- 著者: Arya Amini, Lauren A. Byers, James W. Welsh, Ritsuko U. Komaki
- Corresponding author: Ritsuko U. Komaki (Department of Radiation Oncology, The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
- 雑誌: Cancer
- 発行年: 2014
- Epub日: 2013-11-05
- Article種別: Review
- PMID: 24327434
背景
小細胞肺癌 (SCLC: small cell lung cancer) は全肺癌の約15〜20%を占め、急速な増殖能と早期からの広範な遠隔転移傾向を特徴とする高悪性度神経内分泌腫瘍であり、発症の95%以上が喫煙と関連する。診断時に75〜80%が胸腔外病変を有する広汎型 (ES-SCLC: extensive-stage SCLC) を呈し、脳転移は診断時に約20%、2年以内に50%以上で発症する。病変が片側胸郭内と同側リンパ節に限局し単一照射野に収まる限局型SCLC (LD-SCLC: limited-stage SCLC) は全SCLC症例の約20〜25%を占め、5年全生存率 (OS: overall survival) は約25%と厳しいながら根治的集学的治療が可能な唯一のサブセットである。不良予後因子として performance status 低下・高齢・男性が知られ、高い乳酸脱水素酵素値や傍腫瘍症候群の合併も予後悪化と関連する。
化学放射線療法の有効性は複数の先行研究で実証されてきた。Pignon et al. (1992) による2,140例・13試験のメタアナリシスは、化学放射線療法が化学療法単独に対し3年OS率を14.3%対8.9%に有意に改善することを示した。Warde et al. JClinOncol 1992 による11試験の統合解析は2年胸部腫瘍制御率を34.1%対16.5%、2年OS率を5.4%改善することを確認した。さらに、Murray et al. JClinOncol 1993 の試験により放射線照射の開始タイミングが生存率に重大な影響を与えることが初めて系統的に示され、早期同時化学放射線療法の概念が確立された。
しかしながら、胸部放射線療法の最適な線量・分割法・化学療法との至適タイミング、および予防的全脳照射 (PCI: prophylactic cranial irradiation) の線量設定については、正常組織毒性とBED (biologically effective dose) のバランスに関するエビデンスが依然として不足しており、至適治療戦略の多くが未解明のままであった。LD-SCLCに高頻度で合併するSIADH (syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion) などの傍腫瘍症候群が治療成績に与える影響についての系統的な知見が不足しており、IMRT (intensity-modulated radiotherapy) などの高精度放射線技術の臨床的位置づけについても整理が不十分であった。これらのエビデンスの欠如がLD-SCLCの最適治療確立における核心的な未解決問題として残されており、本総説はこれらの課題に対して2013年時点の最新エビデンスを集成し、実臨床指針と今後の方向性を提示することを背景としている。
目的
本総説の目的は、LD-SCLCにおける集学的治療の歴史的変遷と最新エビデンスを整理し、最適な治療アルゴリズムを提示することである。具体的には、(1) 化学療法と胸部放射線療法の同時併用における至適な開始タイミング、(2) 加速過分割照射 (hyperfractionated radiotherapy) と通常分割照射の有効性・安全性比較、(3) IMRT・陽子線治療などの高精度放射線技術による毒性低減効果、(4) PCI の最適線量と適応基準の検討、(5) SIADH を代表とする傍腫瘍症候群の管理と予後的意義、(6) poly ADP-ribose (adenosine diphosphate-ribose) polymerase-1 (PARP1) 阻害薬などの分子標的治療の開発状況を包括的に検証し、LD-SCLCにおける治療成績の向上に向けた現代的指針を示すことを目的とする。
結果
傍腫瘍症候群の臨床的意義とSIADHの予後的役割: SCLCに合併する傍腫瘍症候群のうち最も頻度が高いのはSIADHであり、全SCLC症例の最大15%に認められる。LD-SCLC患者n=244例 (1981〜1998年治療) を対象とした後ろ向き研究では、初回診断時にSIADHを合併した患者はn=14例 (6%) であり、血清ナトリウム値110〜129 mEq/Lの重篤な低ナトリウム血症・意識障害・痙攣を呈した。n=453例を対象とした別の解析では初診時低ナトリウム血症 (p<.001) および化学療法中のナトリウム値の非正常化 (p=.027) が全生存期間の独立した不良予後因子であることが示された。さらに、低ナトリウム血症を呈した患者では診断時に転移性疾患を有する割合が有意に高いことも確認された。Lambert-Eaton筋無力症候群はSCLC患者の1〜3%に認められるが、この症候群を有する患者の約50%にSCLCが偶然発見されるという重要な臨床的関連が報告されており、同症候群の存在がSCLCスクリーニングの指標となり得る。傍腫瘍症候群はおおむね原疾患の治療によって改善するが、電解質異常の是正と症状管理を積極的な化学放射線療法施行に先立って行うことが治療安全性の確保において重要である。
胸部放射線療法の早期同時開始による生存率改善: 化学療法と放射線療法の同時開始タイミングが予後に与える影響を検証した複数の試験が重要な知見を提供している。Murray et al. (1993) のランダム化試験では、化学療法の第3週から照射を開始する早期群と第15週から開始する遅延群を比較し、早期開始群で無増悪生存率 (PFS: progression-free survival) の中央値が15.4か月対11.8か月と有意に延長し、OS (p=.008) および脳転移からの自由期間 (p=.006) もともに有意な改善を示した (Fig 1)。JCOG 9104試験では、シスプラチン・エトポシド (PE: cisplatin and etoposide) ベースの同時化学放射線療法と逐次療法を比較し、2年OS率54.4%対35.1%、3年OS率29.8%対20.2%、5年OS率23.7%対18.3%と一貫した数値上の優位性が認められたが、統計学的有意差は得られなかった (p=.097)。さらに7つのランダム化試験を統合したメタアナリシス (Pijls-Johannesma et al., 2007) では、プラチナ製剤ベースの化学療法開始から30日以内の早期照射開始が遅延群より2年・5年生存率で有意に優り、HR 0.65 (95% CI 0.45-0.93, p=.02) と示された。これは化学療法開始から照射終了までの総治療期間を短縮することで腫瘍細胞の急速な再増殖と薬剤耐性クローンの出現を抑制するためと解釈されている。
加速過分割照射の確立:INT-0096試験とその生存ベネフィット: 胸部放射線療法の分割法に関する画期的なエビデンスを提供したのがIntergroup 0096 (RTOG 8815) 試験である。本試験では、LD-SCLC患者を対象に45 Gy/30回 (1.5 Gy/回、1日2回、3週間) の加速過分割照射群と45 Gy/25回 (1.8 Gy/回、1日1回、5週間) の通常分割照射群をシスプラチン・エトポシド同時化学療法下で比較した。結果として5年OS率は1日2回照射群で26%、通常分割群で16%と有意に改善し (p=.04)、HR 0.78の生存ベネフィットが実証された (Fig 2)。ただし1日2回照射群ではグレード3の急性食道炎が27%と、通常分割群の11%に対し有意に高く (p<.001)、この高い毒性発生率が実臨床での普及を制限する要因となった。なお本試験で用いられた45 Gy 1日1回という通常分割線量は現在の基準では低用量であり、BEDの差が結果に与えた影響についても考慮が必要である。加速過分割照射に伴う急性食道炎の増加は、個別患者データを用いたメタアナリシス (Mauguen et al., 2012) でもodds ratio 2.41 (p<.001) として確認されており、毒性管理の重要性が改めて示された。
高線量照射法の探索:RTOG 9712・RTOG 0239・CALGB 30610試験: 局所制御率のさらなる向上を目指し、高線量照射法の最大耐容線量 (MTD: maximum tolerated dose) を検討した第I相試験 (RTOG 9712) では、MTDを61.2 Gyと決定した。18か月時点のOS率は61.2 Gy群で82%、50.4 Gy群で25%と線量依存的な改善が示された。この成果を踏まえて実施された第II相試験 RTOG 0239では、61.2 Gy/34回 (最初の16回は1日1回1.8 Gy、後半18回は1日2回1.8 Gy) をシスプラチン・エトポシドと同時に投与した。結果として2年局所制御率は80%とINT-0096試験の64%を大きく上回り (Fig 3)、生存期間中央値は22か月に達した。しかしグレード3以上の急性食道炎が18%、骨髄抑制が90%の患者に認められ、治療関連死亡率は2.8%であった。この61.2 Gyスケジュールは進行中のCALGB 30610/RTOG 0538試験 (Fig 4) の1アームとして採用されたが、中間解析での過剰毒性を受けて当該アームは閉鎖された。現在は45 Gy 1日2回対70 Gy 1日1回の2群比較が継続されている。遡及的解析では、BED > 57 Gyを達成した患者が局所制御 (p=.024)、PFS (p=.006)、OS (p=.005) の全てで優れた成績を示しており、BEDの最大化が治療成績向上の鍵であることが示唆されている。
予防的全脳照射 (PCI) の確立と至適線量の検証: SCLCでは脳転移の発症頻度が高く、2年以内に50%以上、5年以内に60%以上の患者で脳転移が認められる。血液脳関門の存在により化学療法の脳保護効果は限定的であるため、PCIの役割が重視されてきた。Auperin et al. (1999) による7試験のIPD-メタアナリシスは、完全奏効 (CR: complete response) を達成したLD-SCLC患者においてPCIが3年脳転移発生率を33%対59%へと有意に低下させ、3年OS率を20.7%対15.3%に有意に改善すること (p=.01) を示した。PCI後の晩期神経毒性に対する懸念から至適線量を検証した第III相試験 (PCI 99-01, EORTC 22003-08004, RTOG 0212, IFCT 99-01統合, n=720) では、標準線量 (25 Gy/10回) と高線量 (36 Gy) を比較した。2年脳転移発生率は25 Gy群29%対36 Gy群23%と統計的有意差を認めず (p=.18)、36 Gy群で2年OS率が有意に低下し (43%対37%, p=.05)、コミュニケーション障害・下肢筋力低下・知的機能障害などの神経毒性が有意に増加した (p<.005)。したがって25 Gy/10回が標準的なPCI線量として確立された。不完全奏効 (PR: partial response) 患者に対するPCIの意義についても解析がなされており、脳転移発生率の低下効果 (6.1%対27.6%, p=.05) および発症までの時間の延長 (20.7か月対10.6か月, p<.0001) が示されたが、OS改善効果は認められなかった (p=.32)。
高精度放射線技術・PET/CT活用と新規分子標的治療の展望: IMRTは高度に適合した線量分布を形成し、腫瘍への線量を維持しながら周囲正常組織への不要な被曝を低減する。MD Anderson Cancer Centerでの後ろ向き解析では、IMRTが3次元原体照射 (3D-CRT: 3-dimensional conformal radiotherapy) と同等の腫瘍制御効果を示す一方、経管栄養が必要な重篤な食道炎の発生率を有意に低下させることが確認された。画像誘導アダプティブ放射線治療 (ART: adaptive radiotherapy) の導入により、治療過程での腫瘍縮小を反映した照射野の逐次的な修正が可能となり、肺・食道・心臓への線量を動的に低減できる。PET/CT (positron emission tomography/computed tomography) を用いた病期分類の高精度化も重要であり、n=51例の比較研究ではPET/CTの導入によりCT単独診断と比べ8例 (15.7%) で病期が変更された。化学療法前後の照射野の比較試験では、化学療法後縮小野への照射と化学療法前照射野の局所再発率が31.6%対28.6% (p=.81) と非劣性を示し、照射野縮小による毒性低減の可能性が示唆された。分子標的治療の観点では、プロテオミクス解析によりSCLCにおいてDNA修復タンパク質PARP1 (poly (ADP-ribose) polymerase-1) の高発現が同定され、PARP阻害薬 veliparib と化学放射線療法の併用を検証する Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) E2511試験が進行中である。オーロラキナーゼ阻害薬、SOX2増幅阻害、EZH2 (enhancer of zeste homolog 2) 阻害なども有望な標的として浮上しており、分子サブタイプ別個別化治療への展望が広がっている。
考察/結論
LD-SCLCの治療管理は過去数十年にわたる臨床試験の積み重ねにより着実な進歩を遂げてきた。現時点での標準治療はシスプラチン・エトポシド4サイクルと早期同時胸部放射線療法 (45 Gy/30回 1日2回、または高精度技術を活用した高線量通常分割照射) の同時施行、および治療反応例へのPCI 25 Gy/10回という集学的戦略であり、5年OS率は25〜30%に達する。
これまでの治療との違い:従来の化学療法単独や逐次化学放射線療法という古い治療パラダイムと異なり、本総説が示したエビデンスは「早期同時開始」と「加速過分割」という2つの原則の決定的重要性を裏付けている。INT-0096試験が通常分割照射に対して5年OS率を10ポイント改善したことは、分割法の選択が長期生存に直結することを実証した。既報のメタアナリシスが示す放射線開始タイミングのHR 0.65というエビデンスは、化学療法と放射線療法の統合最適化の戦略的重要性を示すものである。これらは1970年代以前の手術優先・放射線単独という時代と対照的な変化であり、現代的LD-SCLC管理の基盤を形成している。
新規の治療標的と技術の台頭:本総説の新規の貢献は、高精度放射線技術 (IMRT・ART・陽子線) と分子標的治療 (PARP1阻害薬・aurora kinase阻害薬) を統合した次世代治療フレームワークを体系的に提示した点にある。IMRTが3D-CRTと同等の腫瘍制御を維持しながら毒性を有意に低減したという観察は、新規の技術的アプローチとして臨床実装の根拠を確立した。また、SCLCにおいてPARP1が新規に分子標的として同定されたことは、DNA修復経路への介入という新規の治療戦略を実臨床への橋渡しする重要な出発点である。照射野をIFRT (involved-field radiotherapy) に縮小する戦略も、ENI (elective nodal irradiation) に代わる新規の照射設計として毒性低減の可能性を示している。
臨床的意義:これらの知見の臨床的意義は患者の個別因子 (年齢・PS・合併症・通院環境) に応じた治療個別化の根拠を提供する点にある。臨床応用として、全身状態良好なLD-SCLC患者には45 Gy加速過分割照射を第一選択とし、高齢者や合併症を有する患者にはIMRTを活用した高線量通常分割照射を選択する戦略が合理的である。臨床現場ではSIADHなどの傍腫瘍症候群を積極的にスクリーニングし、低ナトリウム血症の是正と並行して化学放射線療法を施行することが治療関連毒性の軽減と生存率改善に貢献する。PCIについては25 Gy/10回を厳守し、高線量照射による晩期神経毒性を回避することがQOL (quality of life) の観点から不可欠である。
残された課題:残された課題として、免疫チェックポイント阻害薬と化学放射線療法の統合が最大の焦点となっている。本総説執筆後にES-SCLCでアテゾリズマブ・デュルバルマブの化学療法との併用で生存延長が確認され、LD-SCLCでも化学放射線療法後のデュルバルマブ維持療法を検証するADRIATIC試験 (Cheng et al. NEnglJMed 2024) が注目すべき知見を報告した。また、SCLCの分子サブタイプ (ASCL1・NEUROD1・POU2F3・YAP1発現型) に基づく個別化治療の確立、PARP阻害薬の標準治療への統合、ART導入による照射野適応的縮小の有効性検証が今後の検討課題として位置づけられる。
方法
本論文はLD-SCLCの治療管理に関する臨床試験・メタアナリシス・ガイドラインを対象とした包括的な文献レビューである。文献検索はPubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceを用い、“small cell lung cancer”、“limited-stage”、“radiotherapy”、“chemotherapy”、“hyperfractionated”、“prophylactic cranial irradiation”、“paraneoplastic syndrome” 等のキーワードを組み合わせて実施した。
対象とした主要試験には、同時vs逐次併用を比較した日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG: Japan Clinical Oncology Group) 9104試験、照射タイミングを検証したカナダ国立がん研究所試験 (Murray et al.)、通常分割vs加速過分割を直接比較したINT (Intergroup) 0096 (RTOG 8815) 試験、高線量加速照射を評価した放射線療法腫瘍研究グループ (RTOG: Radiation Therapy Oncology Group) 0239試験、進行中の Cancer and Leukemia Group B (CALGB) 30610/RTOG 0538試験、欧州の Concurrent Once-daily Versus Twice-daily Radiotherapy (CONVERT) 試験が含まれる。PCIについては7試験を統合したAuperin et al. (1999) のメタアナリシスと、n=720の第III相試験 (PCI 99-01, EORTC 22003-08004, RTOG 0212, IFCT 99-01) のデータを分析した。IFCT (Intergroupe Francophone de Cancérologie Thoracique) はフランス語圏の胸部腫瘍学多施設共同研究グループである。
統計的評価手法として生存分析にはKaplan-Meier法を使用し、群間比較にはlog-rank検定が適用された。多変量解析にはCox比例ハザードモデル (Cox regression) を用い、ハザード比 (HR: hazard ratio) および95%信頼区間 (CI: confidence interval) を算出した。毒性評価にはodds ratioが使用され、IPD (individual patient data)-メタアナリシスの結果も参照された。