• 著者: Joan H. Schiller, Sudeshna Adak, David Cella, Russell F. DeVore III, David H. Johnson
  • Corresponding author: Joan H. Schiller (University of Wisconsin Hospital and Clinics, Madison, WI, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2001
  • Epub日: 2001-04-15
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11304763

背景

進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) は、米国における全肺癌死亡の約20-25%を占める極めて致死的な悪性腫瘍である。この疾患は化学療法に対する感受性が高く、初回奏効率は60-80%と良好な反応を示すものの、ほとんど全ての患者で数ヶ月以内に再発・進行に至るという特徴を持つ。標準治療であるシスプラチンとエトポシド (PE) 併用療法を4-6サイクル実施した後、その後の維持療法やconsolidation療法として追加の化学療法が生存期間の延長に寄与するか否かは、1990年代における主要な臨床的課題であった。この背景には、初回奏効後に残存する微小残存病変 (minimal residual disease, MRD) を、異なる作用機序を持つ薬剤で追加治療することで完全に排除し、治癒を目指すという「非交差耐性化学療法の逐次使用 (sequential use of non-cross-resistant chemotherapy)」戦略の理論的根拠があった。

トポテカンはトポイソメラーゼI阻害剤であり、前臨床モデルにおいてトポイソメラーゼII阻害剤であるエトポシドとは異なる作用機序を持つことが示されていた。さらに、前処理によるトポイソメラーゼIの上方制御により、逐次投与での相乗効果が期待された。トポテカンは、未治療SCLC患者を対象とした第II相試験 (Schiller et al. 1996) で39%の奏効率と10ヶ月の全生存期間中央値を示し、二次治療においてもその有効性が確認されていた (vonPawel et al. JClinOncol 1999)。しかし、これらの先行研究では、PE療法後のconsolidation療法としてのトポテカンの有効性については未解明な点が残されていた。特に、PFSの延長がOSの延長に繋がるか、また患者のQOLを改善するかどうかについては、大規模なランダム化比較試験による検証が不足していた。1980年代から1990年代にかけて行われた多くの維持化学療法に関するランダム化試験は、生存期間の延長を示さず、QOLを悪化させる傾向があったため、新たなアプローチが求められていたが、その臨床的ギャップは依然として存在していた。

Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) は、この臨床的ギャップを埋めるため、本E7593試験を設計した。本試験の目的は、PE 4サイクル導入療法後に病勢安定または奏効したES-SCLC患者に対し、トポテカン4サイクルを追加することで、全生存期間 (OS) およびQOLの改善が可能であるかを検証することであった。当時の維持化学療法に関する複数のランダム化試験では、ほとんどが生存延長を示さず、QOLを悪化させる傾向にあったため、異なる作用機序を持つトポテカンがこの状況を打破できるかどうかが注目された。本研究は、この分野における重要な知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

未治療の進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者に対し、標準的なシスプラチンとエトポシド (PE) 併用療法を4サイクル導入した後、病勢進行を認めない(病勢安定、部分奏効、完全奏効)患者を対象として、トポテカン4サイクル追加群と観察群に無作為に割り付け、consolidationとしてのトポテカンが全生存期間 (OS) を延長し、かつ患者の生活の質 (QOL) を改善するかどうかを検証することを主要目的とした。本研究は、ECOGが実施した多施設共同第III相試験 (E7593) であり、主要評価項目はOS、副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、QOL (Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung [FACT-L] 質問票を用いて評価)、および毒性プロファイルであった。特に、PFSの延長がOSの延長に繋がるか、また患者のQOLを改善するかどうかについて、大規模なランダム化比較試験による検証が不足していたため、この点を明らかにすることを目的とした。

結果

Step 1 (PE導入療法) の結果: 421例の患者が本試験に登録され、そのうち402例がStep 1の適格患者とされた。PE導入療法4サイクル後の客観的奏効率は35% (完全奏効 [CR] 3%、部分奏効 [PR] 32%) であった。これは当時のES-SCLCにおけるPE治療の奏効率としては比較的低めであったが、intention-to-treat解析を反映した現実的な数値であると考察された。402例全体の全生存期間中央値は9.6ヶ月 (95% CI 8.9-10.4ヶ月) であり、これはES-SCLCの標準治療アウトカムと一致していた (Figure 2A)。無増悪生存期間中央値は8.0ヶ月 (95% CI 6.4-9.3ヶ月) であった (Figure 2B)。導入期間中に病勢進行した症例、毒性により中止した症例、死亡例を除き、223例がStep 2のランダム化に進んだ。

Step 2 (トポテカン vs 観察) における無増悪生存期間 (PFS) の有意な改善: Step 2ランダム化時点からの無増悪生存期間中央値は、トポテカン群で3.7ヶ月、観察群で2.3ヶ月であり、トポテカン群が有意に延長した (ハザード比 [HR] 1.90, 95% CI 1.43-2.53, p < .001) (Table 2, Figure 3B)。この1.4ヶ月のPFS延長は統計学的に高度に有意であったが、臨床的意義の観点からは限定的であると考察された。トポテカン単独投与での奏効率は7% (CR 2%、PR 5%) であり、Step 1後に病勢安定であった症例で追加奏効が認められた。これはPE後に依然として化学療法感受性のある腫瘍細胞が残存している可能性を示唆するが、奏効率としては限定的であった。

Step 2 (トポテカン vs 観察) における全生存期間 (OS) の改善なし: Step 2ランダム化時点からの全生存期間中央値は、トポテカン群で9.3ヶ月 (95% CI 8.6-10.0ヶ月)、観察群で8.9ヶ月 (95% CI 7.7-10.0ヶ月) であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった (p = .43) (Table 2, Figure 3A)。1年生存率もトポテカン群で25%、観察群で28%とほぼ同等であり、トポテカン追加治療による生存延長効果は示されなかった。多変量解析においても、治療群はOSの有意な予測因子として選択されなかった。PFSの延長がOSに翻訳されなかった主な要因として、病勢進行後の救済治療(特に観察群からのトポテカンや他の化学療法へのクロスオーバー)の影響が挙げられた。

QOL評価 (FACT-L) の結果: FACT-L (Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung) による定期的なQOL評価では、トポテカン群と観察群の間で、全ての評価時点および全てのサブスケールスコア(身体的、機能的、感情的、社会的、肺癌特異的)において有意差は認められなかった (Table 5, Table 6)。Trial Outcome Index (TOI) スコアも、両群間で有意な差は認められなかった (p = .965)。PFSの延長にもかかわらずQOLの改善が得られなかったことは、トポテカン追加治療の臨床的便益の欠如をさらに裏付ける重要な否定的所見であった。ベースラインでのFACT-L質問票の完了率はトポテカン群で94% (n=105)、観察群で89% (n=99) であった。7週時点での完了率はそれぞれ83% (n=92) と68% (n=70) であった。

毒性プロファイル: Step 1 (PE導入療法) におけるGrade 4の好中球減少は50%、Grade 4の血小板減少は3%で発生した。Grade 4/5の感染症は4.6%であった。これらの毒性プロファイルは、PE標準治療の既知の毒性と一致していた (Table 4)。 Step 2 (トポテカン追加療法) におけるGrade 4の好中球減少はトポテカン群で60%と高頻度であり、Step 1のPE治療での50%を上回った。Grade 4の血小板減少は13% (Step 1の3%より高頻度)、Grade 3/4の貧血は22%で発生した。Grade 4/5の感染症は1.8%であった。トポテカン群では、エトポシドによる骨髄抑制からの回復後に再び深刻な骨髄抑制サイクルが加わる形となり、累積的な血液学的毒性負担が明らかに増加した。非血液学的毒性は概ねGrade 1-2で管理可能であった。Step 1では17例の患者が毒性により死亡し、そのうち9例が感染症によるものであった。Step 2ではトポテカン群で1例のGrade 5心毒性が報告された。

再発部位: 最も一般的な再発部位は肺であった (Table 3)。CNS転移の発生率は、観察群で25%、トポテカン群で31%であり、両群間で統計的に有意な差は認められなかった (p > .05)。

考察/結論

本ECOG E7593試験は、進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者において、シスプラチンとエトポシド (PE) 導入療法後に病勢が安定した症例に対するトポテカンconsolidation療法の生存利益を明確に否定した重要な第III相試験である。全生存期間中央値がトポテカン群9.3ヶ月 vs 観察群8.9ヶ月 (HR 1.09, 95% CI 0.83-1.42, p = .43) であり、全ての評価時点でのFACT-LによるQOLの非改善という結果は、トポテカンによる追加治療がPFS延長 (3.7ヶ月 vs 2.3ヶ月, HR 1.90, 95% CI 1.43-2.53, p < .001) を達成しても、患者の最終的なアウトカム(生存期間、QOL)には寄与しないことを示した。これは、PFSを代理エンドポイントとするES-SCLC研究設計の限界を示す古典的事例である。

先行研究との違い: 1980年代から1990年代にかけて、ES-SCLCに対する維持・consolidation化学療法の複数の試験 (Giaccone et al. 1993, Spiro et al. 1989など) が実施されたが、ほとんどが生存延長を示さず、QOLを悪化させる傾向にあった。本E7593試験は、これらの先行研究の結果と異なり、異なる作用機序を持つトポテカンを用いた設計においても、維持化学療法が生存利益をもたらさないというコンセンサスを再確認した。また、トポテカンはSCLCの二次治療において有効性が示されていたが、本研究では一次治療後のconsolidationとしての効果は認められなかった点が、これまでの知見と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、PE導入療法後のトポテカン維持療法がPFSを延長するものの、OSおよびQOLを改善しないことを大規模なランダム化比較試験で明確に示した。これは、異なる作用機序を持つ薬剤を逐次投与する戦略が、必ずしも生存利益に結びつかないという重要な知見を新規に提供した。特に、PFSの改善がOSに繋がらないという、ES-SCLC治療における重要なパラドックスを実証した点で新規性がある。

臨床応用: 本研究の最大の臨床的含意は、ES-SCLC患者に対しPE導入療法4-6サイクル完遂後は、追加の化学療法を行わず、病勢進行時に二次治療(当時はトポテカン、現代ではルビネクテジン、タルラタマブなど)を導入するという標準戦略を支持することである。本研究以降、ES-SCLCの治療アルゴリズムから「consolidation chemotherapy」は原則として除外された。現在の治療では、IMpower133試験やCASPIAN試験の結果に基づき、導入化学療法後にアテゾリズマブやデュルバルマブといった免疫チェックポイント阻害剤による維持療法が新たな標準となっている。免疫療法による維持療法が生存延長を達成した点は、本試験のトポテカン維持療法とは対照的である。

残された課題: 今後の検討課題として、免疫療法時代におけるconsolidation化学療法の再評価(免疫チェックポイント阻害剤と化学療法の併用戦略)、バイオマーカー別(LDH値、治療前奏効深度など)のconsolidation療法の効果予測、および経口トポテカンなど患者負担の少ない剤形でのPFS改善効果の臨床的意義の再考などが挙げられる。本試験は、ES-SCLC治療における「PFS延長≠OS改善」というパラドックスを端的に示した教育的事例として、現在も広く引用されている重要なlimitationを提示した。また、観察群での病勢進行後のクロスオーバー治療がOSに与える影響についても、厳密な評価が残された課題である。

方法

本研究は、ECOG主導の多施設共同第III相ランダム化比較試験 (E7593) として、1995年3月から1999年1月にかけて実施された。本試験は、NCT番号 E7593として登録された。

対象患者: Step 1 (導入療法) の対象基準は、組織学的または細胞学的にES-SCLCと診断され、測定可能または評価可能な病変を有し、ECOG Performance Status (PS) が0-2、18歳以上、かつ十分な臓器機能(白血球数 ≥4,000/mm³、血小板数 ≥100,000/mm³、ビリルビン ≤1.5 mg/dL、クレアチニン ≤1.5 mg/dL)を有する患者であった。制御されたCNS転移は許容された。初回化学療法または生物学的療法を受けていないこと、症状部位への放射線療法は、指標病変への照射がなく、化学療法開始前に完了していれば許可された。全ての患者からインフォームドコンセントを得た。

治療プロトコル:

  • Step 1 (導入療法): 全ての患者はシスプラチン 60 mg/m² (静脈内投与、day 1) とエトポシド 120 mg/m² (静脈内投与、day 1-3) を21日サイクルで4サイクル受けた。
  • Step 2 (ランダム化): Step 1完了後、病勢進行を認めない(病勢安定 [SD]、部分奏効 [PR]、完全奏効 [CR])患者は、観察群 (n=111) またはトポテカン群 (n=112) に無作為に割り付けられた。トポテカン群の患者は、トポテカン 1.5 mg/m²/日 (静脈内投与、day 1-5) を21日サイクルで4サイクル受けた。ランダム化は、Step 1での腫瘍縮小率 (<5% vs ≥5%) で層別化された。

毒性評価と用量調整: 毒性評価はNCI Common Toxicity Criteria (CTC) に基づいて行われた。エトポシドおよびトポテカンの用量調整は、骨髄抑制(好中球減少、血小板減少)およびその他の非血液学的毒性に応じてプロトコルに定められた基準に従って行われた。G-CSFの使用は担当医の裁量に委ねられた。

評価項目: 主要評価項目はStep 2ランダム化からの全生存期間 (OS) とした。副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、QOL (Functional Assessment of Cancer Therapy-Lung [FACT-L] 質問票を用いて評価)、および毒性プロファイルであった。FACT-LはStep 2ランダム化時、6週後、16週後に実施された。QOL評価には、身体的、機能的、感情的、社会的、肺癌特異的の6つの領域を評価する43項目の質問からなるFACT-L Version 3.0が用いられ、Trial Outcome Index (TOI) が主要なQOL指標とされた。

統計解析: 統計学的解析には、Kaplan-Meier法による生存曲線推定、ログランク検定による群間比較、およびCox比例ハザードモデルによる多変量解析が用いられた。統計的有意水準は両側P値で0.05と設定された。研究デザインでは、片側ログランク検定でタイプIエラー2.5%、検出力90%でOS中央値が8ヶ月から12ヶ月へ50%増加することを検出するために、284例のランダム化患者が必要とされた。中間解析はO’Brien-Fleming群逐次デザインを用いて実施された。QOLスコアの群間比較にはWilcoxon順位和検定が用いられた。