- 著者: Benjamin C. Creelan, Chao Wang, Jamie K. Teer, Eric M. Toloza, Jiqiang Yao, Sungjune Kim, Allison M. Landin, John E. Mullinax, James J. Saller, Andreas N. Saltos, David R. Noyes, Luis B. Montoya, Wesley Curry, Shari A. Pilon-Thomas, Alberto A. Chiappori, Tawee Tanvetyanon, Frederic J. Kaye, Zachary J. Thompson, Eric B. Haura, Scott J. Antonia ほか
- Corresponding author: Benjamin C. Creelan (H. Lee Moffitt Cancer Center, Tampa, FL); Scott J. Antonia (Duke Cancer Institute, Durham, NC)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-08-12
- Article種別: Original Article
- PMID: 34385708
背景
PD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害剤 (ICI; immune checkpoint inhibitor) は転移性NSCLCの標準治療の一角を担うが、ファーストライン単剤nivolumabでの奏効率は15-20%程度に留まり、大半の患者が12ヶ月以内に病勢進行を来す (Carbone et al. NEnglJMed 2017)。nivolumab+ipilimumabの併用免疫療法でも依然として半数以上の患者が2年以内に再発する (Hellmann et al. NEnglJMed 2019)。また術前PD-1阻害によりNSCLC腫瘍内に腫瘍特異的T細胞が豊富に存在することは確認されているが (Forde et al. NEnglJMed 2018)、ICI抵抗性獲得後の有効な後続治療選択肢は極めて乏しい。
腫瘍浸潤リンパ球 (TIL; tumor-infiltrating lymphocyte) を用いた養子細胞療法 (ACT; adoptive cell therapy) はメラノーマでORR 40-50%・数十年に及ぶ長期持続奏効例が報告されており、胆管癌、子宮頸癌、大腸癌、乳癌など上皮性固形癌でも有効性の事例が蓄積されてきた。NSCLCにはメラノーマ同様に腫瘍特異的T細胞が存在することが知られているが、NSCLC患者の多くは「免疫学的冷腫瘍」として記述され、活性化腫瘍特異的T細胞が乏しい状態にある。ICI抵抗性NSCLCに対するTIL療法の前方視的試験はこれまで存在せず、NSCLCでの製造可能性・安全性・臨床効果に関する gap in knowledge が残されていた。
特に、抗PD-1治療歴のない腫瘍からTILを採取し、PD-1経験後の腫瘍に対してex vivo拡大培養TILが機能的細胞傷害活性を保てるか否かは手薄であり、NSCLCでの新生抗原反応性TIL輸注の概念実証が不足していた。
目的
ICI (特にnivolumab) 治療後に進行した転移性NSCLC患者に対し、自己TILとリンパ球除去化学療法・IL-2・maintenance nivolumabを組み合わせた養子免疫療法の安全性・実行可能性・初期有効性を評価すること。主要エンドポイントは安全性 (重篤毒性率≤17%、95% CI 3-29%)、副次エンドポイントは奏効率・奏効持続期間・T細胞持続性。
結果
患者登録・TIL製造可能性:20例が登録され、年齢中央値54歳 (range 38-75)、喫煙歴あり50%、PD-L1 TPS (tumor proportion score) 中央値6% (0%が40%、>50%が30%)、非同義TMB (tumor mutation burden) 中央値1.5 mut/Mb (range 0.1-10.2) であった。組織型の大半は肺腺癌で、EGFR変異4例 (exon 19欠失2例、L861Q 1例、EML4-ALK転座2例を含む)。前治療ライン数は半数が0ライン (nivolumabがfirst-line)。平均標的病変径の合計はTIL治療前で8.5 cmと大型腫瘍集団であった。
TIL拡大培養は19/20例 (95%) で成功し、輸注TIL数の中央値はn=95×10^9 CD3+細胞 (range 4.3-175×10^9)。最終製品のCD8+ T細胞比率は平均57.27±33.77%、CD4+は平均41.00±32.86%。培養中に13/18例でIFNγ ELISAにより自己腫瘍反応性を確認した (Fig 1)。4例はTIL治療未施行 (1例はnivolumabで持続奏効のためTIL不要、他3例は各種理由)。16例がリンパ球除去+TIL輸注を完遂し、全例がリンパ球除去化学療法を用量修正なしで完遂した。IL-2全量投与完遂率は56% (9/16例)。入院期間中央値12日 (range 7-22日)。
安全性・主要毒性:重篤毒性率は12.5% (2/16例) で、事前規定の安全性エンドポイント基準「重篤毒性≤17% (95% CI 3-29%)」を満たした。治療関連有害事象の大部分はリンパ球除去化学療法+IL-2による既知の有害事象で構成された (Table 1)。血液毒性: リンパ球減少grade 4が16例全例 (100%)、白血球減少100%、貧血grade 3が13/16例 (81%)、血小板減少94%、好中球減少88%。好中球回復の中央値は7.5日 (range 4.7-20.6日)。非血液毒性: 悪心88%、低アルブミン血症88%、低リン血症grade 3が8例 (50%)、発熱56%、低酸素血症50%であり、大部分がgrade 1-2で管理可能であった。
2例の早期死亡が確認された。Patient 13は活動喫煙者・重篤な頸動脈狭窄があり、TIL輸注後day +12に虚血性中大脳動脈梗塞を発症した。Patient 15は75歳で肺実質の70%を転移が占拠し、リンパ球除去開始前からPS 3・補助酸素が必要な状態で、TIL治療後も病状悪化のためcomfort careへ移行した。これら2例を受け試験中にPS基準が強化された。Maintenance nivolumab施行中の1例 (Patient 16) では重篤な血小板減少症が発現したが、ステロイドとnivolumab中止により回復した。
臨床効果(ORR 23.1%・持続CR 2例):13例評価可能患者中3例 (ORR 23.1%; 2 CR + 1 confirmed PR) が確認奏効を達成した。2例のCRはいずれも最終解析時点 (1.5年後) で奏効継続していた (Fig 2a)。腫瘍径変化の中央値はベスト変化率で-35.5% (range +20 to -100%) であり、11/16例がTIL後初回CT (1ヶ月時点) で腫瘍縮小を示した (Fig 2b, c)。未確認PRが2例 (脳転移出現により未確認; ID 02, 05)、孤立転移に対する局所療法後継続が2例 (TIL輸注6-17ヶ月後に切除または定位放射線; ID 03, 08)。Radiographic responseは未確認を含めて6/13例に認められた。Patient 14はRECIST上PD判定だったが生検で標的病変が線維化のみ (腫瘍細胞なし) であり、1.5年後まで無症状を維持した。全生存期間 (OS; overall survival) はintention-to-treat解析で中央値未到達 (reverse Kaplan-Meier法による追跡中央値1.6年、range 0.5-2.9年; Fig 2d)。
注目すべき一例: Patient 25はEGFR ΔEx19肺腺癌、TMBlow・PD-L1陰性の非喫煙者でnivolumab抵抗性であったが、TIL治療によりmonth +9でCR (-100%) を達成し、その後も20ヶ月以上奏効継続した。ICIが歴史的に効果不十分とされてきた非喫煙者・低TMB・PD-L1陰性集団でのCR達成は、本サブグループへのTIL療法適応の可能性を示した。
新生抗原反応性T細胞と奏効の関連:腫瘍特異的抗原に機能的反応性を持つT細胞は、CR/PR/未確認PR達成患者において非奏効患者と比べて有意に多く検出された (P=0.02、Fisher’s exact test; Fig 4)。全患者に対してWESで同定した非同義変異に対応する合成ペプチドをスクリーニングし (1患者あたり中央値54変異、range 8-117)、pMHC (peptide-major histocompatibility complex) 結合親和性<500 nMの候補をAPC (antigen-presenting cell) を用いたELISpotアッセイで評価した。
Patient 25 (CR例) では104種の抗原をスクリーニングし、MAGE (melanoma-associated gene) 癌精巣抗原および腫瘍変異由来ペプチドを含むn=19 T cell clonotypesが抗原特異的刺激に応答し、コントロールに対してmean 140-fold expansionを示した。これら抗原特異的clonotypesは末梢血でTIL輸注後に急増し、1年以上持続した (Fig 3c)。Patient 09 (CR例、前喫煙者、腺癌) では85種の抗原中3種がCD4+・CD8+ T細胞の両方から反応性を示し、同様に末梢血での抗原特異的clonotype増加と1年以上の持続が確認された (Fig 3e, f)。Patient 16 (confirmed PR例) はMAGE-A4の異常発現に対する反応性を示した。反応性が確認された抗原タイプは単塩基変異 (SNV; single nucleotide variant)、挿入欠失 (indel)、遺伝子融合、癌精巣抗原と多岐にわたり、多抗原標的の多クローン性T細胞応答が認められた (Fig 4)。一方、一部の患者では特異的抗原を同定できなかった。
TIL輸注後の末梢T細胞変化:輸注TIL製品の大部分はCCR7-CD45RA- TEM (effector memory T cell) 型で、Tim-3 (T cell immunoglobulin and mucin domain-containing protein 3) およびTIGIT (T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains) を高発現しており、Treg (制御性T細胞) の高比率例も複数存在した。これはIL-2存在下での≥7週間の長期培養による末梢分化の影響と考えられた。
末梢T細胞のPSIはTIL輸注後の各時点で有意に増加した (P=0.0000008; REML混合効果モデル、Dunnett多重比較補正; n=12; Fig 5a)。また末梢CD8+・CD4+ T細胞はTIL輸注後にCCR7-CD45RA- TEM型へシフトし (Fig 5b; n=15、8時点)、その後段階的にnaive型が回復した。このT細胞表現型転換効果は初回nivolumab単独投与では観察されず、TIL輸注特有の変化であることが示された。
TRVβ sequencingでは、輸注TIL clonotypesが輸注後数週間で患者ベースラインの末梢T細胞レパートリーを大規模に置換し、その後数ヶ月かけて漸減した (Morisita’s index; Fig 5d; n=16)。TIL clonotype全体の末梢持続性と奏効との間に明確な関連は認められなかった。TIL culture後の製品はベースライン腫瘍内T細胞と比べてより単クローン的 (クローン性中央値6% vs 腫瘍内31%、P<0.0001) で多様性が低下しており、ex vivo拡大培養中にクローン収縮が生じることが示された。この収縮が輸注TILの多抗原標的能 (polyvalence) を制限した可能性がある。
考察/結論
本研究はICI抵抗性転移性NSCLCに対するTIL養子免疫療法の初の前方視的phase 1試験であり、安全性エンドポイント (重篤毒性率12.5%) を達成し、ORR 23.1% (3/13)・2例の1.5年継続持続CRを実証した。これまでの研究ではNSCLCがメラノーマと異なり「免疫学的冷腫瘍」として位置づけられてきたが、本研究で初めてNSCLCでも新生抗原反応性TILが製造・輸注可能であり、ICI抵抗性の状況においても一定の臨床的意義のある奏効が得られることを実証した。
既報のメラノーマTIL試験 (ORR 40-50%) と比較すると効果は限定的であるが、対照的にNSCLC TILはCD4+優位 (平均41%) であり、従来CD8+主体とされてきたメラノーマTIL療法と相違する。本試験ではCD4+T細胞が主体の場合でも変異抗原特異的CD4+クローンが腫瘍縮小に寄与できることが示され、NSCLC特有のT細胞生物学の解明に貢献した。また、TIL culture中のクローン収縮と高度な末梢分化 (Tim-3/TIGIT高発現) が依然として課題であり、幹細胞様 (CD39-CD69-) 変異反応性T細胞の保存がNSCLCでも持続奏効に重要である可能性がある。
特筆すべき新規の知見として、TMBlow・PD-L1陰性・非喫煙者 (EGFR ΔEx19) でのCR達成は、本研究で初めてTIL療法がICI感受性の低い集団に対しても有効であることを示した。従来のICIで奏効が期待されにくい非喫煙者・低TMBサブグループへのTIL療法適応の可能性を示す、これまで報告されていない知見である。
臨床応用の観点から、本試験の結果はlifileucel (LN-144、Iovance社凍結保存TIL製品) の肺癌適応開発およびPhase 2/3試験への展開を支持するエビデンスの一つとなった。臨床的意義として、抗PD-1抵抗性後の「治療選択肢なし」の患者群に対する新規の治療戦略として、学術医療センターにおけるTIL療法の実施可能性を示した。
残された課題として以下の点が今後の検討に値する。第一に、製造工程の短縮 (現行≥7週; 針生検由来の1-10×10^9細胞製造と22日プロトコルが試験中: NCT04614103)。第二に、リンパ球除去の生理的負担軽減 (2例の早期死亡は急速進行によるPS悪化と毒性の相乗で発生)。第三に、IL-2・シクロホスファミド・フルダラビン・ニボルマブ各成分の独立貢献評価。第四に、奏効予測biomarker (T細胞分化状態・抗原反応性・TMB・T細胞炎症シグネチャの組合せ) の確立。第五に、ICI+化学療法後に進行した患者への適応拡大を検討するより大規模な確証試験の実施。limitation として、2施設の高度専門施設での実施であり外的妥当性が限られること、非喫煙者・治療ナイーブ・driver変異陽性患者が多い高度選択集団での試験であることが挙げられ、より重喫煙者の多い実診療集団では更なる検討が必要である。更なる検討課題としてexhausted T細胞の機能回復戦略 (PD-1 KO TIL、TCF7過発現など編集技術) や末梢血PD-1+選択による新生抗原反応性T細胞の濃縮も重要な展開方向である。
方法
試験概要・適格基準: NCT03215810、単アーム非盲検第1相試験。2017年10月から2020年1月にH. Lee Moffitt Cancer CenterおよびDuke Cancer Instituteの2施設で実施。適格基準: 組織学的に確認されたstage IV NSCLC、PD-1/PD-L1阻害剤の前治療歴なし、切除可能なアクセス可能転移巣を有する成人、前治療ライン数≤6。心肺機能要件として、可逆性虚血を示さない心臓ストレステスト、DLCO (diffusing capacity of the lung for carbon monoxide; 肺拡散能) >50%予測値、MUGA (multigated acquisition scan; 多段収集核医学スキャン) で左室駆出率>50%を必須とした。活動性脳転移・自己免疫疾患・免疫不全は除外。EGFR変異またはALK転座陽性例は≥1ラインのTKI (tyrosine kinase inhibitor; チロシンキナーゼ阻害剤) 治療後に限り組み入れ可。
TIL製造プロセス: 試験登録後に転移巣の切除生検を施行し、腫瘍片 (3mm立方体×48個) をIL-2 600 IU/ml添加培地で最大5週間培養した。TIL増殖確認後、自己腫瘍細胞サスペンションとのIFNγ (interferon-gamma; インターフェロンγ) ELISA (enzyme-linked immunosorbent assay) による反応性確認を経て、腫瘍反応性TILフラグメントをプールし凍結保存した。病勢進行確認後、凍結TILを解凍し REP (rapid expansion protocol): 照射済み同種フィーダー細胞+抗CD3抗体 (30 ng/ml)+IL-2 (3000 IU/ml) を用いてG-Rex 100 MCS (gas-permeable rapid expansion; 気体透過性急速拡大培養フラスコ) で14日間拡大培養した。製品リリース基準: CD45+ ≥45%、生存率≥70%、エンドトキシン<5 EU/kg、グラム染色陰性。CD8+およびCD4+比率をフローサイトメトリーで確認。
治療プロトコル: TIL採取後にnivolumab 240 mg q2w×≥4サイクルを投与し、病勢進行確認後にリンパ球除去化学療法 [シクロホスファミド 60 mg/kg/日 day -7, -6; フルダラビン 30 mg/m²/日 day -7 to -3] を施行。Day 0にTIL静脈内輸注、12時間後よりアルデスロイキン (IL-2) 18 MIU (million international units)/m²の6時間・12時間・24時間連続点滴、以降4.5 MIU/m²×3日間投与。退院条件は好中球>1000/μl。その後nivolumab 480 mg q4w×最大1年のmaintenance療法。局所療法 (切除または定位放射線) 後も試験継続を許可。
評価・統計: 腫瘍評価はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1 (6週毎CT)、有害事象はNCI CTCAE v4.0で記録。新生抗原解析: 腫瘍全エクソーム解析 (WES; whole exome sequencing) +RNA-seq+HLA型別後、非同義体細胞変異に対応するペプチドを合成しELISpot (enzyme-linked immunospot) アッセイでIFNγ産生を評価 (一元配置ANOVA + Dunnett多重比較検定)。奏効例 vs 非奏効例での腫瘍抗原反応性T細胞の差異評価: Fisher’s exact test。T細胞多機能性指数 (PSI; polyfunctional strength index) はIsoplexis IsoCode chipで12種類サイトカインを単細胞測定し、前後比較は混合効果モデル (REML; restricted maximum likelihood) + Geisser-Greenhouse補正 + Dunnett検定。TRVβ (T細胞受容体β鎖可変領域; T-cell receptor V-beta chain) sequencingにはimmunoSEQ法を用い、輸注前後の末梢血clonotype重複度をMorisita’s indexで定量化した。