- 著者: Edward A. Stadtmauer, Joseph A. Fraietta, Megan M. Davis, Adam D. Cohen, Kristy L. Weber, Eric Lancaster, Patricia A. Mangan, Irina Kulikovskaya, Minnal Gupta, Fang Chen, Lifeng Tian, Vanessa E. Gonzalez, Jun Xu, In-young Jung, J. Joseph Melenhorst, Gabriela Plesa, Joanne Shea, Tina Matlawski, Amanda Cervini, Avery L. Gaymon, Stephanie Desjardins, Anne Lamontagne, January Salas-Mckee, Andrew Fesnak, Donald L. Siegel, Bruce L. Levine, Julie K. Jadlowsky, Regina M. Young, Anne Chew, Wei-Ting Hwang, Elizabeth O. Hexner, Beatriz M. Carreno, Christopher L. Nobles, Frederic D. Bushman, Kevin R. Parker, Yanyan Qi, Ansuman T. Satpathy, Howard Y. Chang, Yangbing Zhao, Simon F. Lacey, Carl H. June
- Corresponding author: Edward A. Stadtmauer (Abramson Cancer Center, University of Pennsylvania); Carl H. June (Parker Institute for Cancer Immunotherapy, University of Pennsylvania)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-02-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 32029687
背景
がん免疫療法における養子 T 細胞療法は、患者自身の T 細胞に腫瘍特異的な合成 TCR を遺伝子導入して再輸注する治療法であり、特に NY-ESO-1 (New York Esophageal Squamous Cell Carcinoma 1) 抗原を標的とした TCR 遺伝子導入 T 細胞は多発性骨髄腫・滑膜肉腫・黒色腫で一定の臨床効果が示されてきた (Robbins et al. JClinOncol 2011、Rapoport et al. NatMed 2015)。しかしこれらの先行試験では輸注後の T 細胞の生体内半減期は約 1 週間と短く、長期的な持続性と有効性の向上が課題であった。
従来の TCR 遺伝子導入法には 2 つの構造的な限界が存在する。第一に、外来性 TCR のαβ鎖が内因性 TCR のαβ鎖と不正なミスペアリングを起こし、治療用 TCR の細胞表面発現量が低下するとともに、自己反応性を持つ混合ヘテロ二量体が生成されるリスクがある。第二に、腫瘍微小環境における PD-1/PD-L1 軸を介した免疫チェックポイント活性化が養子移入 T 細胞の機能を経時的に減弱させ、最終的にはエフェクター機能を喪失した終末分化 (T 細胞疲弊) へと至ることが示されている。前臨床研究では、CRISPR-Cas9 による PDCD1 (programmed cell death 1、PD-1 遺伝子) ノックアウト (KO) が CAR T 細胞の in vitro 細胞傷害活性と in vivo 腫瘍クリアランスを増強することが示されており (Cherkassky et al. JClinInvest 2016)、内因性 TCR 遺伝子座 [TRAC (T cell receptor alpha chain constant)・TRBC (T cell receptor beta chain constant)] への組換え TCR ノックインが内因性 TCR ミスペアリングを解消することも前臨床で確認されていた。
しかしながら、3 遺伝子座を同時に CRISPR 編集する多重ゲノム編集アプローチのヒトへの臨床応用は手薄であり、多重 CRISPR 編集による染色体転座リスク・Cas9 タンパクに対する免疫原性・多重編集 T 細胞の長期生着可否を示すヒトでのデータが不足していた。CAR T 細胞を用いた前臨床での多重編集概念実証は存在したものの、難治がん患者への実際の投与安全性・製品製造の実現可能性・生体内動態については gap in knowledge として残されていた。本試験はこのギャップを埋める初のヒト第 I 相臨床試験として設計された。
目的
TRAC・TRBC・PDCD1 の 3 遺伝子座を CRISPR-Cas9 で同時ノックアウトし、HLA-A*0201 拘束性 NY-ESO-1 特異的 TCR を導入した NYCE (NY-ESO-1 transduced CRISPR 3X edited) T 細胞を製造し、難治性多発性骨髄腫および転移性肉腫患者を対象として、多重 CRISPR 編集の安全性・実現可能性・生体内生着・持続性・抗腫瘍活性を評価するヒト初の Phase I 臨床試験 (NCT03399448) を実施する。
結果
製造の実現可能性と編集効率:製造に成功した全 4 製品で、動的培養 812 日間に >1×10¹⁰ T 細胞への大規模拡大が達成された (Fig. 1B)。NY-ESO-1 TCR の導入効率は最終製品中の生 CD3+ 細胞における V β 8.1 またはデキストラマー陽性率として 27% であった (Fig. 1C)。三重遺伝子編集効率はチップ型デジタル PCR で TRAC 約 45%・TRBC 約 15%・PDCD1 約 20% と確認された (Fig. 1D)。TRBC の編集効率が最低であったことは、前臨床データと一致していた。製品中の Cas9 タンパク含量は最終製品で <0.75 fg/cell であり (Fig. 2C)、製造プロセスでの Cas9 除去が達成された。in vitro 細胞傷害アッセイでは、NYCE T 細胞は内因性 TCR を保持した TCR 単独形質導入細胞 (CRISPR なし) と比較して、HLA-A2⁺ NY-ESO-1 発現腫瘍細胞に対して広いエフェクター:ターゲット (E:T) 比にわたってより高い抗原特異的細胞傷害活性を示した (Fig. 2A)。これは TRAC・TRBC KO による内因性 TCR ミスペアリング解消が治療用 TCR 発現向上に寄与することを示す。
Cas9免疫原性:競合蛍光 ELISA を用いた解析で、健常ドナーの血清では Streptococcus pyogenes 由来 Cas9 タンパクに対する液性免疫応答 (既存免疫) が確認された (Fig. 2D)。T 細胞反応性も健常ドナーで検出された (Fig. 2E)。しかし重要なことに、3 患者はいずれも NYCE T 細胞投与後の複数時点において Cas9 に対する液性免疫応答を示さなかった (Fig. 2D)。製品中の Cas9 含量が <0.75 fg/cell と極めて低いこと、および多数の前治療歴に起因する患者の免疫抑制状態が、Cas9 免疫応答の誘発を防いだと考えられる (Table 1)。この知見は Cas9 に対する既存免疫が CRISPR 編集細胞療法の臨床障壁とはならない可能性を示す。
生体内生着と長期持続:輸注を受けた 3 患者全例で、NYCE T 細胞は投与後に末梢血でピーク上昇を示した後、安定した長期持続が確認された (Fig. 3A)。末梢血での transduced 細胞密度は投与後 39 ヶ月にわたって 550 cells/μl で安定していた (Fig. 3B)。ピースワイズ線形混合効果モデルによる生体内半減期の推定値は個患者間で大きく異なり、UPN07 で 20.3 日、UPN35 で 121.8 日、UPN39 で 293.5 日であった。3 患者の平均生体内半減期は 83.9 日 (95% CI: 15153 日) と算出された。これは CRISPR 編集を行わない先行 NY-ESO-1 TCR T 細胞試験における約 1 週間の半減期と比べて顕著に延長した値であり、多重 CRISPR 編集がもたらした生着改善を示す。骨髄 (多発性骨髄腫患者) および腫瘍部位 (肉腫患者) へのトラフィッキングも全 3 患者で確認された (Fig. 3A)。デジタル PCR による CRISPR 編集細胞の定量では、TRAC および PDCD1 編集細胞の engraftment が全患者で確認され、UPN39・UPN07 では末梢血単核球 (PBMC) の 510% として持続した (Fig. 3C)。TRBC 編集細胞は最低頻度で一過性に検出されるのみであり、製造時の編集効率 (~15%) が最低であったことと一致する。
染色体転座の検出と経時的変化:4 つの遺伝子座 (TRAC・TRBC1・TRBC2・PDCD1) の同時編集から生じ得る 12 種類の双方向性染色体転座を ddPCR で定量した。全製品で転座が検出されたが、UPN39 では検出限界付近であった (Fig. 5A)。最も高頻度であったのは TRBC1:TRBC2 転座 (9.3 kb 欠失) であり、次いで PDCD1:TRAC 転座の頻度が高かった。製品内での転座頻度は day 57 にピークを迎えた後低下し、輸注後の生体内でも 3 患者全員で day 30170 にかけて転座頻度が検出限界以下または低レベルで安定した (Fig. 5B)。転座細胞が増殖上の選択的優位性を持つ証拠はなく、いずれの患者でも転座に起因する臨床的有害事象は認めなかった。三重遺伝子編集での転座頻度は TALEN を用いた二重遺伝子編集での先行臨床研究 (~4%) と類似しており、多重 CRISPR 編集固有の著しいリスク増大は示されなかった。
scRNAseq解析によるメモリー表現型の進化:engraftment が最も高く、腫瘍縮小も確認された UPN39 の NYCE T 細胞を輸注製品・Day 10・Day 113 の 3 時点でドロップレット型 5’ scRNAseq (single-cell RNA sequencing) 解析した (Fig. 6)。各時点で n=3,000~5,000 T 細胞を解析し、単細胞レベルで遺伝子編集状態と転写プロファイルを同定した。輸注製品の単細胞遺伝型解析では TRAC 変異が最も頻度が高く、変異なし約 30%・単一変異約 40%・二重変異約 20%・三重変異約 10% の分布であった。NY-ESO-1 TCR 陽性細胞に限ると、単遺伝子変異より二遺伝子・三遺伝子変異の割合が高かった (Fig. 6A)。Day 113 では末梢血 T 細胞の約 40% が標的遺伝子の少なくとも 1 箇所に変異を保有することが確認された (Fig. 6B・C)。NY-ESO-1 TCR 陽性細胞に着目すると、PDCD1 変異を持つ細胞は輸注製品で約 25% であったが Day 113 では約 5% に低下しており、PD-1 欠損 T 細胞がメモリー形成に不利であるとするマウス慢性感染症の知見と一致した。重要な知見として、NYCE T 細胞は Day 0 から Day 113 にかけてセントラルメモリーマーカーである TCF7 および IL7R の発現が上昇するセントラルメモリー表現型へと進化した (Fig. 6D・E)。これは CRISPR 編集なし NY-ESO-1 T 細胞が疲弊した終末分化表現型へ移行するという既報と対照的である。
臨床応答と安全性:3 輸注患者はいずれも重篤な有害事象や CRS (cytokine release syndrome) を呈さなかった (Table 2)。最良総合奏効は 2 患者で安定病態 (SD: stable disease)。UPN39 (転移性肉腫) では CT 上で腹部腫瘍が約 50% 縮小し、4 ヶ月間維持される混合応答を示した後、他病変の進行が確認された (Fig. 7D)。多発性骨髄腫 2 例 (UPN07・UPN35) では骨髄生検で標的抗原 NY-ESO-1 および LAGE-1 の低下が確認され (UPN07 は一過性、UPN35 は持続性)、NYCE T 細胞の on-target 免疫応答の存在を示唆した。輸注後 3~9 ヶ月後の末梢血から採取した T 細胞を NY-ESO-1 ペプチドで ex vivo 再拡大した後、全 3 患者で抗原特異的細胞傷害活性が確認された (Fig. 7E)。最も強い ex vivo 細胞傷害活性は腫瘍縮小を示した唯一の患者 UPN39 で観察された。
考察/結論
本研究は多重 CRISPR-Cas9 ゲノム編集 T 細胞療法をヒトに初めて応用した Phase I 試験として、安全性・製造実現可能性・生体内動態に関する重要な基礎的知見を提供する。CRISPR 非使用の先行 NY-ESO-1 TCR T 細胞試験における約 1 週間の生体内半減期と比較して、本試験では平均 83.9 日という顕著に延長した生着が確認されており、この点は既報と異なる重要な発見である。生着延長の機序として、TRAC・TRBC KO による治療用 TCR 発現向上、PDCD1 KO による免疫チェックポイント回避、ベクターデザインの違いなど複数の候補が挙げられるが、各要因の相対的寄与の分離は今後の検討を要する。
本研究で新規に実証された知見として、三重 CRISPR 編集細胞が最長 9 ヶ月にわたって生体内で持続し、かつ Cas9 に対する健常人の既存免疫にもかかわらずがん患者では輸注後に液性免疫応答が誘発されないことが本研究で初めて示された。Cas9 既存免疫が臨床応用の障壁とはならない可能性を示した点は、CRISPR 細胞療法の実用化において novel な知見である。また scRNAseq による単細胞レベルの時系列追跡によって、輸注後の NYCE T 細胞がエフェクターメモリーからセントラルメモリー表現型 (TCF7・IL7R 高発現) へ進化するという細胞療法の新たな生物学的特性が明らかにされた。この表現型移行は長期的な抗腫瘍機能維持の可能性を示し、既報 (CRISPR 未使用 NY-ESO-1 T 細胞の終末分化疲弊) と対照的な重要な相違点である。
臨床応用の観点では、UPN39 (転移性肉腫) における CT 上の約 50% 腫瘍縮小は多重 CRISPR 編集 TCR T 細胞の抗腫瘍活性の概念実証となり、bench-to-bedside アプローチとしての次世代 T 細胞療法開発の礎を提供する。多発性骨髄腫患者での NY-ESO-1/LAGE-1 抗原低下も on-target 免疫効果を示唆する。ただし最良奏効が SD に留まり全患者が最終的に進行したことは、有効性のさらなる向上が必要であることを示す。
残された課題として、(1) より大規模なコホートでの長期安全性・有効性の確認、(2) TRBC 編集効率 (~15%) が低い点の改善 (高精度 Cas9 バリアントや新規デリバリー法の導入)、(3) PDCD1 KO・TRAC KO・TRBC KO それぞれの生着延長・抗腫瘍効果への個別寄与の解明、(4) PD-1 欠損 T 細胞の長期的な自己免疫リスク評価、(5) より多くの腫瘍抗原や CAR への適用拡大、(6) スケールアップ製造効率の改善が今後の展望として挙げられる。本試験は 2016 年当時の試薬・技術を用いており、その後の CRISPR 技術の急速な進歩 (高精度 Cas9 バリアント・新規デリバリーシステム) を活用することで編集効率と安全性のさらなる向上が期待される。また、本試験の limitation として n=3 という小規模サンプルサイズ、腫瘍微小環境での NYCE T 細胞と末梢血 NYCE T 細胞の転写状態の直接比較が行えなかった点も認識される。本研究の成果は将来の同種異系 CRISPR 編集 T 細胞、CAR T 細胞への多重 CRISPR 適用など、次世代細胞療法の開発に重要な礎石を提供する。
方法
試験デザインと患者選択: NCT03399448 Phase I 試験 (Abramson Cancer Center, University of Pennsylvania)。組み入れ基準は NY-ESO-1 または LAGE-1 (Lung Antigen Cancer 1) 陽性かつ HLA-A*0201 陽性の難治がん患者。6 例が登録され、4 例で製品製造に成功した (table S1)。うち 1 例 (UPN27; UPN: unique patient number) は製造後に急速な病勢進行で投与不適格となり、残る 3 例 (UPN07・UPN35:難治性多発性骨髄腫、UPN39:多重前治療歴を有する転移性肉腫) が NYCE T 細胞投与を受けた (Table 1)。
NYCE T 細胞の製造プロセス: 患者の自己 T 細胞を採取し、(1) リボヌクレオプロテイン (RNP: recombinant Cas9 タンパク質 + TRAC・TRBC・PDCD1 各 sgRNA (single guide RNA) 等モル混合物) をエレクトロポレーションで導入し内因性 TCR 遺伝子座と PDCD1 を KO、(2) HLA-A*0201 拘束性 SLLMWITQC ペプチドを認識する 8F NY-ESO-1/LAGE-1 特異的 TCR をコードするレンチウイルスベクター (EF-1α (elongation factor 1-alpha) プロモーター) で形質導入、(3) 8~12 日間の動的培養で拡大した。Cas9 タンパク含量はカスタム蛍光競合 ELISA (competitive fluorescence ELISA) で定量。遺伝子編集効率はチップ型デジタル PCR (chip-based digital PCR) で測定。off-target 切断は iGUIDE 法 (GUIDE-seq 改良版) で全ゲノム解析した。
投与プロトコル: リンパ球除去化学療法 (シクロホスファミド + フルダラビン、day -5~-3) 後、day 0 に NYCE T 細胞 1×10⁸ cells/kg を単回輸注。サイトカイン補助は行わなかった。
評価方法: 生着・持続性は qPCR (vector copy 数) とフローサイトメトリーで末梢血・骨髄・腫瘍での追跡。TRAC・TRBC・PDCD1 編集細胞の持続は chip-based digital PCR で追跡。染色体転座 12 種類 (TRAC・TRBC1・TRBC2・PDCD1 の 4 遺伝子座から生じる全転座の組み合わせ) は ddPCR (digital droplet PCR) で定量。Cas9 免疫原性は血清競合蛍光 ELISA で評価。UPN39 の NYCE T 細胞 (輸注製品・Day 10・Day 113) はドロップレット型 5’ scRNAseq で解析し、TRAC・TRBC・PDCD1 標的配列を PCR 増幅して各細胞の遺伝型 (野生型/変異型) を同定した。半減期推定にはピースワイズ線形混合効果モデル (piecewise linear mixed effects model) を用いた。scRNAseq データの群間比較には Mann-Whitney U test を用い、有意水準は p < 0.05 とした。抗腫瘍活性は輸注後 3~9 ヶ月後の血液検体を NY-ESO-1 ペプチドで ex vivo 再拡大後の細胞傷害活性として測定した。