- 著者: Rohrberg KS, Melero I, Sanmamed MF, Muñoz-Couselo E, Cervantes A, Gambardella V, Greillier L, Kim HR, Lee DH, Italiano A, Cassier PA, Markert C, Moreno V, et al.
- Corresponding author: Christoph Markert (F. Hoffmann-La Roche, Basel, Switzerland)
- 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-05-19 (accepted)
- Article種別: Original Article (Phase I First-in-Human Study)
- DOI: 10.1136/jitc-2025-012729
背景
PD-1/PD-L1 を標的とする免疫チェックポイント阻害薬 (CPI) は複数のがん腫で生存期間を延長したが、奏効は主に炎症型腫瘍微小環境を持つ一部の患者に限られ、原発性または獲得性耐性が臨床的に大きな課題となっている。TIM-3 (T-cell immunoglobulin domain and mucin domain-3: T 細胞免疫グロブリンムチン領域含有タンパク質 3) は T 細胞・NK 細胞・骨髄系細胞に発現する抑制性受容体で、機能不全 T 細胞ではしばしば PD-1 と共発現し、T 細胞疲弊と PD-1 阻害療法への耐性形成に関与する Naing et al. JImmunotherCancer 2026。前臨床モデルでは TIM-3 と PD-1 の二重遮断が各単独より強力な抗腫瘍効果を示し、TIM-3 阻害薬の単剤または抗 PD-(L)1 との組み合わせ (sabatolimab+spartalizumab, cobolimab+dostarlimab, AZD7789) が早期臨床試験で許容される安全性を示してきた。しかし、これらの組み合わせにおける総合的な臨床活性は低く (ORR 6-10%)、有効性予測バイオマーカーも未解明のまま残されていた Larkin et al. NEnglJMed 2019。Lomvastomig (RO7121661) は IgG1 系 Fc サイレンシング型二重特異性抗体で、PD-1 (高親和性アーム 250 pM) と TIM-3 (低親和性アーム 132 nM) を同時遮断することで、T 細胞での回避性選択的結合を設計した初のアプローチとして開発された Baramidze et al. JThoracOncol 2026。
目的
Lomvastomig の前臨床特性評価と初回ヒト第 I 相試験 (用量漸増 + 拡大コホート) を実施し、(1) 最大耐量 (MTD) または拡大推奨用量 (RDE)、(2) 安全性・薬物動態 (PK)・受容体占有率・抗薬物抗体 (ADA)、(3) 初期の抗腫瘍活性を固形腫瘍患者で評価する。
結果
前臨床特性評価でロムバストミグのT細胞選択的結合・低内在化・Fc不活化ドラッグシェービング抵抗性が示された: Lomvastomig は 1+1 フォーマットで PD-1 (250 pM) を高親和性、TIM-3 (132 nM) を低親和性で認識し、この ~500 倍の親和性差が PD-1/TIM-3 共発現 T 細胞への avidity 駆動選択的結合を実現する。TIM-3+ 単球 vs CD4 T 細胞への結合は lomvastomig で 13 倍低下 (EC50 3023 vs 239 pM) しており、二価高親和性抗 TIM-3 抗体の 3 倍低下と対照的であった (Fig. 1B)。さらに lomvastomig は二価 TIM-3 抗体と比較して T 細胞上への内在化が著しく低減し (Fig. 1C)、IgG1 Fc に P329G LALA 変異を導入した Fc サイレンシングにより macrophage 介在性ドラッグシェービングに抵抗性を示した (Fig. 1D)。メラノーマ患者 PBMC での機能アッセイでは lomvastomig が抗 PD-1 単独比で granzyme B および IFN-γ 産生を有意に増強 (p<0.001)、二価抗 TIM-3 + 抗 PD-1 の組み合わせでは有意差なし (Fig. 1E)。huPD-1×huTIM-3 二重 KI マウス MC38 モデルでは lomvastomig 群の 100% が腫瘍制御し 46% が完全腫瘍拒絶を達成 (抗 PD-1 群: 50% 腫瘍制御 / 31% 拒絶) (Fig. 1F)。
第I相試験でDLT 1件・MTD未到達・RDE 2100 mg Q2W を確立し安全性プロファイルは管理可能であった: スペイン・デンマーク等 4 施設で 2018/10-2019/10 に進行固形腫瘍 39 例が用量漸増コホートに登録された (70 mg-2100 mg Q2W の 6 コホート)。その後 17 施設 6 カ国で 2019/11-2021/5 に拡大コホート (melanoma 38 例・NSCLC 26 例・SCLC 15 例・ESCC 16 例) が登録された (計 134 例)。データカットオフ 2024/9/3 時点で 133 例が治療中止 (主な理由: 疾患進行 81%)。全コホートで最も多い AE (全 Grade、全因果): 無力感 28%、呼吸困難・倦怠感 22%、悪心・貧血・食欲不振 20%。Grade ≥3 関連 AE: 貧血・無力感・GGT (gamma-glutamyltransferase) 上昇・リンパ球減少症 (各 2 例)。DLT は 1200 mg コホートの胸腺腫患者 1 例 (Grade 3 トロポニン T 上昇、Grade 4 呼吸不全; 壊死性炎症性筋症が確認され免疫グロブリン IV+コルチコステロイドで回復)。2100 mg Q2W まで MTD 未到達で同用量を RDE として確立した (Table 2)。免疫関連 AE (irAE): AST 上昇 13%・ALT 上昇 12%・GGT 上昇 10%・皮疹 7%・大腸炎・甲状腺機能低下症 3% 等、既知の抗 PD-1 毒性プロファイルと一致。
薬物動態は用量範囲全体で線形性を示しPD-1/TIM-3受容体占有率は≥70 mgで>90%に達した: 2100 mg 単回投与での geometric mean Cmax は 732 µg/mL (Cycle 1) → 1360 µg/mL (Cycle 5; 定常状態)、AUC14d 蓄積比は約 2.4 (4640 → 11200 day×µg/mL) と用量蓄積を認めた (Fig. 2A-B)。70 mg から 2100 mg の全用量範囲で dose-normalized AUC がほぼ一定 (線形 PK)、標的飽和が示唆された。末梢血 CD3+・CD8+ T 細胞上の受容体占有率は ≥70 mg Q2W で治療期間を通じて >90% で飽和状態を維持した (Fig. 2C)。ADA 陽性率 22% (28/127 例); ADA に関連した免疫原性 AE は報告なし。
用量漸増コホートの2100 mg群でORR 21%・長期奏効例を含む臨床活性が初めて示された: 用量漸増コホートでの奏効はすべて 2100 mg 群 (n=19) に集中し、ORR 21% (95%CI 7.5-41.9%)。1 例が CR (MSI-high 転移性大腸癌; target lesion 縮小 50%→95%→100%、CR 持続 25 ヵ月以上)、3 例が PR (CPI 経験 NSCLC: 奏効期間 19 ヵ月、CPI 未治療 ESCC: 8.5 ヵ月、CPI 未治療 SCLC: 5.6 ヵ月) を達成した (Fig. 3)。
拡大コホートではCPI未治療ESCCで有望シグナル (ORR 20%) を示したがCPI経験コホートでの活性は限定的であった: CPI 未治療 ESCC 拡大コホート (n=15; 1st-line フルオロピリミジン/プラチナ後): ORR 20% (95%CI 5.7-44.0%)、mPFS 3.6 ヵ月 (90%CI 1.5-5.7)。3 例の PR のうち 2 例は根治的化学放射線療法後の未治療転移例 (奏効期間 10.6 ヵ月・22.0 ヵ月と持続) (Fig. 5A)。CPI 経験メラノーマ拡大コホート (n=38): ORR 8% (95%CI 2.2-19.2%)、mPFS 1.8 ヵ月 (90%CI 1.7-2.0); 3 例 PR はすべて非ぶどう膜メラノーマで抗 CTLA-4 未使用例、2 例は持続奏効 (17.7 ヵ月・18.5 ヵ月) (Fig. 4A)。CPI 経験 NSCLC (n=25 評価可): ORR 0%, SD 36%, mPFS 1.7 ヵ月。CPI 未治療 SCLC (n=15): ORR 0%, mPFS 1.7 ヵ月。
腫瘍微小環境バイオマーカー解析でCD8/PD-1/TIM-3共発現が奏効者で数値的に高い傾向を認めた: 5 種蛍光多重免疫蛍光法 (mIF assay; CD8・PD-1・LAG-3・TIM-3・SOX10/KRT) による空間的 TME 解析をベースライン腫瘍生検で実施した。CD8+ T 細胞上の TIM-3 発現中央値はメラノーマ 49%・NSCLC 31%・ESCC 27%・SCLC 4%; CD8+PD-1+TIM-3+ 三重陽性はメラノーマ 11%・NSCLC 4%・ESCC 3%・SCLC 0.2% であった (Fig. 4B・5B)。PD-L1 発現 (TC%・TAP%) は CPI 経験メラノーマ・CPI 未治療 ESCC コホートで BOR と有意な関連なし (Fig. 4C・5C)。探索的解析でメラノーマ・ESCC 奏効者では非奏効者比に TIM-3 および CD8/PD-1/TIM-3 三重陽性発現の数値的上昇傾向を認めたが、サンプルサイズが小さく統計的有意差なし。
考察/結論
① 先行研究との違い: これまでの TIM-3 + 抗 PD-(L)1 組み合わせ試験 (sabatolimab+spartalizumab ORR 6%、cobolimab+dostarlimab NSCLC ORR 10%) と比較すると、lomvastomig は二重特異性単一分子として同様の低い全体活性を示した点では従来報告と一致するが、Fc サイレンシングと低親和性 TIM-3 アームによるドラッグシェービング抵抗性・選択的 T 細胞結合という独自の設計特性は従来の別個 2 抗体組み合わせと異なる。ESCC CPI 未治療例での ORR 20% (持続奏効例複数) は先行する他の TIM-3 阻害剤試験で ESCC コホートが特異的に注目された例がなく、本試験の新知見である。
② 新規性: 本研究はlomvastomig の前臨床・臨床データを包括的に示した最初の報告であり、IgG1 Fc サイレンシング型 PD-1/TIM-3 二重特異性抗体が進行固形腫瘍において新規なアプローチであることを示す。T 細胞選択的結合と内在化抵抗性という前臨床設計目標が臨床 PK (線形・>90% 受容体占有率) で一部裏付けられた。CPI 未治療 ESCC への有望シグナルが今後の位置づけを新規に示す点が本試験固有の貢献である。
③ 臨床応用: CPI 未治療 ESCC 患者でのシグナルを受け、lomvastomig vs ニボルマブの無作為化盲検第 II 相試験 (NCT04785820; フルオロピリミジン/タキサン+プラチナ後不応 CPI 未治療 ESCC) が開始されており、臨床応用への今後の方向性が明確化されている。本試験から CPI 経験後の固形腫瘍への lomvastomig 単剤での有効性は限定的であることが示され、臨床現場での適応選択に重要な示唆を与える。
④ 残された課題: TIM-3 遮断の効果への具体的な貢献は MSI-high 大腸癌 CR・ESCC での応答が高親和性 PD-1 ブロッキングアームのみで説明できる可能性が残るため今後の検討が必要である。有効性予測バイオマーカー (TIM-3 発現スコア、CD8+PD-1+TIM-3+密度) の前向き検証と、種々のがん腫・CPI 既治療 vs 未治療における最適適応患者の同定が今後の課題である。第 II 相 ESCC 試験 (NCT04785820) がニボルマブとの直接比較によりこの疑問に答える設計となっており期待される。
方法
試験デザイン: 第 I 相オープンラベル多施設共同試験 (NP40435; NCT03708328; 登録 2018-10-09)。用量漸増部: 進行/転移固形腫瘍 (ECOG PS 0-1、≥18 歳、有効標準治療なし)。拡大コホート 4 群: CPI 経験メラノーマ (抗 PD-(L)1 ± 抗 CTLA-4 後 + ≤1 追加治療)、CPI 経験 NSCLC (PD-L1/PD-1 阻害薬+プラチナ後)、CPI 未治療 SCLC、CPI 未治療 ESCC (メタスタシス設定で ≤1 prior フルオロピリミジン+プラチナ)。
治療: Lomvastomig IV Q2W (70 mg 開始、2100 mg まで漸増)。漸増設計: modified continual reassessment method + EWOC デザイン、DLT 期間 21 日。腫瘍評価: 治療開始後 8 週ごと (1 年目)、12 週ごと (それ以降) (RECIST v1.1)。
エンドポイント: 用量漸増主要: 安全性・耐容性・MTD/RDE。拡大主要: 抗腫瘍活性 (ORR = CR + PR、RECIST v1.1)。副次: 安全性・PK・ADA・バイオマーカー。
統計: 形式的サンプルサイズ計算なし。OS・PFS は Kaplan-Meier 法で推定し、ORR の 95% CI は Clopper-Pearson 法で算出した。SAS v9.4 で全解析を実施、PK は Phoenix v8.3.4 を用いた非コンパートメント解析 (NCA) で導出した。バイオマーカー: mIF 5-plex (CD8/PD-1/LAG-3/TIM-3/SOX10-KRT)、PD-L1 IHC (SP263 clone; TC%・TAP%)。PK: ELISA (血清)。受容体占有率: フローサイトメトリー (PE-標識抗 PGLALA 抗体で P329G 変異検出)。