• 著者: Meenakshi Hegde, Malini Mukherjee, Zakaria Grada, Antonella Pignata, Daniel Landi, Shoba A. Navai, Amanda Wakefield, Kristen Fousek, Kevin Bielamowicz, Kevin K.H. Chow, Vita S. Brawley, Tiara T. Byrd, Simone Krebs, Stephen Gottschalk, Winfried S. Wels, Matthew L. Baker, Gianpietro Dotti, Maksim Mamonkin, Malcolm K. Brenner, Jordan S. Orange, Nabil Ahmed
  • Corresponding author: Nabil Ahmed (Center for Cell and Gene Therapy, Baylor College of Medicine, Houston, Texas)
  • 雑誌: Journal of Clinical Investigation
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-06-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27427982

背景

膠芽腫 (GBM) はHER2・IL13Rα2 (interleukin-13 receptor alpha 2)・EphA2などのTAA (tumor-associated antigen, 腫瘍関連抗原) を発現するが、個々の細胞が発現する抗原の種類と量は症例内でも広く異なる高度な抗原異質性を持つ。Ahmed et al. (2010) はHER2特異的なキメラ抗原受容体 (CAR) T細胞がGBM幹細胞を標的として腫瘍退縮を誘導できることを示したが、実験的正所性GBMモデルの40-60%でT細胞投与後に腫瘍が再発することを同時に報告した。Krebs et al. (2014) はIL13Rα2結合性IL-13 mutein-CAR T細胞が抗GBM活性を持つ一方でIL13Rα1とも交差反応することを明らかにした。同グループの先行研究 (Hegde et al. Mol Ther 2013) はGBM患者20例の抗原発現データに基づく数理モデルで、HER2・IL13Rα2・EphA2のいずれか1種を標的にした場合の腫瘍完全排除確率が60-70%に留まるのに対し、HER2とIL13Rα2を同時標的にすることで90%超に上昇すると予測した。

この知見を受けて「複数抗原同時標的」戦略が検討されたが、既存の二特異性アプローチには重大な不足があった。CARpool法 (chimeric antigen receptor T-cell pool: mixed infusion of HER2 and IL13Rα2 CAR T cells) では2分子のCARが独立してシグナルを伝達し、biCAR法 (bivalent CAR co-expression: 同一T細胞へのHER2 CARおよびIL13Rα2 CARの共発現) でも2つの独立したシグナル伝達ドメインを介するため加算的効果が上限となる。単一のCAR分子内に2つの抗原結合ドメインをタンデム配置し、両抗原を同時認識した際に質的に異なる超加算的活性化が生じるかどうかは未解明であり、タンデム単一CAR設計の機能的優位性を実証した研究が不足していた。何が既存の二特異性アプローチに欠けていたかは、直接の分子的比較研究の欠如から明らかでなかった。

目的

HER2 (膜近傍) とIL13Rα2 (遠位) をタンデム配置した単一CAR分子 (TanCAR: tandem chimeric antigen receptor) を設計・構築し、(1) 単独および両抗原同時認識時の活性化動態の比較、(2) IS (immune synapse, 免疫シナプス) における二価性 (bivalency) の分子的実証、(3) biCAR・CARpool・単特異的CAR T細胞との比較によるin vitro・in vivo抗腫瘍活性の評価、(4) 抗原喪失抑制能の検証を目的とした。

結果

TanCAR設計の構造的妥当性と安定発現: in silico解析でIL-13 muteinドメインは4-helical cytokine fold、FRP5-scFvドメインはIg-like β-sandwich foldをそれぞれ独立して保持し、グリシン/セリンリンカーが両ドメインを空間的に分離することで各受容体結合部位が到達可能であることが示された。Rosettaエネルギー解析 (Table 1) では、IL-13 mutein/IL13Rα2ドッキングのtotal score -268.21 (6th)・Isc -7.011 (3rd)、FRP5-scFv/HER2ドッキングのtotal score -462.853 (8th) が得られ、各ドメインが対応受容体に対して好適なエネルギー配置で結合できることが確認された。UPN1-3患者由来T細胞に形質導入されたTanCARの表面発現は可溶性HER2・IL13Rα2タンパク質の双方でフローサイトメトリーにより確認され (Fig 2)、ex vivo培養12週間以上安定して維持された。UPN3ではIL13Rα2発現が低い腫瘍 (IL13Rα2陽性率16%) が使用され、最も厳しい条件での二重標的優位性の検証が行われた。

患者自家GBM細胞への反応性と細胞溶解能: GBM患者UPN1-3から採取したTanCAR T細胞は、自家GBM細胞との24時間共培養でIFNγおよびIL-2を有意に産生した (NT: non-transduced T細胞では検出限界以下、P<0.05)。51Cr放出試験 (4時間) では、UPN1・UPN2・UPN3のすべてにおいてTanCAR T細胞が最大の細胞溶解活性を示し、biCAR・HER2 CAR・IL13Rα2 CAR・CARpoolと比較して大多数のE:T比で有意に高値を記録した (P<0.05 vs. 最高殺傷対照群、Fig 3B)。IL13Rα2発現率16%のUPN3腫瘍でもTanCAR T細胞はIL13Rα2 CAR単独を上回る反応性を示し、HER2主体での認識により低発現抗原を補完できることが確認された。U373との共培養でも、TanCAR T細胞群のIFNγ・IL-2産生量が全CAR製品中最高値を示し (1T細胞:4U373細胞、ELISA、Tukey検定P<0.005、Fig 3C)、GBM細胞株でも同様の反応性が確認された。

両抗原同時認識による超加算的活性化と持続的腫瘍殺傷: ポリプロピレン表面固相化HER2.Fc (0-2.0 μg/ml) またはIL13Rα2.Fc (0-20 μg/ml) の密度勾配に対して、TanCAR T細胞のIFNγ産生は低-中密度域で用量依存的 (r²=0.85-0.98) であった。両抗原を同時提示した場合のサイトカイン産生は単独抗原最大値の単純和を超える超加算的 (superadditive) 効果を示した (n=3 independent experiments、P<0.001 vs. 各単独群、Fig 4)。biCAR T細胞では低-中密度域での単純加算的増強に留まり、高抗原密度ではIFNγ・IL-2産生が低下したのと対照的であった。xCELLigence 150時間連続計測では、TanCAR T細胞がbiCAR・CARpool・単特異的CARを上回る持続的腫瘍排除を示し、80時間でP<0.05、100時間以降でP<0.005の有意差を維持した (Fig 5A)。7日間連続刺激後の疲弊マーカー評価では、PD-1・LAG-3はすべてのCAR T細胞製品で同等の上昇を示したが、TIM-3はTanCAR CD4+ T細胞でbiCAR対比有意に低値であった (P<0.05、Fig 5B)。TanCARの超加算的活性化はT細胞疲弊の増悪を伴わない特異的な活性化形式であることが示された。

二価免疫シナプスにおけるHER2-IL13Rα2ヘテロダイマー形成: 3D共焦点顕微鏡によるIS解析では、TanCAR T細胞/GBM細胞コンジュゲートのISにHER2とIL13Rα2の双方が集積したが、HER2 CAR T細胞ではHER2のみ、IL13Rα2 CAR T細胞ではIL13Rα2のみが集積した。IL13Rα2のIS集積量はIL13Rα2 CAR T細胞と比較してTanCAR T細胞で有意に増加した (P<0.0002、Fig 6C)。STED超解像顕微鏡 (FWHM: full width at half maximum; HER2 183nm、IL13Rα2 250nm) では、TanCAR/U373 ISで24%の二重凝集体 (HER2-IL13Rα2ヘテロダイマー) が観察されたのに対し、biCAR/U373 ISでは7%未満に留まった (P<0.001、Fig 7B)。Duolink PLA (<40nm精度) では、TanCAR/U373 ISの平均蛍光強度 (mean fluorescence intensity: MFI) がbiCAR/U373 ISおよびNT T細胞/U373 ISを有意に上回り (P<0.0001、Fig 7D)、TanCAR分子がHER2とIL13Rα2に同時co-dockingしていることが分子レベルで確認された。細胞溶解ポテンシャルの指標として、TanCAR T細胞はbiCAR T細胞と比較してMTOCのIS方向への極性化 (P<0.0001、n≥10 synapses) とF-アクチン集積増加 (P<0.0005、n≥20 synapses) が有意に増強されており (Fig 8B)、二価ISが実際に優れた細胞溶解機能をもたらすことが示された。

In vivo抗腫瘍効果と抗原喪失抑制: ストレステスト (E:T比1:30) では、HER2 CAR・IL13Rα2 CAR T細胞がGBM xenograftを一時的に退縮させるも、中央値PFS 14日 (範囲各8-19日・7-18日)、中央値OS 53日 (HER2 CAR) および55日 (IL13Rα2 CAR) に留まった (P<0.04 vs. コントロール、log-rank検定)。TanCAR T細胞は中央値PFS 36日 (範囲32-110日、P=0.0007 vs. コントロール) および中央値OS 86日 (範囲80-100日、P=0.0002) に有意延長した (Fig 9B/C)。再発腫瘍の免疫蛍光解析では、HER2 CAR投与後の再発腫瘍はHER2陰性/IL13Rα2保持、IL13Rα2 CAR投与後の再発腫瘍はIL13Rα2陰性/HER2保持であったのに対し、TanCAR投与後の再発腫瘍はHER2・IL13Rα2の双方が淡染であり、単一抗原喪失では逃避不能であることが示された (Fig 9D/E)。有効性試験 (E:T比1:3) では、CARpool T細胞のOS中央値が52日 (範囲45-66日、P<0.02 vs. NT)、biCAR T細胞のOS中央値が85日 (範囲57-125日、P=0.001 vs. CARpool) であったのに対し、TanCAR T細胞はOS>140日 (試験終了時点、13/13匹生存、100%) を達成した (P<0.0001 vs. biCAR; CARpool 0%・biCAR 30%の140日生存率と対照的、Fig 10B)。

考察/結論

本研究は固形腫瘍CAR T細胞療法の根本的課題である抗原喪失に対して、単一CAR分子内タンデム二重特異性設計 (TanCAR) が機能的・分子的・in vivo的優位性を持つことを包括的に実証した。

既存研究との違い: 先行研究では、CARpool (2種の単特異的CAR T細胞の混合) およびbiCAR (同一T細胞への2CAR共発現) が二重特異性戦略として用いられてきた。しかし本研究では、biCAR T細胞における活性化増強が単純加算的であり高抗原密度でむしろ低下すること、すなわちこれまでの研究で前提とされてきた「2CARの共発現による相乗効果」は真の超加算的活性化ではないことが明確に示された。既存の二特異性手法と異なり、TanCARは単一分子で両抗原シグナルを統合することで真の超加算的活性化 (P<0.001) を実現し、in vivo有効性試験でもbiCARを大幅に上回るOS>140日 (100%生存) を達成した。CAR分子の細胞外ドメイン構造が認識特性に与える影響についてはHudecek et al. ClinCancerRes 2013が詳述しており、本研究のタンデム配置設計もそうしたCAR工学的知見の発展形である。

新規性: 本研究で新規に示された最大の知見は、単一CAR分子がHER2とIL13Rα2に同時co-dockingするという物理的現象の分子的実証である。STED超解像顕微鏡 (<200nm解像) でTanCAR ISに24%のヘテロダイマーが観察され、Duolink PLAという手法をCAR T細胞-標的細胞間の分子間距離測定に適用したのも本研究が初めてであり、<40nm精度でのco-docking確認を可能にした。また、TanCAR媒介ISがMTOC極性化 (P<0.0001) およびF-アクチン集積増加 (P<0.0005) を増強し、単なる標的認識の拡大を超えて質的に優れた細胞溶解機能をもたらすことが本研究で初めて示された。固形腫瘍における抗原喪失による治療失敗についてはEvgin et al. CancerImmunolRes 2019も詳述しているが、本研究はその根本的解決手段としてのTanCAR設計の有効性をin vivoで初めて証明した。

臨床応用: GBM治療においてTanCAR設計が示した抗原喪失克服能は直接的な臨床的意義を持つ。有効性試験でTanCAR T細胞が100%の140日生存率を達成したことは、臨床現場での二重標的CAR戦略の優位性を強く支持する。HER2とIL13Rα2はGBMだけでなく非小細胞肺癌・小細胞肺癌・大腸癌・乳癌の多くでも発現するため、TanCAR T細胞の臨床応用は脳腫瘍に留まらない広範な固形腫瘍に適用可能である。また単一トランスジーン導入は2つの独立したCAR遺伝子の挿入と比較して挿入変異リスクが低く、IRBやFDAなどの規制当局の審査においても有利であることが指摘されている。CAR T細胞製品の設計と増殖特性の最適化に関する知見はFrigault et al. CancerImmunolRes 2015が提供しており、TanCARのさらなる最適化においても参照すべき重要な背景情報となる。

残された課題: ヒト臨床試験での安全性・有効性の検証が最優先の今後の検討事項である。動物実験でもTanCAR投与後に遅発性の「両抗原陰性」二重逃避腫瘍が観察されており、この場合には第3の標的抗原 (EphA2・EGFR変異体など) を加えた三重以上のタンデム設計が必要となる可能性がある。TanCAR細胞外ドメインのリンカー長・折り畳み最適化、HER2/IL13Rα2以外の抗原ペアへの適用可能性の検証、および正常組織でのオンターゲット/オフチューモー反応性評価も future research として挙げられる。さらに、TanCARによる最初の抗原結合後に第2のドメインの特異性がconformational changeにより変化する可能性については完全に否定されておらず、limitationとして認識されている。

方法

TanCAR設計と構築: TanCARのexodomainはN末端側から19アミノ酸リーダー配列、高親和性IL-13 E13Y変異体 (IL13Rα2結合)、15アミノ酸グリシン/セリンリピートリンカー、HER2特異的FRP5 (anti-HER2 single-chain variable fragment antibody, clone FRP5) で構成された。細胞内ドメインはCD28膜貫通ドメインとCD28/CD3ζ二世代シグナル配列からなる。設計トランスジーン配列はGeneOptimizerでコドン最適化後pSFG retroViralベクターにクローニングした。in silico構造モデルはPhyre2 (Protein Homology Recognition Engine v2)・RaptorXで個別ドメインおよびTanCAR全体を構築し、IL-13 mutein/IL13Rα2ドッキングはPDB 3LB6を参照としてRosetta Onlineで最適化、TanCAR全体のHER2・IL13Rα2への三者共同ドッキングエネルギーを解析した (Table 1)。比較対象として、同一GBM患者 (UPN1-3) からHER2 CAR・IL13Rα2 CAR・biCAR (両CAR共発現)・CARpool (両CAR T細胞混合) を同時製造した。

In vitro機能評価: GBM細胞株U373 (ATCC、HER2+・IL13Rα2+) および患者由来原発GBM細胞 (UPN1-3; UPN: unique patient number) を標的とした。抗原密度勾配実験ではポリプロピレン表面固相化HER2.Fc (0-2.0 μg/ml) およびIL13Rα2.Fc (0-20 μg/ml) に24時間接触させ、IFNγ・IL-2をELISA (enzyme-linked immunosorbent assay、R&D Systems) で定量した。51Cr放出試験 (4時間) で細胞溶解活性を測定した。xCELLigence電気インピーダンスシステム (エフェクター:ターゲット比 E:T=1:10) で150時間連続リアルタイム腫瘍殺傷動態を評価した。7日間連続刺激 (72時間でU373を補充) 後のPD-1・LAG-3・TIM-3発現をフローサイトメトリー (FACSCalibur) で測定した。

免疫シナプス解析: 三次元共焦点顕微鏡 (Zeiss Axio-Observer Z1、CSU10 (Yokogawa confocal scanning unit 10) spinning disc、×63 1.43 NA) でZ stack (0.2μm厚) を積層してIS形成を可視化した。刺激放射輝度消耗顕微鏡 (stimulated emission depletion: STED) (Leica TCS SP8、×100対物) でHER2・IL13Rα2ヘテロダイマーを<200nm解像で検出した。Duolink近接ライゲーション法 (proximity ligation assay: PLA、Sigma-Aldrich、<40nm精度) でHER2-IL13Rα2共局在をIS単位で定量した (各条件≥20 conjugates (n=3 independent imaging experiments) 解析)。細胞溶解ポテンシャルの指標として、F-アクチン集積量と微小管形成中心 (microtubule organizing center: MTOC) からISまでの距離を測定した (n≥10-20 synapses)。

In vivo試験: NOD-SCID (non-obese diabetic/severe combined immunodeficiency; Taconic、C.Bigh-1b/IcrTacPrkdcscid) マウスの右前頭葉皮質にeGFP (enhanced green fluorescent protein).Firefly luciferase発現U373細胞を定位注射し正所性GBM xenograftを確立した。ストレステスト (2.5×10^5細胞移植・1×10^6 T細胞を8日後に腫瘍内注射、E:T比1:30相当; TanCAR n=10、HER2 CAR n=10、IL13Rα2 CAR n=10、NT: non-transduced n=5) および有効性試験 (5×10^4細胞移植・2×10^6 T細胞を5日後に腫瘍内注射、E:T比1:3相当; TanCAR n=13、biCAR n=10、CARpool n=5、NT n=5) を実施した。主要エンドポイントはストレステストで無増悪生存 (PFS: progression-free survival)、有効性試験で全生存 (OS: overall survival) とした。腫瘍体積はbioluminescence imaging (IVIS: in vivo imaging system; D-luciferin 150 mg/kg i.p.) で経時評価した。統計: Student’s t検定・Tukey’s single-step検定・log-rank検定、P<0.05を有意とした。