- 著者: Rana Bahij, Stefan Starup Jeppesen, Karen Ege Olsen, Ulrich Halekoh, Karin Holmskov, Olfred Hansen; On behalf of the Academy Of Geriatric Cancer Research (AgeCare)
- Corresponding author: Olfred Hansen (Department of Oncology, Odense University Hospital, Denmark)
- 雑誌: Acta Oncologica (58:11, 1612-1617)
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-07-08
- Article種別: Original Article
- PMID: 31282251
背景
小細胞肺がん (SCLC: Small Cell Lung Cancer) は、全肺がんの約15%から20%を占める極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、急速な発育と早期の転移を特徴とする。診断時に約60%から75%の患者が進展型 (ED: Extensive Disease) であり、さらに患者の30%以上が70歳以上の高齢者である。全身状態を示す指標である Performance Status (PS) は、SCLCにおける独立した強力な予後因子として広く認識されている。しかし、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) PS 3-4の不良な全身状態を有する患者や、高齢者、重篤な併存症を抱える患者 (いわゆる frail 患者) に対する化学療法の治療効果や安全性については、これまで十分なエビデンスが蓄積されておらず、治療方針の決定は極めて困難であった。
先行研究である Ludbrook et al. (2003) や Janssen-Heijnen et al. (2012) などの報告によると、高齢や併存症、不良なPSを理由に、30%から60%以上の高齢SCLC患者が化学療法の機会を与えられていない実態が示されている。また、frail 患者の定義について Fried et al. (2001) が身体的虚弱に着目した表現型を提唱しているが、がん薬物療法における具体的な frailty の評価基準や、PS 3-4の極めて全身状態が不良な患者群における化学療法のベネフィットとリスクのバランスは依然として「未確立」であり、臨床現場での意思決定において「controversial」な状況が続いている。さらに、緩和ケアにおける化学療法の義務的な役割を論じた Baldotto et al. SupportCareCancer 2012 などの既報はあるものの、PS 3-4の超高齢者や ED 患者に特化して化学療法の有無による生存期間の差を直接比較した大規模な臨床研究は極めて「不足」しており、治療介入が生存期間を真に改善するかどうかは「未解明」のままであった。このような背景から、実臨床における frail な SCLC 患者に対する化学療法の有用性を検証するための詳細なデータが強く求められていた。
目的
本研究の目的は、ECOG PS 3-4の極めて不良な全身状態を有する小細胞肺がん (SCLC) 患者を対象に、化学療法を施行した患者群 (CT群) と、化学療法を施行せずベストサポーティブケアや放射線療法などの非化学療法にとどめた患者群 (no-CT群) の生存期間を後方視的に比較評価することである。特に、年齢 (70歳以上 vs 70歳未満)、病期 (限局型 LD: Limited Disease vs 進展型 ED)、および PS (PS 3 vs PS 4) といった重要な臨床的背景因子が、化学療法の有無による生存期間の延長効果にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とする。さらに、実臨床においてどのような因子が化学療法の治療選択に影響を及ぼしているかをロジスティック回帰分析を用いて解析し、高齢者や frail 患者に対する治療バイアスの実態を浮き彫りにすることを目指す。
結果
対象患者の背景因子と治療選択における年齢バイアス: 適格基準を満たした ECOG PS 3-4 の小細胞肺がん (SCLC) 患者は合計87名であり、そのうち53名 (61%) が化学療法群 (CT群)、34名 (39%) が非化学療法群 (no-CT群) に分類された (Table 1)。両群間には顕著な背景因子の不均衡が認められた。CT群の年齢中央値は 68.0 vs 76.7 years と no-CT群で有意に高年齢であった (p<0.001)。また、全身状態が極めて不良な PS 4 の割合は、CT群で11% (n=6) であったのに対し、no-CT群では35% (n=12) と有意に高かった (p=0.015)。さらに、重篤な併存症を示す Charlson Comorbidity Index (CCI) スコアが2以上の割合は、CT群で28% (n=15) であったのに対し、no-CT群では68% (n=23) に達していた (p=0.0007)。病期に関しては、進展型 (ED) の割合は CT群で81% (n=43)、no-CT群で85% (n=29) であり、両群間で有意な差は認められなかった。ロジスティック回帰分析の結果、化学療法が施行されない (no-CT群となる) 独立した決定因子として、70歳以上の高齢 (OR 4.63, 95% CI 1.65-13.04) および PS 4 (OR 3.51, 95% CI 1.06-11.66) が同定され、実際の臨床現場において年齢や極めて不良な全身状態が治療選択における強いバイアスとして働いている実態が示された。
化学療法施行による全生存期間の有意な延長効果: 全対象患者における生存分析の結果、化学療法群 (CT群) は非化学療法群 (no-CT群) と比較して、生存期間において極めて有意な改善を示した (Figure 2(A))。CT群の生存期間中央値 (mOS: median Overall Survival) は 5.1 vs 0.7 months であり、化学療法の施行により生存期間が劇的に延長することが確認された (p<0.001)。CT群における詳細な治療内容として、47名 (89%) がカルボプラチンとエトポシドの併用療法を受け、6名 (11%) がエトポシド単剤療法を受けた。化学療法の施行サイクル数の中央値は3サイクル (範囲 1-6) であり、19名 (36%) は1サイクルのみの投与で治療が中断されていたが、それでも無治療群と比較して明らかな生存ベネフィットが確認された。CT群内における PS 別の生存期間を比較すると、PS 3 患者の mOS は6.4ヶ月であったのに対し、PS 4 患者の mOS は2.7ヶ月であり、統計学的な有意差は認められなかったものの (p=0.25)、PS 4 の超重症患者であっても一定の生存期間延長が得られる可能性が示された。
高齢かつ進展型小細胞肺がん患者における化学療法の生存ベネフィット: 特に治療選択において敬遠されがちな、70歳以上の高齢かつ進展型 (ED) の背景を持つ患者サブグループを対象とした解析においても、化学療法の施行は生存期間を劇的に改善することが示された (Figure 2(B))。この高齢 ED サブグループにおいて、化学療法を施行された患者群 (n=18) の mOS は 7.8 vs 0.6 months (化学療法未施行群, n=23) であり、極めて有意な生存期間の延長効果が確認された (p<0.0001)。この結果は、高齢、不良な PS、および遠隔転移を伴う進展型という予後不良因子が重なった frail 患者であっても、化学療法を適切に導入することで、生存期間を大幅に延長できることを強く支持している。
多変量解析による独立した予後因子の同定と時間依存性ハザード比:
全生存期間 (OS) に対する独立した予後因子を同定するため、Cox 比例ハザードモデルを用いた多変量解析を実施した (Table 2)。累積ハザードの推移から、化学療法の有無、白血球数 (WBC)、および病期 (ED) の予後への影響が診断後2ヶ月を境に変化することが示されたため、生存期間2ヶ月以下 (OS≤2ヶ月) と2ヶ月超 (OS>2ヶ月) に層別化した時間依存性解析を行った。
解析の結果、診断後2ヶ月以内における死亡リスクに対して、化学療法未施行は極めて強力な独立した予後不良因子であり、そのハザード比は HR 8.10 (95% CI 3.54-18.54, p<0.001) であった。また、進展型 (ED) も診断後2ヶ月以内において極めて高い死亡リスクと関連しており、ハザード比は HR 7.57 (95% CI 2.09-27.47, p=0.002) であった。診断後2ヶ月以降においては、化学療法未施行のハザード比は HR 2.44 (95% CI 0.80-7.42, p=0.12) となり統計学的有意差は消失したものの、進展型 (ED) は依然として有意な予後不良因子であり続けた:HR 2.35 (95% CI 1.13-4.91, p=0.02)。一方で、年齢、性別、Charlson 併存症スコア、アルブミン値、および PS 4 自体は、多変量解析において独立した予後因子とはならず、化学療法の有無と病期が生存を決定づける最も支配的な因子であることが明らかになった。
非化学療法群における胸部放射線療法の局所コントロール効果: 化学療法を施行しなかった no-CT群 (n=34) のうち、5名の患者に対して診断後9日から28日の間に胸部への緩和的放射線療法 (RT) が施行された。照射スケジュールは、2名が 30 Gy/10分割、2名が 25 Gy/5分割、1名が 10 Gy/1分割であった。これら放射線療法を施行された5名の患者はすべて PS 3 であり、年齢中央値は80.1歳 (範囲 71.2-87.0) と超高齢であった。病期は1名が stage IV、1名が stage IA、3名が stage III であった。これら放射線療法のみを施行された患者群の mOS は5.3ヶ月 (範囲 1.7-11.5ヶ月) であり、化学療法を施行された群の mOS (5.1ヶ月) に匹敵する生存期間が得られていた。この結果は、全身状態が極めて不良で化学療法に耐えられないと判断された frail 患者であっても、胸部放射線療法を局所治療として選択することが、生存期間の延長に寄与する代替治療オプションになり得ることを示唆している。
考察/結論
本研究は、ECOG PS 3-4という極めて frail な小細胞肺がん (SCLC) 患者を対象に、化学療法の有無が生存期間に与える影響を直接比較した最大規模の単施設コホート研究である。
先行研究との違い: これまでの臨床試験や大規模レジストリ研究の多くは、PS 0-2 の比較的全身状態が良好な患者のみを対象としており、PS 3-4 の frail 患者における化学療法の有用性は十分に検証されていなかった。これら「これまで」の報告「と異なり」、本研究は PS 3-4 の超重症患者のみに焦点をおき、化学療法群と非治療群の生存期間を直接比較した点で決定的に異なる。また、SCLC に対する経口エトポシド単剤療法と多剤併用療法を比較し、単剤療法の生存期間短縮を示した Girling et al. Lancet 1996 などの先行研究が存在するが、本研究の化学療法群では89%にカルボプラチンとエトポシドの併用療法が導入され、frail 患者であっても併用化学療法が安全かつ有効に施行可能であることを示した。
新規性: 本研究は、「本研究で初めて」、PS 3-4 の極めて全身状態が不良な SCLC 患者において、年齢や病期に関わらず化学療法の施行が生存期間を劇的に延長させることを「新規」に実証した。特に、70歳以上の高齢かつ進展型 (ED) の患者群であっても、化学療法を施行することで生存期間中央値が 7.8ヶ月に達し、無治療の 0.6ヶ月と比較して圧倒的な生存ベネフィットが得られることを「これまで報告されていない」レベルの明確なデータで示した点は、学術的および臨床的に極めて新規性が高い。
臨床応用: 本研究の知見は、実臨床における治療方針決定プロセスへの直接的な「臨床応用」が可能である。その「臨床的意義」として、高齢、不良な PS、あるいは遠隔転移を伴う進展型 (ED) という因子を、化学療法を省略するための単独の除外基準として用いるべきではないという強力な根拠を提示したことが挙げられる。臨床現場において、腫瘍内科医は患者の「frailty」のみを理由に治療を諦めるのではなく、SCLC の化学療法感受性の高さを考慮し、減量投与や綿密な支持療法を組み合わせた積極的な化学療法の導入を検討すべきである。また、化学療法に耐えられない超高齢患者に対しては、胸部放射線療法が有効な代替オプションになり得るという知見も、臨床現場における意思決定を多様化させる。
残された課題: 一方で、本研究にはいくつかの「limitation」が存在し、これらは「今後の課題」として「残された課題」である。第一に、本研究は単施設の後方視的観察研究であり、化学療法の選択が治療医の主観やバイアスに依存している点である。より全身状態が良好と見なされた患者が化学療法群に選択された可能性 (選択バイアス) は否定できず、診断後3日以内の早期死亡例を除外したものの、バイアスを完全に排除することは困難である。第二に、サンプルサイズが87例と限定的であり、多変量解析における検出力が十分とは言えない点である。第三に、PS の評価自体が臨床医の主観に左右されやすいことである。したがって、今後は客観的な frailty index や老年医学的総合評価を用いて、真に化学療法の恩恵を受ける frail 患者を精密に選別する基準を確立することが「今後の研究の方向性」として求められる。
方法
本研究は、デンマークのオーデンセ大学病院 (OUH: Odense University Hospital) において実施された単施設後方視的観察研究である。対象期間は2010年1月1日から2015年12月31日までの6年間であり、同期間中に組織学的に小細胞がん (small cell carcinoma) と診断された448名の患者データベースから、腫瘍科医によって診断時に ECOG PS 3-4 と評価された患者を抽出した。除外基準として、診断後3日以内に死亡した患者 (化学療法の適応を検討する時間的猶予がなかったと考えられるため)、OUH 以外の施設で治療された患者、および肺外原発の小細胞がん患者を設定した。
収集された臨床データには、診断時の年齢、性別、ECOG PS、Charlson Comorbidity Index (CCI) による併存症スコア、病期 (LD または ED)、肝転移の有無、脳転移の有無、治療開始前の血液検査データ (白血球数 WBC: White Blood Count、乳酸脱水素酵素 LDH: Lactate Dehydrogenase、ナトリウム、アルブミン、アルカリホスファターゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、ヘモグロビン)、および治療内容 (化学療法の有無、サイクル数、放射線療法 RT: Radiotherapy の有無) が含まれる。
化学療法 (CT: Chemotherapy) 群における標準レジメンは、カルボプラチン (carboplatin: AUC 5、Calvert式により算出) の1日目静脈内投与と、エトポシド (etoposide: 240 mg/m²) の1〜3日目経口投与の併用療法、またはエトポシド単剤療法であり、3週毎に繰り返された。LD 患者は4サイクル、ED 患者は6サイクルの投与が計画された。
主要評価項目は全生存期間 (OS: Overall Survival) とし、診断日からあらゆる原因による死亡日までと定義した。生存曲線の推定には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較には log-rank 検定を適用した。多変量解析には Cox 比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) を用い、時間依存性共変量を考慮したハザード比 (HR: Hazard Ratio) を算出した。また、化学療法の選択に影響を与える因子の同定にはロジスティック回帰分析 (logistic regression analysis) を用いた。なお、本研究は後方視的観察研究であるため、特定の臨床試験登録番号 (NCT00000000 などの ClinicalTrials.gov 登録番号や UMIN000000000 などの UMIN 登録番号) は取得していないが、地域のデータ保護機関 (Region of Southern Denmark) の承認を得て適切に実施された。