- 著者: Baldotto CS, Cronemberger EH, de Biasi P, Zamboni M, Sousa A, Zukin M, Small IA, Ferreira CG
- Corresponding author: Baldotto CS (Division of Clinical Oncology, Instituto Nacional do Câncer [INCA], Rio de Janeiro, Brazil)
- 雑誌: Supportive Care in Cancer
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-02-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 22322592
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は、その攻撃的な性質にもかかわらず、化学療法に対して高い初期感受性を示す悪性腫瘍である。限局型SCLCでは85〜95%、進展型SCLCでは65〜85%という高い奏効率が報告されており、この高い奏効率が、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status) が不良な患者に対しても積極的な化学療法を適用する傾向を促してきた。しかし、ECOG PSはSCLCにおける最も重要な予後因子の一つとして広く認識されている。例えば、2,580例のSCLC患者を対象としたSWOGデータベースの解析では、PSが生存の独立した強力な予測因子であることが確認されている (Albain et al. J Clin Oncol 1990)。他の研究でも、病期に次ぐ、あるいは病期を上回る重要な予後因子としてPSが挙げられている (Paesmans et al. Cancer 2000)。
にもかかわらず、ECOG PS 3〜4といった不良なPSを有するSCLC患者に対して、化学療法とBSC (best supportive care) のどちらがより適切な治療選択肢であるかを判断するためのエビデンスは、本研究が実施された2012年時点では極めて乏しかった。PS 3患者のみを対象とした無作為化比較試験としては、JCOG 9702試験が存在したが、これは70歳を超える高齢患者を除外しており、不良PS患者全体への一般化には限界があった。特にPS 4患者に対する化学療法の適応については、各施設や医師の裁量に委ねられている状況であり、終末期に近い患者への過剰な治療、特に過大な化学療法の問題が国際的に提起されていた。米国臨床腫瘍学会 (ASCO) のガイドラインでは、末期ステージにおける化学療法の継続は、質の低いケアの指標の一つとされている。
このような背景から、不良PSのSCLC患者に対する化学療法の真の臨床的利益とリスクに関する知識ギャップが残されていた。多くの研究がSCLCにおける予後因子を定義してきたが、不良PS患者における治療のリスクと転帰に関するデータは不足しており、治療の有効性に関する具体的な報告は少数であった (Sakuragi et al. JpnJClinOncol 1996, Mackay et al. ClinOncol(RCollRadiol) 2003)。特に、化学療法が生存期間を延長するだけでなく、早期死亡のリスクを高める可能性や、生活の質 (QOL) を低下させる可能性も指摘されており、不良PS患者に対する化学療法の費用対効果や倫理的側面についても議論がcontroversialな状況であった。本研究は、ブラジルの国立がん研究所 (INCA) における7年間の単施設後方視的解析として、この重要な臨床的課題に回答し、ECOG PS 3〜4のSCLC患者における化学療法の役割を明確にすることを目的とした。
目的
本研究の目的は、ECOG PS 3〜4の小細胞肺癌 (SCLC) 患者に対して化学療法(±放射線療法)を実施した場合の治療転帰を後方視的に評価することである。具体的には、この高リスク集団における化学療法の有効性、安全性、および生存期間への影響を検討し、化学療法がこの患者群にとって適切な治療選択肢であるかどうかを明らかにすることを目指した。本研究は、特にECOG PS 4患者における化学療法の臨床的利益が限定的である可能性を検証し、最善の支持療法 (BSC) のみと比較して化学療法が優位性を持つか否かを評価することを意図した。また、ECOG PS以外の予後因子を特定し、より適切な治療方針決定のためのエビデンスを提供することも目的とした。
結果
患者背景と治療コンプライアンス: 解析対象となった40例の患者背景は、年齢中央値65歳(範囲46〜82歳)、男性が27例(67.5%)を占めた。ECOG PS 3の患者が30例(75%)、PS 4の患者が10例(25%)であった。進展型疾患は34例(85%)の患者で認められ、特にECOG PS 4の患者は全例が進展型疾患であった。上大静脈症候群は10例(25%)の患者に存在した。前治療時のLDH中央値は636 U/l(基準値240〜480 U/l)であり、高腫瘍量を示す症例が多いことが示唆された。全患者が最低1サイクルの化学療法を受け、中央値2.5サイクル(範囲1〜6サイクル)が投与された。1サイクルのみで治療を終了した症例が35%と最も多く、4サイクル以上を完遂した患者は22.5%にとどまった。治療中に29例(72.5%)の患者が入院を必要とし、6例(15%)の患者が人工呼吸器の使用を要した(Table 1)。
治療奏効と早期死亡: 全患者の30%(12/40例)が初回化学療法サイクル後に死亡しており、このうちECOG PS 4の患者が50%(6/12例)を占めた。これは、化学療法開始後極めて早期に死亡する患者が多いことを示しており、特にPS 4患者では化学療法が生存期間延長に寄与していない可能性が強く示唆された。奏効評価が記録された患者(30%のデータ欠損あり)では、部分奏効 (PR) が47.5%、完全奏効 (CR) が7.5%で、合計55%の奏効率が報告された。しかし、臨床的利益(症状緩和やPS改善)が明確に報告されたのは22.5%の患者に限られ、これらの患者は全てECOG PS 3であった。ECOG PS 4の患者では臨床的利益は報告されなかった。
全生存期間 (主要結果): 全患者のmedian OSは53日(95% CI 31.3-74.6)と極めて短かった。ECOG PS別に層別化すると、PS 3患者(n=30)のmedian OSは64日(95% CI 0.9-127.1)であったのに対し、PS 4患者(n=10)のmedian OSはわずか7日(95% CI 0-14.7)と顕著に不良であった(PSによる比較 p=0.001)。病期とPSを組み合わせた層別解析では、限局型疾患(n=5)のmedian OSが224日(95% CI 155.1-294.9)であったのに対し、進展型疾患かつPS 3(n=24)では53日、進展型疾患かつPS 4(n=10)では7日と、病期とPSの複合効果が生存期間を強く規定することが示された(Stage+PSによる比較 p<0.001)(Table 2, Figure 1)。
単変量解析による予後因子: 単変量解析において、OSと有意に関連した因子は、ECOG PS (p=0.001)、病期 (p=0.022)、LDH値(≤480 U/l vs >480 U/l: median OS 137日 vs 47日、p=0.008)、放射線療法の実施 (median OS 75日 vs 21日、p=0.006)、初回化学療法サイクルでの入院の必要性 (median OS 40日 vs 191日、p=0.010) であった。年齢、性別、化学療法レジメン(シスプラチン vs カルボプラチン)、上大静脈症候群の有無は、OSとの有意な関連は認められなかった(Table 2)。
多変量解析による独立予後因子: Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析では、ECOG PSと病期を組み合わせた複合変数 (EPS) が独立した予後因子として同定された(HR 3.313, 95% CI 1.441-7.614, p=0.005)。また、対数変換されたLDH値も独立した予後因子であった(HR 2.863, 95% CI 1.610-5.088, p<0.001)。年齢はHR 1.028 (95% CI 0.984-1.074, p=0.224) であり、有意な予後因子ではなかった。このモデル全体のp値は<0.001、r²値は0.496であり、PS、病期、およびLDH値の組み合わせが患者の転帰を強く予測することが示された(Table 3)。
考察/結論
本研究の最も重要な知見は、ECOG PS 4のSCLC患者に対する化学療法後のmedian OSがわずか7日(95% CI 0-14.7)という極めて短い期間であったことである。この生存期間は、過去に報告されたBSCのみを受けたSCLC患者の生存期間(例えば、Winter et alの報告ではSCLCのBSC群の生存期間はこれと同等)と類似しており、化学療法がPS 4患者に明確な生存利益をもたらさない可能性を強く示唆する。化学療法施行にもかかわらず、30%の患者が初回サイクル後に死亡し、特にPS 4患者ではその割合が50%に達したことは、化学療法が生存延長に寄与しないだけでなく、早期死亡のリスクを高める可能性すらあることを示唆している。さらに、72.5%の入院率と15%の人工呼吸器使用率は、化学療法がPS 4患者に高度な医療資源を消費させる一方で、明確な利益を提供できていない現状を浮き彫りにする。
ECOG PS 3患者のmedian OS(64日, 95% CI 0.9-127.1)はPS 4患者よりは長いものの、約2ヶ月という短い生存期間は、この集団においても化学療法の利益が限定的であることを示している。臨床的利益(症状緩和やPS改善)が報告されたのは全患者の22.5%に過ぎず、これらの患者は全てPS 3であった。このことは、PS 3患者の一部には化学療法が有効である可能性を示唆するが、その恩恵を受ける患者は限られていることを意味する。
先行研究との違い: 多くの先行研究が不良PSをSCLCの強力な予後因子として定義してきたが、本研究は、化学療法を受けた不良PS患者に限定してその転帰を詳細に分析した点でこれまでと異なる。これにより、BSC対照群との直接比較なしに、化学療法自体がこの高リスク集団において期待される利益をもたらしていない可能性を可視化した。例えば、Sakuragi et alやMackay et alも不良PS患者の治療について報告しているが、本研究は特にPS 4患者の極めて不良な予後を強調し、化学療法の限界を明確に示した。
新規性: 本研究で初めて、ECOG PSと病期を組み合わせた複合変数 (EPS) が、LDH値とともにSCLCの不良PS患者における独立した予後因子であることを多変量解析により同定した。このEPS変数は、従来のPS単独評価よりも患者の予後をより正確に層別化する新規のツールとなる可能性を示唆する。
臨床応用: 本知見は、ECOG PS 4のSCLC患者に対しては、化学療法よりも最善の支持療法や緩和ケアの早期統合、ホスピス移行がより適切な選択肢である可能性を強く示唆する。臨床現場において、SCLCの高い奏効率に惑わされず、患者のPSとLDH値に基づいたより慎重な治療選択を行うべきであるという臨床的意義を持つ。ASCOのガイドラインが終末期化学療法を質の低いケアの指標としている文脈において、本研究はPS 4 SCLC患者への化学療法の再考を促し、緩和ケアの早期統合・ホスピス移行判断のエビデンス基盤の必要性を訴えた重要な報告である。
残された課題: 本研究の限界として、①BSC対照群がないこと、②単施設後方視的解析であること(選択バイアスの可能性)、③奏効評価におけるデータ欠損(30%)があること、④QOL評価や化学療法の系統的な毒性評価が行われていないこと、が挙げられる。これらのlimitationは、本研究の結論を一般化する上で注意が必要であることを示している。今後の検討課題として、不良PSのSCLC患者を対象とした前向き研究において、QOL評価、医療経済評価、およびより詳細な毒性評価を組み込むことが必要である。また、LDH値やEPSのような予後因子を用いて、化学療法から利益を得られる可能性のあるサブグループを特定するためのさらなる研究が残されている。
方法
本研究は、2001年1月から2006年12月までの期間に、ブラジルのInstituto Nacional do Câncer (INCA) で細胞学的または組織学的にSCLCと診断された患者の医療記録を後方視的にレビューした、retrospective cohort studyである。対象患者は、前治療時のECOG PSが3または4であり、かつ全身化学療法を受けた40例(全SCLC患者140例中28.5%)に限定された。BSC単独で治療された患者は解析対象に含まれていないため、本研究は化学療法を受けた不良PS患者の転帰に焦点を当てている。
評価因子としては、年齢、性別、病期(限局型または進展型)、前治療時のLDH値、上大静脈症候群の有無、初回化学療法サイクル後の早期死亡、入院の必要性、人工呼吸器使用の有無などが含まれた。病期診断には、胸部および腹部CT、脳画像(MRIまたはCT)が用いられた。骨シンチグラフィーは、症状または骨転移を示唆する検査異常がある場合にのみ実施された。
治療プロトコルはINCAの標準ガイドラインに従い、全ての患者にプラチナ製剤とエトポシドの併用化学療法が投与された。具体的なレジメンは、カルボプラチン(AUC 4〜6)とエトポシド(100 mg/m²をD1-3に投与)が31例(77.5%)、シスプラチン(70〜80 mg/m²をD1に投与)とエトポシド(100 mg/m²をD1-3に投与)が9例(22.5%)であった。シスプラチンベースの化学療法を受けたのはECOG PS 3の患者のみであった。この期間中、二次化学療法は利用できなかった。患者は必要に応じて緩和ケアチームに紹介された。
生存期間は、初回化学療法サイクル投与日から死亡日までと定義されたprimary endpointであった。統計解析にはSPSSソフトウェアバージョン13.0が用いられ、有意水準はp=0.05に設定された。全体およびサブグループの生存推定値はKaplan-Meier法を用いて算出され、ログランク検定により比較された。単変量解析では、年齢(≤65歳 vs >65歳)およびLDH値(≤480 U/l vs >480 U/l)が二値変数として扱われた。多変量解析にはCox比例ハザードモデルが用いられ、ECOG PS、病期、年齢、LDH値が共変量として投入された。ECOG PSと病期の間の相互作用を考慮し、これらを組み合わせた新しい変数 (EPS) が作成された。LDH値は、モデルへの適合性を高めるために対数変換された連続変数として扱われた。放射線療法は医師の裁量に依存し、化学療法後の患者の転帰によって適用が異なったため、多変量解析モデルには含められなかった。