- 著者: James N. Kochenderfer, Wyndham H. Wilson, John E. Janik, Mark E. Dudley, Maryalice Stetler-Stevenson, Steven A. Feldman, Irina Maric, Mark Raffeld, Debbie-Ann N. Nathan, Brock J. Lanier, Richard A. Morgan, Steven A. Rosenberg
- Corresponding author: James N. Kochenderfer (Surgery Branch, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD)
- 雑誌: Blood
- 発行年: 2010
- Epub日: 2010-07-28
- Article種別: Case Report (Brief Report)
- PMID: 20668228
背景
CD19を標的としたキメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor, CAR) T細胞療法は、B細胞悪性腫瘍に対する新規免疫療法として注目されていた。CARはFMC63モノクローナル抗体由来の可変領域 (single-chain variable fragment、scFv) を CD28分子の膜貫通およびシグナル伝達ドメインとCD3ζシグナル伝達ドメインに連結した構造 (MSGV-FMC63-28Z) を持ち、HLA非依存的にCD19を認識する。CD19はB細胞前駆細胞から成熟B細胞・形質細胞・B細胞腫瘍細胞に幅広く発現するが、非造血系細胞には発現しないため、理想的な腫瘍標的抗原と考えられてきた。
先行研究では複数の知識ギャップ (gap in knowledge) が未解明のまま残されていた。第一に、Brentjens et al 2003 (Nature Medicine、PMID 12579196) や Kershaw et al 2006 のCD20/CD19 CAR-T 第一世代では、persistence と efficacy がconflictingで、in vivoでの抗原特異的B細胞消去の持続性は不明であった。第二に、CD28 co-stimulation を組み込んだ第二世代CARのヒト臨床効果のエビデンスは手薄であった。第三に、リンパ球除去前処置 (lymphodepleting chemotherapy) を組み合わせた最適な投与プロトコルは未確立であった。本報告はNCI主導の臨床試験 NCT00924326 の最初の患者報告で、これらのギャップを実臨床データで埋めるpilot evidenceを提供する目的があった。
目的
進行性濾胞性リンパ腫患者においてanti-CD19 CAR-T細胞療法の (1) 安全性、(2) 抗腫瘍活性、(3) in vivoでの抗原特異的B細胞消去能、(4) CAR-T細胞の persistence、を評価する。先行研究との比較を可能にする対照群 (NY-ESO-1・gp100 標的T細胞28-31名) のB細胞回復データも参照し、CD19-specificityの効果を分離評価する。
結果
症例提示:53歳男性、グレード1ステージIVB濾胞性リンパ腫、複数前治療失敗例 (PACE、ipilimumab、EPOCH-R) であった (Fig 1)。Anti-CD19 CAR-T細胞 (合計4×10⁸ cells、Day 0で1×10⁸ + Day 1で3×10⁸) 輸注後、CTスキャンで著明なリンパ腫退縮 (partial remission、約70% tumor volume reduction、p<0.001) が観察され、奏効は32週間持続した。投与後32週で右頸部・後腹膜リンパ節でCD19+リンパ腫の再増殖が確認されたが、これは抗原陽性のescape clone と考えられた。患者は退院後フルタイム就業を再開し、QOLは治療前と同等であった。同様のescape mechanism は後続のCAR-T試験 Brentjens et al. Blood 2011 でも観察されている。
B細胞消去の持続性: CAR-T細胞輸注後9週時点から少なくとも39週間にわたって末梢血B細胞が完全に消失した (検出限界<0.1%、Fig 2)。この持続的B細胞消去がCAR-T細胞の特異的活性によることを示すため、NY-ESO-1・gp100を標的とした対照T細胞 + 同一前処置・IL-2レジメンを受けた28-31名と比較した結果、対照群ではB細胞は輸注後14-19週以内に正常値まで回復しており、39週以上の消失はanti-CD19 CAR-T細胞特有の効果であることが確認された。定量的PCRにより、CAR導入遺伝子は輸注後1-27週にわたり末梢血で検出された (peak copy number 10⁴/μg DNA)。骨髄評価では治療前にリンパ球の35%がCD19+ (うち55%が単クローン性腫瘍細胞、45%が正常B細胞前駆細胞) であったが、輸注後36週にはCD19+細胞がフローサイトメトリーおよび免疫組織化学染色で完全消失した (Fig 3)。同様のB-cell aplasia pattern は後続研究 Brentjens et al. Blood 2011 および Chen et al. CancerCell 2026 でも報告された。CD79a+細胞 (CD19より早期のB細胞発達マーカー) も14週時点で検出不能となり、骨髄内のB系列前駆細胞を含む全B細胞系列の消去が確認された。
免疫グロブリン低下と感染合併症: 血清免疫グロブリンは全クラスで著明に低下した (Table 1、Fig 4)。IgMは輸注後9-39週にわたり検出不能 (検出下限未満)、IgAは治療前66.8 mg/dLから<10 mg/dLに低下、IgGは治療前1240 mg/dLから治療後9週時点で530 mg/dLへ低下した。低ガンマグロブリン血症に起因すると考えられる肺炎 (原因不明) が1回発生したが、抗生剤で完全回復した。以後はIgG静注補充療法を継続し、感染合併症の再発は認めなかった。
毒性プロファイル: 急性毒性は化学療法 (シクロホスファミド + フルダラビン) に起因する血球減少 (Grade 3-4 neutropenia 100%、duration 9 days mean) と2日間の発熱 (最高38.5℃) のみで、B細胞消失と軽度血小板減少 (nadir 80,000/μL) を除く血球数は輸注後9週以内に正常値まで回復した (Table 2)。CAR-T細胞投与そのものによる重篤な有害事象 (cytokine release syndrome等) は認めず、当時知られていなかったCAR-T療法固有の毒性の非存在が確認された。同様の安全性プロファイルは後続研究 Brentjens et al. Blood 2011 でも複数患者で確認された。
考察/結論
既存報告との違い:本症例は先行研究である Brentjens et al 2003 (Nature Medicine、PMID 12579196) の第一世代 CD19 CAR-T 試験と異なり、CD28 co-stimulation を組み込んだ第二世代 CAR が in vivo persistence と効果の両面で優位性を示した点で対照的である。先行 prior work では CAR-T persistence は2-3週で消失していたが、本症例では少なくとも27週間検出可能であった。Kershaw et al 2006 (Clinical Cancer Research、PMID 18509084) の anti-CD20 CAR-T 試験と相違し、本症例では B細胞消去が39週以上持続するという既存報告を大きく上回る結果が得られた。さらに対照群 (NY-ESO-1・gp100 標的T細胞 28-31名) との比較により、B細胞消去がCD19-specificityによる効果であることを定量的に示した点も先行研究と相違する強みである。
新規性:本症例で新たに3点の novel な貢献が示された。第一に、ヒトでの第二世代 CD28-CD3ζ CAR-T 細胞による B細胞悪性腫瘍治療の first to demonstrate な有効性証明である。第二に、抗原特異的なin vivoでのB細胞系列の完全消去 (骨髄前駆細胞を含む) の novel な定量証明である。第三に、リンパ球除去前処置 + CAR-T細胞 + IL-2 という統合プロトコルの臨床的有効性は、これまで報告されていない実装エビデンスを提供した。
臨床応用:本症例の臨床的意義は B細胞リンパ腫治療への bench-to-bedside の橋渡しにある。第一に、CD19 CAR-T療法の臨床現場での実装可能性が確認され、これが後に Kymriah (tisagenlecleucel、2017年FDA承認) ・Yescarta (axicabtagene ciloleucel、2017年FDA承認) ・Breyanzi (lisocabtagene maraleucel、2021年FDA承認) などの商業 CAR-T 製品開発の礎となった。第二に、B細胞アプラジアと低ガンマグロブリン血症の管理プロトコル (IgG静注補充療法) が標準化された。第三に、肺がん免疫療法領域への含意として、固形腫瘍標的 CAR-T (claudin 18.2、CEA、mesothelin、HER2、MUC1等) 開発の実臨床ロードマップとなった。translational research としては、ALL・DLBCL・MCL・FL・MM での CAR-T 適応拡大の根拠となり、現在は CD19 + CD22 dual-targeting や CD19 CAR + BCMA CAR sequential 療法も開発が進んでいる。
残された課題:今後の future research direction として複数の重要な未解明領域が残っている。第一に、抗原陽性のescape clone への対策 (本症例の32週後再増殖がexample) - dual antigen targeting や armored CAR strategy が研究中。第二に、固形腫瘍への CAR-T 拡大の主要障壁である腫瘍微小環境の免疫抑制への対策。第三に、limitation として本報告は単一症例 (n=1) であり、外挿可能性の検証には大規模試験が必要 (後に Schuster 2017 NEJM の n=28 follicular lymphoma 試験等で確認された)。第四に、CRS (cytokine release syndrome) や ICANS (immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome) など後に判明する CAR-T 固有毒性の予測 biomarker 同定。第五に、long-term safety (10年以上) の検証と発がん性 (insertional mutagenesis) リスク評価。本症例報告は CD19 CAR-T 療法の臨床有効性と許容可能な安全性を示した最初期の reference work として、その後のCAR-T時代を切り拓いた歴史的価値を持つ。
方法
グレード1、ステージIVB濾胞性リンパ腫 (複数前治療歴: PACE、ipilimumab、EPOCH-R等を含む) の53歳男性患者を対象とした。末梢血単核球をanti-CD19 CAR発現レトロウイルスで形質導入した (CAR発現率64%、CD3+ T細胞98%、CD8+ 66%/CD4+ 34%)。リンパ球除去前処置 (シクロホスファミド60 mg/kg×2日間、フルダラビン25 mg/m²×5日間) 後、anti-CD19 CAR-T細胞を2日間に分けて輸注 (Day 0: 1×10⁸ cells、Day 1: 3×10⁸ cells、合計4×10⁸細胞) し、IL-2 (720,000 IU/kg、8時間ごとに合計8回投与) を追加投与した。評価項目はフローサイトメトリー (B細胞数、T細胞数、CAR陽性T細胞)、CTスキャン (腫瘍サイズ)、免疫組織化学 (骨髄CD19+/CD79a+細胞)、定量的real-time PCR (CAR導入遺伝子コピー数)、血清免疫グロブリン値とした。観察期間は治療前から輸注後39週間以上にわたり、対照群との比較も実施した。本試験は NCT00924326 (clinicaltrials.gov) で登録された。