• 著者: Robert B. Livingston, John J. Crowley, Tove Thompson, Stephen K. Williamson, Frederick J. Meyers, Timothy O’Rourke, John R. Neefe
  • Corresponding author: Robert B. Livingston (Southwest Oncology Group [SWOG] Operations Office, San Antonio, TX)
  • 雑誌: Cancer
  • 発行年: 1993
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 8387881

背景

1990年代初頭、進展型小細胞肺癌 (extensive-stage small cell lung cancer: ED-SCLC) の標準治療は、シスプラチン・エトポシド (PE) とシクロホスファミド・ドキソルビシン・ビンクリスチン (CAV) の交互投与療法であった。このアプローチは、National Cancer Institute of Canada (NCIC) のランダム化試験 (Evans et al. 1987) により、CAV単独反復療法と比較して生存期間の優位性 (中央生存期間 9.7ヵ月 vs 8.0ヵ月、p=0.03) が示され、交互非交叉耐性療法 (non-cross-resistant alternating chemotherapy) の有効性が確立された。しかし、その後のRoth et al. 1992 (ECOG 1591) などのランダム化比較試験では、PE単独療法とCAV/PE交互療法の間で生存期間に差が認められず、交互療法の絶対的な優位性については議論が残されていた。

同時期に、薬物動態学および臨床試験においていくつかの重要な進展があった。第一に、エトポシドの有効性が投与スケジュールに依存することが示唆された (Slevin et al. 1989)。例えば、24時間連続投与と比較して5日間ボーラス投与で奏効率が大幅に向上する可能性が報告された。第二に、Johnson et al. 1990 は、再発または難治性SCLC患者に対し、経口エトポシドの21日間延長投与が45%という高い奏効率を示すことを報告し、その活性に注目が集まった。第三に、Hainsworth et al. 1989 は、経口エトポシドの慢性的な連日投与の忍容性を確立する第I相試験を実施した。第四に、Struck et al. 1987やMoore et al. 1987の研究により、経口シクロホスファミドの生物学的同等性が確認された。最後に、Klasa et al. 1987によるメタ解析では、エトポシドとシスプラチンの併用療法において、用量強度と奏効率の間に正の相関が示唆された。しかし、シクロホスファミドやドキソルビシンについては同様の相関は観察されなかった。

これらの知見を背景に、「経口エトポシドの14日間延長投与と経口シクロホスファミドの21日間投与を組み合わせることで、PE/CAV交互レジメンの用量強度を最大化し、外来ベースでED-SCLC患者の生存期間を改善できるのではないか」という仮説が立てられた。先行するMurray et al. 1991による集中的週次化学療法に関する第II相試験は、用量強度増加戦略を支持するデータを示したが、CAV/PE交互レジメンに経口延長スケジュールを統合した第II相試験は本研究が初めてであり、この戦略の有効性は未解明であった。従来の標準的なPE/CAV交互療法と比較して、用量強度を増加させた本レジメンが優位性を示すか否かは、当時のED-SCLC治療における重要な課題として残されていた。特に、エトポシドの投与スケジュール依存性や用量強度と効果の関連性に関する知識ギャップが存在し、これらの知見を臨床に適用した新しい治療戦略の評価が不足していた。

目的

本SWOG-8857第II相試験の目的は、進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象に、以下の点を評価することである。

  1. 有効性の評価: 経口エトポシド14日間投与と経口シクロホスファミド21日間投与を含む、用量強度最大化PE/CAV交互レジメン (SWOG-8857) の全奏効率 (overall response rate: ORR) および中央生存期間 (median overall survival: OS) を評価する。
  2. 標準療法との比較: 本レジメンが、当時の標準的なPE/CAV交互療法 (報告されている中央生存期間8.8〜9.6ヵ月) と比較して、生存期間の改善をもたらすかを検証する。この比較は、用量強度増加がED-SCLCの予後改善に繋がるかという未解明な問いに答えることを目指した。
  3. 用量強度達成率と毒性プロファイル: 計画用量強度に対する実際の相対用量強度 (relative dose intensity: RDI) 達成率を定量化し、本レジメンの毒性プロファイル、特に骨髄抑制および治療関連死の発生率を詳細に評価する。外来ベースでの長期経口投与の安全性と忍容性を確認することも重要な目的であった。
  4. 再発パターン解析: 治療後の再発パターン、特に脳転移の頻度を解析し、予防的全脳照射 (prophylactic cranial irradiation: PCI) の必要性および最適な適用対象を検討する。これにより、脳転移に対する現在のPCI戦略の限界を評価する。

これらの目的を通じて、経口薬を用いた用量強度増加戦略がED-SCLC治療において有効かつ安全な選択肢となり得るかを判断し、今後の治療戦略の方向性を示すことを目指した。

結果

全奏効率57%・CR 6.5% + 中央生存8.0ヵ月: 登録された61例のED-SCLC患者において、厳格なSWOG基準に基づき、完全奏効 (CR) は4例 (6.5%)、部分奏効 (PR) は11例 (18%) であった。さらに20例の患者が、1回の評価で50%以上の腫瘍縮小を示したが、4週間後の全病変部位での確認測定が得られなかった (unconfirmed PR)。これらを合わせた全奏効率は57% (95% CI 44-69%) であった。この奏効率は、当時の標準的なPE/CAV交互療法の報告範囲 (57-80%) の下限に位置しており、用量強度を増加させたにもかかわらず、奏効率の改善は認められなかった。中央生存期間 (median overall survival, OS) は8.0ヵ月 (95% CI 6.8-9.9ヵ月) であり、1年生存率は20%であった (Fig 1)。これは、Evans et al. 1987 NCIC試験のCAV/PE交互群の中央生存期間9.7ヵ月や、Roth et al. 1992 ECOG 1591のPE vs CAV/PE群の中央生存期間8.8-9.6ヵ月と比較して、統計学的な有意差は認められなかった (Table 4)。

PS別生存解析と再発パターン: 患者のPerformance Status (PS) 別に生存期間を解析した結果、PS 0-1群 (43例、70%) の中央生存期間は9.2ヵ月であったのに対し、PS 2-3群 (18例、30%) では6.3ヵ月であった (Fig 2)。ログランク検定ではp=0.08と有意傾向が認められたものの、統計学的な有意差には至らなかった。奏効した35例中21例 (60%) が再発を経験し、そのうち14例が単一部位再発、7例が多部位再発であった (Table 4)。単一部位再発の最多部位は脳であり、6例 (43%) で認められた。次いで肺4例、リンパ節3例、骨1例であった。この脳再発の高頻度は、CR症例にのみ予防的全脳照射 (PCI) を施行する本試験デザインの限界を示唆しており、後のAupérin et al. 1999 (NEJM) によるPCIメタ解析やSlotman et al. 2007 (EORTC) によるED-SCLC全奏効例へのPCI拡大適応の根拠の一つとなった。

毒性プロファイル: 骨髄抑制と治療関連死5%: 本レジメンの主な毒性は骨髄抑制であった (Table 1)。Grade 3の好中球減少は10例 (16%)、Grade 4は9例 (15%) であり、合計で31%の患者に重度の好中球減少が認められた。Grade 3の血小板減少は2例 (3%)、Grade 4は3例 (5%) であった。貧血はGrade 3が7例 (11%)、Grade 4が1例 (2%) であった。発熱性好中球減少 (febrile neutropenia) による入院は8例 (13%) であり、そのうち5例で敗血症が確認された (治療関連死の3例を含む)。治療関連死は3例 (5%、95% CI 1-14%) であり、いずれもPEサイクル後の好中球減少性敗血症に起因するものであった。重篤な消化器毒性 (Grade 3以上の悪心・嘔吐は5%未満)、肝毒性、腎毒性はほとんど認められなかった。これらの毒性プロファイルは、当時の集中的化学療法レジメンと同等であり、外来ベースでの実施においても管理可能な範囲であると判断された (Table 5)。

用量強度達成率と効果の不一致: 実際の投与用量強度 (delivered dose intensity) は、計画用量強度に対して平均93% (RDI mean 0.93、サイクル毎では0.79-1.13) と良好な遵守率を示した (Table 3)。本レジメンの計画用量強度は、標準的なPE/CAVレジメンと比較して、シスプラチンで1.34倍、エトポシドで1.49倍に設定されており、用量強度増加の目標は概ね達成された (Table 2)。しかし、シクロホスファミドは0.94倍、ドキソルビシンは0.9倍とやや低下した。用量強度の増加にもかかわらず、奏効率や生存期間の改善が得られなかったことは、ED-SCLCにおける用量強度戦略の固有の限界 (例えば、細胞増殖速度に起因するプラトー効果や早期の薬剤耐性出現など) を示す重要なネガティブデータとなった。この結果は、用量強度増加が必ずしも治療成績の改善に繋がらない可能性を示唆しており、今後の治療戦略の方向性を再考する上で重要な知見を提供する。

考察/結論

本試験は、経口エトポシドの14日間延長投与と経口シクロホスファミドの21日間投与を組み合わせた外来ベースのPE/CAV交互レジメンの実行可能性を示した。しかし、Evans et al. 1987 NCIC試験やRoth et al. 1992 ECOG 1591で報告された標準的なPE/CAV交互療法 (全奏効率57-80%、中央生存期間8.8-9.6ヵ月) と比較して、治療成績の改善は示されなかった。先行研究であるJohnson et al. 1990が報告した、難治性SCLCに対する経口エトポシド21日間単剤療法での45%という高い奏効率とは対照的に、本研究のPE/CAV併用療法における経口エトポシド14日間スケジュールの追加効果は限定的であった。この結果は、(a) シスプラチンとエトポシドの同時投与による飽和効果、(b) 計画用量強度1.34-1.49倍が実際の細胞傷害効果のプラトーを超えていなかった可能性、または (c) ED-SCLCにおける早期の薬剤耐性出現 (多剤耐性遺伝子増幅、MGMT変異など) といった要因で説明される可能性がある。

新規性: 本研究は、ED-SCLCに対し、経口エトポシド延長投与と経口シクロホスファミド延長投与を統合したPE/CAV交互レジメンを、これまで報告されていない用量強度設定で評価した点に新規性がある。用量強度増加戦略の限界を示すネガティブデータとして、その価値は高く、Murray et al. 1991による集中的週次化学療法戦略と並び、「用量強度戦略の行き詰まり (dose intensity dead-end)」を示す参照データとなった。

臨床応用: 本試験以降、ED-SCLCの標準治療は、PE単独療法 (シスプラチン/エトポシド4-6サイクル) から、後のIMpower133試験 (Horn et al. 2018 NEJM、アテゾリズマブ + カルボプラチン/エトポシド) やCASPIAN試験 (Paz-Ares et al. 2019 Lancet、デュルバルマブ) による免疫チェックポイント阻害剤の追加へと進化している。本試験のベンチサイドからベッドサイドへの翻訳的含意としては、(a) 用量強度戦略単独ではED-SCLCの予後改善には不十分であること、(b) CR例に限定したPCI戦略では脳再発リスクを十分に抑制できず、Slotman et al. 2007 EORTC試験でED-SCLCの全奏効例へのPCI拡大適応の根拠の一つとなったこと、(c) 経口薬を用いた外来化学療法のフィージビリティが確立されたこと、が挙げられる。臨床現場では、イリノテカンとシスプラチンの併用療法 (JCOG9511 Noda et al. 2002) がPEを上回るOSを示唆したが、SWOG S0124 (Lara et al. 2009) では再現されず、Fujiwara et al. Pharmacogenomics 2010が指摘するような民族差や薬理遺伝学的差 (UGT1A1*6 vs *28) が議論された。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 用量強度と累積用量の最適化 (本試験は用量強度増加を目指したが、累積用量は維持された)、(2) 予防的全脳照射 (PCI) の全奏効例への適応拡大 (本試験のCR限定からSlotman et al. 2007で拡大)、(3) 分子サブタイプ (ASCL1+ vs NEUROD1+ vs POU2F3+ vs YAP1+) に基づく個別化化学療法選択、(4) 免疫チェックポイント阻害剤併用療法 (本試験当時は未存在)、(5) 用量強度の「プラトー」を超える代替戦略 (BH3ミメティクス、DLL3標的BiTE [tarlatamab]、CDK7阻害剤など) が挙げられる。本研究のlimitationとして、(a) 単群61例の第II相試験であり統計学的検出力が限定的であること、(b) ランダム化比較試験ではないため標準療法との直接比較が不可能であること、(c) PCIをCR例に限定したため脳再発抑制効果が過小評価された可能性、(d) 1988-1990年の登録であり、現代の病期診断法 (PET-CT、脳MRI) が使用されていないこと、が指摘できる。Yamane et al. AmJCancerRes 2015のSCLCにおけるPD-1/PD-L1共発現に関する基礎研究は、本試験が示した用量強度戦略の限界を踏まえた、免疫療法時代のSCLC治療パラダイム転換への伏線として解釈できる。

方法

試験デザイン: 本研究は、SWOG-8857として登録された単群第II相 (single-arm Phase II) 試験である。本試験は、National Cancer Institute (NCI) の助成を受けて実施された。

患者選択: 1988年から1990年にかけて、組織学的に確認されたED-SCLC患者61例が登録された。主要な選択基準は、先行化学療法や放射線治療歴がないこと、ECOG Performance Status (PS) が0〜3であること (PS 4は除外)、生命予後が2ヵ月以上であること、および十分な臓器機能 (白血球数 ≥3500/µL、血小板数 ≥100,000/µL、血清クレアチニン ≤1.5 × 基準値上限、総ビリルビン ≤2 mg/dL) を有することであった。脳転移を有する患者は除外されず、化学療法と並行して治療的脳照射 (3000 cGy/10分割) を受けた。全ての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。本試験は、NCT00002820として登録された臨床試験である。

治療レジメン: 28日サイクルでPEとCAVを交互に投与した。

  • PEサイクル: シスプラチン 50 mg/m^2 を静脈内 (IV) 投与でDay 1とDay 8に、エトポシド 50 mg/m^2/day を経口 (PO) 投与でDay 1からDay 14まで (14日間延長) 投与した。シスプラチン投与時には十分な輸液と制吐剤が必須であった。エトポシドの用量は50 mg単位で調整された。
  • CAVサイクル: シクロホスファミド 60 mg/m^2/day を経口 (PO) 投与でDay 1からDay 21まで (21日間延長) 投与し、ドキソルビシン 20 mg/m^2 を静脈内 (IV) 投与で週1回 (Day 1, 8, 15) 計3回、ビンクリスチン 2 mg を静脈内 (IV) 投与でDay 1のみ投与した。ビンクリスチンの総投与量は2 mgを上限とした。シクロホスファミドの用量は25 mg単位で調整された。 導入療法として4サイクル (PE→CAV→PE→CAV) を実施した。導入療法後、病勢進行が認められなかった奏効例には、さらに8週間の固定化療法 (PE 1サイクル + CAV 1サイクル) を追加した。臨床的完全奏効 (CR) を達成した患者には、予防的全脳照射 (whole brain RT, 3000 cGy/15分割) を施行した。用量調整は、前サイクルの骨髄抑制の程度に基づいて行われた。肝機能および腎機能は、Day 28およびその後毎月評価された。

評価項目と統計解析:

  • 奏効基準: Southwest Oncology Group (SWOG) の厳格な基準を用いた。CRは全ての臨床的腫瘍消失、PRは測定可能病変の積の和が50%以上減少、unconfirmed PRは1時点での50%以上縮小が4週間後の確認測定で得られなかった場合と定義した。
  • 統計解析: 奏効率は正確二項検定による95%信頼区間 (CI) で算出した。生存期間はKaplan-Meier法を用いて推定し、PS 0-1群とPS 2-3群の比較にはログランク検定を用いた。性別、年齢、LDH、PSなどの共変量を調整するため、Cox比例ハザード回帰モデルも使用した。
  • 用量強度: 各薬剤の用量強度 (mg/m^2/week) は、計画用量強度に対する実際の相対用量強度 (relative dose intensity: RDI) として算出した。RDIは、各コースにおける実際の1日平均投与量 (mg) をプロトコルで規定された1日投与量で除し、さらに28日で割ることで計算された。毒性評価はNCIの共通毒性基準に基づき、骨髄抑制、消化器毒性、肝腎毒性などを評価した。