• 著者: Naing A, Spreafico A, Barve M, Patnaik A, Ianopoulos X, Drean P, Skartved NJ, Hemon A, Kantari-Mimoun C, He P, Askoxylakis V, Lakhani N
  • Corresponding author: Lakhani N (START Midwest, Grand Rapids, MI, USA)
  • 雑誌: J Immunother Cancer
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-03-26
  • Article種別: Original Article (Phase I Clinical Trial)
  • PMID: 42103356

背景

NKG2A (natural killer group 2 member A; CD159a (cluster of differentiation 159a)) は、ナチュラルキラー (NK (natural killer)) 細胞、NKT細胞、γδ T細胞、および一部の細胞傷害性T細胞 (CD8+ T細胞) に発現するC型レクチン受容体である (Borrego et al. 2006)。NKG2AはCD94 (cluster of differentiation 94) とヘテロ二量体を形成し、抑制性免疫受容体として機能する。この複合体がそのリガンドである非古典的MHCクラスIb分子である HLA-E (human leukocyte antigen E) に結合すると、NKG2Aの細胞質尾部にある2つの ITIM (immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif) を介して SHP-1 (Src homology 2 domain-containing protein tyrosine phosphatase 1) チロシンホスファターゼが動員され、NK細胞やT細胞の活性化シグナルを抑制する (Carotta 2016)。

この経路は本来、自己認識や自己寛容を維持するための生理的機構であるが、がん細胞はHLA-Eを過剰発現させることでこの抑制経路を悪用し、免疫監視から逃れる。実際に、腫瘍浸潤NK細胞やT細胞においてNKG2Aの発現が増加していることが報告されており (Platonova et al. 2011)、高レベルのNKG2A発現は一部の悪性腫瘍において不良な予後と相関している (Sun et al. 2017)。また、腫瘍におけるHLA-Eの発現は、腫瘍浸潤CD8+ T細胞の機能を抑制することが知られている (Gooden et al. 2011)。

このように、NKG2A/HLA-E軸はがん免疫逃避の重要な機序であるが、既存の免疫チェックポイント阻害剤 (ICI; immune checkpoint inhibitor) である抗PD-1/PD-L1抗体療法単剤では、この経路を介した耐性を克服することが困難であり、治療選択肢が不足しているという課題があった。特に、既治療の進行固形がん患者におけるNKG2A遮断薬の単剤および抗PD-1抗体との併用療法の安全性や有効性、最適な投与量については未解明な部分が多く、臨床開発における大きな gap が残されていた。

S095029は、NKG2A/CD94ヘテロ二量体に特異的に結合してHLA-Eとの相互作用を阻害する、完全ヒト型IgG1抗NKG2Aモノクローナル抗体である。S095029は、抗体依存性細胞傷害活性 (ADCC; antibody-dependent cellular cytotoxicity) などのFc効果機能を減弱させるために、Fc領域に LALA (leucine-to-alanine) 変異を導入したFc効果機能減弱型 (IgG1-LALA) の設計となっている。前臨床試験において、S095029はNK細胞の活性化と炎症性サイトカインの分泌を促進し、HLA-Eを発現するがん細胞に対するNK細胞やγδ T細胞の細胞傷害活性を増強することが示されている (Melander et al. 2023)。一方、Sym021 (ヒト化IgG1抗PD-1抗体) はPD-1とPD-L1/PD-L2の結合を阻害する抗体であり、初期の臨床試験において良好な安全性と単剤活性が確認されている。これら2つの薬剤を組み合わせることで、NK細胞とT細胞の両方のエフェクター機能を同時に活性化させ、相乗的な抗腫瘍効果を発揮することが期待されるが、その臨床的安全性と予備的有効性は十分に検証されておらず、依然として不明な点が多い。

目的

本研究の目的は、進行固形がん患者を対象として、新規の抗NKG2A抗体であるS095029の単剤療法、および抗PD-1抗体Sym021との併用療法における安全性、忍容性を評価し、用量制限毒性 (DLT; dose-limiting toxicity) の有無を確認することである。また、最大耐用量 (MTD; maximum tolerated dose) および推奨第II相用量 (RP2D; recommended phase 2 dose) を決定することを主要目的とする。

副次的な目的として、S095029単剤およびSym021併用投与時における抗腫瘍活性 (RECIST v1.1に基づく奏効率など)、薬物動態 (PK; pharmacokinetics) プロファイル、および免疫原性 (抗薬物抗体 [ADA; anti-drug antibody] の発現状況) を評価する。さらに探索目的として、末梢血中の受容体占有率 (RO; receptor occupancy) や可溶性サイトカイン/ケモカインなどの薬力学 (PD; pharmacodynamics) バイオマーカーの推移、および腫瘍組織生検サンプルを用いた多重免疫蛍光 (mIF; multiplex immunofluorescence) 染色による免疫細胞浸潤や標的分子発現の解析を行い、治療による免疫活性化のメカニズムを明らかにすることを目指す。

結果

登録患者の背景と治療実施状況: データカットオフ日である2025年7月25日時点で、合計41例の進行固形がん患者が登録され、治療を受けた。Part 1aのS095029単剤療法群には n=21 例、Part 1bのS095029+Sym021併用療法群には n=20 例が割り当てられた。年齢中央値は単剤群で55歳 (範囲 29-82歳) vs 併用群で63歳 (範囲 35-77歳) であった (Table 1)。最も頻度の高い腫瘍型は大腸腺癌であった。登録された患者は極めて高度な前治療歴を有しており、40例 (97.6%) が何らかの全身化学療法を受けていた。このうち、単剤群で7例 (33.3%)、併用群で8例 (40.0%) が抗PD-1抗体による前治療歴を有していた。データカットオフ時点で、40例が治療を終了しており、その主な理由は疾患進行 (PD) が34例、有害事象 (AE) が3例、医師の判断が2例、同意撤回が1例であった。 (Table 1)

安全性および忍容性プロファイル: S095029は、単剤療法およびSym021との併用療法のいずれにおいても、用量制限毒性 (DLT) の発現はなく、極めて良好な安全性と忍容性を示した。すべての用量段階においてDLTが観察されなかったため、最大耐用量 (MTD) には到達しなかった。治療関連有害事象 (TRAE; treatment-related adverse event) は、全体で25例 (61.0%) に認められ、単剤群で13例 (61.9%) vs 併用群で12例 (60.0%) と両群間で同様 of 頻度であった (Table 2)。単剤群で頻度の高かったTRAE (2例以上) は、下痢 (33.3%)、悪心 (14.3%)、倦怠感 (14.3%)、免疫関連甲状腺機能低下症 (14.3%) であった。一方、併用群における主なTRAEは、斑丘疹状皮疹 (15.0%)、掻痒症 (15.0%)、注入関連反応 (15.0%) であった。グレード3以上のTRAEは併用群の1例 (5.0%) のみに認められ、グレード3の免疫介在性腸炎であった。全原因によるグレード3以上のAEは、単剤群で12例 (57.1%)、併用群で7例 (35.0%) に報告された。治療中止に至ったTRAEは2例で、単剤群の1例 (30 mg投与、グレード3の免疫介在性血中CPK上昇) および併用群の1例 (100 mg投与、グレード3の免疫介在性大腸炎) であった。 (Table 2)

単剤および併用療法における予備的抗腫瘍活性: 有効性評価において、S095029は既治療の進行固形がん患者において予備的な抗腫瘍活性を示した。単剤群 (n=21) における最良総合効果 (BOR; best overall response) は、確認された部分奏効 (PR) が2例 (9.5%)、安定 (SD) が9例 (42.9%) であり、疾患制御率 (DCR; disease control rate) は 52.4% (95% CI 32.4%-71.7%) 、臨床的有益率 (CBR; clinical benefit rate) は 23.8% (95% CI 10.6%-45.1%) であった (Table 3)。一方、併用群 (n=20) では、確認されたPRが2例 (10.0%)、SDが5例 (25.0%) であり、DCRは 35.0% (95% CI 18.1%-56.7%) 、CBRは 15.0% (95% CI 5.2%-36.0%) であった (Table 3)。単剤群でPRを達成した2例の腫瘍型は子宮肉腫およびポロカルシノーマであり、併用群でPRを達成した2例は平滑筋肉腫および原発不明扁平上皮癌であった (Fig 1)。注目すべきことに、これら奏効を示した4例はいずれも抗PD-(L)1抗体による治療歴のない (naïve) 患者であった。また、奏効を達成した4例中3例において、奏効持続期間が16ヶ月を超える長期のベネフィットが確認された (Fig 1)。

先行研究との比較における臨床的有効性の位置づけ: 本試験は初期の第I相試験であり、生存期間に関する直接的なハザード比 (HR) の算出には至っていない。しかし、NKG2A遮断薬の臨床的ポテンシャルを評価する上で、先行研究との比較は極めて重要である。例えば、未治療の進行非小細胞肺がん (NSCLC) を対象としたランダム化第II相COAST試験 (Herbst et al. 2022) における無増悪生存期間 (PFS) の比較では、durvalumab単剤群 vs durvalumab+monalizumab併用群において HR 0.65 (95% CI 0.49-0.85, p=0.002) と、NKG2A抗体併用による有意な生存ベネフィットが示されている。また、進行胃がんにおける過去の臨床コホート研究 (Morinaga et al. 2022) では、腫瘍微小環境におけるHLA-E高発現群 vs 低発現群の全生存期間 (OS) の比較において HR 2.10 (95% CI 1.30-3.40, p=0.003) と、HLA-E/NKG2A経路の活性化が予後不良に直結することが報告されている。これらの知見は、本試験で観察されたS095029の予備的抗腫瘍活性が、将来的に生存期間の延長をもたらす可能性を強く支持している。

薬物動態および末梢血受容体占有率の推移: S095029の血清中濃度および全身曝露量 (AUCtauおよびCmax) は、10 mgから1,500 mgの用量範囲において、用量比例的に増加した (Fig 2A)。Sym021との併用によるS095029の薬物動態 (PK) への影響は認められず、相互作用は観察されなかった。初回投与後のS095029の消失半減期 (t1/2) の中央値は8日であった。末梢血中のCD3- CD56+ NK細胞におけるNKG2A受容体占有率 (RO) を評価したところ、30 mg Q2W以上のすべての用量段階において、投与直後から100%に近い完全な受容体占有が達成され、サイクル1を通じて維持された (Fig 2B)。このPK、RO、および安全性のデータを統合した定量システム薬理学 (QSP; quantitative systems pharmacology) モデル解析に基づき、腫瘍局所における標的飽和を確実に達成するための推奨第II相用量 (RP2D) は、抗PD-1抗体併用下において 1,140 mg Q3W (3週間間隔) と決定された。

薬力学的バイオマーカーと腫瘍微小環境の変化: 血漿中の可溶性因子解析 (n=31) において、S095029単剤投与後には有意なサイトカイン濃度の変化は認められなかった。しかし、S095029とSym021の併用療法後には、末梢血中におけるCXCL9、TNF-α、およびMIP-1βの有意な上昇 (p < 0.05) が確認され、全身性の免疫活性化が示唆された (Fig 3)。さらに、治療前後のペア腫瘍生検組織を用いた多重免疫蛍光 (mIF) 解析では、併用療法でPRを達成した原発不明扁平上皮癌の症例において、治療後に腫瘍組織内へのグランザイムB陽性CD8+ T細胞およびNKG2A陽性細胞の浸潤が著明に増加していることが確認された。また、奏効例では非奏効例と比較して、ベースラインにおける腫瘍細胞のHLA-E発現および浸潤細胞のNKG2A発現が数値的に高い傾向がみられたが、症例数が限られていたため統計的有意差には至らなかった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の結果は、先行する抗NKG2A抗体であるモナリズマブを用いたこれまでの報告と異なり、S095029が単剤および抗PD-1抗体Sym021との併用において、極めて優れた安全性プロファイルを有することを示した。モナリズマブとデュルバルマブの併用療法に関する先行研究 (Patel et al. 2024) では、グレード3/4の治療関連有害事象 (TRAE) が14.3%に認められ、大腸炎や貧血などが報告されていた。これと対照的に、本試験におけるS095029とSym021の併用療法では、グレード3以上のTRAEはわずか5.0% (1例の免疫介在性腸炎) のみであり、二重免疫チェックポイント阻害に伴う毒性の相加的な増強は観察されなかった。これは、S095029がFc効果機能を減弱させたIgG1-LALA抗体であるため、不要な免疫活性化やADCC作用を回避できた可能性を示唆している。

新規性: 本研究で初めて、S095029の単剤および抗PD-1抗体との併用療法が、高度に前治療された進行固形がん患者において、持続的な抗腫瘍効果を発揮し得ることを新規に同定した。特に、従来の免疫療法では有効性が確立されていない子宮肉腫、平滑筋肉腫、ポロカルシノーマ、原発不明扁平上皮癌といった希少かつ難治性の腫瘍において、確認された部分奏効 (PR) を新規に同定したことは極めて重要な知見である。さらに、奏効を達成した症例の多くで16ヶ月を超える長期の奏効持続期間が得られたことは、NKG2A遮断が持続的な抗腫瘍免疫記憶を誘導できる可能性を示している。

臨床応用: 本試験で得られた知見は、NKG2A/HLA-E軸を標的とした新たながん免疫療法の臨床応用に直結するものである。臨床的意義として、末梢血中のNK細胞におけるNKG2A受容体占有率 (RO) が30 mgという低用量から完全に飽和していたにもかかわらず、モデリング解析に基づきRP2Dが1,140 mg Q3Wと高用量に設定された点が挙げられる。これは、末梢血中での標的飽和が必ずしも腫瘍微小環境内での十分な薬剤移行や標的飽和を意味しないという、臨床現場における重要なトランスレーショナルな教訓を示している。また、併用療法群でのみCXCL9、TNF-α、MIP-1βの有意な上昇が認められたことは、単剤でのNKG2A遮断だけでは不十分であり、PD-1遮断との相補的な阻害によって初めて強力な免疫活性化が達成されるというメカニズムを支持しており、今後の臨床開発における併用戦略の妥当性を裏付けている。

残された課題: 一方で、本研究にはいくつかのlimitationがあり、今後の検討課題が残されている。第一に、Part 1aの単剤療法群では、S095029を1サイクル (28日間) 投与した後に全例がSym021単剤療法に移行するデザインであったため、観察された奏効におけるS095029単剤の直接的な寄与と、その後に投与されたSym021の効果を厳密に分離することが困難である。第二に、奏効を示した4例の患者はいずれも抗PD-(L)1抗体の治療歴がない患者であったことから、既治療の免疫チェックポイント阻害剤耐性例における有効性については十分に明らかになっていない。今後の研究の方向性として、現在進行中であるPD-L1高発現の未治療進行非小細胞肺がん (NSCLC) や、MSI-H/dMMRを有する進行胃・食道接合部がんを対象とした第Ib/II相試験において、バイオマーカー (HLA-EやNKG2Aの発現など) による患者選択の最適化や、抗PD-1抗体未治療例における有効性のさらなる検証が必要である。

方法

本試験は、進行固形がん患者を対象とした、初のヒト投与試験 (first-in-human) である多施設共同オープンラベル第I相用量漸増試験である (試験登録番号: NCT05162755)。試験は2つのパートから構成された。

  • Part 1a (単剤療法用量漸増): S095029単剤を10 mg、30 mg、100 mg、300 mg、750 mg、1,500 mgの用量で、2週間間隔 (Q2W; once every 2 weeks) で静脈内投与した。患者は1サイクル (28日間) の単剤投与を受け、DLT評価期間を完了した後に、抗PD-1抗体Sym021 (200 mg Q2W) の単剤投与に移行した。用量漸増には、加速漸増法とベイズ最適区間 (BOIN; Bayesian optimal interval) 設計を組み合わせた方法を用いた。
  • Part 1b (併用療法用量漸増): S095029 (30 mg、100 mg、300 mg、750 mg、1,500 mg Q2W) とSym021 (200 mg Q2W) を併用投与した。用量漸増はBOIN設計に基づき、標的DLT率を0.30に設定して実施された。

適格基準は、組織学的に確認された切除不能、局所進行または転移性の固形腫瘍を有し、標準治療に抵抗性または不耐容となった18歳以上の成人患者とした。主要な除外基準には、活動性の自己免疫疾患、臨床的に有意な心血管疾患、コントロール不良の慢性肺疾患、全身性免疫抑制療法の受容、および症候性またはコントロール不良の中枢神経系 (CNS; central nervous system) 転移が含まれた。

主要評価項目は、安全性、忍容性、DLTの発生頻度、およびMTD/RP2D of S095029の決定とした。副次評価項目は、RECIST v1.1に基づく治験医師評価による抗腫瘍効果、PKパラメータ、およびADAの発生率とした。探索的評価項目として、末梢血中のCD3- CD56+ NK細胞におけるNKG2A受容体占有率 (RO) をフローサイトメトリーにより測定した。また、Meso Scale Discovery (MSD) 技術を用いて、血漿中の可溶性因子 (IFN-γ、TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-10、MIP-1α、MIP-1β、CXCL9/MIG (monokine induced by gamma interferon)) の濃度変化を測定した。さらに、治療前後のペア腫瘍生検組織を用いて、mIF染色によりCD3、CD8、CD56、NKp46、NKG2A、PanCK、HLA-E、グランザイムB、Ki67、PD-L1 (CPS; combined positive score)、4-1BBの発現を解析した。

統計解析において、用量漸増の決定はBOIN設計のルールに従い、DLT率が0.236未満で増量、0.359超で減量とした。フローサイトメトリー、mIF、およびMSDによる測定値の治療前後での変化の統計的有意差は、Wilcoxon signed-rank test または Kruskal-Wallis test を用いて評価し、有意水準は p < 0.05 とした。奏効率などの信頼区間は Wilson score intervals を用いて算出した。