- 著者: N.H. Hanna, A.M. Einhorn, K. Einhorn, D.H. Johnson, B. Sandler, F. Meluch, J. Yiannoutsos, A. Hanna
- Corresponding author: N.H. Hanna (Indiana University Medical Center, Indianapolis, IN)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2002
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 11863118
背景
進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) は、化学療法に対して40-80%の奏効率を示し、10-20%の患者で完全奏効 (CR) が得られるものの、その後ほぼ全例が再発するという厳しい疾患である。現代の化学療法によるES-SCLC患者の生存期間中央値は約9ヶ月であり、2年生存率は5-10%に留まり、長期無病生存は1%未満という状況が続いていた。このため、標準治療の改善が喫緊の課題であった。この背景には、SCLCの生物学的特性と、従来の治療法における限界が存在する。Roth et al. JClinOncol 1992やその他の先行研究でも、ES-SCLCの予後改善が困難であることが繰り返し報告されてきた。
シスプラチンとエトポシドを含むレジメンは、ES-SCLCの標準治療の基盤として広く用いられてきた。Hoosier Oncology Group (HOG) は、以前の第III相試験において、EP (エトポシド+シスプラチン) とVIP (etoposide+ifosfamide+cisplatin) の有効性を比較し、VIPが無増悪生存期間 (PFS) の延長と全生存期間 (OS) の改善傾向を示したことを報告している (Loehrer et al. 1995)。この結果は、VIPレジメンがES-SCLC患者にとって有望な導入療法であることを示唆した。しかし、VIPレジメンの毒性プロファイルや利便性に関する懸念も存在し、その最適な位置づけについては議論の余地があった。
導入化学療法後の維持療法は、非増悪患者において奏効を持続・延長させ、ひいては生存期間の改善につながる可能性のある戦略として、長年にわたり検討されてきた。しかし、それまでの多くの無作為化試験では、維持療法による一貫した生存改善は示されておらず、一部の試験では維持療法が生存に悪影響を与えたという報告すら存在した (Ettinger et al. 1990)。このため、維持療法の有効性については未解明な点が多かった。特に、OSを改善する維持療法は確立されておらず、この領域には大きな知識のギャップが残されていた。
経口エトポシドは、内服が可能であり、持続投与に適しているという利点を持つ。そのバイオアベイラビリティは約50%であり、静脈内投与と同等の効果と毒性を示すことが報告されている (Cavalli et al. 1978)。さらに、エトポシドは投与スケジュール依存性を示す薬剤であり、同じ総用量であっても、より長期間にわたる低用量投与が腫瘍増殖抑制に有利であることが知られていた (Slevin et al. 1989)。これらの特性から、経口エトポシドはVIP導入療法後の維持療法の候補として選択された。しかし、その有効性、特にOS改善効果については、十分なエビデンスが不足しており、大規模な無作為化比較試験による検証が求められていた。既存の維持療法に関する研究では、PFSの延長は認められるものの、OSの改善に至らないケースが多く、この点がSCLC治療における長年の課題であった。
目的
本第III相無作為化試験の主要目的は、進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者において、etoposide、ifosfamide、cisplatin (VIP) 導入化学療法4コース後に非進行であった患者に対し、経口エトポシドを毎日投与する3ヶ月間の維持療法が、観察群と比較して無増悪生存期間 (PFS) または全生存期間 (OS) を延長するかどうかを検討することである。本研究は、特にPFSの延長がOSの改善に繋がるかという、SCLC維持療法における長年の未解明な課題に答えることを目指した。副次的エンドポイントとして、VIP導入療法後の経口エトポシド維持療法の毒性プロファイルを評価し、その安全性と忍容性を明らかにすることも目的とした。これにより、ES-SCLCにおける維持療法の役割、特に経口エトポシドの潜在的な有用性を評価し、今後の治療戦略の確立に資する知見を得ることを目指した。本研究は、維持療法の臨床的意義を明確にし、ES-SCLC患者の予後改善に貢献する新たなエビデンスを確立することを意図していた。
結果
試験集団と導入療法の奏効: 1993年9月から1998年6月までに、合計233例の患者がVIP導入療法に登録された (Table 1)。そのうち228例が適格であり、生存解析の対象となった。225例がVIP導入療法に対する奏効評価可能であった。結果として、CR 28例 (12.4%)、PR 116例 (51.5%)、SD 22例 (9.7%) であり、全体奏効率は63.9%であった。59例 (26.2%) が治療失敗とされた。非進行患者 (CR+PR+SD) は166例であり、そのうち144例が無作為化の対象となった。無作為化されなかった22例の主な理由としては、KPS不良または導入毒性 (12例)、患者の拒否 (3例)、プロトコル違反 (2例) などが挙げられた。無作為化された144例は、維持療法群72例と観察群72例に均等に割り付けられた (Figure 1)。
患者背景: 無作為化時点での患者背景を比較すると、性別 (p=0.1715)、KPS (p=0.6815)、人種 (p=0.2448) に有意差は認められなかった (Table 2)。しかし、年齢に関しては観察群が維持療法群よりも有意に高齢であった (観察群中央値 62.1歳 vs 維持療法群中央値 58.9歳、p=0.0242)。疾患部位数については両群間で有意差はなかった。診断時の最も頻繁な転移部位は肝臓 (n=78)、骨 (n=41)、脳 (n=32)、副腎 (n=26) であった。
無増悪生存期間 (PFS) の有意な改善: 中央値PFSは、維持療法群で8.23ヶ月 (95% CI 7.10-9.40) であったのに対し、観察群では6.5ヶ月 (95% CI 5.72-7.10) であり、維持療法群で統計的に有意な改善が認められた (ログランク検定 p=0.0018) (Figure 2)。これは、経口エトポシド維持療法が病勢進行を遅らせる効果を持つことを明確に示した。特に、KPS 80-100の患者サブグループでは、維持療法のPFS改善効果が顕著であり、中央値PFSは維持療法群で8.83ヶ月 vs 観察群で6.56ヶ月 (HR 0.548, 95% CI 0.36-0.83, p=0.0035) であった。一方、KPS 50-70の患者では、PFSの有意な改善は認められなかった (維持療法群 6.30ヶ月 vs 観察群 5.85ヶ月、p=0.374)。多変量解析においても、KPS 80-100の患者群でのみ、維持療法がPFSを改善することが示された。
全生存期間 (OS) の改善傾向: 全233例の患者における中央値OSは9.8ヶ月 (95% CI 8.96-10.4) であり、1年生存率36.4%、2年生存率8.8%、3年生存率4.4%であった (Table 5)。無作為化された144例の患者では、OS中央値は維持療法群で12.2ヶ月 (95% CI 10.08-14.05) であったのに対し、観察群では11.2ヶ月 (95% CI 9.79-12.30) であった。維持療法群でOSの改善傾向が認められたものの、統計的有意差には達しなかった (ログランク検定 p=0.0704) (Figure 3)。1年生存率は維持療法群で51.4% vs 観察群で40.3%、2年生存率は維持療法群で16.7% vs 観察群で6.9%、3年生存率は維持療法群で9.1% vs 観察群で1.9%であった。多変量解析では、KPS 80-100 vs 50-70がOSの有意な予後因子であり (HR 0.511, 95% CI 0.33-0.79, p=0.0021)、女性 vs 男性も有意な予後因子であった (HR 0.692, 95% CI 0.48-0.99, p=0.0426)。CR vs SDおよびPR vs SDではOS改善の傾向が認められたが、統計的有意差はなかった。
毒性プロファイル: 導入療法であるVIPの毒性は、以前の報告と同様であった。経口エトポシド維持療法におけるGrade 3/4の毒性は、主に血液毒性であった (Table 3)。貧血はGrade 3が13例 (18%)、Grade 4が1例 (1.4%) に認められた。顆粒球減少症はGrade 3が18例 (25%)、Grade 4が12例 (17%) に発生し、そのうち4%に発熱性好中球減少症を伴った。血小板減少症はGrade 3が8例、Grade 4が6例に認められた。非血液毒性は軽微であり、治療関連死亡は発生しなかった。脱毛は持続的に観察された。経口エトポシドのコンプライアンスは良好であり、患者の64%が3コース全てを完遂した。残りの患者は、病勢進行または血液毒性により治療を中止した。
再発パターンと長期生存者: 最も頻繁な再発部位は胸部 (n=75)、脳 (n=52)、肝臓 (n=35)、骨 (n=22) であった。無作為化された144例の患者のうち、9例が試験終了時点で生存しており、その内訳は維持療法群7例、観察群2例であった。
考察/結論
本Hoosier Oncology Groupの第III相試験は、進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者において、VIP導入化学療法後の経口エトポシド維持療法が、無増悪生存期間 (PFS) を有意に延長するものの (中央値 8.2ヶ月 vs 6.5ヶ月、p=0.0018)、全生存期間 (OS) には統計的に有意な改善をもたらさないことを示した (中央値 12.2ヶ月 vs 11.2ヶ月、p=0.0704)。この結果は、PFSの改善が必ずしもOSの改善に直結しないという、SCLCにおける維持療法の歴史的な矛盾を改めて浮き彫りにした。
先行研究との違い: 本研究の結果は、少なくとも4つの先行する無作為化試験 (Giaccone et al. 1993; Sculier et al. 1996; Spiro et al. 1989; Schiller et al. JClinOncol 2001) とも一致しており、これらの試験でもPFSは改善するもののOSは改善しないという同様の結果が報告されている点で、これまでのSCLC治療の歴史的文脈において重要な知見である。特にSchiller et al. JClinOncol 2001によるECOGのE7593試験は、本研究と非常に類似したデザインで、トポイソメラーゼI阻害薬であるトポテカンを維持療法に用いたが、やはりPFSのみの改善でOS改善には至らなかった。これは、化学療法ベースの維持療法がES-SCLCのOSを改善する上で限界があることを示唆する共通したエビデンスを形成している。
新規性: 本研究は、VIP導入療法後の経口エトポシド維持療法がES-SCLC患者のPFSを統計学的に有意に改善することを初めて示した。特に、KPS 80-100の良好なパフォーマンスステータスを持つ患者群において、PFSの改善効果が顕著であったことは、維持療法の恩恵を受ける患者層を特定する上で新規な情報を提供する。経口エトポシドの毒性が管理可能であり、治療関連死亡が認められなかったことも、その安全性プロファイルを裏付ける重要な所見である。
臨床応用: 本研究の知見は、ES-SCLCにおける維持療法の臨床的意義について再考を促すものである。PFSの延長は患者の病勢進行までの期間を延ばし、生活の質を改善する可能性を秘めている。しかし、OSの改善が見られなかったことから、維持療法の導入は患者の全体的な予後を劇的に変えるものではないと結論付けられる。この結果は、その後の免疫チェックポイント阻害薬による維持療法 (例: IMpower133試験におけるアテゾリズマブ維持療法) がES-SCLCで初めてOS改善を示したこととの対比において、化学療法単独での維持療法の限界を明確にする重要な歴史的含意を持つ。臨床現場においては、PFS延長のメリットと、維持療法による毒性や患者負担を慎重に比較検討する必要がある。
残された課題: 本試験がOS改善の統計的有意差を検出できなかった理由としては、いくつか残された課題が考えられる。第一に、本試験は当初計画されたサンプルサイズと死亡数を達成しておらず、統計的検出力が66%に留まったため、真のOS改善効果を見逃した可能性が否定できない。第二に、維持療法後の二次治療が両群間で異なった可能性があり、維持療法群の患者がその後の治療に対する感受性が低下していた、あるいは維持療法による毒性蓄積が患者のパフォーマンスを低下させ、後続治療への耐性を下げた可能性も考慮される。第三に、本試験の導入療法であるVIPレジメンは、その毒性と不便さから、現在ではインディアナ大学やHOGにおけるSCLCの標準治療としてルーチンには使用されていない。したがって、経口エトポシド維持療法の真の価値を確定するためには、VIPまたはEPなどの別の導入療法後に、より大規模で十分な検出力を持つ試験を再度実施することが今後の検討課題である。PFSをOSの代替エンドポイントとして扱えないという問題は、SCLCの臨床試験設計において今日でも重要な課題として残されている。
方法
試験デザインと実施期間: 本試験はHoosier Oncology Group (HOG) が実施した第III相無作為化比較試験であり、1993年9月から1998年6月にかけて、複数のコミュニティベースの施設で実施された。試験は関連する施設内倫理委員会によって承認され、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントが取得された。本試験は、当初片側5%有意水準、検出力80%でOS中央値の50%改善(9ヶ月から13.5ヶ月)を検出するために168例の無作為化患者(158例の死亡)が必要とされたが、本報告ではより標準的な両側5%有意水準が用いられた。この場合、検出力80%で50%の生存差を検出するには202例の患者と191例の死亡が必要であった。
適格基準: 導入化学療法VIPの対象となる患者は、組織学的または細胞学的に確認された進展型SCLCを有し、Karnofsky Performance Status (KPS) が50以上、適切な骨髄予備能 (白血球数 ≥4000/mm³、血小板数 ≥100,000/mm³) および腎機能 (血清クレアチニン <2 mg/dl) を有することが求められた。経口薬の服用が可能であることも条件であった。安定した中枢神経系 (CNS) 転移を有する患者も適格とされ、その場合は全脳照射が並行して施行された。除外基準には、限局型SCLC、先行化学療法歴、うっ血性心不全、妊娠、および5年以内の他のがん既往 (治癒した基底細胞癌または扁平上皮癌を除く) が含まれた。
導入化学療法 (全例): 全ての患者は、VIPレジメンによる導入化学療法を4コース受けた。VIPレジメンは、エトポシド 75 mg/m² (静脈内、Day 1-4)、イホスファミド 1.2 g/m² (静脈内、Day 1-4)、シスプラチン 20 mg/m² (静脈内、Day 1-4) から構成され、イホスファミド投与時にはメスナが併用された。各サイクルは21日周期で繰り返された。顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) は、Day 6-15または好中球数が回復するまで5 µg/kgで皮下投与された。病勢進行または過度な毒性が認められない限り、合計4サイクルが実施された。奏効の評価はWHO基準に基づき、CR (完全奏効)、PR (部分奏効)、SD (安定)、PD (進行) が定義された。
無作為化: 4コースのVIP導入療法後にCR、PR、またはSDを達成した非進行患者は、KPS (50-70 vs 80-100) と導入療法時の奏効状態 (SD vs PR/CR) で層別化され、1:1の比率で以下の2群に無作為に割り付けられた。無作為化は導入療法完了後3-6週間以内に行われた。
- 維持療法群 (n=72): 経口エトポシド 50 mg/m² を21日間連続投与し、28日サイクルで合計3コース (3ヶ月間) 実施された。経口エトポシドは50 mgカプセルで提供されたため、用量は最も近い25 mg単位に丸められた (例: 75 mg/日が必要な場合は50 mgと100 mgを交互に投与)。
- 観察群 (n=72): さらなる治療は行わず、病勢進行まで観察された。
毒性評価と用量調整: 毒性はWHOグレードスケールを用いて各サイクル前に評価された。経口エトポシド維持療法中に顆粒球数 <500/mm³ または血小板数 <50,000/mm³ となった場合、1週間投与を中断した。血小板数 >75,000/mm³ および顆粒球数 >1500/mm³ に回復後、25%減量して次サイクルを開始した。2週間の遅延後も回復しない場合は試験中止となった。発熱性好中球減少症、血小板減少性出血、または重度の血小板減少症が発生した場合も、経口エトポシドは25%減量された。
主要エンドポイントと統計解析: 主要エンドポイントは全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) であった。OSは試験開始日から死亡日まで、PFSは無作為化日から病勢進行または死亡日までと定義された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて作成され、群間比較にはログランク検定が用いられた。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、導入療法時の奏効状態、KPS、年齢、性別を調整した上で治療効果の有意性が評価された。本試験で観察された死亡数 (139例) では、両側5%有意水準での検出力は66%に留まったため、統計的検出力は不足していた。