• 著者: David M. Barrett
  • Corresponding author: David M. Barrett (Center for Childhood Cancer Research Cell Therapy Program, Children’s Hospital of Philadelphia, Philadelphia, PA, USA)
  • 雑誌: J Clin Invest
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Commentary
  • PMID: 30985293

背景

CD19を標的とするキメラ抗原受容体 (CAR) T細胞療法は、小児・若年成人の再発難治急性リンパ芽球性白血病 (ALL) に対し、高い寛解導入率を示し、tisagenlecleucel (Kymriah) として承認に至った。この治療法は、Maude et al. NEnglJMed 2014Lee et al. Lancet 2015 の報告に代表されるように、複数の施設で異なるCAR T製造法や患者特性にもかかわらず、類似した高い寛解率を達成しており、CAR Tの汎用性が期待されている。しかし、小児ALLにおいては初回寛解到達は治療の出発点に過ぎず、寛解維持期間、抗原陰性再発リスク、およびallogeneic HSCT (同種造血幹細胞移植) による地固め療法の必要性といった課題が未解決のままである。特に、どの患者でCAR Tが持続し、どの患者で抗原陰性逃避が起こるかを予測する因子は明確になっておらず、この知識のギャップが臨床現場での意思決定を困難にしている。また、CAR T細胞製造前の患者T細胞の質が、最終的な治療効果にどのように影響するのかについても、詳細な検討が不足していた。これらの未解明な点が、CAR T細胞療法の長期的な成功を妨げる要因となっている。

目的

本Commentaryは、Finney et al.のCD19 CAR T長期フォローアップ論文 (J Clin Invest同号関連) を解説し、以下の3つの主要な臨床的問いに対するエビデンスを整理することを目的とする。(1) CAR T製造素材となる患者T細胞の質が臨床成績に与える影響、特にCD8+ T細胞における疲弊マーカーLAG-3の発現との関連性。(2) B細胞無形成 (BCA) の持続期間と寛解維持、および抗原陰性再発のリスクとの関係性。(3) 地固め同種移植の役割と、その適応を決定するための因子。これらの問いに対する既存の知見を統合し、CAR T細胞療法の有効性と持続性を最大化するための課題と今後の研究の方向性を示唆する。

結果

CAR T細胞製造前のT細胞の質と臨床成績: Finney et al.のNCT02028455試験では、43例中38例 (88.3%) が63日時点で完全寛解 (CR) に到達した。しかし、5例は無効あるいは63日以内の早期再発を示した。この無効/早期再発群では、CAR T細胞製造のスターティングマテリアルであるCD8+ T細胞において、疲弊マーカーであるLAG-3の高発現が観察された。これは、CAR T細胞製造に不適な「既に損傷したT細胞」であった可能性を示唆しており、Das et al. (Cancer Discov 2019) の「小児がん患者では診断時および化学療法後にnaïve T細胞が減少し、CAR T適合性が低下する」という知見と整合する。この所見は、CAR T細胞の有効性を最大化するためには、製造前のT細胞の質を評価し、必要に応じて個別化された製造支援を行う重要性を示唆している。

CAR T細胞製造法の多様性と成績: Finney et al.は、CD4+とCD8+ T細胞を分離して個別条件で培養し、表面選択マーカーを用いて1:1で再混合する手法を採用した。これに対し、tisagenlecleucel (Penn/Novartis) はCD4+/CD8+ T細胞を分離せず同一サイトカイン環境で共培養する。両者とも高い初期寛解率を示すことから、最適なCAR T製造法は単一ではなく、複数のアプローチが有効であり得ることが示唆された。筆者は、損傷T細胞を持つ患者には、post-infusion booster (T cell antigen presenting cells) などの個別化製造支援が今後の方向性になり得ると論じている。

ユニバーサルCAR T細胞の可能性と課題: 化学療法でT細胞が損傷した患者には、健常ドナー由来のoff-the-shelf universal CAR T細胞が魅力的な選択肢となり得る。Qasim et al. (Sci Transl Med 2017) の乳児B-ALL 2例報告では、TALEN遺伝子編集universal CAR T細胞で分子的寛解が得られたが、純度管理、重篤毒性、安全装置の脆弱性、地固め移植の必要性という課題が浮き彫りとなった。免疫拒絶による短期間の持続、多重遺伝子編集による製造コスト、最終的に移植を要する点を総合すると、コスト効果は未検証である。筆者は、「高リスク患児診断時に健常T細胞をバンキングする」というcord blood bankingのアナロジーを一案として提示している。

B細胞無形成 (BCA) 持続期間と寛解・抗原陰性再発の関係: Finney et al.の試験では、38例中13例が地固め移植へ進み、10例が寛解継続中、3例が再発 (うち1例が抗原陰性再発) であった。移植を受けなかった25例中20例が再発し、その半数が抗原陰性再発であった。BCA持続期間が6か月を超えることは、寛解延長と正相関する一方で、抗原陰性再発リスクも増加させる二面性を持つことが示された。症例S11は38か月のBCA持続にもかかわらず、38か月時点で抗原陰性再発を来しており、BCAがCAR T細胞活性の単純な代理指標として使えないこと、および3年以上の長期follow-upの必要性が示された。ただし、これらのデータは非ランダム化データであるため、移植の寄与を確定的に評価することはできない。

抗原逃避と系統スイッチ: CD22を標的とする二重CAR戦略 (Fry et al. Nat Med 2018) は抗原陰性逃避対策として有望だが、B系統ALLは骨髄系マーカー発現へのlineage switch (系統スイッチ) を起こし、CD22も消失し得る (Jacoby et al. Nat Commun 2016, Oberley et al. Pediatr Blood Cancer 2018)。この予測・予防のための詳細なトランスレーショナル研究が求められる。

MRD評価の再定義と移植の役割: 従来、MRD (微小残存病変) は化学療法誘発寛解の文脈で確立されたが、免疫療法誘発MRDが同等の予後意義を持つかは不明である。次世代シーケンスに基づく超高感度MRD (従来フローサイトメトリーより数log感度向上) との統合により、T細胞増殖area under the curve (AUC) やBCA持続データと組み合わせた再発リスク評価が可能となる。既に同種移植を経た患者に対するCAR T細胞の成績は、Maude et al. NEnglJMed 2014 の報告で良好な初期奏効を示しているが、二次同種移植は治療関連死亡率が高く、再発率も歴史的に高いため、BCAやMRDを総合的に勘案したリスクベネフィット評価が必要である。

考察/結論

本Commentaryは、CD19 CAR T細胞療法による小児ALLの長期成績から得られた重要なメッセージとして、以下の3点を提示する。

先行研究との違い: これまでの研究ではCAR T細胞の初期奏効率に焦点が当てられていたのに対し、本CommentaryはFinney et al.の長期追跡データに基づき、CAR T細胞の持続性や抗原陰性再発のメカニズム、そして地固め療法の役割という、より長期的な視点での課題を詳細に考察している点で、従来の報告とは異なるアプローチをとっている。特に、CAR T細胞製造前のT細胞の質が臨床成績に与える影響や、BCAの持続期間が寛解維持と抗原陰性再発の両方と相関するという「諸刃の剣」であるという知見は、これまで単純にCAR T細胞活性の指標として解釈されてきたBCAの意義を再定義するものである。

新規性: 本研究で初めて、CAR T細胞の成績を左右する最大因子の一つが、スターティングマテリアルであるT細胞の質 (memory/naïveフェノタイプ、LAG-3等の疲弊マーカー発現、代謝プロファイル、CD4/CD8比) であることを強調し、治療前化学療法による損傷度合いを評価し、個別化製造支援を行う必要性を新規に提唱した。また、製造プロセス、輸注後モニタリング、白血病内因性因子を統合した意思決定モデル (Figure 1) を提示した点も新規性がある。

臨床応用: 本知見は、CAR T細胞療法の個別化戦略を推進する上で重要な臨床的含意を持つ。診断時健常T細胞バンキング、ユニバーサルCAR T細胞の位置付け、CD22二重標的やlineage switch対策を含む次世代CAR T細胞設計が具体的な議論点として挙げられる。これらの戦略は、CAR T細胞療法の有効性を高め、長期寛解を達成するための臨床応用への道筋を示すものである。

残された課題: 今後の検討課題として、(a) 免疫療法由来MRD陰性の予後意義の確立、(b) NGS-MRDの臨床統合、(c) lineage switch予測因子の同定、(d) 地固め移植の最適適応決定のためのランダム化試験、(e) 3年以上の抗原陰性再発を踏まえた超長期follow-upが挙げられる。これらの課題を解決するためには、今後も系統的な長期観察と個別化戦略の最適化が必要であり、「CAR T細胞は私の子どもの白血病を治せるのか」という究極の問いに答えるためには、さらなる研究が求められる。

方法

本稿はCommentaryであるため、特定の研究方法論は該当しない。Finney et al.のNCT02028455試験の長期追跡成績、および関連する複数の先行研究 (Maude et al. NEJM 2018、Fraietta et al. Nat Med 2018、Singh et al. Sci Transl Med 2016、Das et al. Cancer Discov 2019、Qasim et al. Sci Transl Med 2017、Fry et al. Nat Med 2018など) を引用し、それらの知見を統合して論評している。具体的には、CAR T細胞製造前のT細胞の質、B細胞無形成 (BCA) の持続期間、抗原陰性再発、および地固め同種移植の役割に関する臨床的データと基礎研究の成果を比較検討した。Finney et al.の試験では、43例の小児ALL患者がCD19 CAR T細胞療法を受け、そのうち38例 (88.3%) が63日時点で完全寛解 (CR) に到達した。この試験では、CD4+とCD8+ T細胞を分離して個別条件で培養し、1:1の比率で再混合する独自のCAR T細胞製造法が採用された。本Commentaryでは、これらの臨床結果と、T細胞の疲弊マーカーであるLAG-3の発現、CAR T細胞の増殖能、BCAの持続期間、および微小残存病変 (MRD) の評価といった生物学的マーカーとの関連性を考察した。また、ユニバーサルCAR T細胞や二重標的CAR T細胞といった次世代のCAR T細胞療法の可能性についても議論し、その安全性、有効性、およびコスト効果に関する課題を提示した。統計手法としては、Finney et al.の報告における相関分析や生存分析の結果が引用されているが、本Commentary自体が新たな統計解析を行うものではない。