造およびデリバリープロセスの複雑性とコストが多施設臨床試験の実施を困難にし、より広範な患者集団へのアクセスを妨げてきたため、本研究はこれらの課題を克服し、肺癌における個別化細胞免疫療法の新たな道筋を開拓する点で臨床的意義が大きい。
目的
本研究の目的は、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 治療後に疾患が進行した転移性非小細胞肺癌 (mNSCLC) 患者を対象として、中央集中製造された自家腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 製剤であるlifileucel単剤療法の安全性、有効性、および実現可能性を多施設共同第II相試験 (IOV-COM-202 cohort 3B) において評価することである。主要評価項目は、RECIST v1.1に基づく客観的奏効率 (ORR) と、Grade ≥3の治療関連有害事象 (TEAE) の発生率であった。副次評価項目として、完全奏効率 (CR rate)、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS) を評価した。また、TIL製品の特性、T細胞クローン動態、および臨床的奏効との関連性を示すバイオマーカーの探索も目的とした。本研究は、ICI抵抗性mNSCLC患者に対するTIL療法の臨床的有用性を確立し、新たな治療選択肢を提供することを目指すものである。
結果
患者背景と治療実施可能性: 2019年1月17日から2021年1月11日の間に、39例のmNSCLC患者が登録され、腫瘍組織切除術を受けた。このうち28例 (FAS) が、製造基準を満たしたlifileucelの単回投与を受けた。患者の年齢中央値は61歳 (範囲: 40–74歳) であり、86%が喫煙歴を有していた。前治療ライン数の中央値は2 (範囲: 1–6) であり、全患者がPD-1/PD-L1抗体による治療歴を有していた。FASの25% (7/28例) は、直近の抗PD-1/PD-L1療法に対して原発性抵抗性 (最良総合効果が進行病変) であった。患者の35.7%が脳転移歴を、21.4%が肝転移をベースラインで有していた。PD-L1腫瘍細胞陽性率 (TPS) が1%未満または1%~49%の低/陰性例が60.7%を占めた (Table 1)。腫瘍切除からlifileucel投与までの中央値は35.5日 (範囲: 28–112日) であり、TIL投与細胞数の中央値は20.9 × 10⁹ (範囲: 1.4 × 10⁹–53.2 × 10⁹) であった。
安全性プロファイル: lifileucelの安全性プロファイルは、進行した疾患状態と、非骨髄破壊的リンパ球除去療法 (NMA-LD) およびIL-2の既知の安全性プロファイルと一致していた (Table 2)。全患者がGrade 3/4の血液学的検査値異常を経験したが、好中球減少 (93%)、白血球減少 (93%)、血小板減少 (85%) などはベースライン値に回復した。治療関連死は2例で発生した。1例は心不全によるもので、治験責任医師は試験治療との関連なしと判断した。もう1例は誤嚥性肺炎と敗血症を背景とした多臓器不全によるもので、治験責任医師はlifileucelとの関連の可能性を報告した。
有効性: データカットオフ日 (2022年2月22日) 時点での追跡期間中央値は16ヶ月 (範囲: 0.1+~27.6ヶ月) であった。FAS (n=28) における客観的奏効率 (ORR) は21.4% (6/28例) であり、内訳は完全奏効 (CR) 1例、部分奏効 (PR) 5例であった (Table 3)。最良総合効果 (BOR) までの期間中央値は2.2ヶ月 (範囲: 1.4–6.5ヶ月) であり、6例の確定奏効例のうち4例 (66.7%) は初回評価時である6週時点で奏効を達成した (Fig. 1B, C)。奏効期間 (DOR) は1.1+ヶ月から26.2+ヶ月に及び、6例中5例で経時的な腫瘍縮小 (deepening response) が観察された。データカットオフ時点で、2例の患者 (CR 1例、PR 1例) で奏効が持続していた。標的病変の合計径 (SOD: sum of diameters) の縮小は、評価可能な24例中19例 (79.2%) で観察された (Fig. 1A)。
バイオマーカー解析: 奏効例には、PD-L1陰性、腫瘍変異負荷 (TMB) 低値 (中央値 7.71 mut/Mb、奏効群と非奏効群間で有意差なし、p=0.79)、STK11/KEAP1変異例、KRAS G12C/G12D変異およびMET増幅例が含まれた (Fig. 3A, B, C)。最も持続的な奏効はPD-L1陰性患者で観察され、ICI治療で抵抗性を示すとされる集団においてもlifileucelが活性を発揮することが示唆された。循環腫瘍DNA (ctDNA) 解析では、奏効例において投与後のKRAS変異のクリアランスまたは減少が確認された。例えば、長期奏効者の一人である患者3B-17では、投与前血液中に低レベルのKRAS G12C変異 (0.41 VAF, 1.4 mutant molecules/mL plasma) が検出されたが、投与後にはこの変異がクリアランスされた。
T細胞受容体 (TCR) レパートリー解析: TIL製品と投与後末梢血のTCRクローン多様性は類似しており、腫瘍組織とTIL注入製品の間で平均417個の共有CDR3クローン (全クローンタイプの約5.5%) が認められた (Fig. 4B)。これらの共有クローンは、奏効・非奏効にかかわらず、投与後6ヶ月まで末梢血で検出された (Fig. 4C)。また、ほぼ全ての患者で、投与前と比較して投与後の末梢血においてTIL注入製品由来のTCRクローンがより高い割合を占める、末梢TCRレパートリーのリモデリングが観察された (Fig. 4D)。TIL製品の表現型 (記憶T細胞サブセット、CD4/CD8 T細胞の割合、分化・活性化/疲弊・免疫チェックポイントマーカーの発現) とlifileucelへの奏効との間に関連性は認められなかった (Kruskal-Wallis検定、全P値 > 0.05)。
考察/結論
本研究は、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 治療後に増悪した進行非小細胞肺癌 (mNSCLC) 患者に対し、中央集中製造された自家腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 単剤療法であるlifileucelの多施設第II相試験における有効性と安全性を初めて実証したものである。客観的奏効率 (ORR) 21.4%は、先行治療歴の多い患者集団の背景を考慮すると臨床的に意義のある水準である。
新規性: 本研究で初めて、PD-L1陰性、腫瘍変異負荷 (TMB) 低値、STK11/KEAP1変異など、ICI治療に対する抵抗性を示すバイオマーカーを有する患者においてもlifileucelによる奏効が認められた点は、本治療法の新規性を示す。これは、TILの作用機序がPD-1経路に依存しない可能性を示唆しており、ICIとは異なる作用機序を持つことが示唆される。Creelan et al. NatMed 2021による先行する第I相試験 (TIL+ニボルマブ併用) でも、PD-L1陰性やEGFR変異を有する患者で完全奏効が報告されており、本研究の結果と整合する。
先行研究との違い: これまでのTIL療法に関する研究は主にメラノーマを対象としていたが、本研究はmNSCLCという異なる癌種において、中央集中製造されたTIL製品の実現可能性と有効性を示した点で、先行研究と対照的である。特に、肺病変からのTIL製造の成功は、肺癌患者におけるTIL療法の適用範囲を拡大する重要な知見である。安全性プロファイルは、非骨髄破壊的リンパ球除去療法 (NMA-LD) およびIL-2に起因する既知の毒性プロファイルと一致しており、管理可能であった。
臨床応用: 本研究の結果は、ICI治療後に治療選択肢が限られているmNSCLC患者に対し、lifileucelが新たな個別化細胞免疫療法として臨床応用される可能性を強く支持するものである。特に、ICIに抵抗性を示す患者群での奏効は、本治療法が既存の免疫療法では効果が得られにくい患者にとって有効な選択肢となり得ることを示唆する。奏効の持続性や、一部の患者で観察された腫瘍縮小の深化は、単回投与のTIL療法が長期的な臨床的利益をもたらす可能性を示している。
残された課題: 今後の検討課題として、より早期の治療ラインでのlifileucelの評価が挙げられる。現在進行中のIOV-LUN-202 (NCT04614103) 試験では、より少ない前治療歴のNSCLC患者を対象に評価が行われている。また、IOV-COM-202試験のICI未治療コホートでは、lifileucelとペムブロリズマブの併用療法がORR 42.1% (EGFR野生型患者では58.3%) と有望な結果を示しており、PD-1経路阻害剤との併用療法の可能性も今後の研究方向性として重要である。さらに、TALEN (Transcription Activator-Like Effector Nuclease) を用いたPD-1ノックアウトTIL (IOV-4001; NCT05361174) など、遺伝子改変TILによる効果増強も今後の研究で検討されるべき課題である。本研究は、TIL療法のメラノーマ以外の癌種への展開における最初の確固たるエビデンスを提供し、肺癌における個別化細胞免疫療法の道筋を開くものであるが、奏効の予測バイオマーカーのさらなる特定や、抵抗性メカニズムの解明も今後の重要な研究課題として残されている。
方法
試験デザイン: IOV-COM-202 (NCT03645928) は、複数の固形癌を対象とした前向き、非盲検、多コホートの第II相試験である。本論文では、コホート3Bの結果を報告する。コホート3Bは、1~3ラインの全身療法歴があるICI治療後に増悪した転移性非小細胞肺癌 (mNSCLC) 患者を対象としたlifileucel単剤療法を評価した。
対象患者: 以下の基準を満たす患者が組み入れられた。Stage IIIまたはIVのmNSCLCと診断され、直近の治療後にRECIST v1.1に基づく画像診断で疾患進行が確認された患者。PD-1またはPD-L1阻害抗体を含む少なくとも1ラインのICI治療歴がある患者。既知のドライバー遺伝子変異 (例: EGFR, ALK, ROS) を有する患者は、推奨される標的療法を少なくとも1ライン受けた後に進行している必要があった。ECOG-PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) が0または1であること。TIL製造のために最低1.5 cmの切除可能病変を有し、かつ効果判定可能な残存病変が1つ以上あること。18歳以上で、十分な臓器機能を有し、先行する抗癌剤治療からの十分なウォッシュアウト期間が確保されていることも条件とされた。未治療または症候性の脳転移、臓器同種移植歴、先行するリンパ球除去療法を伴う細胞移入療法、ステロイド治療、活動性疾患、原発性免疫不全、妊娠または授乳中の患者は除外された。
介入: 患者はまず腫瘍切除術を受け、採取された腫瘍組織はIovance社のGMP (Good Manufacturing Practice) 施設へ輸送された。TILは22日間のGMPプロセスによりin vitroで増幅され、最終的なlifileucel製品が製造された。治療レジメンは、非骨髄破壊的リンパ球除去療法 (NMA-LD) から開始された。NMA-LDは、シクロホスファミド (60 mg/kg) を2日間、続いてフルダラビン (25 mg/m²) を5日間毎日投与するものであった。凍結保存されたlifileucel自家TIL製品は、フルダラビン最終投与後約24時間で単回静脈内投与された。TIL投与後、インターロイキン-2 (IL-2) 600,000 IU/kgが8~12時間ごとに最大6回静脈内投与された。
評価項目:
- 主要評価項目: 治験責任医師評価によるRECIST v1.1に基づく客観的奏効率 (ORR) およびGrade ≥3の治療関連有害事象 (TEAE) の発生率。TEAEはTIL投与から30日後、または新たな抗癌剤治療開始までの期間に発生した有害事象と定義された。
- 副次評価項目: 完全奏効率 (CR rate)、奏効期間 (DOR)、無増悪生存期間 (PFS)、および全生存期間 (OS)。DORは、初回奏効 (PR/CR) が確認された日から、疾患進行または死亡のいずれか早い方の日までと定義された。
- 探索的評価項目: TIL製品を構成するT細胞のin vivoでの持続性、およびTIL療法に対する臨床的奏効の予測・薬力学的バイオマーマーの評価。
統計解析: ORRおよびCR率は、点推定値とClopper-Pearsonの正確法に基づく両側90%信頼区間 (CI) を用いて要約された。DORなどのイベント発生までの期間の有効性評価項目は、カプラン・マイヤー法を用いて要約された。安全性解析は記述的であり、TEAEの要約に基づいた。有効性および安全性解析は、コホート3Bでlifileucel投与を受けた患者からなる全解析対象集団 (FAS) を対象とした。28例のサンプルサイズは、Clopper-Pearsonの正確法により、ORRの推定値の90% CIの半幅が0.17未満となることを可能にする。TMBの群間比較にはKruskal-Wallis検定が用いられた。