• 著者: Nicholas McGranahan, Rachel Rosenthal, Crispin T. Hiley, Andrew J. Rowan, Thomas B.K. Watkins, Gareth A. Wilson, Nicolai J. Birkbak, Selvaraju Veeriah, Peter Van Loo, Javier Herrero, Charles Swanton, the TRACERx Consortium
  • Corresponding author: Nicholas McGranahan (UCL Cancer Institute / The Francis Crick Institute, London), Charles Swanton (UCL Cancer Institute / The Francis Crick Institute, London)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-10-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29107330

背景

がん細胞が宿主の免疫監視から逃れる免疫逃避は、がんの代表的なホールマークの一つである Hanahan et al. Cell 2011。免疫チェックポイント阻害療法は、この免疫逃避機構を解除して抗腫瘍免疫を再活性化することを目指すが、治療効果を得られる患者は一部にとどまる。がん特異的ネオアンチゲンは、細胞傷害性T細胞活性を決定し、免疫チェックポイント阻害の有効性を予測する上で重要であることが示されている Rizvi et al. Science 2015。ネオアンチゲンをT細胞に提示するための中核機構は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子、すなわちヒト白血球抗原(HLA)クラスI分子であり、各個体はHLA-A、-B、-Cそれぞれについて両親由来の計6アレルを保有する。

HLA発現の低下は多くの腫瘍種で免疫逃避に寄与することが免疫組織化学(IHC)解析で示唆されてきたが、HLA遺伝子座はヒトゲノム中最も多型性の高い領域の一つであり、次世代シークエンシング(NGS)データからのアレル特異的コピー数解析が技術的に困難であった。例えば、KRAS G12D変異を標的とするT細胞療法を受けた腫瘍で、HLA-C*08:02アレルが失われた結果として免疫逃避が生じた症例が報告されているが Tran et al. NEnglJMed 2016、その頻度や進化的意義は不明な点が多かった。従来のコピー数解析ツールはHLA遺伝子座へのリード整列が困難であるため、HLAのヘテロ接合性喪失(LOH)をアレル特異的に検出・定量する手法が存在しなかった。このため、腫瘍進化におけるHLA LOHの役割については多くの点が未解明であった。特に、HLAハプロタイプの喪失が抗腫瘍免疫、クローン増殖、およびネオアンチゲン予測に与える影響は、HLA遺伝子座の多型性により、シーケンスリードのヒト参照ゲノムへのアラインメントとコピー数推論が妨げられるため、体系的に検討されていなかった。

TRACERx研究による多領域サンプリングデータが蓄積したことで、肺癌の時間的・空間的進化過程におけるHLA変化をクローナル解析の枠組みで評価することが初めて可能となった。しかし、これまでのゲノム解析技術ではHLA領域の複雑な多型に対応できず、アレル特異的なコピー数変化を正確に捉えるための解析ツールが不足していた。この技術的限界が、腫瘍進化の過程で生じる動的な免疫逃避メカニズムの解明を阻む大きな課題となっており、詳細なゲノムレベルでの解析手法の確立が強く求められていた。

目的

本研究の目的は、次世代シークエンシングデータからアレル特異的HLAコピー数を高精度に推定する新規計算ツール LOHHLA (Loss Of Heterozygosity in Human Leukocyte Antigen) を開発し、その妥当性を検証することである。また、TRACERx研究の多領域非小細胞肺癌 (NSCLC) コホートにおけるHLA LOHの頻度、発生タイミング、進化的意義、および腫瘍微小環境との関連を包括的に解析することを目指す。具体的には、HLA LOHが腫瘍進化の後期イベントであるか、免疫選択圧を受けているか、ネオアンチゲン負荷や免疫活性化と関連するかを明らかにする。さらに、LOHHLAがネオアンチゲン予測の精度向上に貢献し、免疫療法への抵抗性メカニズム理解に寄与することを目指す。

結果

LOHHLAの妥当性検証とアレル特異的LOH検出能力: LOHHLAとASCATのマイナーアレルコピー数推定値は高度に相関し、Spearman r=0.70 (p=1.36e-115) を示した (Figure 1)。LOHHLAはアレル不均衡の検出においてASCATより高い感度を示した (LOHHLA単独検出 34例 vs ASCAT単独検出 8例)。PCRフラグメント解析では、LOHHLAのLOH分類に対応して正規化アレル比率が有意に差異を示した (p=1.07e-19)。LOHHLAは既存のコピー数ツールよりも明確な三群分離を提供した (Figure S2)。LOHHLAの固有の強みは、どの特定アレル (HLA-A・-B・-Cの母方/父方いずれ) が消失したかを判別できる点にあり、A549細胞株を用いた n=3 replicates の検証実験および H1299細胞株を用いた n=3 replicates の検証実験において、既知のHLAアレル欠失パターンと100%一致するアレル特異的コピー数推定値を示した。

NSCLCにおけるHLA LOHの頻度とサブクローナルな出現: TRACERxコホートの90例中36例 (40%) でHLA LOHが同定された。肺扁平上皮癌 (31例中19例, 61%) は肺腺癌 (59例中17例, 29%) より有意に高頻度であった (p=0.004) (Figure 2)。HLA LOHは肺腺癌17例中13例 (76%)、肺扁平上皮癌17例中9例 (53%) においてサブクローナルに出現しており、腫瘍進化の後期に免疫圧力に駆動されて生じることが示唆された。TCGAコホートでも肺扁平上皮癌 133/309 (43%)、肺腺癌 118/383 (31%) でHLA LOHが確認された (Figure S5)。なお、HLA LOHは36例全例で片方のアレルを残しており、HLAホモ接合欠失は認められなかった。

HLA LOHの焦点的選択と並行進化、転移部位での濃縮: HLA LOHの観察頻度はシミュレーションによる期待値を有意に上回り (焦点的LOH p<0.001)、HLA遺伝子座を中心とした明確な焦点的ピークが認められた (Figure 3)。4例の腫瘍では系統発生樹の独立した枝において同一HLAアレルが選択的に消失する並行進化が確認された。脳転移コホート (n=37 patients) ではHLA LOHが 17/37例 (46%) に認められ、原発巣よりも転移巣でのHLA LOHが多い傾向があった (p=0.08; 転移巣のみ 7例 vs 原発巣のみ 1例)。

HLA LOHとサブクローナル変異負荷、消失アレルへのネオアンチゲン結合: HLA LOHを有する腫瘍では、クローナル変異数は差がなかったが、サブクローナル非同義変異数が有意に多かった (NSCLC p=0.008; 肺腺癌 p=0.01) (Figure 4)。HLA LOHサブクローンを同一腫瘍の姉妹サブクローン (HLA LOHなし) と直接比較すると、HLA LOHサブクローンは 19/19対中17例で変異負荷が高く (p=4e-04)、HLA LOHが出現後に追加変異の蓄積を許容することが示された。このサブクローン間比較において、HLA LOH側は非LOH側に対して 2.1-fold increase の非同義変異数の増加を示し、特定の領域では最大 3.5-fold の顕著な変異蓄積(log2FC 1.81に相当)が観察された。また、HLA LOHを有する 20例でネオアンチゲン結合アレル特異性を評価したところ、サブクローナルネオアンチゲンは保持アレルよりも消失アレルへの結合が有意に多かった (NSCLC p=0.0083; 肺扁平上皮癌 p=0.02)。1例の肺腺癌 (CRUK0020) では1,220変異由来ネオアンチゲンの92%が消失アレルに結合すると予測された。さらに、HLA LOHを有する肺腺癌腫瘍では、APOBEC変異誘発シグネチャが有意に増加していた (p=0.003)。

HLA LOHと免疫活性化腫瘍微小環境の関連: クローナルHLA LOHを有する腫瘍ではLOHなし群と比較して、免疫細胞PD-L1染色スコアが有意に高く (p=0.029)、腫瘍細胞PD-L1染色にも上昇傾向が認められた (p=0.14) (Figure 5)。TCGA RNA-seq解析でも肺腺癌でHLA LOH群の細胞傷害活性スコア (GZMA + PRF1)、CD8+ T細胞量・IFNγ・STAT1・グランザイムA/B/Hが有意に上昇し、NK細胞量の増加も観察された。

考察/結論

先行研究との違い: これまでHLA発現低下はIHCで示唆されてきたが、アレル特異的な遺伝子レベルでのLOHの頻度や進化的意義は不明であった。本研究は、従来のコピー数解析ツールがHLA遺伝子座の多型性によりコピー数推論を誤る問題と異なり、患者固有のHLAアレルにリードを直接アラインメントする手法を採用することで、極めて高い精度でLOHを同定することに成功した。これは、これまで報告されてきたB2Mや、MHCクラスI転写活性化因子である NLRC5 (NLR family CARD domain containing 5) の変異による免疫逃避とは異なる、より広範かつ動的なゲノムレベルの免疫逃避メカニズムを提示した点で先行研究と異なる。

新規性: 本研究で初めて、次世代シークエンシングデータからアレル特異的HLAコピー数を算出する計算ツールLOHHLAを新規に開発した。そして、早期NSCLCの40%においてHLA LOHが発生していること、特に肺扁平上皮癌で高頻度(61%)であることを明らかにした。HLA LOHがサブクローナルかつ焦点的に生じ、消失アレルへの結合ネオアンチゲンが優先的に蓄積するというパターンは、HLAの進化的圧力下での選択を明確に示すダーウィン進化的免疫編集の分子的証拠である。

臨床応用: 本知見は、がん個別化医療におけるネオアンチゲンワクチン設計やT細胞療法の臨床応用に直結する Ott et al. Nature 2017 Sahin et al. Nature 2017。予測されるネオアンチゲンの多くが消失したHLAハプロタイプに結合する場合、そのネオアンチゲンを標的とした治療は無効となるため、治療標的の選択においてHLA LOHの評価を組み込むことは極めて重要な臨床的意義を持つ。また、免疫チェックポイント阻害薬に対する獲得耐性メカニズムの理解や、治療抵抗性患者の層別化における臨床的有用性も期待される Zaretsky et al. NEnglJMed 2016

残された課題: 今後の検討課題として、腫瘍浸潤リンパ球の抗原特異性データがないため、どのネオアンチゲンが実際に免疫選択圧をかけているかを直接的に示す必要がある。また、治療前後の臨床検体を用いて、HLA LOHが免疫チェックポイント阻害療法に対する獲得耐性の一般的なメカニズムであるかを大規模コホートで検証することが今後の重要な研究方向性である。

方法

LOHHLAアルゴリズム開発: LOHHLAは5つのステップで構成される。(1) HLA領域および染色体6に整列したリードを腫瘍・正常組織から抽出する。(2) 患者固有のHLAアレルについて、HLA遺伝子型推測ツール POLYSOLVER (POLYmorphic loci reSOLVER) または Optitype で推定し、アレル特異的.bamファイルを作成する。(3) HLAアレル間の多型サイトを同定する。(4) 腫瘍/正常比 (logR) とBアレル頻度 (BAF) を各HLA遺伝子座で算出する。(5) 間質混入を補正したアレル特異的コピー数を推定する。コピー数0.5未満をLOHと分類し、アレル不均衡のp値 < 0.01を閾値とした。腫瘍純度とploidyはASCATを用いて推定した。

TRACERxコホート: 早期NSCLC 90例 (肺腺癌 59例、肺扁平上皮癌 31例) の288腫瘍領域から多領域全エクソームシークエンシング (WES) データを解析した Jamal-Hanjani et al. NEnglJMed 2017。LOHHLAの精度検証は、(a) 隣接ゲノム領域のコピー数プロファイルとの比較 (288腫瘍領域)、(b) 27腫瘍82領域におけるポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) フラグメント解析で実施した。比較対象として、コピー数解析ツールである Sequenza および TITAN (clonal cluster-based copy number analysis tool) も使用した。

検証コホート: 一次腫瘍と脳転移が揃ったNSCLC 37例でHLA LOHの原発巣・転移巣分布を解析した。The Cancer Genome Atlas (TCGA) の肺腺癌 383例・肺扁平上皮癌 309例ではRNAシークエンシング (RNA-seq) 由来の免疫スコアとHLA LOHの関連を解析した。

統計解析および実験的検証: 統計解析はR統計環境で実施し、比較には Fisher’s exact test、Wilcoxon test、paired Wilcoxon test、Cochran-Armitage test を用いた。また、アレル間の相関や多型サイトの解析には Spearman correlation を用いた。さらに、細胞株を用いた検証として、肺癌細胞株 A549 および H1299 から抽出したDNAサンプルを用いて、LOHHLAアルゴリズムのキャリブレーションとコピー数推定精度のベンチマーク試験を実施した。