- 著者: Laura Evgin, Amanda L. Huff, Timothy Kottke, Jill Thompson, Amy M. Molan, Christopher B. Driscoll, Matthew Schuelke, Kevin G. Shim, Phonphimon Wongthida, Elizabeth J. Ilett, Karen Kaluza Smith, Reuben S. Harris, Matt Coffey, Jose S. Pulido, Hardev Pandha, Peter J. Selby, Kevin J. Harrington, Alan Melcher, Richard G. Vile
- Corresponding author: Richard G. Vile (Mayo Clinic, Rochester, MN)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-04-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 30940643
背景
腫瘍細胞は化学療法・放射線療法・ウイルス療法などの第一線治療に対し、ゲノム不安定性に起因する多様な遺伝的・後成遺伝学的機序を通じて逃避する。APOBEC3 (apolipoprotein B mRNA editing enzyme catalytic polypeptide-like 3) ファミリーのシトシン脱アミノ酵素はこの逃避の重要な内因性変異源として同定されている。Roberts et al. (Nat Genet 2013) および Burns et al. (Nature 2013) はヒトがんの約半数においてAPOBEC3A/B特徴的なC→T変換変異が検出されることを示し、APOBEC3変異シグネチャが汎がん種にわたる内因性変異源として機能することを確立した。Walker et al. (Nat Commun 2015) および Law et al. (Sci Adv 2016) はAPOBEC3B過剰発現が多発性骨髄腫・乳がんの予後不良やタモキシフェン耐性と相関することを示し、APOBEC3活性が治療抵抗性に直接寄与することを明らかにした。また Leonard et al. (Cancer Res 2015) はPKC (protein kinase C)/NFκB (nuclear factor kappa B) シグナル経路がAPOBEC3B発現を誘導することを示した。さらに Kaluza et al. IntJCancer 2012 は養子T細胞移植療法によってゲノム変化を伴う腫瘍逃避変異体が出現することをマウスモデルで示し、Kottke et al. CancerImmunolRes 2017 はTNFαを介したNK細胞免疫監視の回避が腫瘍再発を駆動することを示した。免疫圧力によるHLA LOH (loss of heterozygosity) などの免疫編集機序は McGranahan et al. Cell 2017 でも示されており、T細胞が腫瘍の遺伝的変異選択に関与する背景が報告されていた。しかしT細胞自体が腫瘍細胞のAPOBEC3発現を直接誘導して第一線治療への抵抗性を能動的に高める可能性については gap in knowledge として残されていた。化学療法・放射線療法がDNA損傷を介して変異を促進することは広く知られているが、免疫療法特にT細胞応答が同様の変異誘導機序で腫瘍の変異負荷を増加させるかは手薄な領域であった。現在の免疫療法の考え方では、低頻度・低親和性であっても抗腫瘍T細胞応答が誘導されれば有益とみなされているが、suboptimal (低E:T比) のT細胞応答がむしろ腫瘍逃避を促進しうるという逆説的な可能性は検証されていなかった。
目的
腫瘍抗原反応性CD8+ T細胞がsuboptimal E:T (effector to target) 比条件で腫瘍細胞と相互作用した際に腫瘍細胞内のmAPOBEC3 (murine APOBEC3) 発現を誘導して変異蓄積を促し、自殺遺伝子療法 (ガンシクロビル/HSV-TK (herpes simplex virus thymidine kinase) 系) および腫瘍溶解性ウイルス療法 (Reovirus) からの治療抵抗性逃避を促進するかを検証すること。また、そのシグナル経路 (TNFα/PKC/MHC class I依存性) の同定と、mAPOBEC3ノックダウンおよびhAPOBEC3B (human APOBEC3B) 過剰発現による機能的確認を行うことを目的とした。
結果
Suboptimal T細胞による第一線治療からの逃避促進:B16TK細胞はガンシクロビル (5 μg/mL) またはReovirus (MOI 0.1) による連続2サイクル処理後、少数の治療抵抗性サバイバーが生存した (Fig. 1A-D)。T.E. CD8+ T細胞をE:T=10:1で共培養にガンシクロビルまたはReovirusと組み合わせると、T細胞なし条件に比べ治療抵抗性サバイバーが有意に増加した (n=3独立実験、P<0.01)。一方、naive CD8+ T細胞との共培養では同様の増加は認められなかった (Fig. 1F)。T.E. CD8+ T細胞がB16TK細胞を殺傷し低濃度のIFNγを産生することはin vitroで確認されており (Fig. 1E)、この「腫瘍経験T細胞がかえって逃避を促進する」という逆説的な結果は、低E:T比 (suboptimal) 条件に特有のT細胞依存性変異誘導を示唆した。
B16OVA逃避クローンにおけるC→T変異シグネチャの同定:B16OVA細胞に活性化OT-I CD8+ T細胞のみをE:T=10:1で添加すると逃避コロニーは0/0/0個であった (Table 1)。OT-I T細胞にnaive CD8+ T細胞を追加した条件 (E:E:T=10:10:1) でも全標的細胞が殺傷され逃避コロニーは観察されなかった (0/0/0)。しかし、OT-I T細胞にT.E. CD8+ T細胞を追加したE:E:T=10:10:1条件では3、15、1個の逃避コロニーが確認された (Table 1)。単離・増殖した15クローンのうち10クローンはova遺伝子の完全消失を示したが、5クローンはova遺伝子を保持していた。そのうち4/5クローンでOVA遺伝子の位置406 (AAC→AAT) および位置457 (CAG→TAG) にTC→TT変換が確認され、いずれもSIINFEKLエピトープ (MHC class I結合免疫優性エピトープ) 上流に早期終止コドンを生成していた (Fig. 2B)。このTC→TT変換はAPOBEC3B変異シグネチャ (TCA motif、A in +1 position) と一致し、T細胞圧力下での免疫エピトープ消失の分子機序が同定された。
E:T比依存的mAPOBEC3誘導とbystander腫瘍細胞への波及:qRT-PCR解析により、mAPOBEC3 mRNA発現はT.E. CD8+ T細胞または活性化OT-I T細胞との共培養開始12時間後に対照比約4-fold増加した (n=3 independent experiments、P<0.001、Fig. 3A)。ELISAおよびWesternブロット解析でも、B16OVA細胞でのmAPOBEC3タンパクはOT-I T細胞との低E:T比条件 (1:1〜5:1) で誘導されたが、高E:T比 (ほぼ完全殺傷条件) では誘導されなかった (Fig. 3B-D)。Transwell実験では、上チャンバーでOT-I T細胞がB16OVA細胞を殺傷するとTNFαが産生され (Fig. 3I)、直接T細胞と接触していない下チャンバーのbystander B16OVA細胞でもmAPOBEC3が誘導されることが確認された (Fig. 3J)。このbystander B16OVA細胞は再培養時にOT-I T細胞に対して有意に増強した抵抗性を示し、de novo mAPOBEC3過剰発現細胞と同等の抵抗性レベルに達した (Fig. 3K)。B16OVA以外にGL261 glioma細胞およびLLC細胞でも同様のmAPOBEC3誘導が確認され (Supplementary Fig. S3)、suboptimal T細胞によるAPOBEC3誘導が腫瘍種を超えた普遍的現象であることが示された。
TNFα-MHC class I-PKC依存的シグナル経路の同定:抗TNFα抗体 (0.5 μg/mL)、抗MHC class I抗体 (AF6-88.5、0.5 μg/mL)、またはPKC阻害剤AEB071 (10 μmol/L) によってmAPOBEC3誘導が完全に阻止されたが (P<0.001)、抗IFNγ抗体では有意な抑制は認められなかった (Fig. 4A-C)。組み換えTNFα添加単独でmAPOBEC3が誘導され (Fig. 4D)、AEB071により抑制されたことでTNFα→PKC→APOBEC3誘導という経路が確定した (Fig. 4E、P<0.001)。PKCアクチベーターphorbol 12-myristate 13-acetate (PMA; 25 ng/mL) 単独添加もmAPOBEC3を誘導し、T細胞が産生するTNFαと同様の経路で作用することが確認された。IFNγが関与しないことは既報のPKC/NFκB経路を介したAPOBEC3誘導機序と一致する。
mAPOBEC3ノックダウンによる治療抵抗性逃避の抑制 (in vitro・in vivo):mAPOBEC3 shRNA (4種) で安定的にノックダウンされたB16TK (shRNA mAPOBEC3) 細胞では、T.E. CD8+ T細胞+ガンシクロビル条件での治療抵抗性サバイバーの増加が認められなかった (Fig. 5B)。同様の結果はReovirus (Fig. 5C) およびPmel T細胞との共培養でも再現された (Fig. 5D)。in vivoでは、B16TK (scrambled shRNA) 腫瘍移植マウスはガンシクロビル処理後に全例再発し長期生存なし (0/7) であったのに対し、B16TK (mAPOBEC3 shRNA) 腫瘍マウスでは4/7が長期生存し腫瘍再発が有意に抑制された (Fig. 5E-F、log-rank P<0.05)。hAPOBEC3BまたはmAPOBEC3の過剰発現はガンシクロビル耐性コロニー出現を促進し、shRNA knockdown表現型をrescueした (Fig. 5G)。Sangerシーケンスにより、hAPOBEC3BまたはmAPOBEC3過剰発現条件のみでHSV-TK遺伝子位置22にATCA→ATTA変換 (早期終止コドン) が確認された一方、scrambled shRNA細胞やnaive T細胞共培養条件では観察されなかった (Fig. 5H)。
hAPOBEC3B過剰発現による頭蓋内・皮下腫瘍モデルでの逃避促進:頭蓋内B16TK (hAPOBEC3B) 腫瘍はガンシクロビル処理後にB16TK (hAPOBEC3B MUT) 腫瘍より有意に速く増殖した (n=10/群、P<0.001、Fig. 6C)。回収した腫瘍の解析では、B16TK (hAPOBEC3B) の4/4腫瘍でHSV-TKタンパク発現消失が確認されたが、B16TK (hAPOBEC3B MUT) の4/4腫瘍はHSV-TKを発現し続けていた (Fig. 6D)。シーケンスにより、B16TK (hAPOBEC3B) 腫瘍4/4すべてにHSV-TK遺伝子位置22のATCA→ATTA変換が確認され、B16TK (hAPOBEC3B MUT) 腫瘍や親株B16TKではこの変換は観察されなかった (Fig. 6E)。皮下腫瘍でも同様の逃避促進効果が観察された (n=10/群、Fig. 6F)。これらの結果はhAPOBEC3Bの触媒活性が腫瘍の多剤療法逃避に必要十分であることを実証している。
考察/結論
本研究は、suboptimal T細胞応答が腫瘍細胞内のAPOBEC3を能動的に誘導して変異負荷を増加させ、第一線治療への抵抗性獲得を促進するという逆説的かつ新規の機序を実証した。先行研究では抗腫瘍T細胞応答が誘導されれば強弱を問わず患者に有益と考えられてきたが、本研究の知見は先行研究と異なり、suboptimal強度 (低E:T比) の腫瘍反応性T細胞がガンシクロビルやReovirus療法への逃避を能動的に促進することを初めて示した。このメカニズムの中核は、T細胞由来TNFαがMHC class I認識後にPKC/NFκBシグナルを活性化してAPOBEC3を誘導するという経路であり、IFNγが関与しないことが確認された。
新規の発見として、腫瘍細胞がT細胞と直接接触しないbystander細胞においても、TNFαを介してAPOBEC3が誘導され治療抵抗性が増強されることが本研究で初めて示された。これはAPOBEC3誘導が腫瘍微小環境内で波及効果を持つことを意味し、腫瘍全体の進化的適応を加速させる可能性を示唆する。TCGAデータセットではAPOBEC3変異シグネチャとTIL浸潤・PD-L1/PD-L2発現の相関が報告されているが (McGranahan et al. Cell 2017)、本研究の結果はT細胞がAPOBEC3活性化の受動的伴奏者ではなく能動的な誘導因子である可能性を機能的に実証するものである。またHLA LOH (loss of heterozygosity) による免疫逃避との関連も示唆される。
臨床的意義として、(1) ワクチン・腫瘍溶解性ウイルス療法・養子T細胞移植など第一線免疫療法は、high affinity・high frequencyの抗腫瘍T細胞応答を早期に最大化して低E:T比状態を避けることが不可欠である、(2) PKC阻害剤AEB071やEGFR阻害剤 (B-Mybを介したAPOBEC3B抑制) がAPOBEC3誘導を抑制する補助療法候補となりうる、(3) HPV・EBV関連がんや腫瘍溶解性ウイルス療法の文脈では、APOBEC3がウイルス感染に対する自然免疫応答として誘導されるため特に注意を要することが挙げられる。本知見はNK細胞やマクロファージなどTNFαを産生する他の免疫細胞も同様のAPOBEC3誘導を引き起こしうる可能性を示唆しており (Kottke et al. CancerImmunolRes 2017)、腫瘍微小環境全体での免疫-変異誘導の相互作用を再考する必要がある。
残された課題として、suboptimal T細胞応答によるAPOBEC3誘導が抗原提示経路以外のゲノム領域 (腫瘍不均一性に影響するあらゆる遺伝子) にどの程度波及するかの解明が今後の検討として挙げられる (Kaluza et al. IntJCancer 2012)。また、Reovirusに対するAPOBEC3誘導がウイルスゲノムへの変異を介する経路と腫瘍細胞の抗ウイルス遺伝子への変異を介する経路のいずれが主要かを解明するためのゲノムシーケンス研究も今後の課題である。加えて本研究は二次元的なin vitroモデルおよびマウス黒色腫モデルを主体としており、複雑な腫瘍微小環境・ヒト免疫系の特性を十分に再現できていないという limitation がある。今後の研究ではヒト臨床サンプルを用いた検証や、APOBEC3阻害と免疫療法の組み合わせ戦略の最適化が更なる検討として求められる。
方法
細胞株: B16 murine melanoma由来のB16TK (B16 melanoma expressing herpes simplex virus type 1 [HSV-1] thymidine kinase [TK], ganciclovir-sensitive) およびB16OVA (B16 melanoma expressing ovalbumin [OVA], OT-I T細胞認識可能) を主要モデルとして使用。追加確認にGL261 glioma細胞およびLLC (Lewis lung carcinoma) 細胞を用いた。細胞はATCCまたは各研究者より入手し、PCRおよびMycoplasma検査 (MycoAlert Kit) で認証。マウス株: C57BL/6雌 (6-8週齢、Jackson Laboratories)、OT-I (transgenic TCR Va2/Vb5 specific for SIINFEKL peptide、H-2Kb拘束)、Pmel (transgenic TCR Va1/Vb13 specific for glycoprotein 100 [gp100] aa25-33、H2-Db拘束) を使用。T細胞調製: OT-IおよびPmel T細胞はSIINFEKL (1 μg/mL) またはKVPRNQDWLペプチドとhuman IL-2 (50 U/mL) を含むIscove’s Modified Dulbecco’s Medium (IMDM)培地+5% FBS+1% penicillin/streptomycin+40 μmol/L 2-MEで4日間活性化後に使用。tumor-experienced (T.E.) CD8+ T細胞は3週間ガンシクロビル療法 (50 mg/kg×days 5-9, 12-16, 19-23) でB16TK腫瘍を根治したマウスから60-80日後に採取。治療抵抗性選択アッセイ: B16TKまたはB16OVA細胞をガンシクロビル (5 μg/mL) またはReovirus (MOI 0.1) で7日間処理→7日間通常培地→さらに7日間処理の21日間サイクルで実施 (triplicate wells、n=3)。T細胞はE:T比 0.1:1〜50:1の範囲で添加し、生存コロニー数を計数し mean ± SD で表示。シグナル阻害実験: 抗H-2Kb抗体 (AF6-88.5、0.5 μg/mL)、PKC阻害剤 (AEB071、10 μmol/L)、抗TNFα抗体 (AF-410-NA、0.5 μg/mL)、抗IFNγ抗体 (MAB485、0.5 μg/mL) を用いた阻止実験。APOBEC3定量: quantitative reverse transcription PCR (qRT-PCR; LightCycler480 SYBRGreen、delta-delta cycle threshold [ΔΔCt]法、GAPDH内部標準)、ELISA (Antibody Research Corporation)、Westernブロット (ウサギポリクローナル抗体 PA511430、Thermo Fisher Scientific)。shRNAノックダウン: mAPOBEC3標的29mer shRNA×4種 vs. scramble shRNA (OriGene Technologies) でGP+E86パッケージング細胞によるレトロウイルス感染でB16TK安定発現細胞株を作製 (MOI 約10)。hAPOBEC3B過剰発現: 活性型hAPOBEC3Bまたは触媒不活性型hAPOBEC3B MUT (Reuben Harris, University of Minnesota提供) のレトロウイルスベクターでB16TK細胞を形質導入、Hygromycin 7日間選択。シーケンス: OVA遺伝子 (CAA23682.1アライン) およびHSV-TK遺伝子 (AB009254.2アライン) をSangerシーケンス。In vivo実験: 皮下腫瘍は2×10^5 cells/100 μL PBS、頭蓋内腫瘍は1×10^4 cells/2 μL (前頭葉内)。ガンシクロビル50 mg/kg i.p.を日次投与、腫瘍は週3回計測。統計: 生存曲線はlog-rankテスト、in vitroアッセイはStudent t-test・one-way ANOVA・two-way ANOVAを適切に使用。有意水準P<0.05。