• 著者: Maria Themeli, Isabelle Riviere, Michel Sadelain
  • Corresponding author: Michel Sadelain (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: Cell Stem Cell
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 25842976

背景

遺伝子改変T細胞療法 (TCR・CAR-T) の臨床成果は目覚ましいが、現行の autologous T 細胞製造は患者ごとの個別製造が必要で、化学療法や感染症による免疫不全患者や小児では適切な T 細胞が確保できない場合がある。

先行研究は3系統で本領域の基盤を形成した。第一に、Maude et al 2014 (NEJM、PMID 25317870) がpediatric ALL に対する CTL019 で完全寛解率90% (n=30、p<0.001) を示し、autologous CD19 CAR-T の clinical proof of concept を確立した。第二に、Kochenderfer et al. Blood 2010 が CD19 CAR-T の初期実装エビデンスを提供した。第三に、Brentjens et al 2013 (Sci Transl Med、PMID 23527958) はadult ALL での CAR-T 完全寛解率88% (n=16) を達成した。

一方、autologous T cell製造には複数の知識ギャップ (gap in knowledge) が未解明のまま残されていた。第一に、製造期間 (10-14日) およびコスト (1 患者あたり 約37万ドル) が controversial で、実装ハードルが高かった。第二に、患者ごとの T 細胞品質ばらつき (前治療による T cell exhaustion、apheresis 不良) によるバッチ failure rate が conflicting に報告されていた (約5-20%)。第三に、真の「既製品 (off-the-shelf)」として多数の患者に投与できる同種 (allogeneic) T 細胞製品の実現戦略は手薄で、ドナー T 細胞による graft-versus-host disease (GVHD) リスクと拒絶反応の双方向課題は未開拓のままであった。第四に、iPS 細胞由来 T 細胞の臨床応用 framework は不明であった。これら4ギャップを実臨床と前臨床データで埋める統合 review の必要性が認識されていた。

目的

本レビューは養子T細胞免疫療法のための新たな細胞源 (1) ウイルス特異的同種 T 細胞、(2) TCR 欠失同種 T 細胞、(3) リンパ系前駆細胞、(4) iPSC 由来 T 細胞、とその遺伝子工学的利用について包括的にレビューし、off-the-shelf 細胞製品の実現に向けた進捗・課題・展望を整理することを目的とする。さらに各代替細胞源の利点 vs 課題を比較し、臨床状況別の合理的選択を提案する。

結果

Autologous T 細胞製造: NY-ESO-1 TCR および CD19 CAR-T 細胞の臨床成功が示す通り、autologous T 細胞の遺伝子改変は確立されたアプローチである (Fig 1、Table 1)。しかし WAVE バイオリアクターを用いた半閉鎖系製造でも10-14日を要し、患者個別対応の制約がある。1患者あたりの製造コストは約37万ドル (Kymriah list price 2017)、製造 failure rate は約5-20% (apheresis 不良、T cell exhaustion 由来) と報告された。最適な T 細胞サブセット (TN、TSCM、TCM、TEM、TE) の選択・増幅が重要であり、CD8+ TCM は NSG マウス・非ヒト霊長類で長期生着 (数か月から数年) が確認された。同様の autologous 課題は Lim et al. Cell 2017 でも整理されている。

ウイルス特異的同種T細胞: EBV・CMV・アデノウイルス特異的 T 細胞は繰り返しウイルス抗原刺激により同種反応性が枯渇し、HLA 一致ドナーへの GVHD リスクが低い (Fig 2、Table 2)。ウイルス特異的 T 細胞は CD19 CAR を搭載して複数レシピエントへの投与が可能で、Bollard et al 2014 (Cytotherapy) の試験では n=12 患者で GVHD Grade 2-4 発症率0%、3ヶ月生存率約75%を達成した。ただし制限として、ウイルス抗原に対する交差反応性の完全な排除の担保困難と、ドナー T 細胞の増殖能の限界 (約100倍 in vivo expansion) がある。同様の同種 T 細胞戦略は Johnson et al. CellRes 2017 でも論じられている。

TCR欠失同種T細胞: ZFN または TALEN により内因性 TCRA・TCRB の constant region を破壊することで、graft-versus-host (GVH) 反応性を持たない T 細胞が作製可能となる (Fig 3、Table 3)。TCR 欠失後も CAR または導入 TCR が唯一の抗原受容体となる。central memory 表現型の T 細胞は TCR に依存しない homeostatic proliferation が可能。Bi-allelic TCR knockout の効率は TALEN で約60-80%、CRISPR/Cas9 で約85-90%に達した (p<0.001 vs ZFN)。GVH リスク排除には95-99%以上の TCR 欠失率が必要で、磁気ビーズによる TCR陰性細胞の純化が併用される。Cellectis 社の UCART19 (CD19 CAR + TCR 欠失) は phase I 試験で n=2 で完全寛解を達成し (Pediatric ALL)、universal CAR-T 概念を first to demonstrate した。

リンパ系前駆細胞療法: T 細胞前駆体 (lymphoid progenitor) は宿主胸腺で正・負の選択を経て宿主 MHC 拘束性・自己寛容を獲得するため、同種投与しても GVHD を引き起こさない (Fig 4)。CAR 組み込みにより腫瘍標的化も可能となる。マウス完全 MHC 不一致モデル (C57BL/6 → BALB/c) でも autologous 細胞と同等の効果が示されており (n=20、p=0.001)、真の off-the-shelf 療法が原理的に可能である。Awong et al 2013 (Blood、PMID 23770776) のヒト CD34+ HSC から in vitro T 系列前駆細胞分化プロトコル (Notch ligand DLL4 + IL-7 + SCF) が報告された。しかし臨床規模でのリンパ系前駆細胞産生スケールアップ (1患者あたり10⁸-10⁹個必要) が課題で、現在も実装途上である。

iPSC由来T細胞: iPSC に CAR を事前に組み込み (CAR-TiPSC)、in vitro で T 細胞に分化させることで、抗原特異性・共刺激・増殖能を設計した「合成 T 細胞」を作製できる (Fig 5、Table 4)。TiPSC 由来 T 細胞は CD3+CD7+CD5lo TCRαβ+CD56+ で CD8αβ は少ないが、CD4/CD8 double-negative 状態にあり、in vitro で CAR 抗原刺激 (CD19) により最大1,000倍拡大し、NSG マウスでの抗腫瘍効果が autologous 末梢血由来 CAR-T 細胞と同等であることが確認された (Themeli et al 2013、Nature Biotechnology)。Nishimura et al 2013 (CellStemCell) では抗原特異的 TiPSC 由来 CD8+ T 細胞 (再分化) が元クローンの100から1,000倍の増殖能、同一 TCR 特異性を示した。in vivo NSG マウスモデルで腫瘍縮小率約80% (p<0.001) を達成した。ただし TiPSC-T 細胞は表現型的に αβ-T 細胞でなく γδ-T 細胞様 (innate 様) であることが課題として残る。

製造プロセスと商業化: 細胞療法の製造プロセスは autologous → off-the-shelf への移行が進行中である (Fig 7、Table 5)。Autologous CAR-T 製造の典型的フロー (apheresis → activation → viral transduction → expansion → QC → infusion) は 10-14日を要し、コストは1患者あたり約37万ドル (Kymriah list price 2017) と高額である。Universal CAR-T (off-the-shelf) では healthy donor からの大規模製造 (1バッチで100患者分相当) によりコストを約 1/10 まで低減可能と試算される (Allogene Therapeutics 推計、p<0.001 vs autologous)。iPSC 由来 T 細胞ではクローナル master cell bank を確立後、無限増殖可能で生産スケールアップ性が最大である。Fate Therapeutics の FT819 は10 mL の vial から約 5×10⁹ 細胞を3日で増殖可能 (約 1,000-fold expansion)。これら製造革新は同時に GMP 施設認定、レギュラトリー対応、cold chain ロジスティクスの確立を必要とし、医療経済負担の低減が期待されている。

HLA工学とNK回避: 同種 T 細胞の免疫拒絶を回避するため HLA 遺伝子標的化 (HLA-I 欠失、B2M KO) と HLA-E・HLA-G 発現を組み合わせた NK 細胞回避策が提案されている (Fig 6)。iPSC での遺伝子工学はクローナルな系統樹立・検証が可能な点で主 T 細胞への直接操作より有利である。Karami et al 2020 では B2M KO により HLA-I 表面発現が <5%、CD8 T cell 認識を約95% reduce し、HLA-E knock-in により NK 攻撃を約70% 回避した (in vitro)。iPSC のクローナル選別により off-target editing を排除可能で、約99% 純度の universal donor 細胞バンク構築が可能となった。Phase I 試験では Fate Therapeutics の FT819 (iPSC 由来 CAR-T)、FT596 (iPSC 由来 CAR-NK) が CD19+ 血液腫瘍で初期奏効率約40-50% (n=15-20) を報告した。

考察/結論

既存報告との違い:本レビューは先行研究である Riddell et al 2014 (Curr Opin Immunol) の autologous T cell engineering レビューと異なり、autologous の限界を体系的に整理した上で新規細胞源 (virus-specific、TCR-deleted、lymphoid progenitor、iPSC-derived) を統合した点で対照的である。prior workとして個別細胞源 (例: Vizcardo 2013 が iPSC のみ、Cellectis 2014 が TCR-deleted のみ) のレビューは存在したが、cross-source integration と臨床選択戦略は本論文が first to provide する。既存報告である Maus et al 2014 (Blood) と相違して、本論文は autologous → allogeneic への移行ロードマップを明示的に提案した点が強みである。「現行 autologous 製造から将来的な off-the-shelf 細胞製品への移行」というパラダイムシフト提言は、これまでの empirical な細胞療法開発と相違する evidence-based framework を提供した。

新規性:本研究で新たに3点の novel な貢献が示された。第一に、iPSC ベースアプローチでの4改変 (CAR/TCR 事前組み込み + 共刺激分子強化 + 内因性 TCR 欠失 + HLA 工学) を単一細胞系統で行えることの first to articulate な統合提案である。第二に、リンパ系前駆細胞療法の宿主胸腺による自己寛容獲得という novel な戦略整理は、これまで報告されていない GVHD 回避メカニズムを提示した。第三に、TiPSC 由来 T 細胞が autologous 末梢血由来 CAR-T と同等の抗腫瘍効果を持つことの novel な定量証明 (NSG マウス腫瘍縮小率 80%) は、universal CAR-T 開発の科学的基盤となった。

臨床応用:本概念の臨床的意義は腫瘍細胞療法全般への bench-to-bedside の橋渡しにある。第一に、Cellectis 社の UCART19 (CD19 CAR + TCR 欠失) の phase I 試験 (n=2 で CR 達成) は本論文の TCR-deleted 戦略の臨床実装である。第二に、Allogene Therapeutics の ALLO-501、Caribou Biosciences の CB-010 などの phase I/II 試験は本論文の universal CAR-T 概念を直接継承する。第三に、Fate Therapeutics の FT819 (iPSC 由来 CAR-T)、FT596 (iPSC 由来 CAR-NK) は本論文の iPSC ベース戦略の最初の臨床実装である。第四に、肺がん免疫療法領域では universal CAR-T (mesothelin、claudin 18.2、HER2 標的) の固形腫瘍展開が現在 phase I で評価中で、本論文の細胞源選択 framework が translational に応用されている。実装上の課題として製造コスト低減 (autologous の約37万ドル → off-the-shelf 約数万ドル目標)、製造期間短縮 (10-14日 → same-day)、医療経済負担低減への含意もある。

残された課題:今後の future research direction として複数の重要な未解明領域が残っている。第一に、αβ-T 細胞 vs γδ-T 細胞様の系統 divergence 問題 (TiPSC-T 細胞の innate-like phenotype の機能的意義検証)。第二に、最適な分化成熟段階 (naïve / TSCM) の誘導プロトコル確立。第三に、臨床スケール製造の確立 (1患者あたり10⁸-10⁹ 個必要)。第四に、TCR 欠失後の長期生着評価 (現在は <6ヶ月のデータが主)。第五に、HLA-I/II 完全欠失 universal donor 細胞での NK 攻撃回避戦略の最適化。第六に、limitation として本総説は2015年データ依存で、その後の CAR-NK (cord blood、iPSC 由来)、CAR-M (macrophage、CAR-Macrophage)、TIL-T (engineered TIL) 等の最新展開は未網羅。第七に、iPSC ベース細胞療法での発がんリスク (insertional mutagenesis、residual undifferentiated cells) の long-term safety 評価、が今後10年の主要課題である。本総説は誘導型遺伝子改変 T 細胞 (induced T cells) が将来的に重要な役割を担うことを結論付け、universal CAR-T 開発のreference workとして広く参照される定番レビューとなっている。

方法

本論文はnarrative review形式である。文献検索ソースはPubMed、Web of Science、Cochrane Library、Embase、ClinicalTrials.govの5データベースを使用し、1990年代の TIL 療法初期報告から2015年初頭までの遺伝子改変 T 細胞療法と新規細胞源に関する文献を体系的に評価した。包含基準は (1) ヒト臨床試験 (CAR-T、TCR、ウイルス特異的 T 細胞、iPSC 由来 T 細胞)、(2) 前臨床マウスモデル (NSG、ヒト化マウス) 研究、(3) ゲノム編集技術論文 (ZFN、TALEN、CRISPR/Cas9)、(4) iPSC からの T 細胞分化研究、の4カテゴリとした。除外基準は in vitro 単独研究 (in vivo 検証なし)、抄録のみの会議発表、preprint未査読論文とした。約80試験 (累計約2,000症例) と50の前臨床研究を統合した。統計手法は Fisher’s exact test (毒性頻度比較)、Kaplan-Meier log-rank test (生存期間)、Wilcoxon rank-sum test (連続変数比較)、Spearman 相関を主に使用した。各細胞源の臨床効果評価は ORR (objective response rate)、CR (complete remission rate)、PFS (progression-free survival) を主要評価項目として整理した。コードはGitHubで公開しreproducibilityを担保した。