• 著者: MRC Lung Cancer Working Party (Writing committee: Thatcher N, Clark PI, Girling DJ, Hopwood P, Twiddy S, Stephens RJ, Bailey AJ, Machin D)
  • Corresponding author: Girling DJ (MRC Cancer Trials Office, Cambridge, UK)
  • 雑誌: Lancet
  • 発行年: 1996
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (多施設無作為化試験・中止報告)
  • PMID: 8774567

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は化学療法感受性が高い腫瘍であるが、予後不良な患者群、特にパフォーマンスステータス (PS) が低い患者では、多剤静注化学療法による生存期間の改善効果が限定的であると以前から報告されてきた (Rawson et al., 1990)。Etoposide は SCLC に対して最も活性の高い単剤化学療法薬の一つであり、静脈内5日間投与で75%の高い奏効率と約5ヶ月の奏効持続期間を示すことが知られている (Slevin et al., 1989)。Etoposide の抗腫瘍活性は、持続的な低血漿濃度曝露によって最大化されるという薬物動態学的仮説があり (Clark et al., 1989)、これは経口投与によって容易に達成可能であると考えられていた。

経口 etoposide は、その簡便性から、PS 不良の SCLC 患者に対する緩和的化学療法として広く用いられてきた経緯がある。特に、50 mg を1日2回、10日間投与する3週ごとのレジメンは、骨髄毒性が比較的低いと報告されていた (Clark and Cottier, 1992)。しかし、経口 etoposide のバイオアベイラビリティーは患者間および患者内で大きく変動するという既知の問題があり (Harvey et al., 1985; Hande et al., 1993)、その有効性には懸念が残されていた。このバイオアベイラビリティーの変動性が、経口 etoposide の臨床的有効性を不安定にする可能性が指摘されていた。

当時、経口 etoposide 単剤療法と、etoposide とビンクリスチン (EV) やシクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン (CAV) といった標準的な静脈内多剤化学療法とを比較する無作為化比較試験は実施されていなかった。この知識のギャップを埋めるため、英国医学研究評議会 (MRC) 肺がんワーキングパーティは、WHO PS 2-4 の不良予後 SCLC 患者を対象とした無作為化比較試験を計画した。経口 etoposide の投与の容易さは、PS 不良患者にとって大きな利点となりうるため、その有効性と安全性を標準治療と比較することは臨床的に重要であると考えられた。しかし、経口 etoposide のバイオアベイラビリティーの変動性や、単剤療法としての腫瘍縮小効果の限界が、多剤併用療法と比較して劣る可能性も指摘されており、この点に関するエビデンスが不足していた。特に、標準的な静注化学療法と比較して、経口 etoposide が生存期間に与える影響については未解明な点が多かった。このため、PS 不良 SCLC 患者に対する最適な緩和的治療戦略を確立するためのデータが不足している状況であった。

目的

WHO PS 2〜4 の不良予後未治療 SCLC 患者において、経口 etoposide (50 mg を1日2回、10日間、3週毎に4コース) と標準静注多剤化学療法 (EV: etoposide+vincristine、または CAV: cyclophosphamide+doxorubicin+vincristine) を比較し、主要症状の緩和効果、QOL、腫瘍奏効率、および生存期間を評価することを目的とした。特に、経口 etoposide の簡便性が、毒性増加や臨床的に重要な生存期間のペナルティなしに、標準治療と同程度の症状緩和を達成できるか否かを検証することを目指した。本研究は、経口 etoposide 単剤療法が、標準的な多剤化学療法と比較して、PS 不良 SCLC 患者の予後を悪化させることなく、症状緩和という点で非劣性を示すか否かを明らかにすることを主要な目的とした。

結果

患者背景と試験経過: 本試験には合計339例の患者が無作為化された (経口 etoposide 群 n=171、対照群 n=168)。患者背景因子は両群間で均等であった (Table 1)。年齢中央値は67歳 (範囲35〜83歳) で、男性が62%を占めた。病期の内訳は限局期43%、広汎期57%であった。パフォーマンスステータス (PS) は、PS 2 が62%、PS 3 が35%、PS 4 が3%であり、真に予後不良な SCLC 患者集団を対象とした研究であった。データモニタリング委員会は、359例が登録された時点での中間解析において、経口 etoposide 群の有意な生存劣性を確認し、1995年9月に試験中止を勧告した。これにより、計画登録数450例には到達せず、最終的に370例が登録された時点で試験は閉鎖された。

主要エンドポイント (3ヶ月時点の症状緩和): 無作為化後3ヶ月時点での主要症状緩和率は、経口 etoposide 群で41% (n=45/110)、対照群で46% (n=46/101) であり、両群間で統計的に有意な差は認められなかった (Table 2)。しかし、この「同等性」の解釈には注意が必要である。3ヶ月評価以前に死亡した患者は「緩和失敗」と定義されたが、その内訳を見ると、経口 etoposide 群では50例 (45%) が3ヶ月以内に死亡したのに対し、対照群では33例 (33%) であった。この早期死亡率の差が、症状緩和率の表面上の同等性に影響を与えた可能性が示唆された。

腫瘍奏効率: 無作為化後3ヶ月以内の客観的奏効率 (CR+PR) は、経口 etoposide 群で45% (CR 10%、PR 34%)、対照群で51% (CR 18%、PR 33%) であった。特に完全奏効 (CR) 率において、経口 etoposide 群が10%であったのに対し、対照群は18%と顕著に低く、腫瘍縮小効果の差が生存期間に影響を及ぼした可能性が考えられる。この差は、経口 etoposide の単剤療法としての限界を示唆している。

全生存期間: 全生存期間 (OS) の中央値は、経口 etoposide 群で130日 (約4.3ヶ月)、対照群で183日 (約6.1ヶ月) であった。ハザード比 (HR) は1.35 (95% CI 1.03-1.79, p=0.03) であり、経口 etoposide 群は対照群と比較して有意に生存期間が短縮した (Figure 2)。6ヶ月生存率は経口 etoposide 群で35%、対照群で49%であり、12ヶ月生存率はそれぞれ11%と13%であった。化学療法開始後2週間の早期死亡は、経口 etoposide 群で13例、対照群で4例と、経口 etoposide 群で多い傾向が観察された。これは、経口 etoposide の急性毒性または効果不足が早期死亡に関与した可能性を示唆している。

有害事象 (WHO グレード2以上): 評価可能な241例の患者における有害事象の発生状況を Table 3 に示す。血液毒性の合計発生率は、経口 etoposide 群で29% (n=35/120)、対照群で21% (n=26/121) と、経口 etoposide 群で高かった。特に貧血 (経口 etoposide 群15% vs 対照群7%) は経口 etoposide 群で有意に高頻度であった。白血球減少 (経口 etoposide 群15% vs 対照群13%) および好中球減少 (経口 etoposide 群14% vs 対照群12%) の差は比較的小さかった。一方、脱毛 (経口 etoposide 群58% vs 対照群79%) およびしびれ/知覚異常 (経口 etoposide 群5% vs 対照群12%) は対照群で高頻度であり、これはビンクリスチンを含む EV/CAV レジメンの特性を反映していると考えられる。経口 etoposide 群における血液毒性の増加は、バイオアベイラビリティーの変動により、有効な抗腫瘍効果が得られない低濃度であっても骨髄抑制が生じる可能性を示唆している。

考察/結論

本試験は、WHO PS 2〜4 の不良予後 SCLC 患者を対象に、経口 etoposide 単剤療法と標準静注多剤化学療法を比較した無作為化比較試験の中間報告である。主要エンドポイントである3ヶ月時点の症状緩和においては両群で同等であったものの、経口 etoposide 群は血液毒性の増加と有意な生存期間の短縮 (HR 1.35, 95% CI 1.03-1.79, p=0.03; 中央値130日 vs 183日) を示したため、独立データモニタリング委員会の勧告により、計画登録数450例に達する前に試験は早期中止された。

先行研究との違い: 本研究の結果は、経口 etoposide 単剤が標準静注多剤化学療法と比較して生存期間を悪化させることを明確に示した点で、経口 etoposide の緩和的利用が広く行われていた当時の臨床実践とは対照的である。特に、CALGB 試験 (Miller et al., 1995) では、経口 etoposide と静注 etoposide をシスプラチンと併用した場合の比較が行われ、経口 etoposide 群で血液毒性が高いことが報告されたが、本研究は単剤療法と多剤併用療法という異なるレジメン間での生存劣性を初めて示した。

新規性: 本研究で初めて、PS 不良 SCLC 患者において、経口 etoposide 単剤が標準静注多剤化学療法と比較して、症状緩和効果が同等であるにもかかわらず、生存期間を有意に短縮させることを実証した。この知見は、経口 etoposide の簡便性が、生存期間の犠牲を伴うことを明確にした点で新規性が高い。また、経口 etoposide 群で化学療法開始後2週間の早期死亡が多い傾向が観察されたことも、これまで報告されていない重要な所見である。

臨床応用: 本試験の結論は、PS 不良 SCLC 患者に対する経口 etoposide 単剤療法が、緩和目的であっても単独で使用すべきではないことを明確に示唆する。この結果は、新たな治療レジメンを一般的な臨床実践に導入する前に、無作為化臨床試験による厳格な評価が不可欠であることを強調するものである。本研究以降、SCLC の標準治療は白金製剤と etoposide の静注化学療法へと移行し、PS 不良患者に対しては用量調整された白金製剤+etoposide レジメンが推奨されるようになった。本研究の知見は、SCLC 治療における経口 etoposide 単剤の位置付けを大きく変える臨床的意義を持つ。

残された課題: 本試験は早期中止されたため、QOL に関する詳細な解析や、症状緩和の経時的変化に関するより詳細なデータは、今後の報告で示される予定である。また、経口 etoposide のバイオアベイラビリティーの変動性や、低血漿濃度での骨髄抑制機序については、さらなる研究が必要である。PS 不良患者における早期死亡のリスクを低減するための最適な治療戦略についても、今後の検討課題として残されている。Limitation として、試験が早期中止されたことで、一部の二次エンドポイントに関するデータが不十分である点が挙げられる。

方法

研究デザイン: 本研究は、英国およびアイルランドの38施設で実施された多施設無作為化対照試験である。患者登録は1992年9月から1995年8月にかけて行われた。当初の計画登録数は450例であったが、独立データモニタリング委員会の勧告により、経口 etoposide 群の劣性が示されたため、1995年9月に試験は早期中止された。最終的に370例が登録された時点で試験は閉鎖された。無作為化は MRC Cancer Trials Office (Cambridge) が管理し、最小化法を用いて、臨床医、病期、パフォーマンスステータスで層別化された。本試験は、新たな治療レジメンが一般臨床に導入される前に、無作為化臨床試験による厳格な評価が不可欠であることを示す事例となった。

適格基準: 組織学的または細胞学的に確認された未治療の SCLC 患者、WHO PS 2〜4 (PS 4 の患者は化学療法から利益を得る可能性のある者に限定)、正常な腎機能、血清ビリルビン値が35 μmol/L未満、および両治療レジメンに対する禁忌がない患者が対象とされた。プロトコルは各施設の倫理委員会によって承認され、患者からはインフォームドコンセントが取得された。

治療: 患者は以下の2群に無作為に割り付けられた。

  1. 経口 etoposide 群 (n=171): etoposide 50 mg を1日2回、10日間経口投与し、これを3週ごとに4コース繰り返した。
  2. 対照群 (n=168): 担当臨床医の裁量により、以下のいずれかの標準静注多剤化学療法を3週ごとに4コース実施した。
    • EV レジメン (n=66): day 1 に etoposide 120 mg/m² を静脈内投与、vincristine 1.3 mg/m² を静脈内投与 (最大2.0 mg)。day 2 および3 に etoposide 240 mg/m² を経口投与または120 mg/m² を静脈内投与。
    • CAV レジメン (n=102): day 1 に cyclophosphamide 750 mg/m²、doxorubicin 40 mg/m²、vincristine 1.3 mg/m² (最大2.0 mg) を静脈内投与。 緩和的放射線療法は、適応がある場合に許容された。

評価項目:

  • 主要エンドポイント: 無作為化後3ヶ月時点での主要症状 (咳嗽、疼痛、食欲不振、呼吸困難) の緩和。各症状スコアの合計の減少をもって緩和と定義した。3ヶ月以内に死亡した患者は緩和失敗とみなされた。
  • 副次エンドポイント: QOL、臨床的および放射線学的腫瘍奏効、および生存期間。腫瘍奏効は WHO 基準に従って評価され、3ヶ月以内に死亡した患者は非奏効と分類された。

統計解析: 計画サンプルサイズは450例であり、対照群の緩和率50%を仮定し、経口群の非劣性37.5%を検出するために、一側5%の有意水準と80%の検出力で400例が必要と算出された。脱落を考慮し、450例の登録が計画された。全ての解析は intention-to-treat (ITT) 原則に基づき実施された。生存期間は Kaplan-Meier 法を用いて推定され、群間比較には Mantel-Cox log-rank 検定が用いられた。独立データモニタリング委員会が中間解析を実施し、経口 etoposide 群の生存劣性に基づき、試験中止を勧告した。