• 著者: Andrew T. Turrisi III, Kyungmann Kim, Ronald Blum, William T. Sause, Robert B. Livingston, Ritsuko Komaki, Hans Wagner, Seymour Aisner, David H. Johnson
  • Corresponding author: Andrew T. Turrisi III (Medical University of South Carolina, Charleston)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 1999
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Phase III Randomized Controlled Trial)
  • PMID: 9920950

背景

小細胞肺癌 (SCLC: small cell lung cancer) は肺癌全体の約 20% を占め、その生物学的特性として極めて増殖が早く、早期から転移を来しやすい。このうち、病変が片側胸郭内および同側の鎖骨上窩リンパ節までに限局し、安全な放射線照射野 (ポータル) に収まる病態は限局型 (LD-SCLC: limited-stage small-cell lung cancer) と定義される。LD-SCLC に対する標準治療として、化学療法 (ChT: chemotherapy) と胸部放射線療法 (TRT: thoracic radiotherapy) の併用療法が広く用いられてきた。Pignon らのメタアナリシス (1992) において、化学療法単独群と比較して胸部放射線療法を併用する群が全生存期間 (OS: overall survival) を有意に改善することが示されている (Pignon et al. NEnglJMed 1992)。しかし、このメタアナリシスに含まれる多くの試験ではシクロホスファミドやドキソルビシンをベースとした古い化学療法レジメンが使用されており、最適な放射線総線量、分割法、および化学療法との併用タイミングは未確立であった。

SCLC の放射線生物学的特徴として、腫瘍細胞株は放射線感受性が高く、生存曲線において低線量域のショルダーを欠くため、1回あたりの照射線量を低く抑えた多分割照射でも指数関数的な細胞死を誘導できることが知られていた。一方で、治療期間中に腫瘍細胞が急速に再増殖する「加速再増殖 (accelerated repopulation)」が生じるため、総治療期間を短縮することが極めて重要であると理論的に提唱されていた。Murray らの NCIC-CTG 試験では、化学療法のサイクル 2 開始時に胸部放射線療法を同時併用する早期併用群が、サイクル 6 開始時に併用する遅延群よりも生存期間において優れることが報告され、照射タイミングの重要性が認識されつつあった (Murray et al. JClinOncol 1993)。また、欧州の試験などでは化学療法と放射線療法を交互に行う alternating 治療や sequential 治療が検討されていたが、毒性や効果の面で十分なコンセンサスは得られていなかった (Gregor et al. JClinOncol 1997)。

先行する少数例のパイロット試験において、1日2回 (BID: twice-daily) 照射する加速過分割照射とシスプラチン+エトポシド (PE: cisplatin/etoposide) 併用化学療法の同時併用により、2年生存率約 40%、Grade 3 の急性食道炎が 35% から 40% 程度という忍容可能かつ有望な成績が示されていた。しかし、従来の1日1回 (QD: once-daily) 照射に対する BID 照射の優越性を直接検証した第III相ランダム化比較試験は存在せず、標準治療としての位置づけは未確定であった。具体的には、(1) 同一の化学療法レジメンおよび同一の放射線総線量 (45 Gy) を用いて分割スケジュールのみを直接比較した大規模試験がないこと、(2) 5年以上の長期追跡に基づく治癒割合の評価が不足していること、(3) 急性食道炎などの毒性プロファイルが詳細に定量化されていないこと、という課題が存在していた。このように、LD-SCLC 治療における最適な放射線分割スケジュールを決定するための直接比較データが決定的に不足していた。本研究は、これらの未解明な課題を解決し、最適な集学的治療法を確立することを目的に実施された。

目的

限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) 患者を対象に、シスプラチン+エトポシド (PE) 同時併用化学療法下において、総線量 45 Gy の胸部放射線療法 (TRT) を「1日2回 (BID) の加速過分割照射 (3週間で完了)」で行う群と、「1日1回 (QD) の従来型分割照射 (5週間で完了)」で行う群を直接比較する。主要評価項目 (primary endpoint) として全生存期間 (OS) における BID 照射群の優越性を検証し、副次評価項目として局所制御率、奏効率、および急性食道炎をはじめとする有害事象プロファイルを詳細に評価・比較することを目的とする。

結果

生存期間 (OS) における BID 照射の有意な延長: 追跡期間中央値約 8 年の長期追跡において、解析対象 417 例のうち 335 例 (80.3%) の死亡が確認された (QD群 175/206 例 = 85.0%、BID群 160/211 例 = 75.8%)。生存期間中央値は、1日1回 (QD) 照射群の 19 vs 1日2回 (BID) 照射群の 23 months であり、BID 照射群で有意な生存期間の延長を認めた (log-rank p=0.04)。生存割合の推移をみると、2年生存率は QD 群 41% (95% CI 35-47%) vs BID 群 47% (95% CI 41-53%) であり、治療開始初期の差はわずかであった。しかし、5年生存率においては QD 群 16% (95% CI 11-21%) vs BID 群 26% (95% CI 20-32%) となり、長期経過において 10% の絶対差をもって BID 群の生存優位性が顕著となった。死亡におけるハザード比は、QD群に対するBID群の比較で HR 1.2 (95% CI 1.0-1.6, p=0.04) であり、QD 群に対する BID 群の優越性が示された (Figure 1)。

奏効率および組織型別の解析結果: 適格例 381 例を対象とした副次評価項目である奏効率の解析において、全奏効率 (ORR) は QD 群 87% (CR 49%, PR 38%) vs BID 群 87% (CR 56%, PR 31%) であり、両群間で有意差を認めなかった (p=0.23) (Table 4)。完全奏効 (CR) 割合は BID 群で数値的に高かったものの、統計学的有意差には至らなかった。また、登録患者のうち組織学的データが得られた症例において、variant 組織型 (大細胞混在型) は 8 例 (2.1%) のみであり、古典型 (classic) 組織型と比較して奏効率や生存期間に明らかな相違はみられなかった。

再発形式と局所制御率の改善: 治療不応または再発に焦点を当てた解析において、2年無増悪生存 (failure-free survival) 率は QD 群 24% vs BID 群 29% であった (p=0.10)。再発パターンの詳細を検討したところ、胸郭内の局所単独再発率は QD 群 52% に対し、BID 群では 36% と低下傾向を示した (p=0.06)。さらに、局所再発と遠隔転移が同時に発現した割合は、QD 群 23% vs BID 群 6% と有意に抑制されていた (p=0.01)。多変量解析において、男性 (p=0.01) および PS 2 (p=0.005) は、短い無増悪生存期間と有意に関連する予後不良因子であった。この結果から、加速過分割照射による局所制御の向上が、最終的な生存期間の延長に寄与していることが示唆された。

急性食道炎の頻度上昇と可逆性: 有害事象の比較において、急性食道炎の発生頻度および重症度に両群間で顕著な差が認められた (p<0.001) (Table 2)。食道炎を認めなかった割合 (Grade 0) は QD 群 56% に対し、BID 群では 37% に減少した。固形物の嚥下困難を伴い、麻薬性鎮痛薬の投与や経管栄養チューブの留置を必要とする Grade 3 の急性食道炎は、QD 群 11% (22/203 例) vs BID 群 27% (56/206 例) と約 2.5 倍に有意に増加した。しかし、入院や食道穿孔を伴う Grade 4 の食道炎は両群ともに 5% (各群 11 例) で同等であり、急性食道炎に起因する永続的な食道狭窄の報告はなく、全例において症状は可逆的であった。

血液毒性および治療関連死の群間比較: 骨髄抑制をはじめとする血液毒性は、両群ともに極めて高頻度かつ重篤であったが、群間差は認められなかった (Table 3)。Grade 4 の好中球減少症 (granulocytopenia) は QD 群 60% vs BID 群 59% (p=0.75)、Grade 4 の白血球減少症 (leukopenia) は QD 群 39% vs BID 群 44% (p=0.35) であり、Grade 3 の血小板減少症 (thrombocytopenia) も両群ともに 8% (p=0.83) と同等であった。また、Grade 3-4 の肺毒性 (放射線肺炎など) は QD 群 1% vs BID 群 2% (p=0.97) と極めて低頻度であった。治療関連死は QD 群 5 例 (2.4%) vs BID 群 6 例 (2.8%) であり、統計学的有意差は認められなかった (p=0.80)。重篤な骨髄抑制が生じたものの、適切な支持療法により管理可能であった。

考察/結論

本試験は、限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) に対するシスプラチン+エトポシド (PE) 同時併用化学放射線療法において、1日2回 (BID) の加速過分割胸部放射線療法 (45 Gy/3週間) が、1日1回 (QD) の従来型照射 (45 Gy/5週間) と比較して、長期生存割合を有意に改善することを実証した歴史的な第III相ランダム化比較試験である。特に BID 群で達成された 5年生存率 26% という成績は、当時の LD-SCLC に対する共同研究グループによる大規模試験の成績を大きく塗り替える画期的な成果であった。

先行研究との違い: 本研究は、シクロホスファミドやドキソルビシンをベースとした古い化学療法レジメンを用いていた従来の先行研究と異なり、食道や肺への毒性が比較的低く放射線療法との同時併用が容易な PE レジメンを基盤として採用した点がこれまでの治療開発の歴史と異なる。Pignon らのメタアナリシスでは放射線療法の併用による 3年生存率の改善効果はわずか 5% 程度にとどまっていたが、本試験では PE と TRT の早期同時併用により生存率を大幅に向上させた (Pignon et al. NEnglJMed 1992)。また、放射線の分割スケジュールのみを同一プロトコル内で直接比較し、1日2回照射の優越性を統計学的に証明した点は、これまでのパイロット試験や歴史的対照比較とは一線を画する。

新規性: 本研究で初めて、放射線生物学的な仮説である「腫瘍細胞の加速再増殖の抑制」および「低線量分割による正常組織保護」を、大規模な臨床試験において新規に実証した。1日2回照射により総治療期間を 5 週間から 3 週間へと短縮することが、局所制御率の向上 (局所+遠隔同時再発の有意な抑制) をもたらし、それが最終的な長期生存割合の改善へと直結することを示した点が極めて新規な知見である。

臨床応用: 本試験の結果に基づき、PE 化学療法と同時併用する「1日2回、計 45 Gy/3週間の胸部放射線療法」および完全奏効例に対する予防的全脳照射 (PCI) は、国内外のガイドラインにおいて LD-SCLC の標準治療として位置づけられ、臨床現場に広く普及した。Grade 3 の急性食道炎が 27% と高頻度に発生する点は臨床上の懸念材料であるが、これらは一時的かつ可逆的であり、適切な鎮痛管理や栄養サポートなどの支持療法によって十分に管理可能であるため、臨床的有用性は極めて高い (Lenz et al. Oncologist 2007)。生存期間の延長という最大のベネフィットが急性毒性のリスクを上回ると判断される。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、高齢者 (65歳超) や全身状態不良 (PS 2) の患者における BID 照射の忍容性と安全性の検証が挙げられる。本試験のサブグループ解析ではこれらの集団における明確な結論は得られていない。第二に、QD 照射の線量を 60-70 Gy まで高線量化した場合と BID 45 Gy との比較である。第三に、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を併用する現代の集学的治療体系において、放射線分割スケジュールが免疫微小環境や治療効果に与える影響の解明が挙げられ、今後の研究による進展が期待される。本試験には長期追跡における遅発性毒性の詳細な定量的データが限られているという limitation も残されている。

方法

試験デザインと患者割付: 本試験は、米国東部共同腫瘍学グループ (ECOG: Eastern Cooperative Oncology Group) が主導し、放射線治療腫瘍学グループ (RTOG: Radiation Therapy Oncology Group) および南西腫瘍学グループ (SWOG: Southwest Oncology Group) が共同で実施した多施設共同オープンラベル第III相ランダム化比較試験 (phase III randomized controlled trial) である。プロトコル番号として EST-3588 (RTOG-88-15 / SWOG-8869) が付与された。1989年5月から1992年7月までに計 419 例が登録され、重複登録された 2 例を除く 417 例 (BID群 211 例、QD群 206 例) を意図した治療 (ITT: intention-to-treat) 解析対象とした。割付調整因子として、ECOG performance status (PS) (0-1 vs 2)、性別、および過去6ヶ月以内の体重減少割合 (<5% vs ≥5%) を層別化因子とした permuted-block 法によるランダム化が行われた。

適格基準: 組織学的または細胞学的に証明された小細胞肺癌であり、病変が片側胸郭内、同側鎖骨上窩、またはその両方に限局している未治療患者を対象とした。主な適格基準は、白血球数 ≥4,000/mm³、血小板数 ≥100,000/mm³、血清クレアチニン値 <1.5 mg/dL、AST/ALT値 <2×ULN (基準値上限)、および1秒量 (FEV1) ≥1.0 L である。胸部 X 線で明らかな胸水を有する症例、対側肺門や対側鎖骨上窩リンパ節転移を有する症例、過去6ヶ月以内の心筋梗塞合併例、および既治療例は除外された。

化学療法レジメン: 両群共通して、シスプラチン 60 mg/m² (day 1) およびエトポシド 120 mg/m² (day 1, 2, 3) を 3週間 (21日) 間隔で計 4 サイクル投与した。最初の 2 サイクルにおいては化学療法の減量は行わず、サイクル 3 および 4 において、前サイクルでの Grade 4 の血液毒性や発熱性好中球減少症、または腎機能低下 (血清クレアチニン値の上昇) に応じた規定の減量を実施した。なお、本試験では顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) などの造血増殖因子は原則として使用されなかった。

胸部放射線療法 (TRT): 放射線治療は化学療法のサイクル 1 の day 1 から同時に開始された。総線量は両群ともに 45 Gy とした。

  • 1日2回 (BID) 照射群: 1回 1.5 Gy、1日2回 (最低 6 時間以上の間隔を空ける)、週5日、計 30 回を 3 週間で照射した。
  • 1日1回 (QD) 照射群: 1回 1.8 Gy、1日1回、週5日、計 25 回を 5 週間で照射した。 照射野は、治療計画 CT に基づき原発巣および両側縦隔、同側肺門リンパ節を含む領域 (マージン 1-1.5 cm) とし、予防的鎖骨上窩照射は禁止された。コバルト60治療器の使用は不可とし、リニアックのみを用いた。化学療法終了後に完全奏効 (CR) が得られた症例に対しては、脳転移予防を目的として、予防的全脳照射 (PCI: prophylactic cranial irradiation) を 2.5 Gy × 10回 (総線量 25 Gy) で実施することを推奨した。

統計解析: 主要評価項目は OS とし、カプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用いて生存曲線を推定した。2年生存率において QD 群の 25% に対し、BID 群で 40% への改善 (15% の絶対差、ハザード比 1.4 に相当) を検出するため、両側 α=0.05、検出力 82% として必要症例数を 400 例と算出した。群間比較には層別 log-rank 検定を用い、予後因子の多変量解析には Cox 比例ハザード回帰モデル (Cox proportional hazards regression model) を用いた。毒性評価には Common Toxicity Criteria (CTC) v2.0 を使用し、カテゴリカルデータの比較には Fisher の正確検定 (Fisher’s exact test) および Kruskal-Wallis 検定を用いた。追跡期間中央値は約 8 年である。