• 著者: Maria Themeli, Christopher C. Kloss, Giovanni Ciriello, Victor D. Fedorov, Fabiana Perna, Mithat Gonen, Michel Sadelain
  • Corresponding author: Michel Sadelain (Center for Cell Engineering, Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Nature Biotechnology
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-08-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 23934177

背景

がんに対する養子免疫細胞療法 (adoptive immunotherapy) において、キメラ抗原受容体である CAR (chimeric antigen receptor) を導入したT細胞療法は劇的な臨床効果を示している。特にCD19を標的とした第2世代CAR-T細胞療法は、難治性のB細胞性白血病やリンパ腫患者において高い完全奏効率を達成し、その有用性が実証されてきた (Brentjens et al. SciTranslMed 2013Kochenderfer et al. Blood 2012Brentjens et al. Blood 2011)。しかしながら、現行のCAR-T細胞療法は患者自身の末梢血からT細胞を採取して個別に製造する「カスタムメイド型」のプロセスに依存しており、これには多大な時間、労力、コストがかかる。さらに、重度の化学療法を繰り返した患者では十分な量かつ高品質なT細胞を確保することが困難な場合が多く、製造自体の失敗リスクも存在する。この課題を解決するため、あらかじめ遺伝子改変を施した「既製品 (off-the-shelf)」としてのユニバーサルなT細胞源の確保が強く望まれてきた。人工多能性幹細胞である iPSC (induced pluripotent stem cell) は無限の増殖能と多分化能を有するため、理想的な細胞源として期待されている。しかし、iPSCからT細胞への分化誘導技術においては、ランダムな T細胞受容体である TCR (T-cell receptor) 遺伝子再構成により、得られるT細胞の抗原特異性や ヒト白血球抗原である HLA (human leukocyte antigen) 拘束性が予測不可能であるという問題があった。この問題を回避するために抗原特異的なT細胞からiPSCを樹立する試みもなされたが (Nishimura et al. CellStemCell 2013)、患者ごとのクローニングが必要であり、HLA拘束性の制約も残るため、汎用的な治療法としては不十分であった。このように、HLA非拘束的に機能する均一な抗原特異적T細胞をiPSCから効率的かつ安定的に大量調製する技術は未確立であり、臨床応用へ向けた大きなgapが存在していた。また、分化誘導されたT細胞が十分な抗腫瘍活性や増殖能を維持しているかについての検証も不足しており、治療用細胞としての実用性には多くの課題が残されていた。

目的

本研究の目的は、iPSC技術とCAR技術を融合させることにより、HLA非拘束的に特定の腫瘍抗原を標的とする機能的なヒトT細胞をin vitroで創出する新規プラットフォームを確立することである。具体的には、(1) 健常人T細胞由来のiPSC (T-iPSC) に、CD19を標的とする第2世代CAR (1928z) 遺伝子を安定的に導入し、(2) フィーダーフリーの 胚様体である EB (embryoid body) 形成および Notchリガンドである Delta-like 1を発現する OP9細胞である OP9-DL1 (Delta-like 1-expressing OP9) との共培養システムを最適化することで、CARを発現する機能的なCD3+TCRαβ+ T細胞への効率的な分化誘導プロトコルを開発する。さらに、(3) 得られたiPSC由来CAR-T細胞 (1928z-T-iPSC-T細胞) の表現型、遺伝子発現プロファイル、in vitroにおける抗原特異的な増殖能および細胞傷害活性を詳細に解析し、(4) 担がんマウスモデルを用いたin vivo実験において、末梢血由来の conventional なCAR-T細胞やγδ型CAR-T細胞と比較した抗腫瘍効果および生存期間延長効果を検証することで、本アプローチの臨床応用可能性 (translational viability) を実証することを目指す。

結果

T-iPSCからのCAR発現T細胞の効率的生成: 最適化した3段階分化プロトコルにより、1928z-T-iPSCから造血前駆細胞を経てT細胞への分化が順調に進行した (Fig. 1b)。OP9-DL1細胞との共培養開始後、Day 25にはCD7+CD3+TCRαβ+細胞が検出され、Day 30には培養細胞の約80% (78.5 ± 5.2%, n=5 independent differentiations) がCD3+TCRαβ+の表現型を示した (Fig. 1c)。重要なことに、分化の全過程を通じてレンチウイルスによるmCherry (CAR) の発現は維持されており、Day 30時点でCD3+TCRαβ+細胞の100%がCAR陽性であった (Fig. 1c)。分化初期のDay 10におけるEB中のCD34+造血前駆細胞は、Notch1およびCD127 (IL-7Rα) の高発現を示しており、これが効率的なT細胞分化に寄与していると考えられた。

γδT細胞に類似したユニークな表現型: 分化誘導された1928z-T-iPSC-T細胞の表面抗原を詳細に解析したところ、従来の末梢血由来CD8+ T細胞とは大きく異なる特徴的な表現型が明らかになった。これらの細胞は、CD8αを発現するもののCD8βはほぼ陰性 (CD8α+CD8β-) であり、CD5の発現が低く (CD5low)、CD56およびCD161陽性であった (Fig. 1c)。マイクロアレイを用いた全遺伝子発現プロファイルの階層的クラスタリング解析では、1928z-T-iPSC-T細胞は conventional なαβ T細胞やNK細胞とは明確に区別され、末梢血由来のγδ T細胞 (特に活性化後7日目のγδ T細胞) と最も高い相関を示した (Fig. 2a)。また、γδ T細胞に特徴的な遺伝子群 (FASLG, TYROBP, CCL20, TNFSF11, CXCR6, RORC) の高発現が確認された一方、NK細胞マーカー (CD94, CD16) の発現は低かった (Fig. 2b)。このγδ様表現型への偏向は、胸腺非依存的なin vitro分化環境下において、T-iPSCに保持されていた内在性TCRαβが早期 (Day 15) に発現したことにより、innate-like T細胞への分化経路が選択されたためと推測される。

AAPC刺激による強力な増殖能とType 1極性化: 1928z-T-iPSC-T細胞は、3T3-CD19 AAPCによる抗原特異的な刺激に対して極めて高い増殖能を示した。1回の刺激により10-50倍 (mean = 20-fold, s.d. = 15, n=6 replicates) に増殖し、週1回の刺激を3回繰り返すことで、3週間で約1,000倍の爆発的な対数増殖を達成した (Fig. 2d)。増殖後の細胞は、CD45RA+CD62L-CCR7- のエフェクターメモリー (TEMRA) 表現型を維持していた (Fig. 2e)。さらに、AAPC刺激による長期拡大培養に伴い、NKp44, NKp46, NKG2D などの自然細胞傷害受容体の発現が著しく上昇した (Fig. 2e)。遺伝子発現解析では、ZAP70, GATA3, CD3d, CD3e などのT細胞リネージ遺伝子がアップレギュレートされる一方、RORCの発現が低下し、T-betおよびIFN-γを特徴とするType 1極性化 (Type 1 polarization) へのシフトが確認された (Fig. 2f, g)。

in vitroにおける特異的細胞傷害活性とサイトカイン産生: 1928z-T-iPSC-T細胞は、CD19抗原に対して極めて鋭敏かつ特異的な反応性を示した。3T3-CD19 AAPCとの共培養において、細胞播種後24時間以内に抗原依存的な凝集塊 (cluster) を形成し、3T3-CD19の単層細胞を完全に破壊した一方、CD19陰性の3T3親株に対しては全く反応しなかった (Fig. 1d)。また、抗原刺激に伴い活性化マーカーであるCD25およびCD69の発現が速やかに誘導され (Fig. 1e)、上清中には多量のIL-2 (約1,500 pg/ml)、TNF-α (約3,000 pg/ml)、およびIFN-γ (約8,000 pg/ml) の産生が認められた (Fig. 1f)。51Cr放出試験において、1928z-T-iPSC-T細胞はCD19陽性腫瘍細胞 (EL4-CD19) をエフェクター/ターゲット (E/T) 比が1.25:1という低比率であっても30%以上の効率で特異的に溶解し、対照のEL4-OVAに対しては細胞傷害活性を示さなかった (Fig. 3a)。

in vivoにおける腫瘍増殖抑制と生存期間延長効果: NSGマウスを用いたRajiリンパ腫異種移植モデルにおいて、1928z-T-iPSC-T細胞の治療効果を検証した。腫瘍移植4日後に1928z-T-iPSC-T細胞 (4 × 10^5 cells, n=4 mice) を単回投与した群では、未治療群 (n=6 mice) と比較して腫瘍の進行が有意に遅延し、生存期間の有意な延長が認められた (log-rank p=0.042, Cox比例ハザード回帰 p=0.036) (Fig. 3c, d)。この治療効果は、同一ドナー由来の末梢血から調製した1928z-γδ T細胞投与群 (n=5 mice) と同等であった (Fig. 3d)。生物発光イメージングによる経時的解析では、1928z-T-iPSC-T細胞群および1928z-γδ T細胞群は、投与直後から迅速に腫瘍量を減少させ、conventional な1928z-αβ T細胞群 (n=7 mice) よりも初期の腫瘍制御において迅速な動態を示した (Fig. 3c)。最終的な完全寛解率においては末梢血由来αβ T細胞群が優れていたものの、iPSC由来のγδ様CAR-T細胞がin vivoにおいて十分な抗腫瘍活性を発揮し、生存ベネフィットをもたらすことが実証された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、従来の患者自己血由来のT細胞を用いるカスタムメイド型のCAR-T細胞療法 (Kalos et al. SciTranslMed 2011) や、抗原特異性がランダムでHLA拘束性に縛られる従来のiPSC由来T細胞分化技術 (Nishimura et al. CellStemCell 2013) とは異なり、iPSC技術とCAR技術を初めて融合させた。これにより、HLA非拘束的に標的抗原を認識し、かつ無限に増殖可能な「既製品 (off-the-shelf)」型CAR-T細胞の創出が可能であることを世界に先駆けて実証した。

新規性: 本研究で初めて、T細胞起源のiPSC (T-iPSC) に第2世代CAR (1928z) を多能性段階で安定導入し、胸腺を介さないin vitro分化誘導系において、内在性TCRαβの早期発現に伴い自然免疫型γδ T細胞に極めて類似した表現型 (CD8α+CD8β-, CD5low, CD161+, NKp44/46+) を有するユニークなCAR-T細胞が分化してくる現象を新規に同定した。さらに、このiPSC由来CAR-T細胞が、末梢血由来の conventional なγδ CAR-T細胞と同等の強力なin vivo抗腫瘍活性および生存期間延長効果を発揮することを明らかにした。

臨床応用: 本知見は、がん免疫療法における「off-the-shelf」細胞製剤の臨床応用に直結する。臨床的意義として、自己T細胞の採取や調製が困難な重度免疫不全患者、化学療法抵抗性の急性白血病患者、あるいは同種造血幹細胞移植後に再発しドナーリンパ球輸注 (donor lymphocyte infusion: DLI) がGvHD (graft-versus-host disease) のリスクにより困難な患者に対して、あらかじめ品質管理された安全なCAR-T細胞を即座に提供できる道を開いた。本研究を契機として、iPSC由来CAR-T/CAR-NK細胞製剤の臨床開発が bench-to-bedside の潮流として加速している。

残された課題: 今後の検討課題として、in vitro分化プロトコルのさらなる最適化による分化効率の向上と、conventional なCD8αβ+ T細胞への分化誘導制御技術の確立が挙げられる。また、本研究における1928z-T-iPSC-T細胞は、末梢血由来のαβ CAR-T細胞と比較してCARの発現強度 (MFI) が低く、in vivoにおける長期生存能や固形がんに対する浸潤能の評価が不十分である点が limitation として残されている。さらに、同種移植における免疫拒絶反応を回避するため、ゲノム編集技術を用いたHLAノックアウトや、インサーショナル・オンコジェネシスのリスクを低減するためのゲノム安全領域 (genomic safe harbor) へのCAR遺伝子ノックイン技術の導入、および内在性TCRの破壊によるGvHDリスクの完全な排除が、今後の実用化に向けた重要な研究方向性である。

方法

T-iPSCの樹立とCAR遺伝子導入: 健常ボランティアの末梢血単核球から PHA (phytohemagglutinin: フィトヘマグルチニン) 刺激により活性化したT細胞を単離した。これに、リプログラミング因子である KLF4 (Kruppel-like factor 4)、SOX2 (SRY-box transcription factor 2)、OCT-4 (Octamer-binding transcription factor 4)、C-MYC (cellular myelocytomatosis oncogene) を搭載したレトロウイルスベクターを導入し、T細胞起源のiPSCクローン (T-iPSC-1.10) を樹立した。このクローンにおいて、内在性のTCR βおよびγ鎖の遺伝子再構成が保持されていることをPCRおよびキャピラリー電気泳動により確認した。次に、CD19特異的単鎖抗体 (scFv)、CD28共刺激ドメイン、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを融合した第2世代CAR (1928z) と、蛍光マーカーであるmCherryを2Aペプチドで連結した双方向性レンチウイルスベクターを構築し、T-iPSC-1.10に安定形質導入した。mCherry陽性細胞を FACS (fluorescence-activated cell sorting) でソーティングし、高発現クローン (1928z-T-iPSC) を選抜した。

in vitro T細胞分化誘導: 3段階のプロトコルを用いた。まず、未分化1928z-T-iPSCコロニーをディスパーゼ処理し、低付着プレートにて BMP-4 (Bone morphogenetic protein 4) (30 ng/ml) 存在下で24時間培養してEBを形成させた。Day 1からDay 4まではBMP-4および bFGF (basic fibroblast growth factor) (5 ng/ml) を含む無血清・フィーダーフリー培地で中胚葉誘導を行い、Day 5からDay 10までは VEGF (vascular endothelial growth factor) (20 ng/ml) および造血因子カクテルである SCF (Stem cell factor) (100 ng/ml)、Flt3L (Fms-related tyrosine kinase 3 ligand) (20 ng/ml)、IL (interleukin)-3 (20 ng/ml)、bFGF (5 ng/ml) を添加して造血前駆細胞への分化を促した。Day 10にEBをアクターゼで単一細胞に分散し、OP9-DL1フィーダー細胞上に播種した。OP9共培養培地にSCF (10 ng/ml)、IL-7 (5 ng/ml)、Flt3L (10 ng/ml) を添加し、Day 30までT細胞への分化を誘導した。

人工抗原提示細胞 (AAPC) による拡大培養: 分化誘導された1928z-T-iPSC-T細胞を回収し、CD19、CD80、4-1BBL、およびIL-15を強制発現させたNIH-3T3ベースの AAPC (artificial antigen-presenting cell) である 3T3-CD19 AAPC と共培養した。IL-7 (10 ng/ml) およびIL-15 (10 ng/ml) 存在下で、週1回の頻度で計3回の刺激を行い、細胞の増殖効率を算出した。

表現型および機能解析: フローサイトメトリーを用いて、CD3, TCRαβ, CD4, CD8α, CD8β, CD56, CD161, NKp44, NKp46, NKG2D などの表面マーカー発現を解析した。また、Affymetrix GeneChip HG-U133 Plus 2.0 を用いたマイクロアレイ解析により、遺伝子発現プロファイルを末梢血由来の各種T細胞 (CD4+, CD8+, CD3+CD56+ T細胞, γδ T細胞) およびNK細胞と比較した。in vitroの細胞傷害活性は、CD19陽性標的細胞 (EL4-CD19) および対照細胞 (EL4-OVA) に対する51Cr放出試験 (51Cr release assay) により評価した。

in vivo 抗腫瘍効果の検証: 6-12週齢の雄性 NSG (NOD-SCID IL2Rγc null) マウスに対し、ルシフェラーゼを発現するCD19陽性 Raji リンパ腫細胞 (10^5 cells) を腹腔内移植した。4日後、腫瘍生着を確認したマウスをランダムに4群に分け、1928z-T-iPSC-T細胞、同一ドナー由来の末梢血1928z-γδ T細胞、1928z-αβ T細胞 (各 4 × 10^5 CAR+ cells) を腹腔内投与した。対照群にはT細胞を投与しなかった。IL-2およびIL-15を継続投与し、腫瘍量を IVIS (in vivo imaging system) で週2回測定した。生存解析には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較は log-rank 検定および Cox regression (コックス比例ハザード回帰) 分析により実施した。