• 著者: Iván Márquez-Rodas, Federico Longo, Maria E. Rodriguez-Ruiz, Antonio Calles, Santiago Ponce, Maria Jove, Belén Rubio-Viqueira, Jose Luis Perez-Gracia, Ana Gómez-Rueda, Sara López-Tarruella, Mariano Ponz-Sarvise, Rosa Álvarez, Ainara Soria-Rivas, Enrique de Miguel, Rocío Ramos-Medina, Eduardo Castañon, Pablo Gajate, Cayetano Sempere-Ortega, Elisabeth Jiménez-Aguilar, M. Angela Aznar, Aitana Calvo, Pedro P. Lopez-Casas, Salvador Martín-Algarra, Miguel Martín, Dominique Tersago, Marisol Quintero, Ignacio Melero
  • Corresponding author: Ignacio Melero (CIMA and Clínica Universidad de Navarra, Pamplona, Spain); Iván Márquez-Rodas (Hospital General Universitario Gregorio Marañón, Madrid, Spain)
  • 雑誌: Science Translational Medicine
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-10-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33055241

背景

抗PD-1療法(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)は、メラノーマ、非小細胞肺癌(NSCLC)、腎細胞癌(RCC)などの進行固形腫瘍において、約30〜40%の奏効率を示す画期的な治療法である。しかし、一次耐性(primary resistance、抗PD-1初回治療で奏効が得られない状態)を示す患者が60〜70%を占めており、これらの患者に対する二次治療の選択肢は依然として限られていることが大きな臨床課題となっている。一次耐性の根底にあるメカニズムは多岐にわたり、T細胞が腫瘍微小環境に浸潤しない「cold」な腫瘍微小環境(TME)、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIの発現低下、I型インターフェロン(IFN)シグナル経路の欠損、あるいは免疫抑制性の骨髄系細胞の優位性などが提唱されている。これらのメカニズムを克服し、抗PD-1療法への感受性を回復させるための新たな戦略が強く求められているが、その有効性やメカニズムに関する詳細なデータは依然として不足しており、臨床的なギャップが残されている。

腫瘍内投与されるToll-like receptor(TLR)アゴニストは、自然免疫系を活性化し、腫瘍を免疫学的に「cold」な状態から「hot」な状態へと変換する戦略として注目を集めている。これまでの研究では、TLR9アゴニスト(CMP-001、SD-101など)やTLR3/7/8アゴニストの臨床試験が進行中であることが報告されている。BO-112は、ポリイノシン酸:ポリシチジル酸(poly I:C)をカチオン性ポリマーであるPEI (polyethylenimine) でナノプレックス化した合成二本鎖RNA(dsRNA)製剤である。Poly I:CはTLR3、MDA5 (melanoma differentiation-associated protein 5)、RIG-Iのリガンドとして機能し、ウイルス感染を模倣して自然免疫応答を強力に誘導する。前臨床試験において、BO-112はI型IFNの誘導、腫瘍細胞のアポトーシス促進、MHCクラスI分子の発現誘導、T細胞遊走ケモカイン(CXCL9/10)の産生増加、および樹状細胞の活性化を示すことが報告されている。

特に、Kalbasi et al. SciTranslMed 2020では、BO-112がJAK1欠損による免疫療法抵抗性を克服し、MHCクラスI発現を回復させる可能性が示唆された。また、Ribas et al. Cell 2017では、腫瘍溶解性ウイルスと抗PD-1抗体の併用がT細胞浸潤を促進し、抗PD-1療法の効果を改善することが示されており、腫瘍内投与による免疫活性化の重要性が強調されている。

本第I相臨床試験は、抗PD-1療法に一次耐性を示す進行固形腫瘍患者を対象として、腫瘍内BO-112単剤療法および全身性抗PD-1抗体との併用療法の安全性、忍容性、および抗腫瘍活性を評価することを目的とした。また、治療による腫瘍微小環境における免疫活性化の分子メカニズムを解明することも重要な課題であった。これまでの研究では、抗PD-1療法に対する奏効予測バイオマーカーとして、IFN-γ関連遺伝子発現プロファイルが有用であることがAyers et al. JClinInvest 2017によって報告されており、本研究でも同様の免疫学的変化が期待された。しかし、抗PD-1耐性患者における腫瘍内免疫活性化療法の有効性や、そのメカニズムに関する詳細なデータは依然として不足しており、この治療ギャップを埋めることが本研究の重要な意義である。このように、抗PD-1耐性という臨床的課題を克服するための具体的な治療戦略や、腫瘍内投与による全身性免疫活性化の機序に関しては未解明な部分が多く、依然として大きな課題が残されている。

目的

本研究の主要な目的は、進行固形腫瘍患者における腫瘍内BO-112投与の安全性プロファイルと推奨用量(RP2D)を決定することである。さらに、抗PD-1療法に一次耐性を示す患者集団において、BO-112と全身性抗PD-1抗体(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)の併用療法の忍容性、安全性、および抗腫瘍活性を評価することも目的とした。副次的な目的として、治療前後の腫瘍生検検体を用いて、腫瘍微小環境における免疫細胞浸潤、遺伝子発現プロファイル、およびその他の免疫学的バイオマーカーの変化を解析し、BO-112による免疫活性化の分子メカニズムを解明することを目指した。特に、T細胞の浸潤、アポトーシス、壊死、I型IFN応答遺伝子の発現、および細胞傷害性T細胞関連遺伝子(GZMB, KLRK1)の変化に焦点を当て、これらの変化が臨床的奏効とどのように関連するかを検討した。また、遠隔非注入病変における抗腫瘍効果(abscopal効果)の有無についても探索的に評価した。本研究は、抗PD-1療法に抵抗性を示す腫瘍に対する新たな治療戦略としてのBO-112の可能性を検証し、今後の臨床開発の基盤を確立することを意図している。

結果

安全性プロファイルと推奨用量の決定: 本試験では、BO-112単剤療法コホート(コホート1-3、n=16)において、推奨用量(RP2D)が1 mg/週と決定された。単剤療法コホートで報告された用量制限毒性(DLT)は、2例のGrade 3-4の可逆性血小板減少症と1例のGrade 3肝機能検査値上昇であった。コホート4(併用療法、n=28)では、BO-112と抗PD-1抗体の併用療法は全体的に忍容性が良好であり、予期せぬ毒性は観察されなかった。抗PD-1抗体に関連する既知の有害事象の増悪も認められなかった。BO-112の全身血中濃度は、全44例の患者において検出限界(62.5 ng/mL)以下であり、腫瘍内投与による全身曝露が最小限であることが示された。最も頻繁に報告された有害事象は発熱(コホート4で75.0%)、悪心(46.4%)、倦怠感(57.1%)などであり、これらは主にGrade 1-2の軽度なものであった(Table 3)。

併用療法コホートにおける抗腫瘍活性: コホート4の28例中、プロトコル規定の5回投与を完了し、初回評価時点でRECIST 1.1に基づく評価が可能であった患者は19例であった。これらの患者のうち、3例(15.8%)で部分奏効(PR)、10例(52.6%)で病勢安定(SD)が達成され、疾患コントロール率は68.4%であった(Figure 2A)。PRを達成した3例の内訳は、ニボルマブ抵抗性のBRAF野生型皮膚メラノーマ患者1例(48歳、80週以上の代謝的PR持続)、イピリムマブ・ニボルマブ併用抵抗性の粘膜メラノーマ患者1例(29歳、60週以上のPR持続)、およびスニチニブやニボルマブ等に抵抗性の腎細胞癌患者1例(45歳、初期PR達成後に20週でPD)であった。本試験の併用療法は、抗PD-1療法に一次耐性を示す患者において良好な臨床的有用性を示した(Figure 2B, Figure 2C)。

治療前後の腫瘍生検における組織学的変化: BO-112投与後の腫瘍生検では、顕著な組織学的変化が観察された。コホート1-3の単剤療法患者(n=13)において、77%の患者でアポトーシスが5%以上増加し、46%の患者で壊死が5%以上増加した。コホート4の併用療法患者(n=19)では、アポトーシスが11%、壊死が53%の患者で5%以上増加した。特に、コホート4では、腫瘍内CD8陽性T細胞密度の中央値が治療後に2.5倍に増加し(p=0.0078)、統計的に有意な増加が認められた(Figure 3A)。PRまたはSDを達成した奏効患者群では、PD患者群と比較してCD8陽性T細胞の増加量が有意に大きかった(p=0.0335、Figure 3B)。

免疫プロファイリングによる遺伝子発現変化: コホート4の併用療法患者(n=19)の治療前後生検を用いたNanoString遺伝子発現解析では、奏効患者(PR/SD)において特異的な免疫関連遺伝子の発現上昇が認められた(Figure 4A)。特に、T細胞の細胞傷害性エフェクター機能に関連する遺伝子(GZMB, KLRK1)や、T細胞遊走ケモカイン(CXCL9/10)の発現が上昇した。また、I型およびIII型IFN応答遺伝子(OAS1, MX1, ISG15)も奏効患者で顕著に上昇しており、BO-112がI型IFNシグナル経路を強力に活性化していることが示された(Figure 4B, Figure 4C)。治療後にPD-L1(CD274)やLAG3などの免疫チェックポイント遺伝子の発現上昇も観察され、これは免疫応答の誘導に伴う適応性免疫抵抗性のパターンを示唆するものであった。

遠隔非注入病変におけるアブスコパル効果: コホート4の数例の患者において、BO-112が注入されていない遠隔病変の縮小が観察された。特に、1例の患者では明確な遠隔病変の縮小が認められ、他の数例でも同様の傾向が示唆された(Figure 2C)。この所見は、腫瘍内BO-112投与が局所的な免疫活性化に加えて、全身性の抗腫瘍免疫応答を誘導し、遠隔転移巣にも効果を及ぼすアブスコパル効果(abscopal effect)を誘発する可能性を示している。

考察/結論

本第I相臨床試験は、抗PD-1療法に一次耐性を示す進行固形腫瘍患者において、腫瘍内BO-112と全身性抗PD-1抗体の併用療法が許容可能な安全性プロファイルを有し、臨床的活性を示すことを初めて実証した。

先行研究との違い: 同時期に報告されたTLR9アゴニストを用いた臨床試験、例えばSD-101とペムブロリズマブの併用療法(抗PD-1耐性メラノーマでORR 15%)などの先行研究と異なり、BO-112はTLR3、MDA5、RIG-Iをトリプル活性化するdsRNAミメティックであり、より広範な自然免疫活性化を誘導する点で、他のTLRアゴニストとは異なる機序的特徴を持つ。この多経路活性化が、抗PD-1耐性腫瘍における効果に寄与していると考えられる。

新規性: 本研究で初めて、PEIナノプレックス化されたpoly I:C製剤であるBO-112が、抗PD-1療法に一次耐性を示す患者において、腫瘍内投与により安全かつ効果的に免疫応答を再活性化できることを新規に示した。特に、治療後の腫瘍生検で観察されたCD8陽性T細胞の有意な増加と細胞傷害性遺伝子(GZMB、KLRK1)の発現上昇は、BO-112が免疫抑制的な腫瘍微小環境を免疫活性化環境へと転換させる新規のメカニズムを示唆している。

臨床応用: 本研究の知見は、抗PD-1療法に抵抗性を示す患者に対する新たな治療選択肢を提供するなど、今後の臨床応用に直結する。特に、皮膚転移、表在リンパ節転移、肝転移など、BO-112の腫瘍内注入が容易な病変を有する患者において、その臨床的有用性が期待される。メラノーマおよび腎細胞癌の患者で特に有望な奏効が観察されたことから、これらの癌種におけるさらなる開発が期待される。

残された課題: 本研究は第I相試験であり、患者数が少なく、多様な腫瘍タイプが含まれているというlimitationがある。今後の検討課題として、まず大規模な第II/III相ランダム化比較試験による有効性の検証が不可欠である。また、奏効予測バイオマーカーの同定や、脳転移や深部臓器の大きな腫瘍など、注入が困難な病変に対するデリバリー方法の改善も今後の課題として残されている。

方法

試験デザイン: 本研究は、多施設共同オープンラベル第I相臨床試験(NCT02828098)として実施された。試験は2つのパートで構成された。パート1ではBO-112単剤療法の安全性と用量探索が行われ、パート2ではBO-112と抗PD-1抗体の併用療法が評価された。

コホート構成と用量設定:

  • コホート1-3(単剤療法、n=16): 進行固形腫瘍患者を対象に、BO-112の単剤腫瘍内投与の安全性と忍容性を評価した。用量は0.6 mgまたは1 mgで、投与回数は1回から3回まで段階的に設定された。このコホートでの結果に基づき、1 mg/週が推奨用量(RP2D)として決定された。
  • コホート4(併用療法、n=28): 抗PD-1療法に一次耐性を示す進行固形腫瘍患者を対象に、BO-112 1 mgの腫瘍内週1回投与と、患者が以前に受けていたニボルマブまたはペムブロリズマブの標準投与量での全身投与を併用した。

組入れ基準(コホート4): 組織学的に確認された進行固形腫瘍を有し、ヨーロッパで承認された癌種に対してニボルマブまたはペムブロリズマブによる治療歴があり、最良総合効果が病勢進行(PD)であった患者、あるいは病勢安定(SD)が6ヶ月未満でその後PDに至った患者が対象とされた。RECIST 1.1基準で評価可能な病変を有し、BO-112の腫瘍内注入が可能な病変が存在すること、ECOG PS 0-1であることも条件とされた。

投与方法: BO-112は、超音波ガイド下で選択された腫瘍病変に1 mg/0.5 mLの用量で週1回、最大8週間まで腫瘍内注射された。抗PD-1抗体は、ニボルマブ(3 mg/kgを2週間ごと)またはペムブロリズマブ(200 mgを3週間ごと)が既存のレジメンに従って継続された。BO-112の注射は、抗PD-1抗体の静脈内投与と同日に行され、抗PD-1投与前に行われた。

評価項目:

  • 安全性: 用量制限毒性(DLT)、有害事象(AE)はCTCAE v4.0に基づき評価された。
  • 抗腫瘍活性: RECIST 1.1基準に基づき、8週ごとにCTまたはMRIによる画像評価が行われた。
  • バイオマーカー解析: 治療前および治療後の腫瘍生検検体(Day 7またはDay 36)が採取された。全血および血清検体も採取され、バイオマーカー解析に用いられた。

組織学的解析: 腫瘍生検検体はホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)され、免疫組織化学(IHC)染色によりCD8、CD4、FOXP3、cleaved caspase-3陽性細胞、Ki67などの免疫細胞浸潤およびアポトーシスマーカーが評価された。NanoString PanCancer Immune Profiling Panel(770遺伝子)を用いた遺伝子発現解析、RNAシーケンス、およびフローサイトメトリーも実施された。NanoString解析では、コホート1-3とコホート4で異なる正規化手法が用いられた。コホート1-3ではネガティブコントロールおよびハウスキーピング遺伝子による正規化が行われ、コホート4ではRUVSeq (Remove Unwanted Variation from RNA-Seq) を用いた正規化が実施された。差次発現解析にはDESeq2アルゴリズムが用いられ、調整済みp値0.05未満、log2(fold change)が±2以上を統計的有意差と定義した。統計解析には、Mann-Whitney U検定などのノンパラメトリック手法が適宜用いられた。

薬物動態(PK)解析: BO-112の全身曝露を評価するため、血漿中のBO-112濃度がELISA法により測定された。検出限界は62.5 ng/mLであった。

統計解析: 臨床データは記述的に解析された。組織学的データについては、Wilcoxon符号順位検定(対応のあるサンプル)およびMann-Whitney U検定(対応のないサンプル)を用いて比較が行われ、p値<0.05を統計的に有意と判断した。遺伝子発現データについては、線形モデルを用いたpaired t検定やDESeq2アルゴリズムが適用された。