• 著者: Murray N, Coy P, Pater JL, Hodson I, Arnold A, Zee BC, Payne D, Kostashuk EC, Evans WK, Dixon P, Sadura A, Feld R, Levitt M, Wierzbicki R, Ayoub J, Maroun JA, Wilson KS
  • Corresponding author: Neil Murray (Vancouver Cancer Centre, British Columbia, Canada)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1993
  • Epub日: 1993-02-01
  • Article種別: Original Article (Phase III Randomized Trial)
  • PMID: 8381164

背景

限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) は、診断時に局所進行していることが多いものの、化学療法に対する感受性が極めて高く、集学的治療によって治癒を目指せる数少ない肺癌の疾患群である。しかし、化学療法単独治療では胸部局所での再発が頻繁に発生し、長期生存率は5%から10%程度に留まることが報告されていた。このため、化学療法と胸部放射線照射 (TI) を組み合わせた集学的治療がLD-SCLCの標準治療として確立されつつあったが、TIを導入する最適なタイミングについては、1990年代初頭の時点では依然として議論が続いており、明確な治療スケジュールは未確立であった。

同時併用療法は、化学療法と放射線治療の相乗効果により腫瘍縮小効果の増強が期待される一方で、骨髄抑制、食道炎、肺炎などの急性期毒性や晩期毒性が増強する懸念があった。特にドキソルビシンやロムスチンを含む化学療法レジメンとTIの同時併用は、治療関連の罹病率と死亡率の増加により広く採用されていなかった。これに対し、逐次療法は安全性に優れるものの、化学療法中に放射線抵抗性クローンの出現を許したり、放射線照射時の腫瘍バルクが過大であるために十分な局所制御が得られない可能性が指摘されていた。また、SCLCは化学療法奏効後も残存する亜臨床病変からの再発が主要な予後不良要因であり、放射線照射による局所制御の強化が全身再発、特に脳転移の発生にも影響しうるという仮説が提唱されていた。

これまでのランダム化比較試験では、化学療法単独と化学療法とTIの併用療法を比較した研究が複数実施されていたが、その結果は一貫していなかった。一部の試験では併用療法の優位性が示されたものの、別の試験では有意な生存期間の改善が認められなかった。これらの研究のメタアナリシスでは、TIが生存期間にわずかながらも有意な改善をもたらし、局所制御を大幅に改善することが示されていたが (Pignon et al. NEnglJMed 1992; Warde et al. JClinOncol 1992)、TIの最適なタイミングについては明確な結論が得られておらず、臨床現場における大きな knowledge gap となっていた。特に、早期TIと晩期TIを直接比較した大規模なランダム化比較試験は極めて不足しており、治療効果を最大化しつつ毒性を許容範囲に抑えるスケジュールの確立が強く求められていた。このように、最適な照射時期に関するエビデンスが不足しており、治療成績向上のための至適スケジュールは未解明のままであった。

本試験は、National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group (NCIC CTG) が主導する第III相ランダム化比較試験として、CAV/EP交互化学療法レジメンに対してTIを化学療法開始後第3週(早期TI群)に投与するか、第15週(晩期TI群)に投与するかを直接比較し、LD-SCLCにおけるTIの最適なタイミングを明らかにすることを目的とした。

目的

限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) 患者に対するCAV/EP交互化学療法において、胸部放射線照射 (TI) の最適なタイミングを決定すること。具体的には、化学療法開始後第3週からTIを開始する早期TI群と、第15週からTIを開始する晩期TI群の有効性(全生存期間 [OS]、無増悪生存期間 [PFS]、脳転移発生率)および安全性を比較検討することを目的とした。本研究は、TIの早期導入が晩期導入と比較して、生存期間の延長、局所制御の改善、および脳転移発生率の低下をもたらすという仮説を検証することを目指した。また、両治療戦略における急性期および晩期毒性のプロファイルを評価し、治療関連の合併症が許容範囲内であるかを確認することも重要な目的であった。

結果

患者背景と治療完遂状況: 1985年1月から1988年12月にかけて、22のカナダの施設から332名の患者が登録された。24名の患者が不適格と判断され、最終的に308名の適格患者が解析対象となった(早期TI群 n=155、晩期TI群 n=153)。両群間で年齢、性別、PS、LDH値、病変範囲などの予後因子に有意な差は認められなかった (Table 1)。化学療法の総投与量に両群間で有意差はなく、シクロホスファミド86.7%、ドキソルビシン86.7%、ビンクリスチン88.9%、エトポシド86.1%、シスプラチン84.0%が計画通りに投与された。全6サイクルの化学療法を完遂した患者の割合は、早期TI群で83.2% (129/155)、晩期TI群で83.7% (128/153) であった。TIは早期TI群の96.1% (149/155)、晩期TI群の86.9% (133/153) の患者に実施された。予防的全脳照射 (PCI) は早期TI群の85.8% (133/155)、晩期TI群の79.7% (122/153) に実施された。治療完了後の奏効割合 (Table 3) は、早期TI群で完全奏効 (CR) 63.9%、部分奏効 (PR) 20.6%であったのに対し、晩期TI群ではCR 55.6%、PR 25.5%であった。治療中の病勢進行 (PD) は早期TI群で9.7%、晩期TI群で15.0%に認められた。両群間の奏効割合に統計学的な有意差は認められなかった (p=0.14)。

全生存期間 (OS) の有意な改善: 全308例の解析において、早期TI群の全生存期間中央値 (median OS) は 21.2 vs 16.0 months と、早期TI群で有意な生存期間の延長が認められた (p=0.008、ログランク検定)。早期TI群におけるOSのハザード比は HR 0.70 (95% CI 0.55-0.89, p=0.006) であり、早期TIの優位性が示された。3年生存率は早期TI群で29.7%、晩期TI群で21.5%であり、5年生存率も早期TI群で20%、晩期TI群で11%と、早期TI群で優位な開差が認められた (Fig 3)。Cox比例ハザードモデルによる多変量解析で、性別およびPSで調整した後も、早期TI群の生存利益は有意に維持された (p=0.006)。

無増悪生存期間 (PFS) の改善: 早期TI群の無増悪生存期間中央値 (median PFS) は 15.4 vs 11.8 months であり、早期TI群で有意にPFSが優れていた (p=0.036、ログランク検定) (Fig 2)。早期TI群におけるPFSのハザード比は HR 0.78 (95% CI 0.62-0.98, p=0.047) であった。3年無増悪生存率は早期TI群で26%、晩期TI群で19%であった。Coxモデルで予後因子を調整した後も、早期TI群のPFS改善は有意であった (p=0.047)。

脳転移発生率の有意な低下: 治療開始前およびPCI前の脳スキャンでは、早期TI群で4.5% (7/155)、晩期TI群で9.1% (14/153) の患者に脳転移が認められた (p=0.12)。PCI実施後、早期TI群で13.5% (21/155)、晩期TI群で18.9% (29/153) の患者に脳再発が認められた (p=0.22)。しかし、治療全体を通しての脳転移の総発生率は、早期TI群で18.1% (28/155) であったのに対し、晩期TI群では28.1% (43/153) であり、早期TI群で有意に脳転移リスクが低下した (p=0.042)。脳転移の累積発生確率のプロット (Fig 4B) では、晩期TI群で著しく高いリスクが示された (p=0.006、ログランク検定)。

局所再発パターンと毒性プロファイル: 局所再発の累積発生確率のプロット (Fig 4A) では、晩期TI群で局所再発のリスクが高い傾向が認められたが、統計学的な有意差はなかった (p=0.27、ログランク検定)。重篤な毒性の発生率は、両群間で大きな差はなかった (Table 4, Table 5)。グレード3/4の好中球減少症は早期TI群で70.3%、晩期TI群で61.4%と早期TI群で高い傾向にあったが、有意差はなかった。発熱性好中球減少症を伴う感染症は5%未満であった。治療関連死は両群でそれぞれ2例 (1.3%) であった。早期TI群で有意に発生率が高かった毒性は、貧血 (<80 g/L) (49% vs 36.8%, p=0.03)、食道炎 (軟食以上を要する食道炎が早期TI群で40.2% vs 晩期TI群で32.3%, p=0.05)、および皮膚炎 (水疱形成を伴う皮膚炎が早期TI群で4.0% vs 晩期TI群で0.7%, p=0.02) であった。重度の肺毒性はまれであった。

考察/結論

本試験は、限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) の集学的治療において、胸部放射線照射 (TI) のタイミングが生存アウトカムに直接影響することを、高いエビデンスレベルで初めて示した画期的な第III相ランダム化比較試験である。

先行研究との違い: これまでの多くのランダム化比較試験では、化学療法単独と化学療法とTIの併用療法を比較していたが、TIの最適なタイミングについては明確な結論が得られていなかった。本研究は、従来の化学療法後に放射線治療を追加する逐次的なアプローチや、毒性増強を懸念してTIを遅らせる晩期導入スケジュールと異なり、化学療法の用量強度を維持しながら、極めて早期(第3週)にTIを同時併用する戦略の優位性を直接比較によって明確に証明した。

新規性: 本研究で初めて、早期TIが晩期TIと比較して、全生存期間中央値 (21.2 vs 16.0 months, p=0.008) および無増悪生存期間中央値 (15.4 vs 11.8 months, p=0.036) を有意に延長することを示した。さらに、早期TI群では脳転移の総発生率が有意に低い (18.1% vs 28.1%, p=0.042) という新規の知見も得られた。この脳転移発生率の低下は、予防的全脳照射 (PCI) を両群に実施したにもかかわらず認められたものであり、早期の局所制御が全身疾患の進展、特に血脳関門の保護された領域への転移抑制にも寄与する可能性を示唆する、これまで報告されていない重要な現象である。

臨床応用: 本研究の知見は、LD-SCLCの治療戦略に直接的な臨床応用上の意義を持つ。早期TIによる約5ヶ月のOS延長は、患者の長期生存の可能性を高める上で極めて重要である。毒性の増加は認められたものの、骨髄抑制や食道炎は管理可能な範囲内であり、治療関連死亡率や化学療法完遂率に有意差はなかったことから、早期TIを標準治療として採用することが強く支持される。この結果は、LD-SCLC患者の診断確定後、できる限り早期に放射線照射を化学療法に併用すべきであることを明確に示した。これにより、従来の「化学療法後に放射線腫瘍医に紹介する」というパラダイムは、もはや最善のケアではないことが示唆された。医療腫瘍医と放射線腫瘍医が診断後速やかに連携し、集学的治療計画を立てることが重要である。

残された課題: 本研究はTIのタイミングの重要性を確立したが、いくつかの残された課題も存在する。第一に、本研究で用いられたCAV/EP交互化学療法レジメンは、現在の標準治療とは異なる。より新しいプラチナ製剤ベースのレジメン(例:EP単独4-6サイクル)における最適なTIタイミングの再検証が必要である。第二に、放射線治療の総線量や分割スケジュール(加速過分割 vs 通常分割)の最適化も今後の検討課題である。本研究の40 Gy/15分割という線量は、現在の標準である45 Gy加速過分割と比較して低い。第三に、免疫チェックポイント阻害剤が導入された現在の治療環境において、TIの最適なタイミング戦略を再定義する必要がある。

方法

本研究は、National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group (NCIC CTG) が主導した多施設共同第III相ランダム化比較試験 (randomized controlled trial, RCT) である。本試験は、2年生存率が20%から35%に改善することを検出するために、検出力80%、有意水準0.05(両側)で設計された。

患者適格基準: 生検または細胞診で確認された限局型小細胞肺癌患者を対象とした。限局型疾患は、癌が片肺、縦隔、および同側の鎖骨上リンパ節に限定されているものと定義された。過去に放射線療法や化学療法を受けていないこと、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) が0から3であること、年齢が80歳未満であること、および腎機能、肝機能、血液学的検査値が標準基準を満たしていることが求められた。肺機能検査も必須であり、努力性肺活量 (VC) が予測値の45%以上、1秒量 (FEV1) が予測値の40%以上である必要があった。胸水を有する患者は広範病期とみなされ、除外された。

病期診断: 各患者は、胸部X線、骨シンチグラフィー、脳スキャン(核医学またはCT)、肝臓画像診断(核医学、超音波、またはCT)、骨髄穿刺および生検、血液学的および生化学的プロファイルを含む標準的な病期診断手順を受けた。放射線腫瘍医が登録前に症例をレビューし、全ての病変が研究の放射線治療ガイドラインに従って照射野に包含可能であることを確認した。

治療プロトコル: 全ての患者は、シクロホスファミド (1,000 mg/m²)、ドキソルビシン (50 mg/m²)、ビンクリスチン (2 mg総量) からなるCAVと、エトポシド (100 mg/m² 3日間)、シスプラチン (25 mg/m² 3日間) からなるEPを3週間間隔で交互に投与する化学療法を、各3サイクル、合計6サイクル受けた。薬剤の用量調整は、治療日および好中球数最低値、血清クレアチニン値に基づいて行われた。

患者は、施設、PS、性別、LDH値で層別化された後、早期TI群または晩期TI群にランダムに割り付けられた。

  • 早期TI群: 化学療法開始後第3週(第1回EPサイクルと同時)に胸部放射線照射を開始した。
  • 晩期TI群: 化学療法開始後第15週(最終EPサイクルと同時)に胸部放射線照射を開始した。 早期TI群では、ドキソルビシンと放射線治療の相互作用を減らすため、第3サイクル目のCAVは1週間遅延された。

胸部放射線照射 (TI): TIは、コバルト60またはリニアアクセラレーターの光子線(4~25 MeV)を用いて、40 Gyを15分割(1日1回2.67 Gy)で3週間かけて照射された。肺の不均一性に対する線量補正は行われなかった。標的体積は化学療法前の病変範囲に基づいて決定され、2 cmのマージンを含む全ての肉眼的病変と、非浸潤領域の周囲1 cmのマージンを含む全縦隔が含まれた。CTガイド下の治療計画は必須ではなかった。鎖骨上リンパ節は、初期に腫瘍浸潤がある場合にのみ治療された。前後対向二門照射が用いられ、脊髄線量は35 Gyに制限された。コトリモキサゾールは、TIを含むEPサイクルの1日目から21日間投与された。

予防的全脳照射 (PCI): 全ての完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) 症例で、化学療法およびTI完了後に予防的全脳照射 (25 Gyを10分割で2週間) が実施された。

統計解析: 308例がランダム化され、早期TI群n=155例、晩期TI群n=153例であった。生存期間は治療開始日から死亡または最終追跡調査日まで、無増悪生存期間は治療開始日から病勢進行日までと定義された。生存解析にはログランク検定 (log-rank test) とカプラン・マイヤー法 (Kaplan-Meier method) が用いられた。予後因子の調整および有意性の決定には、コックス比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) が使用された。毒性の比較にはフィッシャーの正確検定 (Fisher’s exact test) および線形傾向検定が用いられた。