- 著者: Cherkassky L, Morello A, Villena-Vargas J, Feng Y, Dimitrov DS, Jones DR, Sadelain M, Adusumilli PS
- Corresponding author: Adusumilli PS (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
- 雑誌: Journal of Clinical Investigation
- 発行年: 2016
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 27454297
背景
CAR (chimeric antigen receptor)-T細胞療法は、再発難治性B細胞悪性腫瘍において画期的な有効性を示したが、固形腫瘍への適用は多くの障壁に直面していた。その中核的課題の一つが、腫瘍微小環境による免疫抑制である。T細胞は繰り返し抗原刺激を受けると疲弊状態に陥り、細胞傷害活性、サイトカイン分泌、増殖能が段階的に失われることが知られている。固形腫瘍細胞はT細胞由来IFNγ、TNFαに反応してPD-L1/PD-L2を適応的に上方制御し (adaptive immunoresistance)、腫瘍浸潤T細胞上のPD-1と結合してSHP2→PI3K脱リン酸化経路を介しT細胞機能を抑制する。
抗体によるPD-1チェックポイント遮断は全身性投与を要し自己免疫リスクを伴うため、CAR-T細胞自体にチェックポイント遮断機能を付与する細胞内在性アプローチが代替戦略として提唱されていた。これまでの研究では、PD-1またはCTLA-4を標的とする抗体療法が様々な悪性腫瘍、特に固形腫瘍において有益な効果を示すことが報告されているが、その成功は比較的高い変異負荷とT細胞浸潤の存在に依存する (例: Hodi et al. NEnglJMed 2010、Topalian et al. NEnglJMed 2012、Wolchok et al. NEnglJMed 2013、Rizvi et al. Science 2015)。また、PD-1の免疫抑制受容体としての機能はFreeman et al. JExpMed 2000によって初めて報告された。
Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) は胸膜中皮腫に対するMSLN (mesothelin) 標的CAR-T細胞の胸腔内区域投与研究を先行して確立しており、全身投与比30倍低用量での長期全身免疫監視の誘導を報告していた。しかし、固形腫瘍におけるCAR-T細胞の疲弊メカニズム、特にPD-1経路の関与については未解明な点が残されており、これを克服する細胞内在性戦略の開発が課題であった。特に、CAR-T細胞の持続性と機能的持続性の関係、およびPD-1経路がCAR-T細胞の疲弊に与える影響をin vivoモデルで詳細に解析した研究は不足していた。
目的
(1) 中皮腫同所性マウスモデルでCD28と4-1BBを共刺激ドメインとする第2世代MSLN (mesothelin) 標的CAR-T細胞の疲弊プロファイルを比較解析する。(2) 固形腫瘍微小環境でのPD-1/PD-L1経路がCAR-T細胞疲弊に果たす役割を証明する。(3) 細胞内在性PD-1遮断戦略 (shRNA・DNR (dominant negative receptor)) がCD28 CAR-T細胞のエフェクター機能と生存を回復させるかを評価する。
結果
低用量CAR-T細胞療法における4-1BB共刺激の優越性: E:T比1:3,000 (1×10⁵細胞/マウス) の高用量では、M28zおよびMBBz両群ともに大多数のマウスで胸膜腫瘍の完全根絶を達成した (Figure 2A)。しかし、E:T比1:5,000〜1:6,000の中間用量でM28zによる腫瘍再燃が増加し始め、最低用量のE:T 1:7,500 (4×10⁴細胞) ではP28z対照群 (中央生存16日)・Mz第1世代 (45日)・M28z (64日) の順で中央生存が段階的に延長したが、M28z群は全例腫瘍死した (Figure 2B, C)。これに対しMBBz群では100日以降も7/8匹 (87.5%) が無腫瘍生存し中央生存は未到達であった (log-rank P<0.05)。腫瘍浸潤T細胞数 (day6: M28z 9倍増、MBBz 12倍増と類似) および脾臓内長期生存T細胞数 (day74: M28z・MBBzで同等) はいずれも差がなかった (Figure 3A, B)。M28z T細胞が腫瘍再燃後の腫瘍内・脾臓内にも持続的に検出されたことから (Figure 3C)、T細胞の持続性ではなくT細胞機能状態が腫瘍制御の規定因子であることが初めて明確に示された。
MBBz CAR T細胞の疲弊抵抗性と機能維持: ex vivo刺激実験では、M28z腫瘍浸潤T細胞の細胞傷害性が注入前 (pre-infusion) 比で低下 (溶解率: 20.5%→13.1%) したのに対し、MBBz群は上昇 (18.3%→37.2%) した (Figure 4B)。Th1サイトカイン産生でも、M28z CD4+T細胞はin vivo抗原曝露後に分泌量が低下したが、MBBz CD4+T細胞は相対的に高い分泌を維持した (Figure 4C)。in vitro繰り返し抗原刺激モデルでは、3回目刺激後のM28z細胞傷害性・IFNγ産生がほぼ消失したのに対し、MBBz群は機能を保持した (サイトカイン減少倍率: M28z >30倍 vs. MBBz 約2倍) (Figure 5B, D)。RT-PCR解析でMBBz T細胞はTBET・EOMESが高発現し、PD1・FOXP3が低発現であり、より疲弊抵抗性表現型を示した (Supplemental Figure 3)。腫瘍再チャレンジ実験では、MBBz処置全マウスが腫瘍を制御した一方、M28z群は4匹中2匹で再増殖が観察された (Figure 5E)。
PD-1/PD-L1経路のCAR T細胞疲弊における役割と抗PD-1抗体による機能回復: 腫瘍進行マウスの腫瘍浸潤M28z T細胞にPD-1・TIM-3・LAG-3の高発現が確認され、MBBz T細胞はPD-1発現量が有意に低かった (タンパク・mRNAいずれも) (Figure 6A-C)。腫瘍単細胞懸濁液ではPD-L1・PD-L2が高発現し、IFNγ/TNFα処理によりさらに上方制御された (Figure 6E, F)。MSLN+PD-L1+3T3標的細胞を用いたin vitro系では、PD-L1過剰発現がM28z・MBBz両CAR T細胞の増殖・細胞傷害性・サイトカイン産生を抑制した (Figure 7B-D)。in vivo試験では、非常に低用量M28z T細胞 (5×10⁴細胞) 投与後day30から抗PD-1抗体を3回投与すると、BLI信号の著明な低下が確認された (Figure 8E)。ただし、投与中止後に腫瘍再燃が観察され、持続的な効果には繰り返し投与が必要であることが示された。この抗体治療により、M28z CAR T細胞の増殖能 (Figure 8B)、細胞傷害活性 (Figure 8C)、サイトカイン分泌 (Figure 8D) が改善された。
細胞内在性PD-1 DNRによるM28z CAR T細胞機能の持続的回復: M28z T細胞にPD-1 DNRを共形質導入すると、in vitroでMSLN+PD-L1+腫瘍に対する増殖・細胞傷害性・IL-2/IFNγ産生が統計学的に有意に増強された (Figure 9B-D)。in vivo試験 (5×10⁴細胞, E:T 1:6,000) では、M28z PD-1 DNR T細胞群がM28z EV群比較で有意な腫瘍制御と生存延長を示した。具体的には、M28z EV群の中央生存期間が64日であったのに対し、M28z PD-1 DNR群では有意に延長し、一部のマウス (7/16, 44%) で長期無腫瘍生存が達成された (log-rank P=0.001)。この結果は、PD-1 DNRがCAR T細胞の抗腫瘍効果を大幅に向上させることを示唆する。一方、M28z CARとのPD-1 shRNA同時形質導入はin vitroで機能を増強したが、in vivo下での発現量低下により有意な効果差は認められなかった (Supplemental Figure 5)。この結果から、shRNAよりDNR戦略が信頼性の高い手法として確認された。
考察/結論
本研究は、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法においてPD-1/PD-L1経路が疲弊誘導の主要軸であることをヒトCAR T細胞を用いた臨床関連モデルで初めて包括的に証明した。特筆すべきは、T細胞持続性がM28zとMBBzで等しいにもかかわらず機能持続性に差があるという発見であり、「細胞数の持続」より「機能の持続」が固形腫瘍での治療転帰を規定することを明示した点で概念的に重要である。
先行研究との違い: これまでの研究では、CAR-T細胞の疲弊が主にin vitro実験や免疫応答性の低いin vivoモデルで評価されてきたのに対し、本研究は臨床的に関連性の高い固形腫瘍モデルにおいて、in vivoでの抗原曝露によるヒトCAR-T細胞の機能抑制を詳細に解析した点で、これまでの報告と異なる。特に、T細胞の「持続性」と「機能的持続性」を区別し、後者が治療効果のより重要な決定因子であることを示した点は新規である。
新規性: 本研究で初めて、4-1BB共刺激がPD-1低発現、TBET高発現、EOMESODERMIN高発現、FOXP3低発現というエフェクター記憶T細胞様表現型を誘導することで、CD28共刺激と比較して優れた疲弊抵抗性を示すことを新規に同定した。また、細胞内在性PD-1 DNRをCAR-T細胞に共発現させることで、全身性抗体投与を必要とせずに腫瘍特異的なチェックポイント遮断を実現し、in vivoでのCAR-T細胞機能と生存を回復させる効果を初めて実証した。
臨床応用: 本知見は、固形腫瘍CAR-T細胞療法の設計原則に、最適な共刺激シグナル選択と共阻害遮断の同時実装を組み込む合理的根拠を提供し、その臨床応用に直結する。MSKCCは本研究成果を基盤としてiCaspase-9安全スイッチ内蔵のMSLN標的CAR T細胞胸腔内投与フェーズI試験 (NCT02414269) を開始しており、bench-to-bedsideへの迅速な移行が期待される。PD-1 DNR戦略は、全身性免疫チェックポイント遮断に伴う自己免疫リスクを最小化し、繰り返し抗体投与の必要性を回避できる点で、臨床現場での有用性が高い。
残された課題: M28z+PD-1 DNR群でも44%が腫瘍死したことは、PD-1以外の抑制経路 (LAG-3・TIM-3など) の関与を示唆しており、複数チェックポイントの同時遮断が今後の開発ステップとなる。また、MBBz CAR T細胞がin vitroではPD-L1による抑制を受けるにもかかわらず、in vivoで優れた効果を示すのは、PD-L1感受性以外の多因子的な疲弊抵抗性メカニズムが関与している可能性があり、今後の検討課題である。最終的には、骨髄由来抑制細胞や内因性T細胞を含む免疫応答性モデルを用いたより完全な解析が必要である。
方法
CAR構築と形質導入:ヒトMSLN特異的scFv (m912) をCD3ζ単独 (Mz, 第1世代)、CD28/CD3ζ (M28z)、4-1BB/CD3ζ (MBBz) の各シグナリングドメインに連結した3種のCARをγ-レトロウイルスベクター (SFG) で構築し、ヒト末梢血T細胞に50-70%効率で形質導入した。PSMA (prostate-specific membrane antigen) 特異的P28z CARは異種反応性・同種反応性の陰性対照として使用した。PD-1 DNRはPD-1の細胞外リガンド結合ドメインをCD8膜貫通ドメインに融合した受容体として構築した。
in vitroアッセイ:初回MSLN+刺激後の細胞傷害性 (クロム放出)、Th1サイトカイン産生 (Luminex)、増殖・アポトーシス (フローサイトメトリー) を測定した。PD-L1発現誘導系として、IFNγ/TNFα処理MSTO-211HまたはMSLN+/PD-L1+ 3T3線維芽細胞との共培養後に繰り返し抗原刺激 (3回) 下での機能評価を行った。細胞傷害性アッセイは標準的な⁵¹Cr放出アッセイで実施し、サイトカインレベルはMillipore社のHuman Cytokine Detection Kitを用いて測定した。
中皮腫同所性モデル:NOD/SCID/γcヌルマウスの胸腔にffLuc+MSTO-211H MSLN+細胞を接種し、定着胸膜腫瘍を確立した後に単回胸腔内CAR-T細胞投与を実施した。4段階の用量 (1×10⁵〜4×10⁴細胞/マウス、E:T比 1:3,000〜1:7,500) で比較した。腫瘍量は生物発光イメージング (BLI) で追跡し、生存をKaplan-Meier法で解析した。腫瘍浸潤T細胞は投与6日後・74日後に脾臓・腫瘍から採取しex vivo刺激後のサイトカイン産生・細胞傷害性・inhibitory receptor発現をFACSで測定した。動物実験はMemorial Sloan Kettering Cancer CenterのInstitutional Animal Care and Use Committeeの承認を得て実施された。
PD-1遮断戦略:(a) 抗PD-1抗体 (clone EH12.2H7, 10 mg/kg i.p.): day30から3回投与またはday0〜85の継続投与。(b) PD-1 shRNA: 60%以上のPD-1タンパク発現ノックダウン達成。(c) PD-1 DNR: PD-1の細胞外リガンド結合ドメインをCD8膜貫通ドメインに融合した受容体をP2A-mCherryリポーターと共にM28z CARと同時形質導入。各戦略でin vitro機能 (増殖・細胞傷害性・サイトカイン産生) とin vivo腫瘍制御効果 (BLI・生存) を評価した。統計解析にはPrism (version 6.0; GraphPad Software) を用い、Student’s t検定 (両側) およびlog-rank検定で有意差を評価した。