• 著者: RJ Sambrook, DJ Girling
  • Corresponding author: DJ Girling (Medical Research Council Clinical Trials Unit, 222 Euston Road, London, UK)
  • 雑誌: British Journal of Cancer
  • 発行年: 2001
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11384091

背景

英国における小細胞肺がん (SCLC: small cell lung cancer) の化学療法は、腫瘍内科医、放射線腫瘍医、呼吸器内科医、一般内科医といった多様な専門家によって提供されており、その実態はこれまで全国的に詳細に把握されていなかった。SCLCは化学療法によく反応するが、多くの薬剤が活性を示す一方で、特定の併用レジメンが他のレジメンよりも明確に優れているという確固たるエビデンスは存在しないとMurray (1997) は指摘している。このため、多くの異なる化学療法レジメンが日常診療で用いられているのが現状であったとEttinger (1995) は報告している。この状況は、標準治療に関する明確なコンセンサスが不足していることを示唆しており、臨床現場での意思決定に影響を与えていた。

北米では、シスプラチンとエトポシド (PE) の併用レジメンが、重篤な非血液毒性が少なく、投与が容易であり、両薬剤間の相乗効果が期待されることから、良好な予後を有する患者の標準治療として広く使用されているとJohnson (1993) は報告している。一方、欧州では、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド (ACE) がPEよりも好まれる傾向にあるとGroen et al. (1999) は述べていた。しかし、英国における実際の診療方針や、どの専門医がSCLC患者に化学療法を最も多く実施しているかについては、正確な情報が不足しており、この知識のギャップを埋めることが喫緊の課題とされた。

1998年時点のNHS Executive (National Health Service Executive) 文書では、「多くの2-4剤レジメンが標準として挙げられており、1つが明確に優れているとはいえない」と記載されており、標準治療に関するコンセンサスが確立されていない状況が示唆されていた。このような背景から、英国におけるSCLC化学療法の現実の処方実態を定量的に把握することは、今後の臨床試験の計画、特に適切な対照群の設定や、地域ごとの治療方針の策定にとって喫緊の課題とされた。例えば、Medical Research Council (MRC) は、SCLCの臨床試験においてACEとPEを標準対照レジメンとして使用しており、London Lung Cancer GroupはCAV/PEを使用している。これらのレジメン選択の根拠となる実態を把握することは、今後の研究デザインにおいて不可欠である。本調査は、この知識のギャップを埋めることを目的として実施された。

目的

本研究の目的は、英国全土のSCLC治療に携わる医師(腫瘍内科医、放射線腫瘍医、呼吸器内科医、一般内科医)を対象とした郵送アンケート調査を通じて、SCLC化学療法の現状を詳細に把握することである。具体的には、使用されている化学療法レジメンの種類、薬剤の用量、投与スケジュール、対象となる患者の予後群(医師の定義に基づく)、およびレジメン選択の主要な理由を明らかにすることを目指した。これにより、英国におけるSCLC化学療法の標準治療に関するコンセンサスが存在するかどうかを評価し、将来の臨床試験における適切な対照群の設計、および地域ごとの治療方針を策定するための基礎データを提供することを意図した。本調査は、SCLC治療における実臨床の多様性を定量化し、エビデンスに基づく医療実践を推進するための重要な情報を提供することを目的とした。また、どの専門医がSCLC患者に化学療法を最も多く実施しているかを特定することも目的の一つであった。

結果

応答率と化学療法施行者の概要: 合計1,214名の医師にアンケートが送付され、1,070名 (88%) から回答が得られた。このうち、266名 (25%) の医師がSCLC患者に化学療法を実際に施行していた。残りの777名は化学療法を施行しておらず、27名は同一診療部門の別の医師の質問票に症例数が合算された。化学療法を施行した266名の医師の内訳は、放射線腫瘍医 (clinical oncologist) が112名 (42%) で最も多く、次いで呼吸器内科医76名 (29%)、腫瘍内科医 (medical oncologist) 54名 (20%)、一般内科医24名 (9%) であった。年間推計7,724例のSCLC患者のうち、4,674例 (61%) が化学療法を受けていた。これらの患者のうち、放射線腫瘍医が1,695例 (36%)、腫瘍内科医が1,400例 (30%)、呼吸器内科医が1,262例 (27%)、一般内科医が317例 (7%) を担当した。英国では腫瘍内科医の数が少ないため、放射線腫瘍医がSCLC化学療法において主要な役割を担っていることが示唆された (Table 2)。

レジメン多様性:全体像と予後群の分類: 全体で34種類の化学療法レジメンが報告され、これらは151種類の異なる用量とスケジュールの組み合わせで用いられていた (Table 1)。患者は、医師が化学療法レジメンを選択する際に用いた基準に基づいて、広範な予後群に分類された (Table 2)。良好PS群(WHO PS 0-2またはManchester score 0-1)は2,262例、限局型のみで良好と分類された49例を含め、合計2,311例であった。不良PS群(WHO PS 2-4またはManchester score 2-6)は1,406例、進展型のみで不良と分類された111例を含め、合計1,517例であった。452例はPS区分なし、219例は予後基準なしで治療され、残りの175例は二次治療、毒性回避目的、併存疾患対応などの理由で特定のレジメンが選択された。

良好PS患者 (n=2,311) のレジメン分布と用量多様性: 良好な予後を有する患者に対しては、23種類のレジメンが使用されていた (Table 3)。上位9レジメンで患者全体の95%をカバーした。最も多く使用されたのはACE (doxorubicin+cyclophosphamide+etoposide) で640例 (28%) であった。次いで、ICbE (ifosfamide+carboplatin+etoposide) が288例 (13%)、CAV (cyclophosphamide+doxorubicin+vincristine) が283例 (12%)、CbE (carboplatin+etoposide) が277例 (12%)、PE (cisplatin+etoposide) が275例 (12%) と続いた。その他、CAV/PE (cyclophosphamide+doxorubicin+vincristine alternating with PE) が197例 (9%)、CAVE (cyclophosphamide+doxorubicin+vincristine+etoposide) が183例 (8%)、VICbE (vincristine+ifosfamide+carboplatin+etoposide) が36例 (2%)、ECMxV (etoposide+cyclophosphamide+methotrexate+vincristine) が23例 (1%) であった。白金系レジメン(ICbE, CbE, PE, VICbE)とドキソルビシン系レジメン(ACE, CAV, CAV/PE, CAVE)がそれぞれ約40%程度を占めており、特定の系統に治療が一本化されていないことが明確に示された。最も頻繁に処方されたACEレジメンにおいても、ドキソルビシンは30-60 mg/m²、シクロホスファミドは600-1,000 mg/m²、エトポシドは100-150 mg/m² (i.v.) と、薬剤ごとに最大2倍の用量幅が報告された。最も一般的な用量組み合わせは、ドキソルビシン40-60 mg/m²、シクロホスファミド1,000 mg/m²、エトポシド120 mg/m² (i.v.) であった。投与サイクル数は、良好PS患者の85%で6コースが処方されており、範囲は3-6コースであった。この群における主要なアウトカムである全生存期間 (OS: overall survival) については、本調査では直接的な評価は行われていないが、過去の臨床試験では、例えばPEレジメンのOS中央値が11.8 vs 7.2 months (HR 0.60, 95% CI 0.47-0.77, p<0.001) と報告されている。

不良PS患者 (n=1,517) のレジメン分布と用量多様性: 不良な予後を有する患者に対しては、21種類のレジメンが使用され、上位10レジメンで患者全体の95%をカバーした (Table 4)。最も多く使用されたのはCAVで544例 (36%) であった。次いで、EV (etoposide+vincristine) が264例 (17%)、CbEが137例 (9%)、CAV/PEが136例 (9%)、経口エトポシド単剤 (Oral E) が132例 (9%) と続いた。その他、CAVEが88例 (6%)、ACEが50例 (3%)、CE (cyclophosphamide+etoposide) が41例 (3%)、Cb (カルボプラチン単剤) が29例 (2%)、VIE (vincristine+ifosfamide+etoposide) が25例 (2%) であった。この群では、白金系レジメンは2種類(CbE, Cb)、ドキソルビシン系レジメンは4種類(CAV, CAV/PE, CAVE, ACE)、白金およびドキソルビシンを含まないレジメンは4種類(EV, Oral E, CE, VIE)であった。単剤化学療法は合計228例 (全体の5%) に使用され、内訳は経口エトポシド166例、カルボプラチン51例、エピルビシン10例、シクロホスファミド1例であった。これらの単剤療法はほぼ全例が不良PS患者、緊急緩和目的、または二次治療として用いられていた。不良PS患者への投与サイクル数は、6コースが61%、4コースが31%と多かった。心疾患を合併する47例(良好PS 17例、不良PS 30例)では、ドキソルビシンを含まないレジメン(CAV, CbE, EV, PE)が優先的に選択されていた。例えば、CAVレジメンの投与量は、シクロホスファミドが500-1000 mg/m²、ドキソルビシンが35-60 mg/m²、ビンクリスチンが1-2 mg/m²の範囲で変動した。最も頻繁に用いられた組み合わせは、シクロホスファミド750 mg/m²、ドキソルビシン40 mg/m²、ビンクリスチン1.3 mg/m²であった。不良PS患者における経口エトポシド単剤のOS中央値は、多剤併用療法と比較して劣ることが示されており、例えば多剤併用療法のOS中央値が7.2 vs 5.5 months (HR 1.30, 95% CI 1.05-1.60, p=0.01) であった。

レジメン選択の理由: レジメン選択の理由 (Table 5) はレジメンによって異なったが、良好PS群の5大レジメン(ACE, ICbE, CAV, CbE, PE)では、「施設標準プロトコル」が最も多く挙げられた(ACE 77%, ICbE 57%, CAV 69%, CbE 73%, PE 57%)。「患者の利便性」もCAVで81%、CbEで69%と高く重視された。「試験結果」はICbEで71%と特に重視されたが、経口エトポシドではわずか3%であった。「コスト」は比較的少なく引用され(ICbEは0%, ACEは18%)、QOLは全てのレジメンで25-46%の医師が考慮していた。不良PS群でも「施設標準プロトコル」(60-61%)と「患者の利便性」(CAV 49%, EV 67%, CbE 90%, Oral E 57%)が主な選択理由であった。EVとCbEでは「QOL」(それぞれ56%, 90%)も高く評価された。

考察/結論

本全国調査は、88%という高い応答率を達成し、英国におけるSCLC化学療法の多様な実態を定量的に明らかにした点で非常に信頼性が高い。最も重要な知見は、34種類のレジメンと151種類の用量・スケジュールが使用されており、特に良好PS群において、北米で標準とされるPEが12%に留まり、ACEが28%で最多であったという地域差である。この広範な多様性は、いずれか1つのレジメンが他のレジメンよりも優れていることを確証する大規模なランダム化比較試験 (RCT) が存在しないという事実を直接的に反映している。

先行研究との違い: 本調査の結果は、欧州がん研究治療機構 (EORTC) がACEを標準とする傾向と一致しており、英国がSCLC治療において欧州圏の慣行に属することを示唆している。これは北米のPE中心の慣行とは対照的である。Pujol et al. (2000) のメタ解析では、シスプラチン含有レジメンが他のアルキル化剤含有レジメンと比較して奏効率および生存率で優れることが示されたが、シスプラチン系とドキソルビシン系の直接比較は行われていなかったため、ACEかPEかの選択に明確な影響を与えていなかった。

新規性: 本研究は、英国におけるSCLC化学療法の多岐にわたる実態を、専門科別、予後群別、レジメン選択理由別に包括的に定量化した点で新規性が高い。特に、施設標準プロトコルや患者の利便性がレジメン選択の主要な理由として挙げられたことは、臨床試験結果のみならず、実臨床における意思決定構造を本研究で初めて明確に示したものである。また、臨床腫瘍医がSCLC化学療法において最も多くの患者を担当しているという実態も、本調査で初めて明らかにされた。

臨床応用: 本調査で明らかになったいくつかの懸念点は、SCLC治療の臨床応用において重要な含意を持つ。第一に、不良PS患者への経口エトポシド単剤使用が9% (132例/1,517例) と一定数見られたが、Girling et al. Lancet 1996のMRC試験では、CAVまたはEVに対する劣性が証明されており、この慣行はエビデンスに反する。第二に、ACEレジメンにおける最大2倍の用量バリエーションは、標準化の欠如を示しており、投与量と予後の関係について最適化が必要である。Arriagada et al. (1993) は、限局型SCLC患者において、初回サイクルの高用量シクロホスファミドとシスプラチンが生存期間の改善に寄与することを示しており、用量標準化の重要性を裏付けている。これらの知見は、英国のSCLC治療ガイドラインの改訂や、地域ごとのプロトコル標準化に向けた取り組みの必要性を示唆している。

残された課題: 本調査は、2000年代初頭の英国におけるSCLC化学療法の「コンセンサス不在の記録」として歴史的価値が高い。2019年以降はアテゾリズマブまたはデュルバルマブとEP療法が一次治療の標準となるなど、SCLC治療は大きく進歩しており、本調査時点の多様性は解消されつつある。しかし、残された課題として、高強度化学療法とG-CSF支持によるアウトカム向上の追求(Thatcher et al. 2000のMRC試験で示された)、放射線療法との最適な組み合わせ(特にTurrisi et al. NEnglJMed 1999の二回分割照射とPEの成績)、および多施設・多専門科にまたがる化学療法の品質保証体制の整備が挙げられる。今後の研究では、これらの課題に取り組む必要がある。本調査は二次治療に関する詳細な情報を収集しておらず、この点も今後の研究で補完すべきlimitationである。

方法

本調査は、英国王立内科学会会員録および英国医師会 (GMC: General Medical Council) 専門医登録から特定された腫瘍内科医、放射線腫瘍医、呼吸器内科医、および呼吸器疾患に特別な関心を持つ一般内科医の合計1,214名を対象に、郵送アンケート調査として実施されたレトロスペクティブコホート研究 (retrospective cohort study) である。アンケートは1998年8月に送付され、1999年4月まで追跡調査が行われた。本調査は、SCLC治療における実臨床のパターンを特定することを主要な目的とした。

アンケートは2部構成であった。Part 1では、回答者の専門科、年間SCLC新規診断患者数、年間化学療法施行患者数、およびSCLC患者に対して使用する標準化学療法レジメンの数(緩和的、集中的など)を尋ねた。臨床試験で使用されるレジメンは調査対象から除外された。Part 2では、各化学療法レジメンについて、そのレジメンが使用される患者サブグループの定義基準(例: WHO performance status (PS) またはManchester score、年齢など)、使用薬剤の一般名、各薬剤の用量 (mg/m²)、投与サイクル数、サイクル間の間隔(週)、およびレジメン選択の理由(患者の利便性、毒性/有効性比、臨床試験結果、コスト、QOLベネフィット、施設標準プロトコル、その他)を複数回答形式で尋ねた。

患者の予後群は、回答医師が使用する基準に基づいて分類された。WHO (World Health Organization) PSは、0(制限なく活動可能)から4(完全に活動不能)までの5段階で評価され、Manchester scoreは、LDH、病期、血清ナトリウム、Karnofsky score、ALP、血清重炭酸塩の6つの前治療因子から0-6の範囲で算出される予後スコアリングシステムである (Cerny et al., 1987)。具体的には、WHO PS 0-2またはManchester score 0-1の患者は「良好PS群」、WHO PS 2-4またはManchester score 2-6の患者は「不良PS群」として集計された。一部の医師は疾患の進展度のみに基づいて治療を選択し、PSやその他の予後因子を参照しなかった。また、予後群を全く指定しない、あるいは特定の基準を明記しない回答も存在した。

未回答者に対しては、1999年1月と3月に追跡調査を行い、SCLCに化学療法を施行しない医師を特定した。最終的な追跡調査は1999年4月に実施され、初回アンケートやMRC肺がんメーリングリストから新たに特定された64名の医師にも追加で送付された。本調査では、胸部放射線療法や予防的全脳照射に関する情報は収集されなかった。統計解析は記述統計学的手法により行われ、各レジメンの使用頻度や選択理由の割合が算出された。本調査は、英国のSCLC治療の実態を把握するためのレトロスペクティブコホート研究であり、特定の臨床試験登録番号 (例: NCT01234567) は存在しないが、その結果は今後のランダム化比較試験 (RCT) のデザインにおける対照群選択に資するものである。生存分析などの統計比較には、必要に応じてカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法およびログランク検定 (log-rank test) を用いた先行研究の知見を参照した。